井口健二のOn the Production
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2014年07月20日(日) 記憶探偵と鍵のかかった少女、わたしは生きていける

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『記憶探偵と鍵のかかった少女』“Mindscape”
前々回紹介『フライト・ゲーム』などのジャウマ・コレット
=セラが製作を担当し、ペドロ・アルモドバルの許で2003年
2月紹介『トーク・トゥ・ハー』などの制作に携わってきた
というホルヘ・ドラド監督によるミステリー。
主人公は他人の記憶に潜入して、過去の出来事を再体験する
能力を持つ男。その記憶には当人も気付かなかった情報が含
まれており、彼はそれを探り出すことによって数々の難事件
を解決してきていた。
ところが彼は、ある出来事から自らの記憶が潜入中の相手の
記憶に混入するようになり、そのため本来の記憶の捜査に支
障をきたしていた。そのため彼は勤務を解かれ、自宅待機に
なっていた。
そんな彼に与えられた新たな任務は、閉じ籠りの少女の記憶
に潜入してその原因を探り出すというもの。そこには事件性
は感じられず、彼の実績からすればた易そうな仕事だった。
しかしそれが彼を恐怖の体験へと導いて行く。

出演は、2012年3月紹介『ジョン・カーター』などのマーク
・ストロング、2009年9月紹介『エスター』などの女優ヴェ
ラ・ファーミガの妹のタイッサ・ファーミガ。他にブライア
ン・コックス、ノア・テイラーらが脇を固めている。
ポスターやチラシのキャッチコピーに「記憶は嘘をつく」と
あって、主人公には真実と思えたものが実は…、という展開
になるのだが、このキャッチの状況だと記憶探偵の存在自体
が曖昧になる訳で、多少問題のものだ。
それならその曖昧さの中から、さらに真実を探り出して行く
過程を描くことが必要になると思うのだが、本作ではその辺
の詰めが多少甘いかな。僕には観ていて何か釈然としないも
のが残ってしまった。
ここでは、多分主人公が囚われている自身の過去との対決が
糸口になると思うのだが…。やはり事態の解明には他人の手
は借りず、本人自身にやって欲しかったと思う。そこにこそ
本作の最大のドラマがあるはずなのだ。
ただまあ邦題からも察せられるように、本作の基本的なアイ
デアは2006年10月及び2008年10月に紹介した塚本晋也監督の
『悪夢探偵』にあると思われる。塚本作品も設定などは多少
あやふやだが、そこは上手くごまかしていた。
それに比べると本作は真正直過ぎるもので、その辺が却って
僕には引っ掛ってしまったのかも知れない。因に本作の脚本
は新人のガイ・ホームズ。彼とマーサ・ホームズという人の
アイデアに基づくとされている。

公開は9月27日から、全国ロードショウが予定されている。

『わたしは生きていける』“How I Live Now”
2004年に発表されて、ガーディアン賞などを受賞したメグ・
ローゾフの原作を、2012年1月紹介『第九軍団のワシ』など
のケヴィン・マクドナルド監督、今年5月紹介『ザ・ホスト
美しき侵略者』などのシアーシャ・ローナン主演で映画化し
た作品。
主人公は折り合いの悪い父親の許を離れて、夏休みをイギリ
スにある叔母の家にやってきたアメリカ人の少女。ところが
外交官の叔母は不在で、自然の中に建つ家には3人の従兄妹
が暮らしていた。そんな従兄妹たちに最初は反抗的だった彼
女も徐々に打ち解けるようになって行くが…。
突然何かが起き、イギリスには戒厳令が施行される。そして
彼女にはアメリカ大使館から緊急帰国命令が届けられる。し
かし従兄妹を見捨てられない彼女は帰国命令を無視。従兄妹
と共に戒厳令下の国に留まることを決意する。それは究極の
サヴァイヴァルへと彼女を引き摺り込む。

共演は、2013年3月紹介『インポッシブル』などのトム・ホ
ランド、同じくスマトラ沖地震を題材にしたBBCのテレビ
ドラマに出演したというジョージ・マッケイ、それに長編映
画は初めてのハーリー・バード。脚本は『第九軍団のワシ』
なども手掛けたジェレミー・ブロックが担当している。
全体的な雰囲気は、2013年7月紹介『レッド・ドーン』でリ
メイクされた1984年『若き勇者たち』の方に似ているかな。
派手な戦闘シーンがある訳ではないが、戦時下の兵士ではな
い若者が繰り広げるサヴァイヴァルの様子はそれなりに描か
れている感じはした。
ただし発端の事件が核攻撃とされ、さらに死の灰が降る中で
それを浴びているというのは…、日本人の感覚ではあまり簡
単に容認することはできないもの。でもそれが核に対する現
在の欧米人の感覚なのだろうな。日本の原発から金を貰って
いる連中と同じということだ。
出来たらここでもう一段、核の恐怖も訴えて欲しかったもの
だが、作品の趣旨からはそれはできなかったのかな。いずれ
にしても本作は、戦時における民間の若者のサヴァイヴァル
をそれなりにリアルに描いたもの…。という感覚で若い俳優
たちの演技を堪能したい。
それに南ウェールズ豊かな自然や、素敵な農村生活なども巧
みに描かれている作品だ。

公開は8月30日から、東京は有楽町スバル座、ヒューマント
ラストシネマ渋谷ほかでロードショウとなる。


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井口健二