井口健二のOn the Production
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2015年01月18日(日) JIMI:栄光への軌跡、ら

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『JIMI:栄光への軌跡』“Jimi: All Is by My Side”
1970年に27歳で早世した天才ギタリスト=ジミ・ヘンドリッ
クスが世に認められるまでを描いたドラマ作品。
僕は基本的に音楽にはあまり興味がないのだけれど、流石に
ジミヘンの名前ぐらいは知っている。とは言え、有名すぎる
のかプレス資料にもあまり紹介がなくて、止むを得ずWebで
経歴を調べてしまった。
それによると、1942年シアトル生まれ。若いころから地元や
軍隊などでバンドを組み、除隊後に音楽活動を本格化、一時
はアイク&ティナ・ターナーやリトル・リチャードなど著名
なミュージシャンのツアーなどにも同行していた。
そして1966年、本作のプロローグでもあるニューヨークでの
演奏をローリング・ストーンズ/キース・リチャーズの恋人
だったリンダ・キースに認められ、アニマルズ/チャス・チ
ャンドラーを紹介されてロンドンに渡る。
そこから1967年夏のモンタレー・ポップ・フェスティヴァル
に至るジミヘンの軌跡が描かれる。その中では、同年6月に
『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を演奏する感
動的なシーンなども再現されている。
また一方でリンダ・キースとの微妙な関係や、その他の女性
関係などが中心に描かれ、その中には黒人活動家と交流や、
薬物への傾倒ぶりなどがジミヘン本人の人物像として描き込
まれているものだ。
因に本作にはジミヘン本人の曲目はほとんど登場しないのだ
が、『Wild Thing』や『Hound Dog』など彼が好んだ楽曲の
演奏が次々に再現されて物語に彩りを与えている。その中に
は録音が残っていない曲もあるようだ。

出演は、2004年に1100万枚のセールスを記録し、グラミー賞
Album of the Yearにも輝いたというロック・デュオOutkast
のアンドレ・ベンジャミン。俳優として2008年3月紹介『リ
ボルバー』などにも出ている彼が、ジミヘンの超絶とも言わ
れる演奏も再現している。
他に、2011年8月紹介『キャプテン・アメリカ』などのヘイ
リー・アトウェル、2011年10月紹介『フライトナイト』など
のイモージェン・プーツ、2013年7月紹介『ワールド・ウォ
ーZ』に出ていたルース・ネッガ、イギリスのTVや舞台で
活躍のアンドリュー・バックレーらが脇を固めている。
という作品だが、実はSF映画ファン的にいろいろと注目。
まずはジミがロンドンに行く時代の象徴としてインサートさ
れるのが『怪獣ゴルゴ』。映画の製作は1960年で時代は少し
合わないが、登場人物の1人がヘンドリックスという。
他にも、SFファンだというジミが古本屋でアーサー・C・
クラークの『都市と星』を手にして内容を解説するなど、そ
ういう時代を言えばそれまでだが、SFファンには嬉しい話
の出てくる作品だった。

公開は4月。東京はヒューマックスシネマ渋谷ほかで、全国
ロードショウとなる。

『ら』
以前に何本か紹介したアートポート配給「青春H」シリーズ
の近作などに主演する女優の水井真希が、自らの体験を基に
脚本、監督した作品。
スクリーン上では題名の『ら』に英語で「KEPT」と添えられ
ている。そしてこの「ら」は漢字では「拉」であり、これは
「拉致」の一文字目だが、これだけで「強引に連れていく」
という意味にもなるものだ。
物語は居酒屋で働く女性の事件から始まる。その女性が深夜
の帰宅中を襲われ、若い男の運転する乗用車に拉致される。
しかし酔客の扱いに馴れた女性はやさしい言葉で男に話し掛
け、特に重大な被害もないまま女性は解放される。
それでも女性は警察に被害届を出そうとするのだが、警察の
不誠実な応対に届け出は諦めてしまう。そんな彼女には深い
心の傷が残っていたのだが…。そして事件は継続し、犯行は
エスカレートして行く。
本作で監督デビューを果たした水井は、元々園子温監督作品
を観て映画業界を志し、やがて西村喜廣が主宰する西村映造
に所属して2009年6月紹介『吸血少女対少女フランケン』の
スタッフなどを経て女優デビューしたとのこと。
まあ、この経歴を見るだけで本作は尋常ではないだろうなと
思わせるものだが、実際のところ僕は作品を観るまでかなり
の不安も感じていた。しかしその心配はほとんど杞憂だった
と言える。
物語は3つのパートに分かれていてオムニバスのような構成
だが、その中で上記のように犯行がエスカレートする。その
犯行の様子が、西村映造の特殊メイク技術で再現される。そ
れは最後にはかなり凄惨なものにもなる。
その表現は特に女性には衝撃だったようで、僕の観た試写会
では前方にいた女性が試写後泣き崩れていたものだ。しかし
その凄惨さは現実にもあり得るものであり、それがある意味
誠実に描かれているとも言える。
西村喜廣=西村映造が関る作品は、その血糊の量などで多く
は顰蹙を買うレヴェルになってしまう場合もあるが、本作の
リアルさは本作を支える柱になっており、僕が観てきた中で
最も正当に評価されるべき作品と言える。

出演は、AKB48の第1期生で昨年9月公開の金子修介監督作
品『少女は異世界で戦った』などにも出ていた加弥乃。相手
役に元ジャニーズJr.で2006年5月紹介『タイヨウのうた』
に出ていたという小場賢。
他に、2013年4月20日紹介「ゾンビ・オリンピック」の中の
『レイプゾンビ』に出ていたというももはと衣緒菜。さらに
2002年2月紹介園子温監督『自殺サークル』に出ていたとい
う屋敷紘子らが脇を固めている。
公開は3月7日より、東京は渋谷のアップリンクほか、全国
順次上映となる。


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井口健二