井口健二のOn the Production
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2014年01月12日(日) エヴァの告白、ラッシュ/プライドと友情、偉大なるしゅららぼん、デリーに行こう!、BUDDHA2

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『エヴァの告白』“The Immigrant”
2008年11月紹介『アンダーカヴァー』などのジェームズ・グ
レイ監督が、2007年7月紹介『エディット・ピアフ 愛の讃
歌』でオスカー受賞のマリオン・コティヤールを主演に迎え
たヒューマンドラマ。
ニューヨーク湾で自由の女神の立つリバティ島の隣に浮かぶ
エリス島。そこにはかつてアメリカ合衆国の移民局があり、
新世界での生活に夢を抱く千数百万人と言われる各国からの
移民たちの入国審査が行われた。
その中の1人=主人公のエヴァは1921年1月、ソ連との戦争
に揺れるポーランドを離れ、妹と共にアメリカに暮らす叔母
の許に向かっていた。ところが妹は病気で入国を止められ、
彼女自身も船内での出来事から入国を拒否されてしまう。
こうして強制送還を待つ身となった彼女に救いの手が差し伸
べられる。それは警備の係官に顔の利く怪しげな男の手引き
で、彼の目に留ったエヴァはエリス島を出て、ロアイースト
のアパートに連れ込まれる。
その男は入国を拒否される独身女性に目を付け、彼女たちを
連れ出して各国の美女を集めたと称するショウを興行。また
彼女たちを娼婦として働かせ金を稼いでいた。そんな中に放
り込まれたエヴァだったが…
そこには男と関りのあるらしいマジシャンも絡んで、波乱に
満ちた新世界での暮らしが始まる。そして様々な事件により
警察の追っ手も迫ってくるが、彼女はエリス島に収容された
妹から遠く離れることはできなかった。

共演は、『アンダーカヴァー』にも出演し監督とは4作目に
なるホアキン・フェニックス。前作紹介の頃は俳優業の引退
を宣言していたものだが、2012年12月紹介『ザ・マスター』
で復帰、本作が復帰第2作となるようだ。
それに、2010年11月紹介『ザ・タウン』などのジェレミー・
レナー。なおフェニックスは過去3度のオスカー候補者で、
レナーは2度の候補者。受賞者のコティヤールと共に、正に
揃い踏みという感じの作品になっている。
脚本も手掛けた監督は、祖父母がヨーロッパからの移民とい
うことで、本作にはそんな監督の思いも込められているよう
だ。そして監督は、コティヤールとの出会いからこの作品を
出発させている。
従って本作の脚本の主人公は女優への当て書きで、それはも
うコティヤールにぴったりの役柄になっている。因にポーラ
ンド語の台詞は映画のために学んだものだが、女優は設定に
合わせて敢えてドイツ語訛りで喋っているそうだ。
ということで薄幸の女性の姿を描いた作品だが、実は男性の
立場で見ていると、特にフェニックスの演じた役柄の切なさ
が心にしみる。元々コティヤールのファンである自分の目か
らは、それを強く感じる作品でもあった。

公開は2月14日から、東京はTOHOシネマズシャンテ、新宿武
蔵野館他でロードショウされる。

『ラッシュ/プライドと友情』“Rush”
1976年のF1レースでチャンピオンを争ったニキ・ラウダと
ジェームス・ハントの姿を、2002年3月紹介『ビューティフ
ル・マインド』でオスカー受賞のロン・ハワード監督が映画
化した作品。
プロローグは、1976年のニュルブルクリンク=ドイツGP。
レース直前に2人の男が目を交わす。ラウダとハント、彼ら
の戦いは遡ること6年前のF3時代に始まっていた。すでに
人気レーサーだったハントに新人のラウダが挑み、互いの車
体をぶつけ合う激しいレースを展開していたのだ。
そして舞台はF1へ。ラウダは親譲りの巧みな交渉術とプロ
を凌ぐメカニックの知識を武器に、財政難に陥っていたF1
チームに加入。直ちに車体の改良に着手してチーム内での存
在感を高めて行く。一方、ハントも陽気な性格を武器に元々
のスポンサーと共にF1に参入する。
そして1975年にラウダは初のチャンピオンを獲得し、この年
4位だったハントと因縁の戦いが再現される。
映画が描くのはその翌年の物語。ラウダは快調に勝利を重ね
2年連続のチャンピオンも確実と思われていた。その中で開
催された第11戦ドイツGPはレース前に豪雨に見舞われる。
だがレーサー会議で中止を求めるラウダにハントが反論し、
強行されたレースは悲惨な事故を招いてしまう。
映画は事故で生死の境を彷徨うラウダと、その間にポイント
を重ねてチャンピオンに迫るハント。そしてラウダの奇跡の
復活。そのライヴァルであるが故に、互いを高め合った2人
の男の姿を描いて行く。

出演は、ラウダ役に2009年『イングロリアル・バスターズ』
や2012年7月紹介『コッホ先生と僕らの革命』などのダニエ
ル・ブリュール、ハント役には2013年12月紹介『マイティ・
ソー/ダーク・ワールド』のソー役クリス・へムスワース。
他に、2010年12月紹介『トロン:レガシー』などのオリヴィ
ア・ワイルド、2008年7月紹介『コッポラの胡蝶の夢』など
のアレクサンドラ・マリア・ララ。
さらに2013年7月紹介『ワールド・ウォーZ』に出演のピエ
ルフランチェスコ・ファヴィーノ、2012年2月紹介『裏切り
のサーカス』に出演のクリスチャン・マッケイらが脇を固め
ている。脚本は2010年11月紹介『ヒアアフター』などのピー
ター・モーガン。
ロン・ハワードは1976年『バニッシング IN TURBO』が監督
デビュー作だが、それ以前の俳優時代には1973年『アメリカ
ン・グラフィティ』に主演するなど自動車が描かれる作品に
関係が深い。本作は、そんなハワードの面目躍如という感じ
もする作品だ。

公開は2月7日から、全国ロードショウとなる。

『偉大なるしゅららぼん』
2009年2月紹介『鴨川ホルモー』などの万城目学原作・奇想
小説の映画化。
本作の物語の舞台は滋賀県の琵琶湖。その湖畔の町=石走に
建つ城は江戸時代から現存し、日本で唯一の城に住む一族=
日出家が暮らしていた。そして一族は代々琵琶湖から授かる
特別な力を継承し、その力で町を実効支配もしていた。
主人公は、その日出一族の傍系の息子。しかし彼にも力は備
わり、彼は5歳、10歳の儀式を経て、15歳になったその日か
ら城に招かれ、力を高めるため修行を開始することになる。
その城には同い年の当主の息子やその姉も暮らしていた。
こうして主人公は当主の息子と共に高校にも通うことになる
が、その出で立ちは真っ赤な学生服。同級生からも浮きまく
りの2人はかなり尋常でない学園生活を始めることになる。
そこには日出家のライヴァル=棗家の息子もいて…
まあよくあるファンタシー掛かった学園物という感じの開幕
だが、それがやがて飛んでもない大騒動へと繋がって行く。

主演は、2012年7月紹介『ひみつのアッコちゃん』などの岡
田将生と2013年5月紹介『はじまりのみち』などの濱田岳。
共演は、2013年9月紹介『ルームメイト』などの深田恭子、
2013年12月紹介『僕は友達が少ない』などの渡辺大、2009年
3月紹介『THE CODE/暗号』などの貫地谷しほり。
さらに佐野史郎、村上弘明、笹野高史、田口浩正、小柳友、
津川雅彦、2011年2月紹介『高校デビュー』などの大野いと
らが脇を固めている。
企画・製作は2008年8月紹介『ハンサム★スーツ』や『高校
デビュー』などの山田雅子。スタッフでは、2012年7月紹介
『東野圭吾ドラマシリーズ“笑”』の中の第1笑「モテモテ
・スープ」を手掛けたCM監督出身の水落豊と脚本家ふじき
みつ彦が共に長編映画デビューを飾った作品のようだ。
実は、自分の両親の出身地が滋賀県琵琶湖東岸で映画の舞台
には多少土地勘もある。そんな目で観ているとかなり親近感
も湧いてきて、楽しめる作品だった。城からの琵琶湖の景観
や竹生島なども良い感じで撮られていたものだ。
ただ映画の全体を通して観た時に、演出が平板な感じなのが
気になった。特にクライマックスでのVFXシーンにはもう
少しメリハリが欲しい感じかな。何となく脚本をきっちりと
撮ってはいるが、全体にリズムがない感じなのだ。
それと物語では、鍵となる人物のお話がちゃんと終っていな
い感じなのも気になった。これは最近の小説によくある傾向
で、多分この原作もそうなのだろうが、作家は自分の創造物
にもう少し愛情を持ってもらいたいと思う。
歴史的な背景などは理解しているが、それに繋がる本作との
関係をもう少し描き込んで、この人物のお話をちゃんと終ら
せて欲しかったものだ。

公開は3月8日から、全国一斉ロードショウとなる。

『デリーに行こう!』“चलो दिल्ली”
2010年11月紹介のハリウッドコメディ『デュー・デート』を
インドを舞台に翻案したボリウッドコメディ。
オリジナルは、妻の出産予定日を控えて出張先から自宅に戻
る夫が、陸路のアメリカ横断で悪戦苦闘する姿を描いたもの
だったが、本作の主人公は辣腕の女性社長。彼女がアメリカ
出張を控えてムンバイから首都デリーを目指す。
しかもその陸路はアメリカ横断とは比較にならないワイルド
な風景に満ち溢れており、その中ではインド社会の現実も描
かれる。これは確かに翻案ではあるけれど、かなり独自性の
強い作品だ。
とは言え、飛行機で乗り合わせたトラブルメーカーの男と、
止むにやまれぬインド縦断の旅というコンセプトは同じで、
その中で徐々に主人公の気持ちが変化し、豊かになって行く
というテーマも同じものになっている。
そして旅の結末は、これはもう信じられないものが用意され
ていて、そこに至る伏線も含めてこれには正しく脱帽という
感じだった。正直に言って、この展開の物語でこのような結
末が用意されているとは思いもよらなかったものだ。

主演は、2000年のミス・ワールドで2013年3月紹介『闇の帝
王DON・ベルリン強奪作戦』にも出演、本作では製作も兼ね
るラーラ・ダッタ。共演はニューヨーク州立大学で演技を学
んだというヴィナイ・パタック。
監督はパタックが2008年に主演製作した作品を手掛けたシャ
シャーント・シャー。実はパタックが監督と再び組んで企画
したものの実現に至らず、ダッタに出演を打診したら脚本を
気に入った女優が自ら製作も買って出たとのことだ。
そして映画の製作は、ダッタが彼女の夫で1997年全仏オープ
ン混合ダブルスで日本の平木理化と共に優勝した元プロテニ
ス選手のマヘシュ・プパシと設立した会社(ビッグ・ダディ
・プロダクション)で行われている。
題名の「デリーに行こう(Challo Dilli)」は、歴史的には
インド独立運動のスローガンの一つなのだそうだ。映画はそ
のような歴史を背景にしたものではないが、インド人にはそ
れなりの感慨を持って受け取られたのかもしれない。
でも日本人にはそんなことは関係なく、インドの様々な風物
の登場する旅情気分のロードムーヴィとして気軽に楽しめる
作品になっている。そんな気分を、インド人でありながら社
会の部外者の主人公が一緒に味あわせてくれる作品だ。
なお、映画の前半の空港シーンでパタックが買う芸能誌の表
紙になっているのは、今年最初に紹介した『エージェント・
ヴィノッド最強のスパイ』の主演の2人。インドでは同じ配
給会社の作品で、その情報を知っているとニヤリとできた。

公開は2月15日から、東京はオーディトリウム渋谷にてロー
ドショウされる。

『BUDDHA2 手塚治虫のブッダ−終わりなき旅−』
2011年5月に公開された『手塚治虫のブッダ−赤い砂漠よ!
美しく−』の続編。
実は前作も試写は観ていたが、このホームページにはアップ
しなかった。その時の記録を読み返してみると、主には物語
がブッダ本人の話でないことが気に入らなかったものだ。そ
れに一部声優の棒読みの台詞に苛々させられたとあった。
という作品の続編だが、まずプロローグでブッダの誕生から
本作に至るまでの概略が語られる。しかしそこに前作で物語
の中心だったチャプラらの話はなく、本来が3部作の企画に
しては第1作と第2作の関係が希薄に感じられた。
そして本編だが、物語は前作よりはブッダ本人に集約して語
られるもので、主には苦行を続ける姿とその中で悟りを開く
までが描かれる。さらにそこに未来予知者の少年の話や侵略
国コーサラの王子の話などが絡んでくる。
また、ブッダが幼い頃に出会ったタッタや女盗賊ミゲーラも
登場し、これらは前作からの繋がりとなるものだ。ところが
ここで前作との関係性が希薄なために、本来あるべき感動が
あまり感じられないのは残念に思えたところだ。
とは言え物語は、コーサラの侵略が迫る中でブッダが悟った
仏教の真髄が語られて行く。その点の物語の骨子は現代社会
の情勢にも通じるもので、手塚治虫が本来語りたかったこと
は描かれていると言えるものになっていた。

脚本は前作と同じ吉田玲子、監督は、前作の森下孝三(聖闘
士星矢)に代って『プリキュア』シリーズなどの小村敏明。
音楽は前作と同じく大島ミチルと藤原道山(尺八演奏)が担
当している。
声優は、ブッダ(シッダールタ)の吉岡秀隆、スッドーナ王
の観世清和、ミゲーラの水樹奈々がそれぞれ前作に引き続き
担当。また、ナレーションも吉永小百合が前作に引き続いて
担当している。
ただし吉永は、前作ではチャプラの母という設定だったが、
本作ではシッダールタの母マーヤー天の設定になっている。

さらに本作では、原作の愛読者という松山ケンイチを始め、
真木よう子、田口浩正、大和田伸也、お笑いコンビ笑い飯の
哲夫。他は、沢木みゆき、藤原啓治、大友龍三郎、島本須美
らの声優陣が脇を固めている。
実は、自分の娘と息子を近くの寺の幼稚園に通わせたので、
学芸会でブッダの話は何度も観ている。その中では息子は年
長の時にシッダールタを演じたし、娘は苦行を続けるブッダ
にミルクを与えるスジャータを演じたものだ。
そんな記憶を思い起こしながら観ていたが、そんな自分にも
今回の作品は違和感が少なかった。もちろんそこには手塚個
人の史観も反映されるが、その点でも本作は期待に応えてい
ると言えそうだ。

公開は2月8日から、全国ロードショウとなる。


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井口健二