| 2014年02月02日(日) |
僕がジョンと呼ばれるまで、KILLERS/キラーズ、ダーク・ブラッド |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が書きたい作品をセレクトして紹介しています。なお※ ※文中の物語に関わる部分は伏せ字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『僕がジョンと呼ばれるまで』 アメリカの老人ホームでアルツハイマーの治療に挑む介護の 様子を描いたドキュメンタリー。 タイトルはちょっと奇をてらった感じもするが、作品のプロ ローグでその意味が説明され、それは重大な事柄であること が明らかになる。その部分から僕は一気に作品に引き摺り込 まれてしまった。 実は自分の母親が認知症で、現在は老人ホームに入所させて いるものだが、その症状は作品の中で2番目に紹介されるお 婆さん程度かな、正にそんな実体験に照らし合わせても納得 のできる作品だった。 そして作品では、日本の大学教授の提唱による「学習療法」 が紹介されるが、この治療効果が実に目覚ましい。それは俄 かに信じられないほどのもので、例えば駒を箱に戻すことも 出来なかった女性が、毛糸のマフラーを編み始めるのだ。 因にこの「療法」は、東北大学加齢医学研究所センター長の 川島隆太教授が提唱しているものだが、日本ではいくら厚労 省に申請しても認可が得られないそうで、今は考えを変えて アメリカでの実践を試みその様子が記録されている。 それにしてもこの「療法」は、日本でもすでに18000人に対 し実施して効果を挙げているものだが、未だにその成果に懐 疑的な医療関係者が多いのだそうで、そんな閉鎖的な日本の 医療が普及を拒んでいるようだ。 それはこの「療法」が脳科学という人間特有の研究に基づく もので、マウスなどの動物実験が基礎に置かれる日本の医療 研究に合致しない。そのため厚労省などが医療として取り上 げる視野にも入っていないとのこと。 しかし本作を観る限りにおいてはその効果は抜群のもので、 今すぐ自分の母親にもやって欲しくなった。それは僕だけで なく認知症の家族を抱える全ての人の願いでもある。特に家 族を思い出してくれることが最高なのだ。 とは言え、老人ホームに入所させているとそれもままならな いもので、今はできるだけ多くの関係者がこのドキュメンタ リーを観て、この「療法」のことを知って欲しいと痛切に思 っている。 公開は3月1日から、東京は恵比寿にある東京都写真美術館 ホールでロードショウになる。 なお作品は東北大学のお膝元である仙台放送が制作したもの だが、アメリカでの取材は2011年5月〜11月で、その頃の仙 台の状況を考えると、取材者たちの葛藤にもドラマがあった のでは…と思わせるものだ。 また本作はアメリカでの一般公開はされていないようだが、 もし公開されてアカデミー賞の候補になったらと思うと、映 画の内容に合わせて愉快な気分にもなる作品だった。
『KILLERS/キラーズ』“Killers” 日本とインドネシアの合作で、監督はインドネシアのモー・ ブラザース、主演は日本の北村一輝とインドネシアのオカ・ アンタラという作品。なお本作は2月1日に封切られたが、 試写が直前に1回だけという状況だったので今回紹介する。 主人公は、東京とジャカルタに住む2人のシリアルキラー。 物語の始まりは東京側の殺人者。彼は若い女性を拉致しては 自宅の地下スタジオに連れ込み、女性を撲殺してその様子を ネットにアップしていた。 一方、ジャカルタ側は正義感に燃えるジャーナリストだった 男。しかし追求していた大物の手下に命を狙われ、反撃して 相手を殺してしまう。そして先から殺人者のサイトに感化さ れていた彼はその様子をネットにアップしてしまう。 すると程なくして‘I Found You!’というメールが彼のPC に届く。こうして互いの存在を認知した殺人者たちは、それ ぞれの環境の中で相互に影響を与え合いながら凄惨な犯行を 繰り返して行く。 ところが東京の男に自らの秘密を隠さなければならない女性 が現れる。またジャカルタの男は追求していた大物の核心に 近づいて行く。そしてそれらは2人を究極の状況へと導いて 行くことになる。 実は昨年末に記者会見があって、その席で北村は「オファー を受けた時に役柄を理解できず、監督にその点を質問した」 と語り、脚本家でもある監督の答えは「彼はGODだ」という ものだったそうだ。 確かに北村の役柄には相手を操っているような面もあり、そ れは神の所業とも言える。しかし今回の試写会の舞台挨拶で 監督は、「アジアの映画が世界で勝負するには、このやり方 しかない」とも語り、それは手段だったようだ。 ただし物語として北村の役柄には根拠が薄弱な面もあり、映 像だけで観せ切るにしても何か物足りない気分にはなった。 なおその映像は日本ではR18+指定、本国でも鑑賞制限とな るものだが、監督は自国のことは気にしないとのことだ。 北村は昨年12月紹介『猫侍』が3月1日公開で、両極端な役 柄の変化も面白い。インドネシア側のオカはミュージシャン 出身で多数の映画やCMにも出演歴のあるベテラン俳優のよ うだ。 共演は、2009年『侍戦隊シンケンジャー』などの高梨臨と、 バリ島出身で多数の映画出演歴のあるルナ・マヤ。他に黒川 芽以、でんでん、2012年『ザ・レイド』などに出演のレイ・ サヘタピーらが脇を固めている。 公開は2月1日から、東京はテアトル新宿ほかで全国公開と なっている。
『ダーク・ブラッド』“Dark Blood” 1993年に23歳で亡くなったリヴァー・フェニックスの遺作。 当時撮影半ばだった作品をジョルジュ・シュルイツァー監督 が特別の思いを込めて「完成」させた作品。 物語の舞台はユタ州の砂漠。登場するのは夫が映画俳優とい う夫婦。実は離婚の危機にあるが、その関係を修復するため 週末の砂漠ドライブに愛車のベントレーで来ている。その道 の脇には放射能注意の道路標識が並んでいる。 ところがその車が砂漠の中で立ち往生してしまう。それでも 夫は夜が明ければ何とかなると寝てしまうが、心配な妻は深 夜に灯りを見つけ、砂漠を歩いて小屋にたどり着く。そこに は1人の若者が住んでいた。 その若者はインディアンの血を引くと称し、夫婦を居留地の 修理工場などに案内はするが、夫婦が駅のある町まで連れて 行くように頼むと、言を左右してなかなかその依頼を聞き入 れようとしない。 そして徐々に奇妙な雰囲気が彼らの周囲に漂い始める。祭壇 のような原住民の遺跡や、今も立ち入りが制限される原爆実 験場の跡地。さらに実験のため追い出された原住民の歴史な どを背景に物語は進められて行く。 出演は、夫婦役に1985年『未来世紀ブラジル』や『POTC』な どのジョナサン・プライスと、2006年12月紹介『マリー・ア ントワネット』などのジュディ・デイヴィス。そして砂漠に 暮らす若者役にフェニックス。他に、昨年他界したカレン・ ブラックが出ていた。 監督のシュルイツァーはオランダ映画の出身。1992年『マイ セン幻影』が自身2度目のベルリン国際映画祭出品となって ハリウッドに進出。1993年には自作をリメイクした『失踪』 の公開に続いて本作に取り掛かっていた。 しかし、ユタ州でのロケーション撮影を終えてハリウッドで セット撮影を開始した矢先に主演者が他界。そのまま撮影は 中断されてしまった。そのため本作では、撮影未了の部分を 監督のナレーションによって補完している。 なお撮影は、1994年に“That Eye, the Sky”というファン タシー作品も手掛けたジム・バートンの脚本によって行われ たが、今回公開される作品では監督のシュルイツァーがリラ イトとしてクレジットされている。 その公開作品では、「死」とか「墓場」などの台詞が出てく るとドキッとさせられるが、砂漠で撮られた映像も美しく、 ある種の世捨て人であるフェニックスの役柄も魅力的な物語 になっていた。 しかしナレーションで繋がれる撮影未了のシーンでは、特に 終盤の模擬裁判のシーンがどのように演じられようとしてい たのか、永久に観られないそれらのシーンが残念にも思える 作品だった。 ちょうどこの原稿を書き始めたところでフィリップ・シーモ ア・ホフマンの麻薬死が伝えられ、いつまでも無くならない この悲劇も痛切に感じられた。
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