井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2014年11月30日(日) カフェ・ド・フロール

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『カフェ・ド・フロール』“Café de Flore”
今年の米アカデミー賞で作品など6部門にノミネートされ、
主演男優、助演男優、メイク・へアスタイリングの3部門を
受賞した『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・
ヴァレ監督が、それ以前の2011年に発表した作品。
物語の背景は、2011年(現代)のモントリオールと1969年の
パリ。それぞれの時代で健気に暮らす男女が、数奇な運命に
翻弄される。
モントリオールにいるのは人気のDJ。理解ある2人の娘と
若い恋人と共に暮らす彼は、両親も健在で経済的にも不満は
ない。しかし幼い頃から常に一緒だった元妻は別れを納得せ
ず、夢遊病のようになっている。
そんな元妻の白日夢に出てくるのが、パリに暮らすシングル
マザー。ダウン症の息子を抱え懸命に生きる彼女にとって、
息子は唯一の生き甲斐だった。ところがそんな息子に同じ病
のガールフレンドができる。
そして施設での活動にも支障をきたすようになった2人の仲
を切り離すべく、彼女は必死になって行くのだが…。そんな
夢の意味を探ろうとした元妻は、自らの前世に関る重大な事
実を知ることになる。

出演は、2011年7月紹介『ハートブレイカー』などのヴァネ
ッサ・パラディ、カナダの音楽シーンで活躍しているという
ケヴィン・パラン、カナダの舞台やテレビでも活躍するエレ
ーヌ・フローラン。
それに、2012年の製作で日本ではwowowで紹介されたカナダ
映画『クロエの祈り』に主演したエヴリーヌ・プロシェらが
脇を固めている。またダウン症の子役たちは実際にその病の
子供が出演しているそうだ。
2つの時代が並行に描かれ、さらにそれぞれの時代を描く中
で少し時間が逆行したりもする。そのため構成は複雑に見え
るが、実際の時間の逆行は1回ずつなので、それぞれの物語
にすれば比較的シンプルと言える。
しかも物語の筋はかなり丁寧に説明されるので、物語自体を
理解するのは容易な作品とも言えるだろう。それは運命とも
言える男女の恋愛を描いた作品では、多少トリッキーではあ
るが見事と言えるものだ。
ただ僕は本作を観終えた後で、ふと自分が理解したと思えた
物語を振り返った時に、徐々にそれぞれのシーンの持つ真の
意味が見えてきて、これはものすごく深い作品だと思えるよ
うになってきた。
確かに輪廻転生を描いた物語で、あまりにトリッキーなその
展開は一部の観客には受け入れられないものかもしれない。
しかし誰々が繋がり、そしてその関係が明らかになった時、
そこから判明するそれぞれの運命は見事な情感を呼ぶ。
これはもう一度観なければいけない作品になりそうだ。

公開は3月28日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMAの再開場
の第1弾として。またヒューマントラストシネマ有楽町他、
全国ロードショウとなる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二