井口健二のOn the Production
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2013年11月17日(日) ソウルガールズ、ビューティフル・クリーチャーズ、地球防衛未亡人、FLU運命の36時間、スノーピアサー+Oscar Animation

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『ソウルガールズ』“The Sapphires”
ヴェトナム戦争末期に戦地慰問団として活躍したアボリジニ
初の女性ヴォーカルグループ「サファイアズ」の姿を描いた
実話に基づくオーストラリア映画。
1968年、ゲイル、ジュリー、シンシアの3姉妹はカントリー
音楽をこよなく愛し、居留地の住民たちの前で歌っては喝采
を浴びていた。しかしまだ差別が根強い時代ではコンクール
に出場してもアボリジニの彼女たちに勝目はなく、罵声を浴
びせられて、賞金はいつも白人のものだった。
そんな彼女たちに転機が訪れる。それは出場したコンクール
ではいつも通りだったが、MC兼キーボーディストの男性が
彼女たちへの仕打ちに怒って馘になったのだ。しかもちょう
どその時、彼女たちはヴェトナム慰問団のオーディションの
広告に目を留めていた。
こうして彼女たちはその元MCをマネージャーにして慰問団
を目指す。しかし彼は「カントリーはダメ、ソウルで行け」
と注文。そして従姉妹のケイを加えて4人組となった彼女ら
は、オーディションに合格してサイゴン、さらに前線へと向
かうが…。そこは戦争真っ只中の危険地帯だった。
物語の全体は、女性たちの歌声に彩られた音楽映画だが、そ
の背景はヴェトナム戦争。空には軍用ヘリコプターが舞い、
地上には戦車が往来する。そして野戦病院やコンサートの最
中にも襲ってくる戦闘など、正に戦争映画そのものも展開さ
れる作品になっていた。
しかもホーチミン市(旧サイゴン市)などに現地ロケされた
シーンでは、空を舞うヘリや地上を走る戦車などは当然実写
ではない筈で、そんなものが見事にVFXで再現される。こ
れはVFX映画として観ても相当のレヴェルの作品と言える
ものだった。

出演は、2002年10月紹介『裸足の1500マイル』で主人公の少
女を演じたデボラ・メイルマン、2009年にオールトラリアで
のアルバム売り上げ第2位を記録したというジェシカ・マー
ボイ、さらに舞台出身のミランダ・タプセルとシャリ・セベ
ンス。
またマネージャ役には、2012年4月紹介『ブライズメイズ』
などのアイルランド人俳優クリス・オダウドが扮している。
脚本は、母親がサファイアズのメムバーの1人だったという
トニー・ブリッグスと、オーストラリアのテレビで活躍する
キース・トンプスン。監督は、2005年に発表した短編映画が
ベルリン国際映画祭でクリスタルベア賞に輝いたというウエ
イン・ブレアの長編デビュー作となっている。
映画の巻頭で白人によるアボリジニ迫害の歴史が簡単に紹介
され、中にはlost generation などという言葉も出てきて、
2011年6月紹介『ワン・ヴォイス』のハワイと同じような事
がここでも行われていたことが理解できる。しかもそのやり
方がかなり特殊なかたちなのにも驚かされた。
しかし物語は、そんな迫害の中から夢と希望を頼りに奇跡の
ような成功を勝ち取った女性たちの物語で、その姿は清々し
く描かれた。因に彼女らは後にアポロ劇場にも立ち、現在は
アボリジニの地位向上の活動に貢献しているそうだ。

公開は1月11日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町、ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショウ。数々
のソウルやカントリーの名曲も聞かせてくれる作品だ。

『ビューティフル・クリーチャーズ〜光と闇に選ばれし者』
                “Beautiful Creatures”
ワシントンDC出身の元教師カミ・ガルシアと、カリフォル
ニア出身ゲームクリエーターのマーガレット・ストールの共
著で、2009年に発表されてNYタイムズのベストセラーリス
トにも掲載され、世界29ヶ国語に翻訳されているというヤン
グアダルト向けファンタシーの映画化。
時代は現代、舞台はアメリカ南部のスターバックスより教会
が目立つような田舎町。そして主人公ははっきり言って冴え
ない高校生だが、彼は卒業を控えて町を飛び出し、都会の大
学に進学を夢見ている。
そんな主人公は、夜な夜な美しい女性の出てくる夢に悩まさ
れていた。ところがある日、彼のクラスに現れた転校生は、
彼の夜毎の夢に出てくる女性とそっくりだった。しかしその
女性は、異端の教えに染まった家の住人で…。
そして彼女の存在に、まずはスノッブの女生徒たちが口撃を
始めるが、彼女は動じる様子もない。そんな彼女に徐々に惹
かれて行く主人公は、土砂降りの中で立ち往生していた彼女
を家まで送って行ったりして親しくなる。
しかしそれは町の歴史も関わる重大な呪いの始まりだった。

出演は、2009年にフランシス・コッポラ監督の“Tetro”で
ヴィンセント・ギャロと共演しているオルデン・エアエンラ
イク、今年6月紹介『ジンジャーの朝』などのアリス・イン
グラード。
他に、ジェレミー・アイアンズ、ヴィオラ・デイヴィス、エ
ミー・ロッサム、トーマス・マン、エマ・トムプスンらが脇
を固めている。脚本と監督は、2008年6月紹介『P.S.アイ
ラヴユー』などのリチャード・ラグラヴェネーズ。
転校生だの、異端の教えの家だのと言われると、嫌でも『ト
ワイライト・サーガ』を思い出してしまうが。原作本は、ア
メリカではその吸血鬼シリーズより人気が高いそうで、映画
化は60億円の製作費を掛けて行われている。
しかし今年1月に行われたアメリカでの興行は今一つだった
ようで、そのため日本公開は、本来のアメリカ配給を手掛け
たワーナーではなく、日本の会社が行うことになっているも
のだ。
そんな作品を観ての感想だが、確かに『トワイライト』など
と比べると派手さには欠けるかな。とは言うものの、人間ド
ラマなどのお話はそれなりに面白く描かれていたと思う。
しかしそれが最近のアメリカの映画ファンには受け入れられ
なかった。実際にそれなりの出来とは言っても、そこからの
ブレイクスルーが難しいもの。その方程式はなかなか見つか
らないものだ。

公開は11月30日より、東京はシネマート新宿で2週間の限定
上映となる。

『地球防衛未亡人』
2008年6月紹介『ギララの逆襲〜洞爺湖サミット危機一発』
や、2006年7月紹介『日本以外全部沈没』などの河崎実監督
が、今年4月紹介『フィギュアなあなた』などの壇蜜主演で
描いたSFパロディ作品。
主人公は、元は向島芸者だったが結婚間近だった婚約者を怪
獣に殺され、地球防衛軍に入隊したという女性。そして戦闘
機を操縦して高い戦闘能力を示し、今ではエースパイロット
として活躍している。
そんな彼女に宇宙からの怪獣の飛来が報告され、それは解析
の結果、彼女の婚約者を殺した奴と同じと判明する。しかし
その飛来地は隣国との領有権で揺れる三角諸島。このため出
撃は止められてしまう。
ところがその怪獣は日本本土に向かって移動し、原子力発電
所に居座った怪獣は、あろうことか使用済み核燃料を食べ始
める。この想定外の事態に核廃棄物の処理に困っていた政府
は急遽怪獣の保護に乗り出すが…
一方、怪獣の日本本土への移動に際して出撃した主人公は、
怪獣を攻撃する度にエクスタシーの波に襲われることを認識
する。それは史上最強の変態だった。そして怪獣も変化し、
地球壊滅の危機が迫る。

共演は、森次晃嗣、沖田駿一、堀内正美、きくち英一、古谷
敏という歴代「ウルトラマン」の俳優たち。それに、ノッチ
(デンジャラス)、福本ヒデ(ザ・ニュースペーパー)、な
べやかん、モト冬樹ら河崎作品の常連が脇を固める。
また、特撮を「戦隊」や「仮面ライダー」シリーズの怪獣研
究所。さらに地球防衛軍のユニフォームデザインを「ドラゴ
ンクエスト列伝」などの藤原カムイ、怪獣デザインを「サイ
レントメビウス」などの麻宮騎亜が担当している。
作品では、最初の方で森次晃嗣演じる司令官が役名も同じら
しい壇蜜に向かって「ダン隊員」と呼びかけるシーンがある
など、全編がオマージュというかパロディに溢れている。
そこに三角諸島とか、その他にも微妙な地名や人名が飛び出
して、怪獣ファンならずとも思わず唸ってしまうパロディの
連続となる。しかもそれらが河崎作品特有のゆる〜いタッチ
で展開される。
その一方で怪獣との戦闘シーンや、眠った怪獣の移送シーン
などは、正しく円谷特撮そのままの映像が再現され、それは
往年の特撮ファンの心も鷲掴みにするものだ。これが王道の
パロディと呼びたい作品になっていた。
ただのおふざけをパロディと称しているのとはそこが違う。
河崎監督には心から拍手を贈りたい。

公開は2月8日から、東京は角川シネマ新宿他、全国順次で
行われる。

『FLU運命の36時間』“감기”
最強の致死率に変異した鳥インフルエンザと対決する人々を
描いたパニック作品。
ソウル郊外の街ブンダンに密入国の労働者を運んでいた男が
原因不明のウイルスに感染して死亡する。それから24時間の
内にブンタンの病院では男と同じ症状の患者が急増し、それ
は感染速度毎秒3.4人、致死率100%の変異型鳥インフルエン
ザと判明するが…。
危険を喚起しようとする医師団に対して優柔不断な政府の対
応は後手に回り、ついに史上初のブンダン地区封鎖の事態に
なる。しかもアメリカの医師の指示で設置した隔離キャンプ
はさらに罹病者の増加を招く。
そして住民たちの不満が暴動に発展し、封鎖線の強行突破を
しようとした時、感染病の世界蔓延を恐れたアメリカ政府代
表は韓国軍の指揮権を剥奪。ブンダン地区の消滅を目論んだ
爆撃命令を発動する。
この流れにブンダン地区の救急隊員の男性と、彼に関わりを
持った女性医師にその1人娘。さらに抗体を持っているらし
い密入国者の男性の行方などが絡んで、封鎖地区とその外部
との激しい攻防戦が繰り広げられる。

脚本と監督は2003年9月紹介『MUSA−武士−』、2005年
3月紹介『英語完全征服』などのキム・ソンス。いろいろな
題材に挑んできた監督だが、本作は2003年製作の『英語…』
以来となる10年ぶりの監督復帰作だそうだ。
出演は、今年5月紹介『依頼人』などのチャン・ヒョクと、
2012年3月紹介『ミッドナイトFM』などのスエ。そのスエ
とテレビドラマで共演し本作が映画デビューの子役パク・ミ
ナ、さらに『MUSA』や2011年2月紹介『生き残るための
3つの取引』などのユ・ヘジンらが脇を固めている。
「ブンダン地区封鎖」のシーンなどはかなり大掛かりな撮影
が敢行されている作品で、そこにアクションやサスペンス、
それに愛する人のために命を賭ける人々の人間ドラマも巧み
に織り込まれている。かなり骨太な作品だった。
ただ政治家の動きなどはステレオタイプ気味だが、まあどこ
の国でもそれが政治家なのだろうし、日本映画と同じステレ
オタイプなのは、他の登場人物を際立たせる方策でもあるの
だろう。
それにしても、駐留米軍が韓国軍を掌握してしまう辺りは、
さすがまだ戦時国という印象だが、確か日本の自衛隊も緊急
時には駐留米軍の指揮下に入ることになっているはずで、こ
の事態は日本で起きても同じことになりそうだ。
そんなことを考えながら心して観るべき作品だろう。

公開は、東京では12月14日からシネマート新宿、大阪は21日
からシネマート心斎橋、以後全国順次ロードショウとなる。

『スノーピアサー』“설국열차”
2009年8月紹介『母なる証明』や2006年7月紹介『グエムル
−漢江の怪物−』などのポン・ジュノ監督の新作で、本ペー
ジの製作ニュースで2006年8月1日付の第116回に紹介した
フランスのコミックス“Le transperceneige”の映画化。
物語の背景は、地球温暖化の解消策が暴走して極端に寒冷化
した近未来の地球。一方その世界には、地球一周の鉄道網が
敷設され、そこには車内だけで全てが賄える自給自足の特急
列車が運行していた。
こうして生物の死滅した地上を、人類の生き残りを乗せた列
車は爆走していたが…。その車内では乗車した車両の等級に
応じた階級が形成され、後部の車両にはすし詰めの環境に、
食料は原料不明の合成食が配られるだけだった。
そんな後部車両では待遇への不満が鬱積し、すでに反乱も何
度か試みられたようだ。そして後部乗客の子供が前部車両か
ら来た兵士に拉致される事件が起き、ついに前部車両に向か
う進撃が開始される。
そこには目眩く世界と共に、地の利を有する敵との壮絶な戦
いが待ち構えていた。そして彼らが行き着く先で明らかにさ
れる列車の秘密とは…。

出演は、2011年8月紹介『キャプテン・アメリカ』などのク
リス・エヴァンス、『グエムル』などのソン・ガンホ。さら
に『グエムル』などのコ・ユアン、2012年4月紹介『崖っぷ
ちの男』などのジェイミー・ベル。
また、今年3月紹介『ジャックと天空の巨人』などのユエン
・ブレムナー、2012年1月紹介『ヘルプ・心がつなぐストー
リー』でオスカー受賞のオクタヴィア・スペンサー。そして
エド・ハリス、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントンら
が脇を固めている。
全体の設定は、以前に紹介したコミックスと同じようだが、
具体的な物語はポン・ジュノ監督が新たに創造したもので、
監督は、2008年8月紹介『その土曜日、7時58分』などの
ケリー・マスタースンと共同で脚本も手掛けている。
その物語は、壮絶なアクションや大自然の驚異などが巧みに
ミックスされたもので、壮大なスケールのエンターテインメ
ントが、チェコのスタジオに作られた大掛かりなセットと、
VFXを駆使して映像化された。
映画の中では、主人公たちが寿司を食べるシーンの前の養魚
場の場面が「それはないでしょ」と言いたくなるものだった
りもするが、その辺はご愛嬌ということで、全体的には現代
社会に対する風刺など色々な要素が描かれる。
それはお話としても面白く作られており、ポン・ジュノ監督
の面目躍如という感じの作品だった。

公開は2月7日から、全国ロードショウされる。
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 最後に、今年も賞レースの到来で、まずは米アカデミー賞
長編アニメーション部門の第1次候補が発表された。
 その1次候補作品は、
“Cloudy with a Chance of Meatballs 2”(くもりときどき
ミートボール2フード・アニマル誕生の秘密)
“The Croods”
“Despicable Me 2”(怪盗グルーのミニオン危機一発)
“Epic”
“Ernest and Celestine”(アーネストとセレスティーヌ=
2012年6月10日付「フランス映画祭」で紹介)
“The Fake”(韓国作品)
“Free Birds”
“Frozen”
“Khumba”(南アフリカ作品)
“The Legend of Sarila”(カナダ作品)
“A Letter to Momo”(ももへの手紙=2012年2月紹介)
“Monsters University”(モンスターズ・ユニバーシティ)
“O Apostolo”(スペイン作品)
“Planes”(プレーンズ)
“Puella Magi Madoka Magica the Movie – Rebellion”
(劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語)
“Rio: 2096 A Story of Love and Fury”(ブラジル作品)
“The Smurfs 2”(スマーフ2・アイドル救出大作戦!)
“Turbo”
“The Wind Rises”(風立ちぬ)
の19本。
 今年は第1次候補が16本以上なので、来年1月16日に発表
される最終候補は5作品となる。果たしてこの中からどの5
作品が最終候補に選ばれるか。
 授賞式は来年3月2日に予定されている。


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井口健二