井口健二のOn the Production
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2012年02月19日(日) モンスターズクラブ、寒冷前線コンダクター、ある秘密、SHAME、青い塩、ほかいびと、僕等がいた、私が生きる肌、捜査官X+VES賞

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『モンスターズクラブ』
2005年7月紹介『空中庭園』などの豊田利晃監督による最新
作。アメリカの爆弾魔セオドア・カジンスキー(通称:ユナ
ボマー)に着想を得て、雪深い森の中で暮らす1人の男の姿
が描かれる。
主人公は森の中で1人で暮らしている。それでも毎日の身な
りはちゃんと整え、森では鹿や兎を撃ってその肉を調理して
食糧に当てている。それは世捨て人のようでもあるが、その
一方で彼は爆弾を作り、企業トップなどへ送り付けていた。
何故彼はそのようなことをしているのか、その謎が彼の前に
現れる両親や兄たちの幻影によって解き明かされて行く。と
言っても動機などが具体的に明かされるのではなく、作中で
宮澤賢治の詩「告別」が引用されるように、それは象徴的に
描かれる。
しかしそこにあるのは、ユナボマーが考えていたかも知れな
い社会への不満であり、翻ってそんな社会に打ち勝てない自
分への失望かもしれない。そんな社会に順応できない男の姿
が描かれる。

主演は、前回紹介『僕達急行』にも主演していた瑛太。他に
窪塚洋介、ミュージシャンのKenKen、草刈正雄の娘の草刈麻
有、2011年1月にドキュメンタリーを紹介したパフォーマー
のピュ〜ぴる、松田美由紀、國村隼らが共演している。
なお監督は、本作の脚本を書くに当ってユナボマーをかなり
研究したようだ。従って本作に登場する主人公が暮らす山小
屋や、製造する小包爆弾の形状などは全て現物に則している
ものだそうだ。
とは言え、ユナボマー自身は司法取り引きによってほとんど
裁判も行われないまま終身刑に服しており、爆弾魔が本当に
何を考えていたかは推測するしかない。一方で監督には山中
で1年間1人暮らしをした経験があり、それらが重なって本
作が作り出されたようだ。
だが作品は多分に観念的で、それらを明確に理解することは
凡人には難しい。ただ幻想ということでは自分のテリトリー
に近い作品であるようにも感じるし、その点ではあまり違和
感もなく観ることができた。


『寒冷前線コンダクター』
1994年に第1巻が出版されて以来、外伝を含めて40巻以上を
出版、累計発行部数で400万部が売られているという秋月こ
お原作「富士見二丁目交響楽団シリーズ」の映画化。
2011年6月紹介『あの、晴れた青空』などの「たくみくん」
シリーズも原作本は累計発行部数が400万部を超えているそ
うだが、本作もそれと類似のBLをテーマとした作品だ。た
だし「たくみくん」シリーズは早くから映像化もあったが、
本作は今回が初映画化。そんな満を持した作品だ。
主人公は、郊外都市という設定?の富士見市にある市民交響
楽団のコンサートマスター。その市には行政がバックアップ
するセミプロ楽団もあるが、こちら本当に市民だけの素人楽
団だ。ところがそこに全国規模の楽団で副指揮者の男性が指
揮者として就任する。
しかもこの指揮者はかなりの上から目線で指導を開始し、主
人公はのっけから印象が悪くなってしまう。しかしその指導
は適切で楽団のレヴェルはどんどん高みに引き上げられる。
それでも指揮者の存在自体が主人公には許せなかった。
さらに彼が密かに思いを寄せていた女性までもがその指揮者
に思いを寄せ始め、耐えられなくなった主人公はついに退団
を決意するのだが…
本作の映画化が何故今まで待たれていたかと言うと、「たく
みくん」シリーズでは第5作にして描写がかなりのレヴェル
になったものだが、本作では最初から…と言うところかな。
実際、これがかなり強烈に描かれていた。
でもまあそれは、原作のファンには先刻ご承知のことなのだ
し、それはファンの期待を裏切らないものなのだろう。しか
し原作を知らないで観ていると、それはかなり強烈なものだ
った。

主演は、ミュージカル「テニスの王子様」でも共演している
という高崎翔太と新井裕介。他に「金八先生」第7シリーズ
でデビューという岩田さゆり、「テニスの王子様」出身の林
明寛、2月末スタートの「特命戦隊ゴーバスターズ」に出演
の馬場良馬。
また木下ほうか、宮川一朗太、徳井優、国広富之らが脇を固
め、さらにヴァイオリニストNAOYTOがゲスト出演している。
その他、俳優以外の楽団のメムバーはプロの音楽家たちが演
じているようだ。
監督は、2009年12月紹介『アンダンテ』などの金田敬。
因にポスターには「富士見二丁目交響楽団シリーズ」と書か
れているが、映画もこれからシリーズになるのだろうか。

『ある秘密』“Un secret”
「フランス映画未公開傑作選」と題して3作品が連続公開さ
れる内の1本。ゴダール、トリュフォーの助監督を務め、ヌ
ーヴェル・ヴァーグの正統な後継者とされるクロード・ミレ
ール監督による2007年の作品。
物語の始まりは1950年代。主人公は両親とヴァカンスに来て
いる少年。母親は飛び込み台から颯爽と飛躍し、父親もマッ
チョだが、少年にはどこかひ弱い感じがある。そして少年は
父親には疎まれていると思っている。
そんな少年には兄と呼ぶイマジナリー・フレンドがいたが、
彼は独りっ子。そんな彼が食卓に余分の食器を並べることが
特に父親の気に触るようだ。そして父親には「うっかりでき
てしまった」とまで言われてしまう。
しかし少年が屋根裏部屋に隠された見知らぬぬいぐるみを見
付けたとき、家族に隠されたある秘密が明らかにされる。そ
んな家族の秘密が、第2次世界大戦前から1980年代までのフ
ランス近代史を背景に、壮大なロマンとなって描かれる。
物語は、「エル」誌の読者大賞を受賞し、フランスでベスト
セラーになったフィリップ・フランベールの同名小説に基づ
くもので、近年フランスで数多く描かれている第2次世界大
戦にまつわる負の遺産を背景にしている。
しかし本作ではそれを直接的に描くのではなく、それによっ
て生じた悲劇の顛末を現代に近い視点から描いている。それ
は昨年9月紹介『サラの鍵』にも通じるが、それがより身近
な感じで描かれていた。

出演は、2010年11月紹介『ヒアアフター』などのセシル・ド
ゥ・フランス、昨年11月紹介『デビルズ・ダブル』などのリ
ュディヴィーヌ・サニエ、昨年10月紹介『さすらいの女神た
ち』でカンヌ国際映画祭の監督賞を受賞したマチュー・アル
マリック。
また、父親役を人気歌手でもあるパトリック・ブリュエル、
物語の鍵を握る女性役を名優ジェラールの娘のジュリー・ド
パルデューが演じて、正にフランス映画渾身の1作という感
じの作品だ。

『SHAME-シェイム-』“Shame”
前回紹介した『マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙』も
手掛けたアビ・モーガンの脚本で、昨年のヴェネチア映画祭
で主演のマイクル・ファスベンダーが最優秀男優賞に輝いた
作品。
主人公はニューヨークで働く独身の男性。勤務先での評価も
あり、一見ハンサムな普通の男性だが、彼はセックス依存症
だった。しかし彼が体を交すのは行き摩りの女のみ、彼は真
剣に女性を愛せない性癖でもあったのだ。
ところが、そんな主人公のアパートに恋人に振られた妹が転
がり込んできたことから、彼の生活が変わり始める。その妹
は常に誰かに愛を求める性格だった。そして彼女は主人公の
上司にも不倫をせがみ始める。
こうして妹に振り回されるようになった主人公は、普通の恋
も試みるのだが…

共演は、昨年11月紹介『ドライブ』などのキャリー・マリガ
ン、2006年『ディパーテッド』などのジェームズ・バッジ・
デール。他に、テレビで活躍するルーシー・ウォルターズ、
2008年“American Violet”という作品で評価の高いニコル
・ベーハリーらが脇を固めている。
共同脚本と監督は、2008年“Hunger”でカンヌ国際映画祭の
カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞したスティーヴ・マッ
クィーン。1980年に他界したアメリカの俳優とは別人のアフ
リカ系イギリス人監督の第2作となっている。
2010年1月紹介『17歳の肖像』や10月24日付紹介『わたしを
離さないで』などでマリガンの魅力に取り憑かれた者には、
彼女の魅力が堪能できる。ただしアメリカではNC-17、日本
でもR18+に指定されている作品なので、その点の覚悟は必要
だ。
それと異性の兄弟を持つ、特に男性には多少微妙な感じにも
なる作品で、その点ではいろいろ考えさせられる部分も含ま
れる作品だった。脚本家がその点まで描こうとしているのか
否かは定かではないが。


『青い塩』“푸른소금”
ハリウッド・リメイクもされた2000年のファンタシー『イル
マーレ』のイ・ヒョンスン脚本監督による11年ぶりの新作。
2010年8月紹介『義兄弟』などのソン・ガンホと、1990年生
れ、韓国テレビで人気の新星シン・セギョンの共演で、韓国
裏社会の抗争に巻き込まれた男女の姿が描かれる。
主人公はプサンで調理師学校に通っている中年男性。同じ調
理台では若い女性も学んでいるが、年も離れて器用そうな彼
女に比べると主人公の手はかなり遅い。それでも何となく相
性は良さそうだ。
一方、ソウルでは組織のボスが交通事故に遭い、その瀕死の
ベッドで組織を離れた男の名前が呼ばれる。その名前に困惑
する組員たちだったが、その名前の主はプサンにいる男性だ
った。こうしてプサンの2人は組織の跡目争いに巻き込まれ
て行くが…
監督は自ら「フェミニズム」を標榜しているそうで、本作で
もソン演じる主人公が、シン扮する若い女性を守り抜いて行
く姿が描かれる。そんな物語がプサンの美しい海岸線などを
背景に写し出される。

共演は、韓流ドラマを通じて日本でもファンが多いというチ
ョン・ジョンミョンとキム・ミンジュン。他に、2010年6月
紹介『パラレルライフ』などのイ・ジョンヒョク、昨年5月
紹介『ハウスメイド』などのユン・ヨジョンらが脇を固めて
いる。
映画の後半では、政治も絡む陰謀とソウルの高層ビルを使っ
た少しトリッキーなガンアクションなども展開され、上映時
間2時間2分の作品は全編がかなりのテンションで描き切ら
れている。それは観客にも心地よい緊張感を与える作品にな
っていた。
因に題名の「塩」は、調理師学校での調味料として登場する
が、取りすぎると死期を早めるなど、様々な意味合いで使わ
れている。本作は、『イルマーレ』のファンタシーを期待し
て行くと多少違うが、フェミニズムという点では間違いなし
の作品だ。


『ほかいびと 伊那の井月』
幕末から明治期にかけて長野の伊那谷を放浪した漂泊の俳人
・井上井月の伊那谷での姿をドキュメントとフィクションで
描いた作品。作中の井月を舞踏家の田中泯が演じている。
井月は、越後・長岡藩士の子として1822年に生れたとされる
が、その前半生は定かではない。その井月は1858年頃に伊那
谷に現れ、以来1887年に生涯を閉じるまでの約30年間を家も
持たず、祝い事があれば祝いの句を詠み、祝杯を楽しみつつ
その地に暮らした。
そんな井月の伊那谷での暮らしぶりが、田中が墓所などを訪
ね歩くドキュメントと再現ドラマ、また一部には田中のパフ
ォーマンスも織り込んで描かれる。さらにそこには伊那谷の
四季の風景や風物詩なども写されている。
そして伊那谷での井月は、最初は珍しがられ、その後には重
宝がられ、最後は疎まれていたようだ。そこには幕末に幕府
側に付いて官軍と戦った長岡藩と井月との関係や、明治新政
府が行った戸籍制度などの政策の事情も描かれる。
また、芥川龍之介が賞賛したという書や、大正期の放浪俳人
・種田山頭火に慕われたという俳句(伊那谷に約60基の句碑
があり、愛好家によって1800句が集められたという)なども
随所に登場し、俳人としての井月も克明に描かれている。

監督は、伊那出身でNHKスペシャル「チベット大河紀行」
などのドキュメンタリーを制作している北村皆雄。本作の制
作では2008年に取材が開始され、2011年の完成までに足掛け
4年の歳月が費やされているようだ。
その完成された作品は、昨年11月に伊那市で上映が開始され
て県外からも観客が集まるほどの評判となり、年明けからは
長野県各地で上映が続けられ、ついに3月24日からの東京東
中野での公開が行われるものだ。
なおこの井月に関してはつげ義春がマンガでも描いているそ
うだが、僕には不知の人物だった。しかし本作は、樹木希林
によるナレーションなども判り易く、井月の人物像や当時の
状況をかなり理解できた感じがした。
人物を描いたドキュメンタリーとして優れた作品と言えるも
のだ。

『僕等がいた(前篇/後篇)』
2002年に連載が開始され、今年2月に完結する小畑友紀原作
・少女コミックの映画化。連載は10年に及んだ物語が2部作
で製作され、3月17日と4月21日から連続公開される作品を
続けて観させてもらえた。
物語の舞台は釧路の高校。そこで出会った男女の恋物語が、
7年の歳月を掛けて描かれる。始まりは2人が2学年の時、
七美は校内の女子の3分の2が好きになるという人気者元晴
と同じクラスになる。しかしそんな人気者には興味のない七
美だったが…
同じクラスには、成績優秀だが雰囲気の暗い有里と元晴の幼
馴染みの匡史もいて、七美以外の3人には過去の経緯があり
そうだ。そんな中で何も知らない七美は元晴に恋するように
なって行く。しかしそれは元晴の過去との対決だった。
映画は前篇で過去に気付きながらも恋を成就させて行く七美
の姿が描かれ、後篇では舞台を東京に移して、元晴にさらに
重くのしかかる過去と現実の厳しさが描かれて行く。それは
作られた物語ではあるけれど、なるほど原作が10年も続いた
という感じはしたものだ。

出演は、2011年1月紹介『婚前特急』などの吉高由里子と、
2009年11月紹介『人間失格』などの生田斗真。
吉高は、2008年6月紹介『蛇にピアス』も観ているが、今ま
では何となく作品の話題性が先行している感じだった。しか
し本作では、特に前篇で高校生を演じる姿の初々しさに演技
力を感じさせられ、さすがに蜷川幸夫が認めた女優という感
じがした。
他には2010年3月紹介『さんかく』などの高岡蒼佑、2011年
12月紹介『ワイルド7』などの本仮屋ユイカが共演。また比
嘉愛未、小松彩夏、柄本佑、須藤理彩、麻生祐未らが脇を固
めている。
監督は、2010年1月紹介『ソラニン』の三木孝浩。脚本は、
2004年に『め組の大吾』のテレビ化などを担当した吉田智子
が手掛けている。また前篇、後篇の各エンディングテーマを
Mr.Childrenが手掛けているのも話題になりそうだ。

『私が、生きる肌』“La piel que habito”
2009年11月紹介『抱擁のかけら』などのスペインの巨匠ペド
ロ・アルモドバル監督による最新作。1月紹介の『長ぐつを
はいたネコ』では声優を務めていたアントニオ・バンデラス
が、1989年『アタメ』以来となる監督とのコラボレーション
を実現している。
そのバンデラスが演じるのは整形外科医。学会でも発表を行
う医師は皮膚移植の世界的権威とされているが、その移植皮
膚の強化のため、彼はヒト遺伝子に関る禁断の研究も進めて
いるようだ。
そんな彼の家の2階には全身をボディタイツに包んだ1人の
女性が幽閉されていた。その女性の正体は…。それは6年前
の忌まわしい事件へと繋がって行く。そしてそこに、老メイ
ドの粗暴な息子なども絡んで物語は繰り広げられる。
『抱擁のかけら』の時にも書いたが、アルモドバルの作品は
常にフィクションの面白さに溢れている。本作には、ティエ
リー・ジョンケというフランスのミステリー作家の原作はあ
るようだが、それがアルモドバル流のトリッキーな物語に仕
上げられている。
しかも先に「禁断の研究」と書いたが、そこには『フランケ
ンシュタイン』にオマージュを捧げているような雰囲気もあ
り、正に巧みなフィクションの世界が展開される。特に結末
では、これは見事にしてやられたと思わされてしまった。
いやはや、本当にこれこそが物語と言えるものだろう。

共演は2011年7月紹介『この愛のために撃て』などのエレナ
・アナヤ、アルモドバル監督の1998年作『オール・アバウト
・マイ・マザー』にも出演のマリサ・バルデス、2011年1月
紹介『悲しみのミルク』などのスシ・サンチェス。
他には、いずれもスペインのテレビで活躍するジャン・コル
ネット、ロベルト・アラモ、ブランスカ・スアレスらが脇を
固めている。
また本作では、衣装をフランスのファッションデザイナー、
ジャン=ポール・ゴルティエが担当している。因に、リュッ
ク・ベッソン監督『フィフス・エレメント』の衣装も手掛け
たゴルティエは、1993年『キカ』以来のアルモドバル作品へ
の参加となっている。

『捜査官X』“武侠”
2011年3月紹介『孫文の義士団』などを製作したピーター・
チャンの監督で、同作主演のドニー・イェンと、2008年8月
紹介『レッド・クリフ』などの金城武の共演によるかなりト
リッキーなアクション作品。
物語の背景は1917年。とある寒村で強盗をしようとした2人
の屈強な男が死に至る。それにはその村に住む紙職人の男が
関っていたが、全ては偶然の結果と主張していた。しかも死
んだのは手配中の凶悪犯と判り、男は一躍村の英雄となる。
ところがその死体の検分に来た捜査官はその死に方に疑問を
抱く。果たしてそれは本当に偶然の結果なのか…。調べを続
ける捜査官はやがてある事実に行き当たるが、それはさらに
大きな闇の扉を開くものだった。
映画では最初に証言に沿った場面が示され、その後に捜査官
の視点からの真相の場面が展開される。その少しずつ異なる
2つの場面がそれぞれに納得できるような見事なアクション
で描かれる。それらのアクションをドニー・イェンが的確に
演じていた。
昔、アメリカのMADというパロディ雑誌で、背中にナイフ
を刺され、首に紐の巻き付いた死体に対して、それを偶然の
事故死と言い切る探偵映画のパロディを読んだがあるが、本
作を観ていてそんなことも思い出した。
そんな正にトリッキーな展開を見事に映像で描き切った作品
だ。しかもそれぞれが破綻なく描かれているのだから、この
ようなトリックの好きな観客には堪らない作品と言える。そ
れを実現したドニー・イェンのアクション演出にも拍手した
い。

共演は2007年『ラスト、コーション』などのタン・ウェイ、
2003年『インファナル・アフェア無間序曲』などのクララ・
ウェイ、2007年11月紹介『中国の植物学者の娘たち』などの
リー・シャオラン。
そして香港映画から誕生した最初のカンフースターとも言え
るジミー・ウォングが重要な役柄で出演している。彼が主演
した1972年『片腕ドラゴン』は記憶されるべき作品だ。
        *         *
 VES賞の受賞者が発表されたが、アニメーション関連を
『ランゴ』が独占した他は、“Rise of the Planet of the
Apes”と『ヒューゴ』『キャプテン・アメリカ』『トランス
フォーマーズ』が分け合っている。この結果が26日のアカデ
ミー賞にどう影響するか。


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井口健二