井口健二のOn the Production
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2014年01月26日(日) 魔女の宅急便、サンブンノイチ、愛の渦

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『魔女の宅急便』
スタジオ・ジブリのアニメーションでも知られる角野栄子の
名作ファンタシーを、『呪怨』シリーズの清水崇監督・脚本
(脚本は2009年7月紹介『サマーウォーズ』などの奥寺佐渡
子と共同)で実写映画化した作品。
物語は、普通のお父さんと魔女のお母さんの間に生まれて、
魔女の素質を引き継いだ少女キキが、13歳の誕生日を迎えた
日から始まる。魔女には13歳になると家を出て、魔女の居な
い町で1年間修行するという決まりがあるのだ。
その決まりに従ってキキは魔法のほうきに乗って故郷を出発
する。その旅には意思の通じ合える黒猫のジジも付いて来て
いた。そしてたどり着いたのはコリコという湊町。その町は
沢山の島の浮かぶ海に面していた。
そこでパン屋さんに間借りしたキキは早速、以前から考えて
いた魔法のほうきを使っての運び屋さんを開業する。それは
連絡船を待たなければ行けない島への荷物を迅速に運べると
いうものだったが…。お客はなかなか来なかった。
そんな環境の中で周囲とはちょっと違う1人の少女が、周囲
との軋轢なども経験しつつ徐々に成長し、自分がいる意味を
見つけて行く姿が描かれる。それは魔女に限らない普遍的な
物語として描かれる。
ジブリのアニメーション作品はかなりロマンティックなお話
で、その実写版を『呪怨』の清水監督が手掛けたということ
では、試写を観るまでは両方の意味で怖いもの見たさという
感じが付きまとった。でも心配は杞憂だったようだ。
作品はプロローグからファンタシーの香り一杯に展開され、
原作の第1巻、第2巻に基づくお話は冒険やほのかな恋も織
り交ぜて青春映画のように展開されて行く。そこには現代的
な要素もあって、巧みな脚本と言えるものだ。
しかも、ジブリ作品のような後半に唖然とするアクションを
持ってきたりもせず、原作に忠実にある意味素朴とも言える
佇まいの物語が展開されて行く。清水監督がここまで真摯な
物語を描けたということも驚きだった。

出演は、キキ役に500人のオーディションで選ばれたという
小芝風花。テレビドラマやCM出演はあるが映画は初とのこ
とで瑞々しい演技を見せている。因に原作者の角野は自分の
イメージに最も合っていると語ったそうだ。
他に、2008年2月紹介『あの空をおぼえている』などの広田
亮平、2012年9月紹介『大奥〜永遠〜』などの尾野真千子、
2009年6月紹介『童貞放浪記』などの山本浩司、2012年8月
紹介『莫逆家族』などの新井浩文、昨年11月紹介『赤々煉
恋』に出ていたという吉田羊。
さらにジャズヴォーカリストのYURI、浅野忠信、筒井道隆、
宮沢りえらが脇を固めている。
公開は3月1日から、全国一斉ロードショウとなる。
ジブリ作品みたいな派手なスペクタクルはないけれど、こち
らが本物だなと思わせる、そんな素敵なキキの世界が展開さ
れていた。


『サンブンノイチ』
お笑いコンビ「品川庄司」のボケ役でもある品川ヒロシ監督
による第3作。2009年7月紹介『悪夢のエレベーター』など
の木下半太原作に基づく作品で、品川監督は今回初めて他者
原作の脚色・映画化に挑戦している。
品川監督の2009年『ドロップ』と2011年『漫才ギャング』は
いずれも試写は観たが、紹介をサイトにアップしなかった。
それは両作共に暴力描写があまりに酷く、個人的な感覚とし
て紹介に耐えなかったものだ。
因に前の2作は、監督の自伝とされる原作小説を映画化した
ものだが、それは監督本人が格闘技マニアとかで、その個人
の趣味が高じた結果と理解された。その趣味に僕が付き合い
切れなかったというところだ。
しかし第2作では、主人公たちの演じる漫才のシーンに流石
に本業の技が見えた感じで、それは作品の方向性として期待
も感じていた。でもその方向から外れる暴力描写が過多で、
結局サイトでの紹介はしなかった。
そんな品川監督の新作だが、今回は他者の原作ということで
物語の展開などにはそれなりに尊重しているところが感じら
れ、そのためアクションの挿入や描写も適度に抑えられて、
全体にバランスの良い作品になっていた。
その物語の主な舞台は集合ビルの中にあるキャバクラ。その
雇われ店長とボーイ、それに常連客の3人が切羽詰って実行
した銀行強盗に成功。1億6000万円の現金が詰まったバッグ
を開店前の店に運び込むところから始まる。
そこで3人は金を3分の1づつ分ける計画だったが、実行犯
の店長と常連客が運転手役のボーイも同じ取り分なのはおか
しいと主張して揉め事が始まる。そして時間は7日前にさか
のぼり、ここに至った経緯が描かれる。
その物語を映画では、フラッシュバックを多用して経緯とそ
の裏に隠された真実を徐々に明らかにし、人間の本性に潜む
醜い姿を暴いて行く。そこに監督が漫才師らしい軽妙な台詞
のやり取りなどが挿入される。
その台詞の中には外国映画に関する例えも多用されていて、
それは多少ウザったいところもあるが、多分そこは若い映画
ファンには受ける要素にもなると計算されているのだろう。
そんな展開で映画は進行されている。
しかもそれがかなりのどんでん返しの繰り返しになるという
作品だ。

出演は、藤原竜也、2012年9月紹介『大奥〜永遠〜』に出て
いたという田中聖、お笑いコンビ「ブラックマヨネーズ」の
小杉竜一。さらに2012年9月紹介『バイオハザードVリトリ
ビューション』などの中島美嘉、窪塚洋介、池畑慎之介。
また、2012年5月紹介『バルーンリレー』に出ていたという
木村了、哀川翔、壇蜜。そして吉本興業のお笑い芸人たちが
脇を固めている。
公開は4月1日から、角川文庫の創刊65周年記念作品として
全国ロードショウされる。

『愛の渦』
演劇ユニット「ポツドール」主宰三浦大輔の脚本監督による
2006年第50回岸田國史戯曲賞受賞作の映画化。
三浦戯曲の映画化では昨年『恋の渦』という作品もあって、
それも試写を観たがサイトでの紹介には至らなかった。本作
はその同じ作家の作品であり題名も似ているので、観るまで
はどうなのかなあ…という感じだったが、流石に自ら監督も
手掛けるとなると、その仕上がりも違っていた。
物語の舞台はメゾネット型マンションの一室。そこは参加費
が男性は2万円、女性千円、カップル5千円の乱交パーティ
の会場だ。その日の夜もそこには男女4人ずつの参加者が集
まってきた。
参加者は当然Hがしたいだけの連中。しかしバスタオルを巻
いただけでソファーに座っても、最初は会話もぎこちない。
それでも徐々に会話は進み、女子大生やフリーター、保母に
OL、妻子持ちのサラリーマンなどの身分も明らかになる。
そしてある切っ掛けから本性が剥き出しになる。
公開はR18+指定で、それはかなり際どい描写も登場する作
品だが、そこに描かれるのは人間の本能であり、大人にはク
スリと笑える巧みな会話劇が展開される。この辺が前に観た
『恋の渦』ではどこか幼稚だったが、本作では見事に脱皮し
ている感じもした。

出演は、昨年12月紹介『大人ドロップ』などの池松壮亮、同
8月紹介『スクールガール・コンプレックス−放送部篇−』
などの門脇麦。さらに11月紹介『バイロケーション』などの
滝藤賢一、2010年1月紹介『カケラ』などの中村映里子。
また『魔女の宅急便』にも出演の新井浩文、2008年4月紹介
『サンシャイン・デイズ』などの三津谷葉子、2012年3月紹
介『サイタマノラッパー』などの駒根木隆介、2012年4月紹
介『彼女について知ることのすべて』などの赤澤セリ。
他に柄本時生、信江勇。そして2012年8月紹介『アウトレイ
ジビヨンド』などの田中哲司と、『サンブンノイチ』にも出
演の窪塚洋介が主催者側の役で登場する。
事実上の密室劇なので出演者はこれが全てだが、主な登場人
物は上映時間123分中、着衣は18分半だけという過激な内容
の割には見事な俳優陣が揃っている。さすが受賞作の映画化
というところかな。
しかも本作では作者自身が監督しているものだ。因に三浦の
映像作品は4作目だが、自作の舞台劇を自らの監督で映画化
するのは初めてとのこと。その演出にも誘われてこれだけの
演技陣が集まったのだろう。そんな演技のぶつかり合いも楽
しめる作品だ。

公開は3月1日から、東京はテアトル新宿他で上映される。


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井口健二