井口健二のOn the Production
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2014年09月07日(日) ミニスキュル−森の小さな仲間たち−、The Congress(コングレス未来会議)

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『ミニスキュル−森の小さな仲間たち−』
     “Minuscule - La vallee des fourmis perdues”
南フランスにある国立公園を背景に、その森林で撮影された
実景の中に様々な昆虫をCGIで登場させて人気を呼んだと
いうフランス製アニメーションシリーズからの3D劇場版。
物語の舞台は南フランスの国立公園でもある森林地帯。そこ
で兄弟と共に誕生したテントウムシの子供が主人公となる。
ところが好奇心旺盛な主人公は家族とはぐれ、途方に暮れて
いたところを食糧調達に来た黒アリのグループに遭遇する。
そして行動を共にすることにした主人公は、黒アリたちが見
つけた宝物をアリ塚に運ぶ手伝いをするのだが、それは目も
眩む冒険の連続となる。しかも宝物のことを知った赤アリの
軍団が黒アリを襲撃、さらに住処のアリ塚に襲い掛かる。
果たして黒アリたちはその宝物とアリ塚を守ることができる
のか…。
お話はまあ他愛ないものだし、自然科学的にも有り得ない展
開だが、メルヒェンとしては合格点かな。特に台詞が全て擬
音というか言葉ではないので字幕もなく、お子様にも容易に
理解できるようにされているのは、目的合致だ。
その一方で、実景で撮影された森林の風景は奥行き感も明瞭
で、3D作品としても及第点。さらに合成された昆虫たちの
CGIは、その配置も正確でこの技術力は相当に高いものと
言える。これでシリーズ化されたらまた観たいものだ。

脚本と監督は、2007年2月紹介『ルネッサンス』に関ってい
たというエレーヌ・ジローとトマス・ザボ。2人は2006年に
公開されたオリジナルの第1シーズン、2012年公開の第2シ
ーズンも手掛けており、正にシリーズの顔と言える。
そして第2シーズンの企画と共にスタートした本作の計画で
は、当初はオリジナルのエピソードを繫いだものも考えられ
たが、劇場に足を運んで貰うには新たな物語が必要との判断
になり、5年の歳月を掛けて本作が産み出されている。
因にエレーヌは、『エイリアン』や『トロン』などのデザイ
ンを手掛けたフランスの漫画家ジャン・ジロー(メビウス)
の娘だそうで、本作のエンディングロールには2012年に亡く
なった漫画家への献辞があったようだ。
本作はアクションもたっぷりで、いろいろな点で充分に楽し
める作品ではある。特に黒アリと赤アリの攻防戦は、戦いの
後の様子などは大人の目にも考えさせられるものが描かれて
いた。ただクモのお家と、それに関ったトカゲの去就はもう
少し描いて欲しかったかな。その辺が少し物足りなかった。

公開は10月18日から、全国のイオンシネマで2D/3D上映
される。この公開シチュエーションも本作にはぴったりの感
じだ。

“The Congress”
スタニスワフ・レム原作『泰平ヨンの未来学会議』の映画化
で、今年3月20日−23日にTOHOシネマズ日本橋で開催された
東京アニメアワードフェスティバル2014において、グランプ
リを受賞した作品。実は日本公開は未定の作品だが、フェス
ティバル2015の開催告知と共に、特別上映が行われた。
物語の始まりは現代のハリウッド。少し盛りを過ぎた女優が
マネージャーから決断を迫られている。それは女優の容姿を
データ化して以後はCGIに演技させるというもの。これに
より女優は人気絶頂の頃の姿を取り戻せるが、以後は生身で
人前に出ることは禁じられるという。
一方、女優には心に障害を持つ息子がおり、その息子との生
活も考えて女優は決断を下す。こうしてデータ化された女優
は往年の容姿のまま、SF映画など今まで演じたこともない
ようなアクションにも進出して人気を博して行く。
それから20年、映画会社との契約期間が満了して現役復帰も
可能になった女優は、会社が主催する「未来学会議」に招か
れるが…。その会議では会社が新たに開発した幻覚剤が発表
され、それは人々を現実と幻想の境目のない世界へと引き摺
り込んで行く。

脚本と監督は、前作『戦場でワルツを』が2009年のゴールデ
ングローブ賞外国語映画賞を受賞し、米アカデミー賞の外国
語映画部門にもノミネートされたアリ・フォルマン。前作も
実写とアニメーションの混合だったが、本作ではさらにそれ
を推し進めた作品になっている。
出演は、本作の製作者にも名を連ねるロビン・ライト。その
脇を、2004年12月紹介『ナショナル・トレジャー』や2012年
12月紹介『ムーンライズ・キングダム』などのハーヴェイ・
カイテル、2011年4月紹介『エンジェル・ウォーズ』などの
ジョン・ハムらが固めている。
ロビン・ライトは劇中も実名で登場し、彼女が契約する映画
会社の名前はミラマウント。さらにアニメーションのキャラ
クターには、思わずニヤニヤしてしまう顔ぶれが登場するな
ど、映画ファンにはプレゼントのような作品。
でもそれ以上に、現実と幻想の入り混じりや俳優をデータ化
して活躍させるアイデアなど、SFファンにはこちらも極上
の贈り物という感じの作品だ。しかもストーリーの複雑さは
到底1回観ただけでは理解し切れない構造になっている。

先にも書いたように本作の日本公開は未定のものだが、告知
された東京アニメアワードフェスティバル2015の開催概要で
は、アリ・フォルマン監督が審査員を務めることも発表され
ており、開催時には特別上映の可能性も高そうだ。
因に、今年の東京アニメアワードフェスティバル2014では、
上記の『ミニスキュル−森の小さな仲間たち−』と、2012年
6月「フランス映画祭2012」で紹介した『アーネストとセレ
スティーヌ』もコンペティションで上映され、後者は優秀賞
を受賞している。
なお東京アニメアワードフェスティバル2015は、2015年3月
19日−23日にTOHOシネマズ日本橋で開催される。


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井口健二