| 2014年06月15日(日) |
フランス映画祭2014 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 6月27日から30日まで、東京は有楽町朝日ホール及びTOHO シネマズ日劇にて開催される「フランス映画祭2014」の上映 作品の試写が行われたのでまとめて紹介する。 * * 『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』 “De toutes nos forces” 事前の案内では『フィニッシャーズ』という仮題で紹介され ていたが、日本公開も8月に決定している作品で邦題が上記 になったものだ。 トライアスロン、その中でも最も過酷なアイアンマンレース (スイム3.8km、バイク180km、ラン42.195km)に挑戦した父 子の物語。しかもその息子は障害者で、スイムはボート、バ イクはタンデム、ランは車椅子での参加となる。 元々はアイアンマンレースの選手だった父親。しかし障害を 持った息子が誕生し、レースをあきらめてケーブルカー保守 の仕事に就く。ところが息子が思春期を迎えたころ、父親は 失業し、人生に向き合うことができなくなってしまう。 そんな父親の姿に不安と不満が鬱積する息子は、父親に人生 を取り戻させるため、アイアンマンレースに参加することを 要望する。だがそれは、特に高速で疾走するバイクでは死の 危険も伴う危険な挑戦だった。 オリンピック種目でもあるトライアスロンは、自分が応援し ているチーム組織にも所属選手がいる関係でそれなりの興味 を持って観た。でも障害者の息子は父親におんぶにだっこな だけで、最初は我儘にも見えたものだ。 でもそこからの展開が実に巧みで、後半はまさに感動の物語 になって行く。これは上手い作品だなあと感心も頻りの作品 になっていた。 因に上記の仮題は所定時間内にゴールに到達した選手に与え られる称号で、アイアンマンではこれこそが名誉とのこと。 実はここで編集ミスに気付いたが、映画にはそれを超えての 感動がある。その辺の描き方も見事だった。 映画祭のオープニング作品。8月からの一般公開は、東京は TOHOシネマズ日本橋ほかで、全国順次の上映となる。
『イヴ・サンローラン』“Yves Saint Laurent” 時代を変えたとも言われる伝説のファッションデザイナーの 姿を描いた作品。この作品は初めてYSL財団の公認を得て 製作されたものだそうだ。 クリスチャンディオールの許で道を歩み出した若者は、師匠 の死後、若くしてその遺志を継ぐことになる。そして頭角を 現したデザイナーはやがて自らのブランドを立ち上げ、それ を世界的なブランドに築き上げて行く。 そんな天才デザイナーの姿を、彼に思いを寄せるトップモデ ルの存在や彼自身の性癖なども赤裸々に描写しながら、その 生涯を描き上げて行く。しかもそこには財団の全面的な協力 の許、当時のファッションが全て現物で登場するものだ。 とは言うものの、当時を覚えているその目でここに登場する ファッションを見ていると、ファッションに疎い男の目にも やはり時代の変化は感じられるもので、それがまたファッシ ョンの歴史を見る上では貴重な作品とも言えそうだ。 その一方で彼の性癖に関する描写では、これを財団がよくも 公認したものだと驚くほどの実像が描かれており、これも時 代の変化かなあとも感じてしまう。それを平気で描けるほど に文化として定着したのかな。 もっとも日本のファッション評論家と称している中にもそれ を装っている連中が多いが、本作を観ているとその本質の違 いは如実なもので、猿真似ではない実像が描かれているとも 言えそうな作品だ。 一般公開は9月6日より、東京は角川シネマ有楽町、新宿武 蔵野館、シネマライズ他、全国ロードショウとなる。
『バツイチは恋のはじまり』“Un plan parfait” この作品も案内では“Fly Me to the Moon”という英語題名 になっていたが、上記の邦題になったようだ。因にこの邦題 はテレビタレントが付けたそうで…。 1度目の結婚は必ず失敗し、2度目で幸せになれるという呪 いを持った一家の女性が、10年付き合った最愛の男性との幸 せな結婚を目指し、まずその前にバツイチになる決意をして 大奮闘を繰り広げるというラヴコメディ。 2011年10月30日付「東京国際映画祭(1)」で紹介し、その 後の日本公開でも大ヒットした『最強のふたり』の製作スタ ッフによる作品とのことで、なるほど比較的軽いテーマの割 にはシビアな視点も感じられた。 とは言え展開はかなりのドタバタ調で、その辺にはフランス コメディの伝統みたいなものも感じられて、僕にはちょっと ノスタルジックな感覚も生じた。しかもそれがまさに世界を 股にかけて繰り広げられる。 いや、正直には何と捉えてよいのか判らない作品なのだが、 取り敢えずは主演のダイアン・クルーガーの奮闘ぶりを見る だけでも楽しめる作品。観れば面白く、それが楽しめること だけは間違いない。 一般公開は9月20日より、東京はヒューマントラストシネマ 有楽町ほかにて上映となる。
『バベルの教室』“La cour de Babel” パリ市内にある中等学校の適応クラス。そこに集まった11歳 から15歳までの人種も言語も異なる24人の生徒たちを追った ドキュメンタリー。 教室には中東やアフリカ、さらに中国人の子供も居て、言葉 の違う子供たちが集まっているというもので、原題も同じと 思われる作品のタイトルには納得させられた。 とは言えこの年代の子供たちはそれなりにフランス語も喋れ ているようで、聖書のような混乱が生じるものではないが、 各地の挨拶の言葉の意味を考えるシーンでは、同じ言葉を使 う中東とアフリカの間で確執が生じるなど、それなりに世界 情勢を反映している面も紹介される。 そんな子供たちが共同作業で映画作りをしたり、様々な活動 を通じて互いを理解して行く姿には、これこそが今の世界に 必要なことではないかという思いも生じてくる。 それにしても日本だと、アメリカンスクールがあったり、中 華学校や朝鮮学校など、それぞれの民族が独自の学校を開い て子供の教育を行っているものだが、フランスではこのよう な教育制度が整っているているという事実にも感心した。 ただし本作は、子供たちの姿を追うことを中心にしているた め、この様な制度が生まれた背景などには触れておらず、上 記の日本の状況を考えた場合に、もっと何か得られるものが あったのではないかという思いは残った。 また教室を指導する女性教師の奮闘ぶりなどは映画に表れて いる以上のものがあるのでは…とも感じさせるが、その辺が 観ていて物足りなくは感じられた。それと作品の中で子供た ちが制作した映画も機会があったら観てみたいものだ。 一般公開は、2014年晩秋に予定されている。
『友よ、さらばと言おう』“Mea culpa” 2009年12月紹介『すべて彼女のために』や、2011年7月紹介 『この愛のために撃て』のフレッド・カヴァイエ監督による 最新作。 前の2作品はいずれも夫婦愛を中心したものだったが、本作 の中心にいるのは2人の男性。元は同じ警察署で同僚の優秀 な刑事だった2人が、ある出来事から一方は服役し、家族か らも見放される。しかしその家族に危機が迫った時…。 かなり骨太のアクションで、前の2作も主人公の活躍という 点ではアクションも激しかったが、本作ではさらにそこに磨 きがかかっている感じの作品だ。しかも映画の後半はTGV の車内が舞台で、これが鉄道ファンには堪らなかった。 フランス国鉄が誇る高速列車であるTGVは、今までにも走 る姿などは登場していたが、ここまで車内が克明に描写され たのは初めてではないかな。しかもそこでアクションが展開 されるのだから、これはもうワクワクし通しだった。 さらにはVFXを絡めたシーンもふんだんにあって、正しく 映画の中でTGVを堪能できる作品。もちろんアクション映 画としても一級の作品だし、微妙な人間関係など、様々な面 で優れたエンターテインメントと呼べるものだ。 一般公開は8月。東京は新宿武蔵野館ほか、全国順次ロード ショウとなる。
『暗くなるまでこの恋を』“La Sirène du Mississipi” フランソワ・トリュフォー監督、ジャン=ポール・ベルモン ド、カトリーヌ・ドヌーヴ共演の1968年作品が、ディジタル リマスターにより映画祭で上映される。 インド洋に浮かぶフランス領レユニヨン島。その島でタバコ 工場を営む主人公は、写真交換だけで知り合った女性を花嫁 として迎える。しかし現れたのは写真とは異なる風貌の女性 だった。 ところがその女性は、恥ずかしいから友人の写真を送ったと 告白し、それを信じた主人公は彼女と挙式するが…。それは 転落への第1歩だった。 原作はアメリカの推理作家コーネル・ウールリッチがウィリ アム・アイリッシュ名義で発表した『暗闇へのワルツ』。悪 の道と判りながらも転落して行く男女の哀しい物語が綴られ て行く。 フランス・ヌーヴェル・ヴァーグの旗手の1人とも称された トリュフォーは1966年にはイギリスで『華氏451』を完成 させ、その2年後の本作ではベルモンド、ドヌーヴという当 時の2大スターを起用。正に絶頂期の作品と言える。 その本作では、トリュフォーが憧れるアメリカの監督アルフ レッド・ヒッチコックを真似たかのようなロマンティック・ ミステリーを展開させ、これもトリュフォーの思い通りとい う作品だろう。 撮影も南海の島から雪のアルプスまで縦横に行われており、 その豪華さにも目を見張る作品だった。 一般公開は10月11日より。「没後30年 フランソワ・トリュ フォー映画祭」の一環として、東京は角川シネマ有楽町にて 3週間限定ロードショウとなる。
『スザンヌ』“Suzanne” 昨年の東京国際映画祭で紹介され、今年4月に一般公開され た『アデル、ブルーは熱い色』のアブデラティフ・ケシシュ 監督による最新作。 上記の作品は一般公開時の試写で観させてもらったが、間違 いなしの話題作で、他でも取り上げられる機会は多いと思わ れ、ここで宣伝しなくても良いだろうと判断した。その監督 の新作は前作にも増した問題作だ。 主人公は父子家庭に育った少女。強い絆で結ばれた妹と不器 用だが愛情一杯の父親と暮らしていたが、思春期になりふと 付き合った不良少年の子供を身ごもってしまう。そして転落 の人生が始まってしまうが… 自分自身が娘の成長を見守ってきた父親として、本作の父親 の心情は手に取るようだった。正直に言って娘にとって自分 の存在が如何様なものであったかは判らないが、一所懸命に 頑張る父親の姿は僕の胸を揺さぶるものだった。 ただし監督は女性で、その視点はあくまで娘の側にあるが、 それでもここに描かれる父親の姿は、僕にとっては全く他人 事ではないと考えさせられた。勿論本作の観客のターゲット は女性が想定されており、その点での判断はできない。 しかし僕自身が子育てを終えた父親の立場で観て、本作は納 得し、感銘を受ける作品だった。 なお本作は映画祭の最終日(30日)に上映されるが、日本で の一般公開は予定されていない。
『俳優探偵ジャン』“Je fais le mort” 2004年にキャラクターの生誕100周年記念として製作された 『ルパン』(Arsène Lupin)などのジャン=ポール・サロメ 監督によるノアール・コメディ。 主人公は若くして新人賞は受賞したものの、その後は思うよ うな仕事に恵まれないまま中年になってしまった俳優。そん な男がハローワークで紹介されたのは、俳優向きではあるが ちょっと変わった仕事だった。 それは殺人事件の現場検証で死体を演じるというもの。報酬 もそれなり、しかも現場はリゾート地ということで、主人公 は気軽に現地に向かうのだが…、被害者の気持ちも理解して 演じると主張する主人公は予審判事と衝突を繰り返す。 そんな中で主人公は、徐々に事件の矛盾に気づき始める。 かなりドタバタ調の部分もあるコメディ作品だが、謎解きな どはそれなりで楽しめた。でも多少中途半端かな。元々より コメディに弱い日本では一般公開は決まっていないようだ。 どうせなら昔のルイドフィネスのようなぶっ飛んだ作品も観 たくなったものだ。 なお本作は映画祭の第3日(29日)に上映される。 * * この他に今年のフランス映画祭では、 『2つの秋、3つの冬』“2 automnes 3 hivers” 『ジェロニモ―愛と灼熱のリズム―』“Geronimo” 『素顔のルル』“Lulu femme nue” 『間奏曲はパリで』“La ritournelle” という4作品も上映される。 実はこれらの作品の試写も行われたのだが、ちょうどその 時期に体調を崩してしまい、観に行くことができなかった。 しかもこれらの作品は日本での一般上映が決まっておらず、 本来ならこれらの作品こそ押さえたかったのだが。 ただし今年は、これら日本公開の予定のない作品を各地で 上映する計画があるとのことで、全国の映画ファンに観て貰 える機会があるのは喜ばしいことだ。従って余計にこれらの 作品を紹介しておきたかったのだが、申し訳ない。 なお各地での上映に関しては、「フランス映画祭2014」の 公式ホームページでも紹介されているのでご参照ください。
|