井口健二のOn the Production
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2013年12月22日(日) なんちゃって家族、ウォルト・ディズニーの約束、大捜査の女/ジ・エレクション、ゲームセンターCX、ホビット2、ゲノムハザード

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『なんちゃって家族』“We're the Millers”
『ハリー・ポッター』シリーズの製作者デイヴィッド・ヘイ
マンと、『ハングオーバー!』シリーズの製作者クリス・ベ
ンダーが手を組んだかなり危ないハリウッド・コメディ。
主人公は、学生時代の生活から抜け出せないまま、お気楽な
マリファナの売人として生きてきた男。ところが元締めへの
支払金を奪われ、その返済にメキシコからの運び屋を命じら
れる。しかしそれは見付かれば死刑もある重罪だ。
そこで彼が考えたのは、独立記念日のバカンスでメキシコ旅
行を楽しんだ家族という設定。そのため彼は、仕事にあぶれ
たストリッパーとホームレスの若い女、それに家族に捨てら
れた少年に話を持ち掛け、応急の家族を仕立てる。
こうしてメキシコのマリファナ工場に到着した主人公たちは
約束の荷物を受け取るが、それは2tはあろうかという大量
のもの。その荷物を積んだ大型キャンピングカーで国境に向
かうが…。そこには元締めの悪企みも絡んでいた。
これに仮の家族の中のドタバタや、麻薬捜査官なども登場し
てかなり危ないロードムーヴィ風コメディが展開される。

出演は、2011年9月紹介『モンスター上司』などのジェイス
ン・サダイキスと、『モンスター上司』でも共演のジェニフ
ァー・アニストン、さらに2011年9月紹介『スクリーム4』
などのエマ・ロバーツ、2010年8月紹介『リトル・ランボー
ズ』などのウィル・ポールター。
他に『ハングオーバー』シリーズのエド・エルムズ、2005年
7月紹介『シン・シティ』に出演のニック・オファーマン、
2003年6月紹介『10日間で男を上手にフル方法』に出演のキ
ャスリン・ハーン、2009年11月紹介『Disney's クリスマス
・キャロル』に出演のモリー・クインらが脇を固めている。
監督は、2004年『ドッジボール』を全米No.1ヒットに導いた
ローソン・マーシャル・サーバー。
原案と脚本は2005年のヒットコメディ“Wedding Crashers”
を手掛けたボブ・フィッシャーとスティーヴ・フェイバー。
さらに脚本には、2012年7月紹介『空飛ぶペンギン』のショ
ーン・アンダース&ジョン・モリスが参加している。
日本でのレーティングはR-15になるようだが、理由は麻薬の
扱いのせいなのかな? それ以外には特に問題になるような
シーンはなかったと思う。アニストンのストリップシーンは
あるが…。
ところで最近のアメリカ映画のコメディは、バカバカしさの
スケールが大きくなった反面、何故それをするかという理由
付が希薄で理解不能になることが多い。その点で『ハングオ
ーバー』の第1作、第2作では、先に結果を提示することで
納得できるシステムが構築されていた。
しかし第3作はそのシステムが蔑ろにされ、再び意味不明の
コメディになっていたもので、本作はその点が不安だった。
しかし本作は、ある意味古き良き時代のコメディにも通じる
オーソドックスなもので、その点は安心して観ていられる作
品だった。テーマは麻薬ではあるが…

公開は1月25日から、全国一斉のロードショウとなる。

『ウォルト・ディズニーの約束』“Saving Mr.Banks”
アカデミー賞の最多受賞者であるウォルト・ディズニーが、
1965年米アカデミー賞で主演女優賞他5部門の受賞作を製作
した際の秘話を描いた作品。
映画は2つの物語を並行に進めて行く。その1つ目は20世紀
初頭のオーストラリアが舞台。イギリスからの移住者の一家
に生まれた少女は父親に愛されて育つが、銀行に勤めるその
父親はアルコール依存症で生活は苦しかった。
そしてもう1つの物語は、1961年ロンドンに始まる。作家の
P.L.トラヴァースは自作の映画化の許諾に迷い、その視察で
ハリウッドに赴く。そこには運転手付きリムジンとビバリー
ヒルズホテルのスウィートルームが用意されていた。
こうして作家は自作『メアリー・ポピンズ』の映画化に携わ
ることになるが…。それは彼女自身が物語に込めた思いと、
ウォルト・ディズニーの映画化に掛ける思いのぶつかり合い
になってしまう。
そんな自作の映画化に拒否反応を示す作家を、ディズニーは
如何にして説得したか。映画はその点を中心に描いて行く。
しかしそこには作家の過去に纏わる厳しい現実の物語が隠さ
れていた。

出演は、2009年8月紹介『パイレーツ・ロック』などのエマ
・トムプスンと、2012年12月紹介『クラウド・アトラス』な
どのトム・ハンクス。他に、ポール・ジアマッティ、コリン
・ファレル、ジェイスン・シュワルツマン、キャシー・ベイ
カーらが脇を固めている。
監督は、2010年1月紹介『しあわせの隠れ場所』などのジョ
ン・リー・ハンコック。
脚本は、本作の製作も務めるイアン・コリーが2002年に発表
したドキュメンタリー“The Shadow of Mary Poppins”を基
に、オーストラリア人のテレビ脚本家スー・スミスと、SF
テレビドラマ『Terra Nova』などのケリー・マーセルが担当
している。
ディズニー映画の『メリー・ポピンズ』は、子供の頃に観て
当時の配給会社に手紙を書いたらプレスブックが送られてき
た。そのプレスは今でも大事に取ってある。そんな個人的な
思い出もある作品だが、その製作にこのような秘話があった
とは思ってもみなかった。
そんな秘話を引き出すウォルト・ディズニーは、ハンクスの
演じる姿が子供の頃に観ていたテレビ『ディズニーランド』
そのままで、特に顔が似ている訳でもないのに、その見事な
演技には驚かされた。
しかもそのディズニーはかなり気まぐれで、ちょっと嫌味な
部分も描かれている。さらにその中では一瞬タバコを吸って
いるシーンが登場してこれは何かとも思わされた。だが実は
ディズニーは、この2年後の1966年に肺癌で死去しており、
タバコのシーンにはその意味も込められていたようだ。
そんな事実もしっかりと描かれた作品になっていた。

公開は3月21日から、全国一斉のロードショウとなる。
本作を観終った時に『メリー・ポピンズ』をたまらなく観た
くなった。でもいま観たら多分映画の後半は涙で画面が見え
なくなってしまうだろう。それは間違いないと思われる作品
だった。


『大捜査の女』“大搜查之女”
『ジ・エレクション仁義なき黒社会』“飛砂風中轉”
2011年12月紹介『三国志英傑伝・関羽』や2002年『インファ
ナル・アフェア』などの脚本・監督を手掛けたアラン・マッ
ク、フェリックス・チョンによる2008年と2010年の作品。
1本目は、香港在住で非合法の石油密輸で財を成していた男
の一人息子が何者かに誘拐されるお話。
それに対して男は配下の組織を使い自力で解決しようとする
が、この機に組織の解明を狙う香港警察も乗り出してくる。
その陣頭指揮を執るのは、香港警察一の敏腕と言われる女性
主任警部。しかし彼女は妊娠3ヶ月の身重だった。
ハリウッドリメイクもされた『インファナル・アフェア』は
香港ノアールの集大成とも言われる作品だが、本作は同じく
香港の裏社会を描いてはいるものの、味付けにはユーモアも
あって、どちらかと言うと少し軽めのエンターテインメント
に仕上げられている。しかもそのユーモアのバランスが巧み
で心地よく楽しめる作品になっていた。

出演は、2005年9月紹介『イエスタデイ、ワンスモア』など
のサミー・チェン。実は前作の後で長期の病気療養中だった
女優の主演復帰作とのことだ。共演は2011年4月紹介『ドリ
ーム・ホーム』などのイーソン・チャン。
他に、2012年12月紹介『奪命金』などのリッチー・レン、同
11月紹介『ブラッド・ウェポン』などのリウ・カイチー、さ
らに2010年3月紹介『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』など
のミシェル・イエらが脇を固めている。
2本目は、2006年9月紹介『エレクション“黒社會”』と同
じく香港・黒社会のトップの座を巡る抗争を描くお話。
主人公は家計を助けるために黒社会に入った青年。それから
20年が経ち彼は組織の会長の右腕となっていた。ところがそ
の会長が引退することになり、会長は主人公を後釜に推薦す
る。しかし本人には全くその気がない。
一方、黒社会の名家と言われる一家の息子が20年の刑期を終
えて出所してくる。その一家の母親は息子に会長選挙出馬を
願うが、その息子は刑務所での勉学を踏まえて大学進学を希
望していた。
これに会長職の象徴である「竜頭棍」の行方なども絡んで、
過去の作品へのオマージュやパロディもある物語が展開され
る。このユーモアのバランスも巧みで心地よく楽しめる作品
になっていた。

出演は、1990年代香港ノアールの大ヒット作『欲望の街』以
来の再共演となる今年11月紹介『楊家将』などのイーキン・
チェンと、2005年6月紹介『頭文字D』などのジョーダン・
チャン。
他に、2010年12月紹介『カンフーサイボーグ』などのアレッ
クス・フォン、今年日本公開された『李小龍マイブラザー』
などのキャンディス・ユー、さらにミシェル・イエらが脇を
固めている。
公開は1月11日から、東京はシネマート六本木での独占ロー
ドショウとなる。なお2本同時公開だが、2本立てではない
ようだ。


『ゲームセンターCX THE MOVIE』
2003年からフジテレビCS放送でオンエアされているゲーム
ヴァラエティ番組の10周年記念映画版。
番組は、1980年代のファミコンゲームをお笑い芸人<よゐこ>
の有野晋哉が番組収録の12時間でクリアするというもの。そ
の中で番組中では2度の挑戦に失敗し、最後は2006年に東京
の一ツ橋ホールで公開収録が行われたという超難易度ゲーム
「マイティボンジャック」攻略が映画の中心となる。
従って作品は、裏テクなども駆使したゲーム攻略のドキュメ
ンタリーという感じのものだが、それだけでは成立しないと
考えたのか、映画ではその1986年当時を再現した少年ドラマ
が添えられている。そのドラマでは当時の人気漫画や社会風
俗なども再現され、それに少し仕掛けも設けられている。

出演は、ドキュメンタリーの部分では有野の他に番組のAD
らが助っ人として登場する。それは当然2006年に収録のもの
なので、当時の番組を見ていた人には懐かしい顔にもなって
いるものだ。
そして少年ドラマ部分では、
2011年3月紹介『エクレール・
お菓子放浪記』などの吉井一肇、2012年『貞子3D』などの
平祐奈。他にゲームメーカーのナムコやセガなどの関係者の
特別出演もあったようだ。
脚本はテレビ版も手掛けていた酒井健作。監督は2011年9月
紹介『RAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ』な
どの蔵方政俊が担当している。
という本作だが、メインのゲーム攻略の部分は、昔はゲーム
愛好者でもあった自分には面白く、また懐かしくも感じられ
た。ただしこの部分は、当時の放送体制の関係なのか4:3
の標準画質で画像は芳しくなかった。
そのこともあってのドラマ部分の挿入とも思われるが、実は
これが少し物足りない。物語は「マイティボンジャック」の
カセットを巡る子供間のトラブルなどだが、これが当たり前
すぎる感じなのだ。
それは当時は確かに社会問題化したものでもあって、それを
描くことの意味は判るが、正直には今さらそれを蒸し返され
てもとも思ってしまう。それよりもっとゲームに密着した物
語を描けなかったかと思うところだ。
特に後半の仕掛けは、このため有野も7kgのダイエットをす
るなど頑張ったようだが、ここにもう少し膨らみがあっても
良かったのではないか。あるいはゲームとの絡みをもっと強
く描いて欲しかった。
具体的には、有野がプレイしているゲームとドラマとのシン
クロで、それは多分ドラマ後半での子供同士の遭遇やワープ
ゾーンの状況などがそのつもりなのだろうが、もっとリアル
にその興奮を伝えて欲しかった。
勿論、これ以上やるとドキュメンタリーとのバランスが悪く
なると危惧したのだろうが、現状ではあまりに付け足し感が
強い。その割には長く感じられもして、結局バランスが悪い
ように感じられた。
アイデアはこれで良いと思うが、もう少し工夫が欲しかった
ところだ。

公開は、来年2月に全国ロードショウと紹介されていた。

『ホビット・竜に奪われた王国』
        “The Hobbit: The Desolation of Smaug”
ピーター・ジャクスン監督による昨年12月紹介『ホビット・
思いがけない冒険』の続き。
3部作が予定されているシリーズの第2作では、前作に続く
冒険の中での熊人ビヨルンとの邂逅や闇の森、湖の町エスガ
ロス、さらに竜の巣でのビルボの活躍などが描かれる。その
物語はほぼ原作に沿っているが、前作と同様に本作でも色々
と原作にはないサブストーリーが展開される。
その中でも今回の目玉は『LOTR』の主要人物の1人レゴ
ラスの登場で、闇の森での大活躍はアクション映画としての
本作をかなりの部分で支えている。実際に本作は、前作の展
開が『LOTR』に似すぎている感じだったのを脱却して、
特に個人戦のアクションが見事に描かれるものだ。
そして中つ国を舞台に、ホビット、ドワーフ、エルフ、トロ
ル、ゴブリンたちと人間、魔法使いらが繰り広げる物語の中
に、顕れ始めるネクロマンサーの影が後の『LOTR』への
繋がりを強めて行く。

出演は、イアン・マッケラン、マーティン・フリーマン、リ
チャード・アーミティッジ、ジェイムズ・ネスビットらが前
作に引き続いて登場の他に、オーランド・ブルームが『LO
TR』から参加。
さらに2011年10月紹介『リアル・スティール』などのエヴァ
ンジェリン・リリー、同年11月紹介『インモータルズ−神々
の闘い−』などのルーク・エヴァンス、2012年1月紹介『シ
ャーロック・ホームズ:シャドウ・ゲーム』などのスティー
ヴン・フライらが脇を固めている。
そして2012年5月紹介『SHERLOCK』や今年6月紹介『スター
・トレック イントゥ・ダークネス』などのベネディクト・
カンバーバッチが2つの重要な役柄で、本作と次回の第3作
にも登場するようだ。
原作は児童文学として書かれたものだが、今回の映画化では
先の『LOTR』を堪能した観客が存分に楽しめるように作
られている。それは別段児童が観ても害のあるものではない
が、成人が観ればさらに深く楽しめるというところだ。
ただし上にも書いたように、映像などの面で『LOTR』に
似通ってしまうのは否めないが、本作では湖の町エスガロス
など新たに登場する風景もあり、それは中つ国を主人公たち
と共に旅する仲間として楽しめるものだ。
それに個人戦のアクションは前作以上にスピード感のあるも
のだった。

公開は来年2月22日から、前作同様2D/3D、Imaxで行われ、
3D上映の一部ではハイフレームレート(HFR)の上映も
実施される。
そして第3作は2014年12月17日から、日米を含め世界同日公
開が予定されている。カンバーバッチの役柄がどうなるか、
それが興味津々だ。


『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』“無名人”
1998年の第15回サントリー・ミステリー大賞で読者賞を受賞
した司城志朗原作小説を、韓国のキム・ソンス監督が舞台を
日本に置いたままで脚色、映画化した作品。
石神武人はデザイン会社に勤めるごく普通の会社員。ところ
がある日、彼が自宅のマンションに帰宅すると妻が何者かに
惨殺されており、さらにそこに架かってきた電話の声は妻の
ものだった。
しかもその直後に玄関のチャイムが鳴り、その玄関口にいた
のは警察を名告る2人の黒スーツの男。そして石神が事情を
説明しようとすると…、室内にあったはずの妻の死体と血痕
が消えていた。
それでも男たちは石神を連行するとして車に乗せるが、そこ
で彼らは警察でないことが判明、石神は間一髪脱出する。さ
らに通りかかった車の女性に助けを求めた石神は、放送記者
だというその韓国人女性と事件の解明に乗り出す。
だが、解明をするにも石神自身の記憶が極めた曖昧だという
事実に突き当たる。その一方で石神の口からはデザイナーが
知るはずのない特殊な医薬品の名前などが飛び出してくる。
果たして石神は何者か? そして事件の真相は…

出演は、2011年10月紹介『カット』などの西島秀俊、2004年
10月紹介『誰にでも秘密がある』などのキム・ヒョンジン。
さらに2006年4月紹介『ゆれる』などの真木よう子、2012年
1月紹介『マイウェイ』などの浜田学、2009年11月紹介『パ
レード』などの中村ゆり、Eテレ「ハングル講座」でMCを
務めるパク・トンハ。それに伊武雅刀らが脇を固めている。
題名から判るように物語は先端科学を背景に置いたもので、
その意味ではSFの範疇に入る作品と言える。しかし一方で
原作はミステリーの賞を受賞した作品であり、物語はSFの
興味よりは謎解きが主眼となっているものだ。
で、まあ以下はそこに対する論評というか注文になってしま
うのだが…。この映画を観ていて、少なくとも最初の部分で
は主人公である石神に対する思い入れが、途中で全く消えて
しまうのが、衝撃というか恐ろしく感じられた。
SFファンの立場で言うと、本作のテーマは『アルジャーノ
ンに花束を』に通じるものだと思う。従ってその中での主人
公の精神的な葛藤は、ちゃんと描けば素晴らしい物語になる
はずのものだ。
しかし本作ではそのテーマは謎解きの道具立ての1つでしか
なく、当然その状況になっても主人公には葛藤などもなく、
ただ運命として受け入れられてしまう。それがSFファンと
しては物足りなく感じられた。
しかし作品の成立から見ればそれは致し方ないものであり、
まあSF作家が先にこのアイデアに思い至らなかったことを
残念とするしかない。

公開は1月24日から、東京はTOHOシネマズ六本木の他、全国
ロードショウとなる。


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井口健二