井口健二のOn the Production
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2014年06月01日(日) ブラジリアン・ホラー、インフェルノ 大火災脱出

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『デス・マングローブ ゾンビ沼』“Mangue Negro”
『吸血怪獣 チュパカブラ』“A Noite do Chupacabras”
『シー・オブ・ザ・デッド』“Mar Negro”
W杯の開幕も間近になる中、何とブラジリアン・ホラーと称
する3作品が連続公開されることになった。作品はいずれも
1977年生まれロドリゴ・アラガォン監督のもので、宣伝文に
「4tトラック1台分の血」と書く鮮烈なスプラッターだ。
『ゾンビ沼』は2008年の監督デビュー作。舞台はマングロー
ブ林に囲まれた小さな漁村。昔は沼で獲れる蟹や牡蠣などの
漁で活況だったようだが、水質汚染で沼の生物は壊滅、村も
不況に喘いでいる。そして僅かに獲れる沼の貝を食べた人々
に異変が起き始める。
登場するゾンビはロメロタイプで、その辺は好ましい作品だ
った。ただ物語にはゾンビ以外の要素も多々あって、ゾンビ
自体をもう少し丁寧に描いて欲しかったかな。とは言えゾン
ビ相手のスプラッターはそれなりに描かれており、その手が
好きな人には満足と言えそうだ。
『チュパカブラ』はデビュー作が各地の映画祭などで好評の
中、2011年に発表された作品。舞台はジャングルの奥の村。
その村では長年2つのファミリーが土地を巡って争っていた
ようだ。そんな村に都会に出ていた若者が妊娠した女性を連
れて帰ってくる。
ところが家畜の世話に出ていた若者の父親が惨殺死体で発見
され、若者の兄弟たちは相手ファミリーの仕業と思い込む。
こうして2つのファミリーの抗争が激化するのだが、実はそ
の事件には全く別の側面が隠されていた。題名のチュパカブ
ラは半魚人のようなクリーチャーで登場する。
『シー・オブ・ザ・デッド』は2013年の監督最新作。原題が
デビュー作に似ているが、デビュー作はウェブで翻訳すると
「暗い沼」、本作は「暗い海」となるようだ。で、お話もほ
ぼデビュー作の焼き直しだが、この作品も様々な要素が絡み
合って、かなり強烈な作品になっている。
ブラジル映画に関しては、僕の個人的には2002年11月4日付
「東京国際映画祭」で紹介した『シティ・オブ・ゴッド』の
印象があまりに強烈で、ドキュメンタリータッチの厳しい内
容のものという感覚になってしまう。
そんな目で観ると、今回の3作品にどこか共通するところも
あるのかな。『シティ・オブ・ゴッド』がただのアクション
ではないくらいの…、本作にもただのスプラッターではない
ような感覚は味わえた。
それに音楽に使い方などが、何となく昔の日本の怪獣映画を
観ているような感覚で、ノスタルジーではないけれど、何か
不思議な感覚にも囚われたものだ。因に個人的には、因習の
絡まった『チュパカブラ』が一番面白く感じられた。

公開は『チュパカブラ』が6月7日〜9日、『ゾンビ沼』が
6月10日〜13日、『シー・オブ・ザ・デッド』は6月14日〜
27日に、東京渋谷ユーロスペースにてレイトショウされる。

『インフェルノ 大火災脱出』“逃出生天”
4月に「初夏のパン祭り」を紹介したばかりのダニー&オキ
サイド・パン兄弟脚本・監督・製作による高層ビルパニック
/アクション作品。
舞台は中国広州の商業センタービル。登場するのはそのビル
にオフィスを構えるクンと広州消防隊に勤務するダーグン。
2人は兄弟で以前は同じ消防署に勤務していたが、弟のクン
は消防隊による人命救助に限界を感じて民間会社に転身した
後、自ら火災防衛の会社を設立したのだ。
一方、兄のダーグンも妻の妊娠を機に危険な任務の辞職願を
提出していた。ところがそこに高層ビル火災の一報が入る。
そのビルには転身以来疎遠だった弟のオフィスがあり、また
妻の通う産婦人科も所在していた。こうしてダーグンは最後
のそして最も危険に任務に向かうことになる。

ダーグンを演じるのは2012年12月紹介『奪命金』などのラウ
・チンワンと、クンを演じるのは2012年7月紹介『強奪のト
ライアングル』などのルイス・クー。現在の香港映画界を牽
引する二大スターの共演だ。
他にパン兄弟の出世作『The EYE』に主演したアンジェリカ
・リー、2012年11月紹介『ブラッド・ウェポン』などのクリ
スタル・リー、「初夏のパン祭り」中『冷血のレクイエム』
などのチョン・シウファイらが脇を固めている。
高層ビルパニックという内容情報でこの邦題を見ると、僕ら
の世代では特に片仮名の部分で、1974年『タワーリング・イ
ンフェルノ』を思い出してしまう。そんなことを気にしなが
ら作品を鑑賞していると、これが実にパニック映画の名作に
思いを寄せる作品だと理解できた。
実際に、2人の主人公がビジネスマンと消防隊長というのは
オリジナルと同じ(それが兄弟なのは監督たちの反映?)だ
し、火災の発端が電気系統であったり、その後も隣のビルか
ら空中の脱出路が作られるなど、オリジナルを意識した状況
が次々に登場する。特に結末にはニヤリとさせられた。
これはもはやパン兄弟による『タワーリング…』へのオマー
ジュ以外には考えられなくなったものだ。しかも結末では現
代には即さなくなった部分を、巧みにアレンジして現代化し
ている。
その一方で映像には、パン兄弟が名を上げたタイのスタッフ
が協力して、お得意の爆発シーンはそれは見事に描かれてい
る。さらにオリジナルの当時はなかったCGIの炎には、何
と言うか怪しい艶めかしさがあって、これもパン兄弟の演出
と言えそうだ。
物語には中国映画らしい人情味もたっぷりあり、最近は同種
の作品が他国からも公開されているが、本作はその中でも群
を抜く一級のエンターテインメントと言える作品だ。

公開は6月21日から、東京はシネマート六本木ほかで、全国
順次ロードショウとなる。


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井口健二