| 2012年07月15日(日) |
WIN WIN、よだかのほし、演劇1/演劇2、旅の贈りもの2、放課後ミッドナイターズ、東京スカイツリー、ウェイ・バック+特撮博物館 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※ ※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※ ※方は左クリックドラッグで反転してください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『WIN WINダメ男とダメ少年の最高の日々』“Win Win” ポール・ジアマッティ主演で、人生に行き詰まった男性と、 進路を見失いかけている少年を描いたヒューマンドラマ。 主人公は田舎町で開業している弁護士。その仕事のほとんど は老人問題だが、その依頼もほとんど無くなっているのが現 状だ。そんな主人公は、ある一線を超えた仕事にも手を出し てしまう。 一方、主人公はアルバイトで地元高校のレスリング部のコー チもしていたが、地元や主人公の雰囲気も反映してその戦績 は芳しくない。その主人公の前に1人の少年が現れる。その 少年はたちまちレスリングの実力を発揮してみせるが… 主人公の一線を超えた仕事と、少年のレスリングでの活躍が 絡み合って、かなりの苦みも伴うwin-winの物語が展開され て行く。 製作・原案・脚本・監督は2009年11月紹介『2012』など の出演者で、2009年9月紹介『カールじいさんの空飛ぶ家』 の原案も手掛け、監督は本作が3作目のトーマス・マッカー シー。なお名前は本作から表記を変えているようだ。 ジアマッティ以外の出演者は、2010年2月紹介『グリーン・ ゾーン』などのエイミー・ライアン、2006年9月紹介『スネ ーク・フライト』などのボビー・カナヴェイル、2010年10月 紹介『宇宙人ポール』などのジェフリー・タンバー。 さらに『ロッキー』シリーズのバート・ヤング、2011年1月 紹介『お家さがそう』などのメラニー・リンスキー。そして もう1人の注目は、ダメ少年を演じたアレックス・シェイフ ァー。 監督の希望で、実際にレスリングのできる少年がオーディシ ョンされ、選ばれた映画の舞台ニュージャージーで高校生の チャンピオンに輝いたこともあるというシェイファーには、 すでに次回作も決まっているそうだ。 老人問題や親子関係など様々な社会問題が巧みに織り込まれ た作品で、主人公の立場になくても誰でもが陥ってしまいそ うな出来事が描かれていた。
『よだかのほし』 宮沢賢治の童話にインスパイアされた現代が背景の物語。 主人公は東京の企業で研究職に就いている女性。しかし同僚 の間では浮いた感じで、上司との間もうまくは行っていない ようだ。そんな彼女が川縁の遊歩道でジョギング中に同郷の 老女と知り合う。 その老女はようやく田舎に帰れると話し、主人公にあるもの を託す。そして主人公は約束の日に老女の姿を探すが見つけ ることができない。こうして彼女は託されたものを届けるた め、大学に進学して以来帰っていなかった田舎に行くことに するが… 賢治の童話との関連で言うと自分が疎まれた存在だと思い込 んでいる主人公の姿が童話の主人公に通じるところがあり、 また主人公が研究者であることも賢治が農業技術者であった ことへのオマージュとも言える。 しかし物語は、そんなことを詮索するより、もっと純粋に故 郷に対する現代人の思いが描かれたものであり、そのため映 画では主人公と賢治の故郷でもある岩手県花巻の祭りや風景 が存分に描かれているものだ。 出演は、2011年12月紹介『わが母の記』などの菊池亜希子、 2008年1月紹介『死神の精度』などの眞島秀和、1939年生ま れ岩手県出身女優の北上奈緒。 脚本と監督は、2004年9月の短編集『Movie Box-ing』の中 で『夏服と巡査』という作品を紹介している斉藤玲子。正直 に言って内容は全く記憶していないのだが、紹介文を読み返 すとかなり気に入っていたようだ。 その監督は、ニューシネマワークショップの出身で、2005年 にはNCWの支援による作品『AnimusAnima』で長編監督デ ビュー。その後も短編を作り続け、本作は長編2作目となっ ている。 なお、『AnimusAnima』の紹介文の中の監督のプロフィール によると、「これまでの女性監督とは違ったニュータイプの クリエーター」とされていたが、今回の作品はどちらかとい うとオーソドックスな女性映画で、その点では信頼の置ける 監督のようにも感じられた。
『演劇1』『演劇2』 2007年5月『選挙』、2009年4月『精神』、2011年4月『Pe ace』を紹介している想田和弘監督による「観察映画」。因 に前作は番外編で、今回の2作品が第3弾、第4弾と称され ている。 その想田監督が今回「観察」したのは、劇作家平田オリザ。 『演劇1』ではその舞台人としての本質に迫り、『演劇2』 ではその演劇を通じた現代社会との繋がりなどが描かれて行 く。 そして『演劇1』では、「ヤルタ会談」「冒険王」「サンタ クロース会議」「火宅か修羅か」の練習風景と、その間に各 地で行われるワークショップや実践授業の様子を通じて、平 田の演劇に対する姿勢やその本質が描かれる。 そこにはスタニラフスキー理論を明確に否定する発言や、そ の平田の演出に対してそれを克明に表現して行く俳優たちの 考え方なども紹介され、なるほどこれが平田演劇なのだと納 得させられる作品になっている。 これに対して『演劇2』では、最初に「冒険王」の舞台面か ら始まり、続いて民主党若手議員との懇談の様子などが描か れる。さらに鳥取県での実践授業の様子や、同県で行われる 演劇祭での様子など、社会との関りが描かれる。 その中では、文化庁の助成金を得るためにいろいろな方策を 講じている様子や、劇団経営の厳しさなども語られ、諸外国 の実情に比較した日本の演劇に対する政治の冷たさも指摘さ れる。 そしてこの『演劇2』では、前記の他に平田作品の「隣にい ても一人」「働く私」「砂と兵隊」「森の奥」が紹介され、 特に世界初と称されたロボットと俳優共演による「働く私」 ではその製作風景なども紹介されているものだ。 正直に言って僕は演劇はほとんど観たこともないし、平田オ リザや青年団の名前も映画との関りの中でしか知らないもの だが、本作ではそんな僕にも平田という人物が良く理解でき たように感じられた。 なお中では、青年団所属の2011年7月紹介『東京人間喜劇』 の森田晃司監督や、2011年12月紹介『きつつきと雨』などの 俳優古舘寛治らも登場しており、僕にはその辺でも興味を引 かれた。
『旅の贈りもの、明日へ』 2006年8月紹介『旅の贈りもの−0:00発』に続く列車旅行を テーマにした作品の第2弾。と言っても物語に繋がりはなく 独立した作品だ。 本作の主人公は建設会社を定年退職した男性。25年前に離婚 した彼には家族もなく、家にいても何もすることもない。そ んな彼が始めた身辺整理の中で1枚の焼け焦げた葉書が見つ かる。それは彼に42年前の初恋の思い出を呼び起こす。 こうしてその思い出を頼りに福井へと旅立った主人公に、あ る出会いがもたらされる。この主人公に、結婚式を控えて最 後の1人旅で福井に来た女性と、スランプに陥ったヴァイオ リニストの男性が絡んで、新たな未来に向かう人たちを暖か く包む物語が展開される。 出演は、前川清、山田優、酒井和歌子、ヴァイオリニストの 須磨和声。他に、徳井優、きたろう、二木てるみらが脇を固 めている。前作も歌手の徳永英明が主演だったが、歌手を主 演に据えるのがコンセプトなのかな。 また、須磨には元「ニューハード」の黄金期のメンバーで、 現在は福井中心に活動する日本有数のアルトサックス奏者・ 白井淳夫との競演シーンも用意されており、それはサウンド トラックが欲しくなるくらいのものだ。 さらに今年2月紹介『トテチータ・チキチータ』に出演の葉 山奨之と、今夏公開『桐島、部活やめるってよ』などの清水 くるみが主人公らの42年前を演じる。因に清水は、顔は女優 の若い頃に似ていないが雰囲気を良く似せていた感じだ。 監督は2008年7月紹介『ブタがいた教室』などの前田哲。脚 本は2006年の前作も手掛けた篠原高史と前田監督が執筆して いる。前作同様、ファンタスティックと言える作品ではない が、メルヘンな感じの物語にはなっていた。 それと今回もJR西日本の協力による車両の登場は鉄道マニ アには垂涎のもので、特にサンダーバードではない特急雷鳥 が、JNRのロゴをつけて走ってきたシーンには思わず声が 出てしまった。 まあ前作同様のセンチメンタルなお話だが、鉄道ファンの目 も楽しませてくれるし、全体としてちょっと仕掛けがあるの も楽しめる作品だった。
『放課後ミッドナイターズ』 1992年製作の『BANANA』が同年の広島国際アニメーションフ ェスティバルで審査員特別賞を受賞し、同作はニューヨーク MOMAのコレクションにも加えられているという竹清仁監督に よる長編デビュー作。 名門小学校の放課後を舞台に、学校怪談の代表ともいえる走 り回る人体模型や、骨格標本が活躍するギャグアニメーショ ン。因に本作には2008年の文化庁推薦を受けたオリジナル短 編があり、こちらはフランスCanal+が買い付けたそうだ。 そして本作は、長編デビュー作には異例の、日本、香港、シ ンガポール、台湾、韓国での同時公開が決まっている。つま り、それだけの注目作ということだ。 物語は人体模型のキュンストレーキと骨格標本のゴスが主人 公。2人は長年、子供たちを脅かしては、危ない理科室に勝 手に近づかないようにしていた。しかしそんな努力の甲斐も なく身体は悪戯書きでぼろぼろだ。 しかも2人に一大事が到来する。理科室のある旧校舎の取り 壊しが決まり、2人も理科室と共に廃棄処分になってしまう のだ。それを阻止するべく2人はある作戦に打って出る。折 しもその日は学校見学会、訪れた3人の幼稚園児に目を付け た2人は… 基本的にギャグアニメは、ギャグの感性が合わないと悲惨な 思いになる。 しかし本作は、学校の怪談がベースのギャグも秀逸で、そこ からの展開も上手く、さらに結末が見事に決まっていて、こ れは文句の付けようのない作品だった。さすがに世間の評価 は狂いがなかったというところだ。 因に脚本は竹清監督と、『海猿』などの原作者で、内閣総理 大臣表彰となる海洋立国推進功労者表彰を受けている小森陽 一。声優は山寺宏一、田口浩正。その他に谷育子、茶風林ら ベテランが脇を固めている。 アニメーションは日本の文化と言われて久しいが、オタク文 化の象徴のようでもあったアニメーションから一歩踏み出し た新たな方向性のある作品。この夏これは見逃すことができ ない作品だ。
『東京スカイツリー・世界一のひみつ』 今年5月に開業した世界一の電波塔の建設に関るドキュメン タリー。 作品では「東京の守りバト」と自称する2羽の鳩を語り手と して、彼らが鳥の領分に侵入したと主張する高層建造物の建 設に関るいろいろな謎が解明される。と言っても作品は、あ くまでもお子様向けで説明も平易なのだが、これが意外と奥 深いものになっていた。 その内容は、スカイツリーの全体の形状に始まって、なぜ鉄 骨が円筒形なのかなど。それは今まで観ていたものが全く別 の側面を見せるものでもあって、その事実自体にも驚かされ たが、それがまた子供にも判るように解説されていることに も感心した。 さらにはゲイン塔と呼ばれるアンテナ部分の建設に関る技術 やそこで起きる様々な想定外の出来事。しかもクライマック スでは2011年3月11日までやってくる。そのタイミングにも 驚かされる。 そして、高さが634mに達した日にその頂上に飛来した1羽の 鳩。その存在が本作の物語の全体を形成したと思われるが、 合成ではないその姿にちょっと神秘的なものも感じてしまう 光景も描き出される。 その一方で基礎工事に採用された特殊な構造や工事用機材の 数々。その運用の様子なども手際よく解説される。それらが 子供が観ていられる限界とも言える60分の上映時間の中で、 実に見事に描かれていた。 監督はNHK所属の野上純一、脚本は2008年1月紹介『死神 の精度』などの小林弘利。全体の構成がどちらの意向による ものか判らないが、野上はスカイツリーに関してはすでに複 数のテレビ番組も手掛けており、その中で生まれたアイデア とも思える。 先に書いたようにあくまでもお子様向けの作品ではあるが、 大人の鑑賞にも充分に耐えうる作品になっている。 それは僕自身が技術系の大学の出身者であるから、その辺は 補足して観てしまっているかも知れないが、逆に言えばこれ をお子様向けだけとするはもったいない感じもしてくる。こ れを観ているともっと深く描いた作品も観たくなってきた。
『ウェイ・バック〜脱出6500km〜』“The Way Back” 2004年1月紹介『マスター・アンド・コマンダー』などのピ ーター・ウィアー監督による同作以来の新作。 1941年、西シベリアの矯正収容所にはロシア革命で共産主義 に殉じなかった各国の人々が送り込まれていた。そんな中で 妻の証言によって収容所送りとなったポーランド人の主人公 は、それでも妻を愛し、妻に許しの言葉を掛けることを夢見 ていた。 そして彼の許に集まったアメリカ人の元技師やロシア人の犯 罪者、それにポーランド人の仲間たちは、過酷な環境に耐え 兼ねてついに脱走を開始する。しかしそれは雪深いシベリア の大地やゴビ砂漠などを、満足な食料、水もなく踏破する過 酷な旅となった。 原作は、1954年にロンドン・デイリーメール社がヒマラヤの イェティ捜しを行った際、その事前調査の中で発掘された実 話で、原作本は1956年に刊行され、世界25カ国で翻訳がされ ているそうだ。 そんな実話に基づく物語だが、映画は脚色が入っているにし ても本当にこれが出来たのだろうかと思えるほどの過酷な状 況で、そんな極限状態が見事に描かれる。しかもそこには彼 らを駆り立てる理由づけもしっかりとなされていた。 出演は、2008年3月紹介『ラスベガスをぶっつぶせ』などの ジム・スタージェス。他に、エド・ハリス、2007年12月紹介 『つぐない』でオスカー助演賞候補になったシアーシャ・ロ ーナン、コリン・ファレル。 他に、『バトルシップ』に出演アレキサンダー・スカルスガ ルドの弟のグスタフ・スカルスガルド、今年3月紹介『ジョ ン・カーター』などのマーク・ストロング、2007年12月紹介 『4カ月、3週間と2日』などのアレクサンドル・ポトチュ アンらが脇を固めている。 ブルガリア、モロッコ、インドなどでの撮影に2カ月間が費 やされたという作品は、戦時中の物語なのに戦闘シーンが一 切なく、過酷な運命に立ち向かった人々の姿を見事に描き出 していた。
『特撮博物館』 『新世紀エヴァンゲリオン』などの庵野秀明が館長を務める 標記の展覧会が東京木場公園にある東京都現代美術館で10月 8日まで開催されている。そのオープニングの前日に行われ た内覧会に招待されたので、その報告をさせてもらう。 展覧会は「ミニチュアで見る昭和平成の技」と銘打たれたも ので、『モスラ』以降の東宝怪獣映画を中心に、製作当時の 図面に基づくミニチュアの再現や実際に映画の中で使用され た光線銃などの小道具の展示が前半を占めている。 またそこにはコンセプトアートの原稿なども展示されて、デ ザインの変遷が解説されていたり、それはマニアには堪らな い世界が繰り広げられている。特に展示物のほとんどが、ガ ラスケースなどもなく直接観られるのは貴重なものだ。 そして中盤には、今回の展示の目玉とも言えるスタジオジブ リ製作、庵野秀明企画、樋口真嗣監督による「巨神兵東京に 現わる」という短編作品の上映スペースがあり、ジブリアニ メの『風の谷のナウシカ』に登場した巨神兵が、ミニチュア 特撮によって再現された。 その物語はまあ庵野流のものではあるが、それをCGI=ア ニメではない特撮によって再現できているのには、日本の特 撮技術もしっかりと継承されていることが判ってうれしくも 思えたものだ。 さらに後半では、その短編映画のメイキングに絡めて日本の ミニチュア特撮の歴史が展示され、工房や倉庫の再現、さら に各種技術の解説などがかなり細かく行われている。中には あっと驚く展示物も置かれていた。 そして最後は、短編映画に登場したミニチュアセットの再現 で、セットの中の通路を歩けたり、写真撮影も可能なのは来 場者には最大のサーヴィスとも言えるものだ。 CGIが全盛と言われるハリウッド映画の中でも、ミニチュ ア技術は厳然と継承されており、ミニチュアは決して廃れて しまった技術ではない。今回はそんなミニチュアの新たな次 元も観られる展覧会となっていた。 なお会期中は有料で貸し出される音声ガイドには、70項目で 計60分にも及ぶインタヴューなども含む音声が収録されてお り、それはじっくりと聞きたくなるものになっていた。ここ にも主催者たちの思い入れが感じられたものだ。
|