井口健二のOn the Production
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2014年11月02日(日) 第27回東京国際映画祭《コンペティション部門》

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※今回は、10月23日から31日まで行われていた第27回東京※
※国際映画祭で鑑賞した作品の中から紹介します。なお、※
※紙面の都合で紹介はコンパクトにし、物語の紹介は最少※
※限に留めているつもりですが、多少は書いている場合も※
※ありますので、読まれる方はご注意下さい。     ※
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《コンペティション部門》
『紙の月』
主演の宮沢りえが映画祭の最優秀女優賞を受賞した作品。直
木賞作家角田光代の原作を、『霧島、部活やめるってよ』で
日本アカデミー賞受賞の吉田大八監督が映画化した。物語は
女性銀行員による巨額横領事件を描いたもので、まあそれこ
そ子役の頃から見ている宮沢が、見事に生活に疲れた主婦を
演じ切った。受賞は妥当なところだろう。

『爆裂するドリアンの河の記憶』“榴莲忘返”
早稲田大学を卒業のマレーシアの監督が、自国で実際に起き
た事件を基に映画化したという作品。レアアース採掘工場の
操業を巡って地元の高校教師らが反対運動を繰り広げる。そ
こに日本を含む近隣各国での民衆運動の歴史が再現挿入され
る構成だが…。何とも生硬で青臭さがきつかった。それに民
衆運動として描くべきはこれらの事件ではない気もした。

『壊れた心』“PUSONG WAZAK”
浅野忠信の主演でマニラが舞台の犯罪組織を扱った作品。ク
リストファー・ドイルの撮影で、巻頭の人物紹介などはニヤ
リとさせられる。でもほとんどの台詞を廃した構成は物語の
展開を判り難くし、映像はあるがドラマが不在の感じ。プロ
グラムブックのシノプシスを読んでも?だった。因に監督は
詩人だそうで、挿入歌の歌詞にだけ字幕が付くのも…。

『来るべき日々』“Les Jours Venus”
1951年生まれの監督の作品で、映画の中でも新作を作ろうと
する監督の奮闘が描かれる。今回の映画祭では他にも映画作
りがテーマの作品があって、ちょっとそれらと被ったかな?
また過去の同様の作品へのオマージュみたいなものも散見さ
れ、それが却ってウザイ感じのする部分もあった。作ろうと
している作品の方が面白そうだったかな。

『1001グラム』“1001 Grams”
ノルウェーの度量衡研究所に勤める女性が、父親から世襲の
ように引き継いだ「kg原器」を守る仕事に奔走する。物語は
ワンアイデアでシンプルな作品だが、主人公の仕事への傾注
ぶりが微笑ましく、また結末の重量に関わるエピソードも素
敵だった。廃止された「m原器」の空ケースなど、純粋に科
学に拘るという点でも気に入る作品だった。

『遥かなる家』“家在水草丰茂的地方”
中国の中央部で北は内モンゴル自治区に接する甘粛省に暮ら
す少数民族ユグル族の幼い兄弟を描いた作品。親は遊牧民で
兄は祖父の家で育つ。しかし親と一緒だった弟が寄宿舎にい
たとき祖父が死去、兄弟は親を探すことになるが…。親の愛
を知らないと思う兄と、衣服はお下がりばかりで不満な弟。
雄大な草原を背景に兄弟の確執が巧みに描かれる。

『マルセイユ・コネクション』“La French”
ハリウッド映画でも有名な「フレンチ・コネクション」の撲
滅に関わるフランス側の事情を描いた実話に基づくとされる
作品。フランス映画伝統のフィルムノワールといった感じの
作品だが、ジャン・デュジャルダン、ジル・ルルーシュらを
配した演技陣も往年の俳優たちの渋さには物足りない。実話
に拘りすぎた感じなのかな。

『ザ・レッスン/授業の代償』“Urok”
映画祭の審査員特別賞を受賞した作品。教職と翻訳のアルバ
イトで生活を支える女性教師が、様々な葛藤の中で生きて行
く姿を描く。クラスで起きた盗難事件、主人公はその犯人を
毅然とした態度で探し出そうとするが…。物語は確かに巧み
で、受賞は妥当なところだろう。ただ全体的には物足りない
感じもして、消去法での受賞にも感じた。

『アイス・フォレスト』“La Foresta Di Ghiaccio”
イタリア北部の旧東欧圏との国境の河に築かれたダム。その
ダムと麓の村を舞台に、その地で発見された死体を巡って、
ダムの修理に訪れた若い技術者やクマの生態調査に来たとい
う女性らが過去の歴史に埋もれた出来事を暴いて行く。雪に
埋もれたダムなどの風景は雄大で見応えがあるが、物語の展
開は先が読めるし、結末にはちょっと疑問も生じた。

『メルボルン』“Melbourne”
イラン人の若いカップルが、母国からオーストラリアへ留学
に旅立つ日の物語。出発間際の部屋の片づけで慌ただしい中
での善意に始まるちょっとした出来事が、重大な事態を引き
起こす。ボタンの掛け違いがにっちもさっちも行かなくなる
というお話はそれなりのドラマを生むが、その切っ掛けが本
作では正直に良い感じがしなかった。

『ナバット』“NABAT”
戦火に曝されるアゼルバイジャンの寒村を舞台にした作品。
村外れで病弱な夫と共に倹しい生活を送る老婆は、戦死した
息子の墓もあって村を離れることができない。しかも戦火が
迫り空き家ばかりの村はオオカミの来襲も問題だった。そん
な中での老婆の取った行動が戦況に皮肉な結果をもたらす。
ヒューマンな作品で女優の淡々とした姿も好感だった。

『ロス・ホンゴス』“Los Hongos”
コロムビアの中都市を舞台に、グラフィッティで自己主張を
行おうとする若者の姿を描いた作品。グラフィティに関して
はアメリカのドキュメンタリーなども紹介されているから目
新しいものはないし、そこで繰り広げられる青春ドラマも、
まあ在り来たりの感じは免れなかった。もう少し何か共感を
呼べるものが欲しかった。

『マイティ・エンジェル』“Pod Mocnym Aniołem”
アルコール依存症の実態を描いて主演のロベルト・ヴィエン
ツキェヴィチが最優秀男優賞を獲得した作品。依存症のどう
しようもない姿を体当たりで演じた俳優は受賞も当然という
感じだ。僕自身も酒は飲むし過去には失敗もあるが、こんな
風に酒に溺れなかったことは、自分自身の身体に感謝したい
と思う。そんな依存症の実態は見事に描かれていた。

『草原の実験』“Испытание”
1949年のカザフスタンの大草原を舞台にした青春ドラマ風の
作品。鉄道の終着駅だったのか、庭に列車止めのある線路を
持つ家。そこに父と暮らす少女は、アジア系の若者と金髪の
若者に思いを寄せられていたが…。実は画面中の旗に気付い
た時に結末が予想され、そこからの緊張感が半端ない。芸術
貢献賞を受賞したが、僕的にはグランプリの作品だった。
        *         *
 実は、今年のコンペティション部門には15本がエントリー
されていたが、もう1本は内容的に観るに堪えなくて、上映
の途中で退席してしまったものだ。しかしその作品の評価が
高いようで…。
 でも僕に言わせれば、暴力やドラッグなど若者の生態を唯
だらだらと写しているだけの作品で、同種の作品ならもっと
気の利いたものも先にあるし、それらの作品に伍してこれを
評価できるほどのものではなかった。
 とは言え、例年こんな作品が1本はある中で、今回は特に
選ばれた作品が受賞したということでは、作品を選考した人
の意見は正しかったのだろう。僕の考えとは違うが、これが
最近の風潮であるのかもしれない。
 と言うことで僕の考える受賞作は、
グランプリ:草原の実験
審査員特別賞:マイティ・エンジェル
最優秀男優賞:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ
最優秀女優賞:宮沢りえ
最優秀芸術貢献賞:アイス・フォレスト/遥かなる家


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井口健二