井口健二のOn the Production
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2013年11月03日(日) マイヤーリング、ネオ・ウルトラQ、楊家将〜烈士七兄弟の伝説〜、愛しのフリーダ、ブランカニエベス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『マイヤーリング』“Mayerling”
アナトール・リトヴァク監督が、1957年に当時夫婦だったメ
ル・ファーラー、オードリー・ヘップバーンを主演に迎え、
1936年の自作『うたかたの戀』をテレビ番組用にリメイクし
た作品。
1881年、オーストリア=ハンガリー帝国は皇帝ヨーゼフ1世
の治世の下、世界有数の大国として繁栄を続けていた。その
首都ウィーンの宮廷に暮らす皇太子ルドルフは23歳。進歩的
な母親の影響で自由主義思想を信奉していたが、宿命は逃れ
られず、父王が決めた望まぬ結婚を余儀なくされる。
それから7年後、不幸な結婚の憂さを独身時代以上の放蕩で
紛らわせるルドルフの前に1人の女性が現れる。彼女は外交
官を父に持つ17歳のマリー。その清楚な姿と優しい心に魅了
されたルドルフは、初恋のような思いに駆られることになる
が…。その恋路は険しく厳しいものだった。

番組は、1954年からアメリカNBCで不定期に放送されてい
た“Producers' Showcase”という枠の中で1957年2月4日
に制作されたもので、この製作費には当時のテレビ番組では
破格の50万ドルが掛けられたとのことだ。
しかし当時のテレビ番組は生放送が基準で、本作も俳優が演
じる場面は生放送されている。しかもVTRはまだ実用化の
初期段階で、本作も1回放送されただけのうたかたのような
作品とされていた。
ところが今年、その番組のテレビ画面をフィルムで撮影した
キネスコープの存在が判明し、そのフィルムをマスターとし
て最新のディジタル技術を駆使し復元した映像が公開される
ことになったものだ。
従ってこの作品には、当時26歳の2度と観ることが叶わない
はずだったオードリーが登場する。しかも画質は多少の傷は
あるものの驚くほど鮮明で、音声も見事に復元されており、
オードリーのファンならずとも必見と言える作品だ。
共演はレイモンド・マッセイ、ローン・グリーン。
またスタッフでは、衣裳を1948年『ジャンヌ・ダルク』など
3度のオスカーに輝くドロシー・ジーキンズ、音楽監督を、
1939年『オズの魔法使い』も手掛けたジョージ・バズマン。
さらにメイクアップにディック・スミスの名前が登場したの
は嬉しい驚きだった。
因に本作はカラー放送だったようだが、残念ながらキネスコ
はモノクロ。しかしその華麗さは充分に伝わってくる。正に
貴重な作品だ。

今年6月ベルリンでワールドプレミアされた作品で、日本で
は来年1月4日から、東京はTOHOシネマズ六本木ヒルズと、
大阪はTOHOシネマズ梅田で特別限定公開となる。

『ネオ・ウルトラQ part.1』
今年1月から3月に有料放送のWOWOWで放送された番組が、
3話ずつと旧作『ウルトラQ』をカラー化した1本をセット
にして、11月9日から4ヶ月、毎月9日をQの日として劇場
レイトショウ公開されることになり試写が行われた。作品は
いずれもすでに放送されたものだが、劇場では初公開なので
紹介することにする。
そのpart.1は、第8話「思い出は惑星(ほし)を越えて」、
第9話「東京プロトコル」、第7話「鉄の貝」、そして旧作
第1話の「ゴメスを倒せ!」
新作の3本はひとまず置くことにして、カラー化された旧作
は弾丸道路のトンネル工事現場で掘削が空洞に突き当たり、
そこから怪獣が登場するというもの。その前には謎めいた球
体の化石が掘り出されており、その両者が太古からの戦いを
繰り広げる。
内容的には『ゴジラ』や『ラドン』『モスラ』も連想させる
ものだが、それを30分の枠の中に実に手際よく纏めており、
円谷プロダクションの第1作として正に「これでしょ!」と
いう感じの作品。僕は最初の放送時にも観ているが、再度観
ても納得できるものだった。
また、劇中江戸川由利子役=桜井浩子の若々しいというか、
どちらかというと幼い感じの容姿も嬉しかった。なお今回の
カラー化に当っては、桜井さんの記憶や人脈などの協力が大
きかったものだそうだ。
ただしほとんどの場面のカラー化の色彩などは問題なかった
が、中で焚き火の炎には多少違和感が有った。これは、実際
にはゆらぎ程度のものにアニメで色を着けたようで、この辺
が着色の限界かなという感じは持たされた。
でもまあ全体的には落ち着いた色使いで、作品の雰囲気を壊
すこともなく、良好なカラー化と言えるものだ。
ということで新作の3本だが、旧作がいたってシンプルな怪
獣ものであるのに対して、今回の3作では政治問題や男女の
恋愛など、いろいろサブストーリーが満載になっている。そ
れが旧作のファンには多少面倒くさい感じはしてしまうが、
多分これが最近の観客の好みなのだろう。
また第9話の結末では旧作第4話の「マンモスフラワー」を
思い出させたり、いろいろ仕掛けは施されていたようだ。

公開は、東京はTOHOシネマズ日劇にて毎月9日初日1週間の
限定レイトショウ(初日にはトークショウ有り)。その他の
全国TOHOシネマズ15館では、各月9日のみ1回限定のレイト
ショウが行われる。
なお、12月9日からのpart.2では、第10話「ファルマガンと
ミチル」、第4話「パンドラの穴」、第6話「もっとも臭い
島」と旧作第20話の「海底原人ラゴン」
1月9日からのpart.3では、第3話「宇宙(そら)から来た
ビジネスマン」、第5話「言葉のない街」、第1話「クォ・
ヴァディス」と旧作第19話の「2020年の挑戦」
そして2月9日からのpart.4では、第2話「洗濯の日」、第
11話「アルゴス・デモクラシー」、第12話「ホミニス・ディ
グニターティ」と旧作第15話の「カネゴンの繭」が上映され
る。

『楊家将〜烈士七兄弟の伝説〜』“忠烈杨家将”
2012年3月紹介『女ドラゴンと怒りの未亡人軍団』にも描か
れた11世紀の中国・宗時代の実話に基づく物語。
以前の紹介作は、一族の滅亡の危機に楊家の女性たちが立ち
上がるというものだったが、本作はその前のお話。宗の皇帝
に仕える武将一族の楊家では、当主楊業の許、7人の兄弟が
切磋琢磨していた。
その兄弟の中で六男の延昭は郡主の娘と恋仲であったが、そ
の娘は宰相潘仁美の息子豹も狙っていた。そこで娘を巡って
腕比べが実施されることになる。しかし潘家との軋轢を心配
する楊業は息子の出場を禁じてしまう。
それでも会場を訪れていた延昭と七男の延嗣は宗家の息子豹
が禁じられた武器を持っていることを目撃、汚い手を使う豹
に怒った延嗣が壇上で豹を組み伏せてしまう。しかも倒れた
ときの打ちどころが悪く豹が死亡。
この事態に潘家の楊家に対する恨みは増すが、そんな折に隣
国遼の大軍が侵攻中との報が入る。そして総司令を買って出
た潘仁美は楊業に先鋒を命じる。それは死地に向かうのも同
然の危険な任務だった。
しかも戦闘の最中に潘の率いる本隊は撤退。楊業の部隊だけ
が小さな砦に取り残されてしまう。そこで7兄弟が父楊業の
救出に向かうことになるが…

出演は楊業役にベテランのアダム・チェンが扮し、七兄弟に
はイーキン・チェン、ユー・ボー、ヴィック・チョウ、リー
・チェン、レイモンド・ラム、ウー・ズン、フー・シンボー
という中国の人気者が並ぶ。また彼らを纏める母親役には、
2007年3月紹介『イノセント・ワールド』などのシュイ・フ
ァンが扮している。
監督は、ハリウッドで2003年9月紹介『フレディVSジェイ
ソン』も手掛けたロニー・ユー、アクション監督は、2005年
12月紹介『PROMISE』などのトン・ワイが担当してい
る。
圧倒的な大軍に対して少数精鋭で挑むという戦いの映画で、
前半には油袋と火矢を使った奇襲や、中盤では敵が繰り出す
投石器で岩石が着弾するシーンなど迫力の映像が次々に繰り
出される。それは見ものだった。
しかし映画は後半になると、正に肉弾戦のチャンバラの連続
で、それは俳優が演じているという意味では正しく見せ場の
連続となるものだ。だがそれは前半から中盤に掛けての迫力
あるシーンに比べると多少弱い感じはしたもので、この辺の
構成にはひと工夫欲しい感じはした。
それと最後のシーンには女性たちが並んで欲しかった気もし
たが、映画会社が別だとそれは無理だったようだ。

公開は12月14日から東京はシネマート六本木の他、全国順次
で行われる。

『愛しのフリーダ』“Good Ol' Freda”
20世紀最大のアーチストと言えるザ・ビートルズが、1962年
「ラヴ・ミー・ドゥ」で最初のヒットを飛ばす前年の1961年
から、1970年に事実上の解散となった後の1972年まで、彼ら
秘書としてその全てを目撃した女性のドキュメンタリー。
1961年、17歳でタイピストとしてリヴァプールの会社に勤務
していたフリーダ・ケリーは、昼休みに同僚に誘われてキャ
ヴァーン・クラブを訪れる。そこでは革ジャン姿の4人組ザ
・ビートルズが演奏していた。
その音楽に感動したフリーダはその後も足繁くクラブに通う
ようになり、いつも同じ場所から舞台を見詰める彼女の姿は
メムバーにも憶えられて、徐々に彼らと親しくなって行く。
そして友人が始めたファンクラブの運営も任される。
そんなある日、彼女はバンドのマネージャーだったブライア
ン・エプスタインから「会社を興すので秘書にならないか」
と声を掛けられる。その誘いに大好きなバンドと共に働ける
だけで夢心地のフリーダだったが…。
こうしてザ・ビートルズの秘書となったフリーダは、彼らが
世界一有名なバンドになって行く姿を陰で見続けると共に、
彼らの家族とも親交を深め、その後に起きた数々の出来事の
中を彼らと共に過ごして行くことになる。
そんなフリーダ・ケリーの10年が、彼女自身や周囲の人々の
証言で綴られる。それは正に夢のような時代の再現であり、
輝ける時代の感動が直に体験した人の口から伝えられるもの
だ。そしてそれが実に優しい口調で心を込めて語られる。
正直に言って、観終えた時に言葉がなかった。もちろん素晴
らしい作品に感動したものだが、それを言葉で表現する術が
見つからなかった。でも何とも心に響く作品で、これはでき
るだけ多くの人に観て貰いたいとも思った。
では何が素晴らしいかというと、それは根底にある優しさと
信頼だろう。実際にフリーダ・ケリーは、この作品の前に何
度も証言を求められたが、今までは頑として取材には応じな
かったそうだ。
しかしそんな彼女が初孫の誕生を機に、自らの人生を語り残
そうと考えた。そんな切っ掛けも素敵だが、本作では正に孫
に語るように自らの過ごした素晴らしい日々が美しい思い出
として語られる。そんな優しさが素晴らしい作品だ。
特に新たな事実が明らかにされているものではない。でも当
時を語る日々のエピソードは正に時代そのものであり、それ
こそが自分も生きた本物の時代だと、懐かしくも感じられる
作品だった。

公開は、12月7日から東京は角川シネマ有楽町とヒューマン
トラストシネマ渋谷にてロードショウされる。

『ブランカニエベス』“Blancanieves”
スペインのアカデミー賞と呼ばれるゴヤ賞で、今年18部門に
ノミネートされ、最多の10部門を制覇した話題作。
主人公は天才的な闘牛士を父親に持つ少女。しかしその父は
闘牛場で瀕死の重傷を負い、そのショックで早産した母親は
彼女を残して死去してしまう。さらに全身麻痺となった父親
は看護の女性と再婚するが、それは邪悪な継母だった。
それでも祖母の許で健やかに成長した主人公だったが、やが
て祖母の死で父と継母の許に戻される。しかし父親に会うこ
とは許されない彼女だったが、偶然が2人を引き合わせる。
そしてそれまでを埋め合わせるような愛情を注がれるが…。
その父を継母が殺害し、その事実を知る主人公は最大の危機
に陥れられる。
題名はスペイン語で「白雪姫」のことだそうで、作品では上
記の後もグリム童話を実に巧みに換骨奪胎した物語が展開さ
れて行く。それはかなり細部に亙って再構成されたもので、
その巧みさにも感心した。
作品はモノクロ・サイレントのスタイルで製作されている。
そのスタイルは2012年2月紹介『アーティスト』でも採用さ
れていたので目新しくはないが、先の作品がサイレント映画
の時代を描いて言わば必然だったのに対して、本作は敢えて
そのスタイルを採用しているものだ。
しかも内容はファンタシーとリアルの狭間を描いたようなも
ので、そのさじ加減が映像のスタイルと合わさって絶妙の効
果を上げていた。実際にこの物語をカラーワイドで観ること
は、今となっては想像もできない。

出演は、継母役を2002年6月紹介『天国の口、終りの楽園』
や2007年4月紹介『パンズ・ラビリンス』などのマリベル・
ベルドゥ、父親役を2012年8月紹介『キック・オーバー』な
どのダニエル・ヒメネス・カチョ、祖母役を2010年9月紹介
『シチリア!シチリア!』などのアンヘラ・モリーナ。
そして主人公はいずれも映画初出演で、5000人のオーディシ
ョンで選ばれたソフィア・オリアと、テレビやミュージカル
で活躍中のマカレナ・ガルシアが演じている。なおマカレナ
には後半に素晴らしいシーンが用意されている。

脚本と監督は、スペイン出身だがケンブリッジやソルボンヌ
の映画学科で教鞭を取っているというパブロ・ベルヘル。長
編作品は2作目ということだが、正に理性で考え出された作
品のようだ。因に監督は日本人の妻を持ち、日本のロックバ
ンドSOPHIAのPVを撮ったこともあるそうだ。
2012年6月には『スノーホワイト』と『白雪姫と鏡の女王』
を相次いで紹介したが、それから1年半、最後にもう1本、
素晴らしい作品が登場した。
公開は12月7日から、東京は新宿武蔵野館他でロードショウ
される。


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井口健二