井口健二のOn the Production
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2014年07月13日(日) Mother、ピノキオ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『Mother マザー』
1995年以降、腱鞘炎の悪化で本業は休筆中という漫画家楳図
かずおがペンをメガホンに持ち替え、77歳にして自らの脚本
で初監督した映画作品。
主人公は人気漫画家の楳図かずお。つまり自叙伝とも言える
作品だが、ホラーの名手は流石にちゃんと仕掛けてきた。
お話は、人気漫画家にその生い立ちを語る企画が提案される
というもの。ところが、以前から漫画家の大ファンだという
新人女性編集者が取材を開始すると、その周囲に怪異現象が
起こり始める。
しかもそこには、最近亡くなった漫画家の実母の思いが絡ん
でいるようだ。そして舞台は漫画家の故郷奈良県の曽爾村へ
と進み…。やがて物語は恐怖に彩られ、その展開の中に楳図
作品の名場面が次々に描かれて行く。

出演は、歌舞伎役者で人気テレビドラマにも出ている片岡愛
之助、元タカラジェンヌの舞羽美海。さらに映画出演は15年
ぶりという真行寺君枝。それに楳図漫画の大ファンと語る中
川翔子がゲスト出演と主題歌も歌っている。
漫画家が実写映画の監督に挑むのは、日本では永井豪、海外
でもフランク・ミラーらの先例があるが、元々ヴィジュアル
感覚も鋭い人たちの映像作品は、それぞれしっかりした映画
を作り出している。
その中でも楳図の初監督作品は、恐怖シーンのタイミングな
ども的確で、久し振りに見事な怪談話を聞かせて貰えた感じ
がした。それもスプラッターやコケ脅かしに落とさない、純
粋なホラー作品だ。
その一方で主人公は赤白ボーダー柄の衣装を着ているなど、
抑えどころは明確。ここで一時期話題になった自宅が出てこ
ないのはちょっと残念だったかな。ただし何気なく登場する
赤白柄の小道具が実は…、と言う辺りにはニヤリとした。
楳図の幼いころのエピソード(真偽は不明だが)などもちり
ばめられ、これこそ楳図かずおの真骨頂と言えるのだろう。

公開は9月29日から。全国ロードショウが予定されている。

『ピノキオ』“Pinocchio”
8月13日から17日まで、東京調布市グリーンホールで開催の
「22ndキンダー・フィルム・フェスティバル」にて上映され
る長編作品。同じく映画祭で上映される短編2本と共に試写
が行われた。
物語はカルロ・コッローディの原作と言うよりは、1940年の
ディズニーアニメーションや、2003年2月紹介のイタリア版
実写作品に近いもので、コオロギの活躍と共にピノッキオの
大冒険が描かれる。
しかも、イタリア版ではオスカー俳優ロベルト・ベニーニが
生身で演じた主人公を本作ではCGIで表現し、その他にも
CGIによるVFXを多用して子供にも違和感のない手法で
物語が再現されている。
この辺は、正に「キンダー・フィルム・フェスティバル」に
ぴったりの作品と言えそうだ。さらに96分の上映時間は大人
の目にはちょっと駆け足だが、これもお子様向けにはこれで
充分と言えるのだろう。
因に本作はドイツのテレビ局が製作したもので、放送は2回
に分けて行われたようだ。
また試写会では、映画祭での上映と同じく声優による生吹き
替えが行われたが、これもお子様向けの企画ということでは
効果があるものだろう。ただ僕らとしては音楽や効果音が聞
こえ難くなるのは痛し痒しというところだ。

この他に試写会では、『ティンカン』“A Tin Can”という
ロシア作品と、『シザンのチョコレート』“ZIAZAN”という
トルコ作品の2本の短編も上映された。この内のロシア作品
には台詞が無かったが、トルコ作品は生吹き替えだった。
そのロシア作品はなかなか夢のある作品で面白く、またトル
コ作品はちょっと国際情勢が背景にある辺りがお子様向けに
は気になったが、基本は冒険物語だし、こういうこともある
のだという理解を子供に与えるのも良いことに思えた。
ただし、特にロシア作品で本来は丸であるはずのものが卵形
に上映されており、後でプレス資料の写真を見ると円形なの
でこれは上映ミスと思われる。多分スクイーズの映像をその
まま投影したのだろうが、この辺は確認して欲しいものだ。

なお、「22ndキンダー・フィルム・フェスティバル」では、
この他にオランダ作品の『ブラム』“Fidgety Bram”など長
編全5作品と、短編全8作品が上映される。
また10歳から18歳までの制作者を対象にしたフィルム・コン
ペティションも併催され、こちらは7月27日まで作品の募集
が行われている。


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井口健二