井口健二のOn the Production
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2013年10月20日(日) キャリー、メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー、ザ・コール緊急通報指令室、ドラゴン・フォース、いとしきエブリデイ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『キャリー』“Carrie”
1976年にブライアン・デ・パルマ監督により製作され、同作
に出演したシシィ・スペイシクとパイパー・ローリーが、共
に翌年の米アカデミー賞で演技賞の候補となったスティーヴ
ン・キング原作ホラー作品のリメイク。
今回の物語はキャリーの誕生シーンから始まる。信心深い母
親は妊娠を汚れた行為の結果として嫌悪するが、最初は抹殺
しようとしていた我が娘を前にその決意は揺らいでしまう。
こうして生き延びたキャリーだったが、偏執的な母親の家庭
教育は歪んだものになっていた。
それでも高校生になるまで成長したキャリー。しかし貧相な
体躯と内向的な性格はいじめの対象となる。しかも母親から
生理の知識を与えられなかったキャリーは、体育の授業後の
シャワー室で訪れた初潮にパニックになり、さらなるいじめ
に遭うと共にその様子を動画撮影されてしまう。
これに対して学校側は、いじめに参加した生徒にプロムへの
参加禁止などの罰を課すが、それに反抗する生徒も現れる。
一方、いじめを傍観して罪の意識に目覚めた1人の女子生徒
は、罪滅ぼしとしてステディのボーイフレンドにキャリーを
プロムに誘うことを頼むが…

出演は、キャリー役に昨年5月紹介『ダーク・シャドウ』な
どのクロエ・グレース・モレッツ。オリジナルのスペイシク
は撮影当時25歳だったことが後に判明して話題になったが、
モレッツは1997年生まれ、正に16歳の実年齢でキャリーを演
じている。
そして母親役には、昨年10月28日付「第25回東京国際映画祭
《コンペティション部門》」で紹介の“What Maisie Knew”
(日本公開題名:メイジーの瞳)などのジュリアン・モーア
が扮している。
他に、昨年1月紹介『ファミリー・ツリー』などのジュディ
・グリア、今年8月紹介『クロニクル』などのアレックス・
ラッセル、2011年9月紹介『三銃士』でヒロイン役のガブリ
エラ・ワイルド、さらに新人のポーシャ・ダブルデイ、アン
セル・エルゴートらが脇を固めている。
1979年のオリジナルは、エイミー・アーヴィング、ウィリア
ム・カット、ナンシー・アレン、ジョン・トラヴォルタらを
ブレイクさせたことでも知られるが、今回の配役の中からも
ブレイクする若手は現れるのだろうか。
脚本は、2011年9月紹介『glee/グリー』のテレビシリーズ
などを手掛け映画は初のロベルト・アギーレ=サカサ。なお
脚本には、オリジナルを手掛けたローレンス・D・コーエン
の名前もクレジットされていた。
そして監督は、1999年の『ボーイズ・ドント・クライ』で主
演のヒラリー・スワンクにオスカー受賞をもたらし、本作が
3作目となるキムバリー・ピアース。
オリジナルはヒッチコックの後継者を自認するデ・パルマが
見事なサスペンス・ホラーに仕上げたものだが、そのデ・パ
ルマとの親交もあるという本作の女性監督は、女性の立場か
ら見たキャリーと母親の関係、さらにはキャリーをいじめる
女生徒たちの姿を巧みに描いている。
また本作では、スマホやSNSなどの要素も取り入れて、見
事にキャリーを現代に蘇らせたものだ。そしてそれはあまり
にも切ない青春ドラマとして、現代の若者たちに問いかける
作品にもなっている。

公開は11月8日から。全国一斉のロードショウとなる。

『メタリカ・スルー・ザ・ネヴァー』
            “Metallica Through the Never”
2007年11月紹介『ダーウィン・アワード』ではカメオ出演、
2011年11月紹介『メタルヘッド』には楽曲を提供していたア
メリカの人気ロックバンド「メタリカ」のライヴコンサート
の模様を収めた仕掛けもたっぷりの作品。
ライヴの撮影はカナダのアリーナで行われており、アルバー
タ州とヴァンクーヴァの2ヶ所のコンサートの模様が収めら
れている。そのバックステージから始まる映像ではコンサー
トの初っ端から、正しくヘヴィーな演奏が92分の上映時間の
間中に鳴り響く。
そしてその満席の会場には少なくとも2台の大型クレーンが
設置され、その先端に付けられた3Dカメラが観客の上空や
頭スレスレの位置からアリーナ中央のステージに登ったメム
バーを縦横に捉えると共に、さらにステージ上にも2台のス
テディカムが居て演奏のアップなどを捉えて行く。
それは恐らく観客席にいる以上にメタリカの演奏を詳細に堪
能できるもので、観客席とは異なるが、これも正に臨場感と
言える映像が繰り広げられる。さらに会場の興奮も伝わって
きて、これならライヴ会場に行った人も、行けなかった人も
等しく楽しめる作品と言えるだろう。
しかもそこに本作では別の要素が加わる。それはプロローグ
のバックステージにいた若者のアドヴェンチャーで、彼はス
タッフに命じられてコンサートの会場を後にし、メムバーの
忘れ物を取りに行くのだが、これが尋常でない展開になる。
しかもそれがライヴのステージにも影響を与え…

出演は、メタリカのメムバーのジェームズ・ヘットフィール
ド、ラーズ・ウルリッヒ、カーク・ハメット、ロバート・ト
ゥルージロと、今年8月紹介『クロニクル』などのデイン・
デハーン。デハーンの魅力もたっぷり楽しめる。
監督は、2007年10月に紹介した『モーテル』などのニムロッ
ド・アーントル。脚本には、アーントルと共に、メタリカの
メムバー4人の名前も並んでいるから、描かれている物語は
メムバーたちのアイデアなのかな。それも凄い。
実は試写会の後ろの席にロックの関係者らしい若者のグルー
プがいて、上映が始まるまでは写メを撮ったり結構はしゃい
でいたのが、終わると真剣の口調で「これは異次元だ」と呟
いていた。
最近では、9月紹介『ザ・ストーン・ローゼズ:メイド・オ
ブ・ストーン』など、ロックコンサートの模様を撮影した作
品をいくつか紹介しているし、他にも試写は観て紹介は割愛
した作品もあるが、作品のコンセプトもいろいろある中で、
本作は一頭地抜けている感じのする作品だ。

メタリカのファンには当然だが、期待の若手俳優も出ている
ことだし映画ファンにも観てもらいたい作品だ。
公開は11月22日から全国で、3DとI-Max 3Dでも行われる。

『ザ・コール 緊急通報指令室』“The Call”
2002年6月紹介『チョコレート』でオスカーを受賞したハル
・ベリーと、2006年11月9日付「東京国際映画祭」で紹介の
『リトル・ミス・サンシャイン』により映画祭の主演女優賞
を受賞し、さらにオスカー候補にもなったアビゲイル・ブレ
スリン共演で、911=緊急通報司令室に架かってきた電話
を巡るサスペンスドラマ。
ベリーが演じるのはロサンゼルスの911で緊急通報の応対
をするベテランの係官。ところがある日、家に侵入者がいる
という若い女性からの通報に、一旦は危険回避の方法を伝え
たものの、その後の処理で集中を欠いてしまう。それがトラ
ウマになった彼女は、その後は受信台を離れていた。
ところが6ヶ月後、新人研修の教官として緊急通報司令室に
入った彼女の前で、誘拐犯に拉致された少女からの緊急電話
が鳴る。その少女は閉じ込められた車のトランクの中から架
けてきていた。そして不慣れだった係官に代ってその応対を
始めた主人公は次々に適切な対応を指示して行くが…

脚本は、2002年7月紹介『13ゴースト』などのリチャード・
ドヴィディオ。脚本家は妻がラジオで聞いたニュースに触発
されて本作を書き上げたそうだが、原案にはその妻の他に、
2004年にアンジェリーナ・ジョリーが主演した『テイキング
・ライブス』の脚色などを手掛けたジョン・ボウケンカンプ
の名前も並んでいる。
監督は、2011年1月に紹介したヘイデン・クリステンセン主
演『リセット』などのブラッド・アンダースン。前作は一風
変わったSF物だったが、今回は実話に基づく部分もあると
される実録作品だ。
共演は、2006年8月紹介『地獄の変異』などのモリス・チェ
スナット、2009年11月紹介『Dr.パルナサスの鏡』に出てい
たというマイクル・エクランド、スパイク・リー監督と多く
組んでいるマイクル・インペリオリらが脇を固めている。
車のトランクに閉じ込められるシチュエーションは映画でも
よくあるが、実は車のトランクには中からでも開けられる手
段が設けられている。ところが本作で主人公がそれを指示す
ると、それが無いという。それは犯人が先回りしてその手段
を除いていたもので、犯人が上手だった。
このように、本作の特に前半はその辺の駆け引きが実に巧み
で、観ていて思わず唸ってしまう展開だった。ただしそれが
後半に入ると少し緩くなって、その辺では少し心配にもなっ
たが、本作にはその心配を吹き飛ばすような仕掛けも設けら
れていた。

ブレスリンは、2010年5月紹介『ゾンビランド』などにも出
ていたが、『リトル・ミス・サンシャイン』の幼かった少女
が、本作では魅力的なティーネイジャーになった姿を見せて
くれる。そんな成長を見られるのも嬉しいものだ。
本作は、11月30日から全国公開される。

『ドラゴン・フォース』“鋼鉄飛龍”
1998年に円谷映像で製作された『仮面天使ロゼッタ』を始め
数多くのヒロインアクションを手掛けてきたプロデューサー
畑澤和也が中国に渡って総監督を務め、製作したアクション
アニメーション。
物語の背景は、異星人の侵略が始まっているかもしれない未
来の地球。その時代の地球はすでに世界国家が成立している
ようで、安定した状況下でその治安を守る世界警察には予算
の削減が突きつけられているらしい。
一方、天才科学者ドクターJは以前から異星人侵略の警鐘を
鳴らしていたが、世界警察でもそれを信じるものは少なかっ
た。しかし世界警察の長官だけはそれを信じ、ドクターJと
共に秘密部隊「ドラゴンフォース」を組織していたが…。
そんな時に地球規模の異変が起きる。それこそが異星人侵略
の証明になると考えたドクターJはドラゴンフォースに出動
を命じる。しかしその作戦は全て筒抜けになっており、さら
にドクターJ開発の武器が敵側にも装備されていた。
ドラゴンフォースは5人組で、試写会で配られるプレス資料
にはそれぞれのキャラクターの設定も紹介されていて、東映
の戦隊物を思わせる。他にも天才科学者や後方勤務の少女の
設定など、その体裁は類似するものだ。
実際に総監督の畑澤は、元東映で『仮面ライダー』や戦隊物
などを手掛けた故平山プロデューサーに師事していたという
から、その影響は強く感じられる。ただしそこに組織内部の
裏切りなどが絡むのは、案外目新しいのかな。

物語の原案は、畑澤と中国のトミー・ウォン。監督はウォン
が担当して、脚本もウォンとダイ・ジュンという名前になっ
ている。因に原案というクレジットは中国では無いようで、
総監督も含めて日本版だけの表記だそうだ。
その総監督の畑澤は2011年に中国広東省光州に渡り、本作を
制作した藍弧(ブルーアーク)で企画などに携わっていたと
のことだが、政治的な問題などもいろいろある中で苦労を重
ね、本作が生み出されているようだ。
その辺のことは、本作のオフィシャルサイトにも綴られてい
たが、海外でこのように頑張っている人の話は、本当に頭が
下がるものだ。なお、藍弧(ブルーアーク)ではすでに畑澤
原作・総指揮による『快来酷宝』という作品も本国で公開中
とされている。
ただし本作に関しては、内容的には明らかにプロローグで、
ここから話が始まる前哨戦。スケール的にはかなり大掛かり
な背景が描かれているもので、この続きは是非とも観てみた
い感じもした。

本作の公開は11月9日から、東京はオーディトリアム渋谷で
1週間限定のレイトショウの他、全国順次で行われる。

『いとしきエブリデイ』“Everyday”
2011年10月30日付「東京国際映画祭」で紹介した『トリシュ
ナ』などのマイクル・ウィンターボトム監督による2012年の
作品。
登場するのは父親が刑務所に入っている一家。受刑者の妻で
ある母親と、3歳、4歳、6歳、8歳4人の子供たちの普通
とは少し違う日常が描かれて行く。
物語の始まりは、早朝4時の一家の様子。女の子供2人を親
戚に預け、母親と男の子供2人はバスや列車を乗り継ぎ刑務
所へ面会に向かう。その面会で父親は長男に「(家を守る)
家長はお前だ」と告げ、長男はそれに緊張する。
末娘が初めて幼稚園に上がる日、心配な父親は家に電話を架
ける。交代で「大好き」と告げる子どもたち。女の子供2人
を連れた次の面会で父親に会った末娘は「パパ、どこにもい
かないで」と泣きじゃくる。
その日帰ってくると祖母が見ていたはずの兄弟がいない。長
男は父親の猟銃を持って森に行っていた。夜半にうさぎを捉
えて帰ってくる息子。母親は叱るが、本来は狩りで手本を示
す父親の不在は、母親には埋められない。
こんな一家の日々が5年間に亙って描かれて行く。なお登場
するのは実の4人兄弟姉妹で、撮影は2007年から2012年まで
掛けて、年に2回ずつ兄弟姉妹の実際の成長に合わせて行わ
れている。
例えば狩猟の話など、僕らには俄かには理解できないものも
ある。刑務所内の様子も日本とは違うのかもしれない。しか
し父親不在の家庭の様子はなるほどと思わせるものが描かれ
ており、それは僕らにも切実に分かるものだ。
ウィンターボトム監督の作品では、2002年11月紹介の『24
アワー・パーティ・ピープル』は音楽ドキュメンタリー風、
2004年5月紹介『CODE46』はSF、2011年2月紹介の
『キラー・インサイド・ミー』は犯罪小説の映画化、『トリ
シュナ』はインドに舞台を移した古典文学のリメイクと、常
に新しい題材に挑戦しているが、本作はさらに実験的だ。
しかも撮影期間は5年間、前2作などとは並行して撮影して
いるもので、その間をブレずに作品を完成させている。特に
撮影前までは素人の子供たちの姿が一貫して演出、撮影され
ているのも見事だった。

出演は、ウィンターボトム監督の1999年『ひかりのまち』で
も共演しているシャーリー・ヘンダースンとジョン・シム。
なおヘンダースンは『ハリー・ポッター』シリーズの嘆きの
マートル役でも知られている。
また音楽を『ひかりのまち』も担当したマイクル・ナイマン
が手掛けて、心にしみる見事な楽曲を提供している。
公開は11月9日から、東京はヒューマントラストシネマ有楽
町ほかでロードショウされる。


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井口健二