井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2014年06月08日(日) アイ・フランケンシュタイン、ALL YOU NEED IS KILL、ドライブイン蒲生

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『アイ・フランケンシュタイン』“I, Frankenstein”
詩人の妻メアリー・シェリーが19世紀前半に発表した怪奇小
説に基づき、2003年11月紹介『アンダーワールド』の原作者
としても知られるケヴィン・グレヴィオーが新たに創作した
グラフィックノヴェルを映像化した作品。
物語の始まりは19世紀初頭。若き科学者ヴィクター・フラン
ケンシュタインは墓場から掘り出した死体を繫ぎ合わせて理
想の体を作り出し、そこに生命を吹き込むことに成功する。
しかしその生命体は怪物と化し、科学者への復讐を遂げた末
に北極圏へと姿を消す。
一方、地上では神の許を追われた堕天使と、神に遣わされた
ガーゴイルとの間で長い戦いが続いていた。しかし消耗戦に
終始したその戦いにはガーゴイル側の勝利が近づいていた。
ところがそこにヴィクター・フランケンシュタインの生命体
が200年を経た今も生存している事実が判明する。
それは堕天使側には起死回生の秘策となり得るもの。こうし
て200年を生き延びた生命体に新たな試練が開幕する。それ
は人類の存亡を賭ける究極の戦い。その戦いに、人間社会へ
の参加を拒否され、自らの人間性を否定せざるを得なかった
生命体が巻き込まれて行く。

主演は、2012年4月紹介『ラム・ダイアリー』や2013年4月
紹介『エンド・オブ・ホワイトハウス』などのアアロン・エ
ッカート。
これに2012年3月紹介『キラー・エリート』などのイヴォン
ヌ・ストラホフスキー、2003年2月紹介『LOTR/二つの塔』
などのミランダ・オットー、『POTC』シリーズなどのビル・
ナイらが共演し脇を固めている。
監督は、2009年6月紹介『30デイズ・ナイト』の脚本など
で知られるスチュアート・ビーティ。因にビーティは第2作
以降の『POTC』のストーリーなども手掛けており、監督は本
作が2作目とのことだ。
昔のホラー映画ファンだと、「フランケンシュタインは彼を
作り出した科学者の名前で、怪物には名前はない」と何度も
言った経験がある。そこにこの題名はかなり抵抗感があった
が、映画を観てなるほどと思わせるのは上手いところだ。
映画の製作フタッフには『アンダーワールド』の関係者も多
くいて、映画全体の雰囲気も似通う作品だが、これは物真似
ではなくそれが狙いの作品だろう。ただしお話自体は『アン
ダーワールド』ほどどろどろしていなくて判り易かった。

公開は9月6日から予定されている。

『ALL YOU NEED IS KILL』“Edge of Tomorrow”
「SFマガジン読者賞」を受賞したこともあるという桜坂洋
の原作を、トム・クルーズ主演、2002年11月紹介『ボーン・
アイデンティティー』以降の全3部作などを手掛けたダグ・
ライマン監督で映画化した作品。
物語の舞台は、異星人の攻撃が続いているヨーロッパ戦線。
ドイツに発した侵略は、地中を潜行して突如戦場に現れる敵
の戦法に翻弄され、地球人側の最前線はドーバー海峡にまで
後退しているようだ。
そんな中、地球連合軍の広報担当将校だった主人公はイギリ
スの司令本部を訪れる。ところがそこで司令官の不興を買っ
た主人公は、身分をはく奪された上に脱走兵として最前線に
向う突撃部隊に編入されてしまう。
こうして激戦の場に放り込まれた主人公は、何とか戦場を彷
徨う内に偶然敵の一体を倒すが…。その直後に襲撃されて死
んだはずの彼が目覚めたのは、自分が突撃部隊に編入される
直前の時点だった。
そんなことが何度か繰り返され、自分が時間ループにいると
知った主人公は徐々に戦線の奥に侵入。そこで伝説の女性兵
士に出会った主人公は、「今度目覚めたら私を探しなさい」
と命じられる。
果たして彼の存在は、地球を危機的な戦況から救うための切
り札となるものなのか?

共演は、2012年10月に紹介した同じく時間ものの『LOOPER』
にも出ていたエミリー・ブラント。本当は2006年『プラダを
着た悪魔』などの…と書くべきのようだが、今回もジャンル
作品に出ているというのは本人が好きなのかな?
他に、2002年10月紹介『フレイルティー/妄執』などのビル
・パクストン、『ハリー・ポッター』シリーズでマッドアイ
・ムーディ役などのブレンダン・グリースンらが脇を固めて
いる。
本作の展開で主人公の死はPCゲームにおけるリセットボタ
ンであって、つまりアクションRPGなどでいろいろな攻略
法を探りながら失敗したらリセットして最初からやり直す…
そんな気分が描かれている作品だ。
実際に原作者の桜坂はゲームマニアだそうだから、そんな中
から着想は得ているのだろう。そしてそれは小説や映画では
確かに珍しい展開だし、それが評価されてハリウッドの大作
にまで上り詰めたのは素晴らしいところだ。
ただし、その後に事情に精通した博士が登場したり、それに
よって劇的な進展がもたらされるのは、物語の展開としては
ちょっと安直な感じがしてしまうし、もっと別の話の進め方
があったのではないかとも考えてしまう。
他にも、最後の攻撃の前ではもっと主人公に葛藤があっても
よいようにも感じるが、所詮ライトノヴェルと言うことでは
この程度が読者に合わせたレヴェルなのだろう。もっともこ
の辺の話は原作にどこまで書かれているのか不明だが。
因に
映画の脚本は、1995年『ユージュアル・サスペクツ』で
オスカー受賞のクリストファー・マッカリーと、ライマン監
督の2010年『フェア・ゲーム』を担当したジェズ&ジョン=
ヘンリー・バターワースが手掛けている。
公開は7月4日から、2D/3Dで全国一斉のロードショウ
となる。

『ドライブイン蒲生』
2011年10月紹介『指輪をはめたい』の原作者でもある芥川賞
作家伊藤たかみによる同名の小説の映画化。
物語に登場するのは、街道沿いの寂れたドライブインに居る
蒲生家の姉弟。ドライブインは父親の経営だが、特にうまい
料理を出す訳でもなく客足は途絶えている。因に蒲生家は、
船客相手のくらわんか船の末裔だそうだ。
そんな蒲生家の父親はいつも飲んだくれて、それに反発する
姉は髪を染めヤンキーの道を歩んでいる。反発しても何もで
きない苛立ち…。そして妊娠した姉は家を飛び出す。そんな
一家は、周囲からバカと蔑まれ続けている。
やがてその父親が亡くなり、姉が幼娘を連れて帰ってくる。
久し振りの再会で言葉を交わす姉弟。その胸に去来するのは
何故か大嫌いだった父親の姿だった。そして葬儀の後、姉は
DV夫との最後の話し合いの席に向かう。

出演は、2012年10月紹介『横道世之介』などの黒川芽以と、
2010年10月紹介『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』など
の染谷将太。それに友情出演の永瀬正敏。他に猫田直、平澤
宏々路、吉岡睦雄、小林ユウキチらが脇を固めている。
監督は、永瀬の映画デビュー作『ションベン・ライダー』の
カメラマンだった田村正毅。本作は75歳での監督デビュー作
(たむらまさき名義)となっている。脚本は、たむらが撮影
を担当した『ゲゲゲの女房』などの大石三知子。
自分にも娘と息子の2人姉弟がいるから本作の親の立場は気
になるところだ。自分は周囲から蔑まれるようなことはして
いないと思うが、自分のしてきたことに対して子供たちが本
心で何を思っているかなどは判らない。
だからこの父親が無骨ながらも子供たちを愛しているのに、
それを子供たちに理解されない姿と言うのは、やはり胸に突
き刺さってくる作品だった。もちろん自分はこんなではない
と信じているにしても。
正直なところは、映画の前半は飲んだくれの父親とヤンキー
の娘という図式で、またそんな作品かという思いだった。し
かし映画が進むに連れ父親の無骨な愛情が仄かに見え始め、
それが物語に1本の筋を通して行く。
そんな微妙な家族の生き様が描かれた作品。それはある種の
昭和ノスタルジーであるのかも知れず、そんなことが昭和人
である自分には心地よさにも繋がったかも知れない。それが
若い観客にどのように伝わるのかは判らないが。

公開は8月2日から、東京は渋谷のシアター・イメージフォ
ーラム他、全国順次上映となる。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二