井口健二のOn the Production
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2011年11月13日(日) 花子の日記、51、歴史は女で作られる、タンタンの冒険、パーフェクト・センス、セカイの向こうに、ドライブ、フラメンコ/フラメンコ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『花子の日記』
「ゆうばりファンタスティック映画祭2011」のコンペティシ
ョンに選出され、撮影の行われた香川県では6月に先行上映
された作品が、11月26日の東京渋谷を皮切りに全国順次公開
されることになり、試写替りのサンプルDVDを鑑賞した。
お話の舞台は香川県小豆郡小豊島(おでしまと読む)。島民
人口は20人弱だが、飼育されている牛の数は500頭という、
瀬戸内では珍しい畜産で生計が立てられている島。その島の
畜産家の育てた牛が、5年に1度の品評会で日本一に輝いた
ことから物語は始まる。
しかしその畜産家は、最高の肉牛を作り出すために全身全霊
を捧げて家族のことはほったらかし。そんな父親に反発した
娘は早々に島を出て、今は東京の美大に進学し帰省もせず、
卒業後も島に帰る気持ちはないようだ。
一方、韓国では、マフィアの組長が日本から盗み出した遺伝
子を使って美味しいイチゴの生産に成功していた。そして組
長が次に狙いを付けたのは美味しい和牛。そこで何も知らな
い韓国人親子を日本に送り込み、和牛の精子を盗み出すこと
を命じるが…
お互いに反発し合う日本人の親子と、何事にも協力する韓国
人の親子。そんな2組の親子が香川県東部の瀬戸内海や高松
市を舞台に、ブランド牛の遺伝子を巡るちょっとコミカルで
優しい物語を繰り広げる。

出演は、日本人親子役に、2007年12月紹介『ぼくたちと駐在
さんの700日戦争』などに出演の倉科カナと永島敏行。韓国
人親子役に、劇団・新宿梁山泊を旗揚げして2002年10月紹介
『夜を賭けて』の監督も務めた金守珍と歌手のSORAが扮
している。
脚本と監督は、2010年『グラキン★クイーン』という作品が
公開されている松本卓也。因に前作も香川県が舞台の作品の
ようだが、監督は東京都出身とのことだ。そして本作では、
2010年「さぬき映画祭」の準グランプリを受賞している。
お話は他愛もないもので、その割りには韓国マフィアがかな
り一方的に悪人に描かれているのはちょっと気になったが、
出演者の金はそれなりに主張もある人のようだから、その人
が認めているならそれで良いのだろう。
それに対して、日韓それぞれの親子関係が、もしかしたらこ
んなイメージなのかなと思わせるもので、それは日本人には
ちょっと悔しいけれど、納得はさせられた。


『51』“51”
After Dark Originalsの名称で全米公開のされているホラー
シリーズの1篇。本国ではシリーズの5本が今年1月に纏め
て限定公開され、その後の2月に単独で公開された本作が、
日本ではシリーズの第1弾として12月2日にDVDリリース
される。そのサンプルを鑑賞した。
題名は『24』のパクリではなくて、アメリカ・ネバダ州に
あるグレーム・レイク米空軍基地、通称エリア51のこと。
以前から墜落したUFOの搭乗員が収容されているなどの噂
の絶えない基地が、初めてマスコミに公開されるところから
物語は始まる。
そこに招かれたのは、全米ネットのニュースショウの司会者
と、ウェブで告発サイトを運営している女性。2人はそれぞ
れ撮影スタッフ1人ずつを連れて基地に乗り込む。そこでは
厳格な基地司令が案内を務め、見学が始まるが…
実はエリア51の地下には異星人を収容する秘密基地が実在
し、そこに収容された異星人は比較的従順でアメリカ政府の
活動にも協力していた。ところがその日、今まで従順だった
異星人たちが脱走。しかもその1体は接触した誰にでも変身
できる能力を備えていた。
と言うことで、変身能力があるならこっそり脱走すればいい
ものを、何か恨みでもあるのかやたらと凶暴になった異星人
が次々に殺戮を繰り返し、他にも凶暴な異星人がいて、その
中での脱出劇が繰り広げられる。そして基地には「自爆シー
クェンス」が発動される。

監督は、2009年“The Devil's Tomb”(邦題:デビル・ハザ
ード)という作品が公開されているジェイスン・コネリー。
前作はキューバ・グディングJr.主演で、当時に鑑賞はして
いたが、試写ではなかったので紹介はしなかったもの。しか
しそれなりの作品だった記憶がある。
そして本作の出演は、昨年12月紹介『トロン:レガシー』と
実は1982年の『トロン』にも出演していたトロン役のブルー
ス・ボックスレイトナー。他に、『デビル・ハザード』にも
出ていたジェイスン・ロンドン。
さらにテレビ“Supernatural”にレギュラー出演のレイチェ
ル・マイナー、2009年12月紹介『フィリップ、きみを愛して
る』に出演のアンドリュー・センニング、『POTC』の最
初の3部作に出ていたヴァネッサ・ブランチらが登場する。
まあ典型的なB級作品という感じだが、壺は外してはいない
し、それなりの作品にはなっていた。
なおシリーズには他に“Husk”“Prowl”“Seconds Apart”
“Fretile Ground”“The Tusk”(以上1月に限定公開)、
“Scream of the Banshee”(3月公開)“Re-Kill”(未公
開)という作品がラインアップされている。

『歴史は女で作られる』“Lola Montes”
1955年に製作され、日本でも1956年に公開されたマックス・
オフュルス監督、フランス=西ドイツ合作映画の修復版によ
るリヴァイバル公開。
因に本作は、1955年パリでの初公開に失敗し、その後は監督
の休暇を狙って製作者がズタズタにカットしたヴァージョン
が公開されていたという曰く付きのもの。その作品が2008年
にシネマテーク・フランセーズの手で修復され、今回はその
修復版が日本「初」公開されるものだ。
物語の背景は19世紀、その1821年から61年までを生涯とする
ダンサーにして高級娼婦でもあった芸名ローラ・モンテス、
本名エリザベス・ロザンナ・ギルバートの人生が、映画の製
作当時ではちょっと奇抜な構成で描かれる。
それは、サーカステントのような舞台で、口上と共に彼女の
男性遍歴が紹介されるというもの。そしてそれぞれの口上に
続いてそのドラマが描かれる。そこには音楽家のフランツ・
リストを始め、ドイツ国王ルートヴィッヒ1世など様々な男
性が関わる。
特にドイツ国王に対しては、彼女のために内閣を解散させた
り大学を閉鎖させるなど、国体を揺るがす程の悪女ぶりを発
揮。結局は彼女自身が国外追放され、国王も退位するという
歴史も作り出す。
そんな彼女が、今やサーカスの見世物に身を落とし、その口
上が述べ立てるままにサーカス芸を披露して自らの身の上を
演じ続けるという構成だ。
因に実話では、ドイツを追放された後の1851年に渡米し、そ
こではダンサーとして国内を巡業しているそうで、本作はそ
の頃を描いているようだ。さらにその後はオーストラリアで
舞台に立つが次第に落ちぶれ、最後はニューヨークで教会の
世話になって39年の生涯を閉じたとなっている。
という作品だが、映画の表現方法が多彩になった現代では上
記のようなフェイクの構成も受け入れられ易い。しかしこれ
が1955年の製作当時ではかなり奇抜だったことは確かかも知
れない。そんなことで当時の不評も判らないではないが、そ
の作品が今や堂々と公開されるものだ。

主演は、1956年『80日間世界一周』などにも出ているマルテ
ィーヌ・キャロル。他に、ピーター・ユスチノフ、今年5月
紹介『赤い靴』に出演のアントン・ウォルブルック、1966年
『華氏451』のオスカー・ウェルナーらが脇を固めている。

『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』
             “The Adventures of Tintin”
1929年に連載が開始され、1983年原作者のエルジェが亡くな
るまでに23冊、その後に刊行された未完の遺作を含めて24冊
が発表された人気コミックスの映画化。この映画化に、共に
オスカー受賞者のスティヴン・スピルバーグ監督とピーター
・ジャクスン監督が挑んだ。
なお計画では3作が製作される予定で、本作はその第1作。
その監督はスピルバーグが担当している。
物語は、原作の第11巻「なぞのユニコーン号」(1943年刊行)
と第12巻「レッド・ラッカムの宝」(1944年刊行)に基づくも
ので、そこに第9巻「金のはさみのカニ」(1941年刊行)のエ
ピソードが加味されている。
ここで主人公のタンタンは、蚤の市でユニコーン号という帆
船の模型を手に入れるが、その直後から怪しい男たちに付き
纏われるようになる。そして自宅が襲われ、帆船の模型は盗
まれるが…。それはタンタンを新たな冒険へと誘うことにな
る。
物語の舞台はベルギー、カリブ海、そしてサハラ砂漠。まさ
に世界を股に掛けた大冒険が繰り広げられる。
しかもその映画化は、『LOTR』などのVFXを手掛けた
ニュージーランドのWetaディジタルが新開発したモーション
キャプチャーを使って、原作の背景、キャラクターをそのま
まに映像化したもので、正にエルジェの世界がそのまま再現
されている。
これこそが、「初めて読んだときから、新たな発見の旅路を
共にする運命だとずっと信じてきた」というスピルバーグが
示した究極の映画化の実現のようだ。

モーションキャプチャーの演技と声の出演はジェイミー・ベ
ル、アンディ・サーキス、ダニエル・クレイグ。それに今年
10月紹介『宇宙人ポール』のニック・フロストとサイモン・
ペッグ。さらにトビー・ジョーンズ。そして愛犬スノーウィ
も活躍する。
なお、映画化は3Dでコミックスの舞台がリアルに映像化さ
れている。ただし、主人公の名前は日本ではフランス読みの
「タンタン」で知られているが、今回は英語の台詞なので原
語は「ティンティン」。字幕は「タンタン」だがその辺が気
になる人は、吹き替え版で楽しんだ方が良いかも知れない。
なお映画化の第2作は、“Prisoners of the Sun”の副題で
ジャクスン監督による計画が進行しており、監督が撮影中の
“The Hobbit”を完了し次第に着手することになっている。
題名から察するにペルーが舞台の作品になりそうだ。

『パーフェクト・センス』“Perfect Sence”
2003年『猟人日記』などで評価されるイギリスの監督デヴィ
ッド・マッケンジーが、一風変わった終末世界を背景にして
描いたラヴ・ストーリー。
始まりは、人々がいきなり悲嘆の感情を示した後で嗅覚を失
うというもの。その「疫病」は瞬く間に世界に蔓延する。そ
して主人公の1人は感染症が専門の女性病理学者で、彼女は
疫病の研究に従事するが病原菌などは検出されない。
もう1人の主人公はプレイボーイのシェフ。前の彼女を一方
的に振った直後の彼は、休憩に出てきた厨房の裏庭で、同じ
裏庭に面した部屋に住む女性病理学者に声を掛ける。そして
ベッドを共にした2人に悲嘆の感情の波が押し寄せる。
人間は嗅覚が無くなると食べ物の美味しさが半減する。この
ため主人公の務めるレストランも開店休業に追い込まれる。
これに対し主人公らは、味を強くした料理を提供して客足を
取り戻すのだが。「疫病」は次に人々の味覚を奪い去る。
こうして次々に窮地に追い込まれながらも、何とかそれを克
服しようとするシェフらの努力と、そんな窮地だからこそ育
まれる2人の愛情が描かれて行く。しかし「疫病」は人々の
五感を次々に奪って行く。

脚本は、デンマーク出身のキム・フォップス・オーカソン。
地元の国際映画祭やワルシャワ国際映画祭でも受賞している
ベテラン脚本家の作品にマッケンジー監督が反応し、デンマ
ークとイギリスの共同製作で映画化が実現した。
出演は、ユアン・マクレガーとエヴァ・グリーン。マクレガ
ーは『猟人日記』でも監督と組んでおり、待望の再会となっ
ている。そこに2006年『007/カジノ・ロワイヤル』など
のグリーンが参加したものだ。
他には、2006年6月紹介『マッチ・ポイント』などのユエン
・ブレムナー、2003年7月紹介『閉ざされた森』などのコニ
ー・ニールセン、2003年12月紹介『ギャザリング』などのス
ティーヴン・ディレイン、そして、『SW』のトリビア=ウ
ェッジ・アンテリーズ役でマクレガーに役者の道を勧めたと
言われるデニス・ローソンらが脇を固めている。
本作はデンマーク人の脚本ではあるが、『草の死』や『トリ
フィド』などイギリスSFが得意とする終末ものの作品で、
過去の映画化と同様、本作でも製作費を掛けずに巧みに仕上
げられている。特に、発症の前に感情の爆発があるという設
定が物語を見事に盛り上げていた。

その一方で、ケニヤやメキシコ、インドにはちゃんと撮影班
を派遣するなど、丁寧に作られた映像が素晴らしい効果を挙
げている作品でもある。災害の中でも力強く立ち上がる人々
の姿は、特に今の日本人には共感を持って観られそうだ。

『ドット ハック/セカイの向こうに』
2002年にプロジェクトがスタートしたというゲーム、アニメ
などのメディア・ミックス=『.huck』シリーズの最新作。
プロジェクト初のオリジナル劇場版という作品が3Dで公開
される。
物語の背景は、「ワールド」というオンライン・ゲームが人
気を呼んでいる近未来。主人公は、そんな中でもあまりゲー
ムには興味を示していなかった少女。そんな少女が周囲の勢
いに押されてふとゲーム世界に入ってみると…
そこで少女は、いきなり世界を破壊し掛ける異様な敵キャラ
に出会ってしまう。しかもそこには謎の少女と敵キャラに対
抗するグループもいるが、それはユーザーによって操作され
ているものではなさそうだ。
そしてその敵キャラが、ネットワークを通じて現実世界をも
脅かし始める。
主人公らはフェイスマウントディスプレイを装着し、五感を
使ってバーチャル世界を現実のように動き回る。そんな理想
的なゲーム世界が描かれている。それを映画の観客も3Dで
体感できる仕組みの作品だ。
それに映画では、物語の中の現実世界が何処となくコミック
スの絵柄のような大まかさで表現され、それに対するゲーム
世界の表現が精緻で、ゲーム世界の方がリアルに感じられる
のは上手い仕掛けのようにも思えた。
さらに主人公がゲーム初心者で、主人公の行動の中で徐々に
ゲームの全容が知れて行くという構成もなかなか上手く考え
られている感じがした。それは特に主人公に知らされていな
い情報の部分に関しても、違和感なく受け取れるのも巧みな
構成だった。
ただ、主人公の仲間がより多数の仲間に協力を呼び掛ける辺
りの展開が、もう少しその理由付けなどを明確に欲しかった
もので、それがあればより感動的なクライマックスになった
ような気がしたのはちょっと残念に感じられたところだ。

監督は、ゲームソフト「NARUTO」がシリーズで860万本を突
破しているというゲーム制作者の松山洋。脚本は『機動警察
パトレイバー』や『平成ガメラ』シリーズなどの伊藤和典。
2人は共に『.huck』プロジェクト創設メムバーだそうだ。
声優は、2009年7月紹介『サマー・ウォーズ』などの桜庭な
なみ、2009年7月紹介『TAJOMARU』などの田中圭、『侍戦隊
シンケンジャー』などの松阪桃季。
実は、桜庭のアテレコには最初は少し戸惑ったものだが、本
人が透けて観えるのも、それはそれで了解という感じかな…


『ドライブ』“Drive”
先月紹介『ラブ・アゲイン』などのライアン・ゴズリング、
昨年12月紹介『わたしを離さないで』などのキャリー・マリ
ガン共演で、デンマークの鬼才と言われるニコラス・ウィン
ディング・レフン監督に今年のカンヌ映画祭で監督賞をもた
らした作品。
主人公は、ロサンゼルスで強盗の逃走車を運転して小銭を稼
いでいる男。普段は自動車修理工場で働いているが、数年前
にふらりと現れたというだけで素性も明らかではない。しか
し、映画のカースタントも請け負うほどのドライヴィングテ
クニックの持ち主だ。
そんな男がアパートの同じ階に住む子連れの女性と付き合い
始める。その女性の夫は刑務所に入っていたが、すぐに出所
の時を迎える。そして夫は男の存在も気にするが、夫の事情
で2人はある仕事で手を組むことになる。ところが…

共演は、昨年5月紹介テレビシリーズ『ブレイキング・バッ
ド』で3年連続エミー賞受賞のブライアン・クランストン、
1987年『ブロードキャスト・ニュース』などのアルバート・
ブルックス。
他に、今年4月紹介『エンジェル・ウォーズ』などのオスカ
ー・アイザック、昨年12月紹介『かぞくはじめました』など
のクリスティーナ・ヘンドリック、さらに、2008年9月紹介
『ヘル・ボーイ』などのロン・パールマンらが脇を固めてい
る。
なお、本作は2006年に翻訳の出ているジェイムズ・サリスと
いうミステリー作家の原作に基づくものだが、原作の女性は
ヒスパニック系だったそうだ。しかし脚本を読んだマリガン
が出演を熱望し、彼女に合わせて脚本が書き直されたとのこ
とだ。
そんな女性の姿をマリガンが繊細に演じ、微妙な三角関係を
見事に描き出して行く。
なお原作者のサリスは、ウェブで調べたらサミュエル・R・
ディレイニーの関連書籍や、トマス・M・ディッシュの追悼
文なども発表しているようで、もしかしたらSFにも理解の
ある作家かも知れない。
ただ、映画は暴力的な描写で日本公開はR-15のレイティング
とされるもので、その辺の描き方には衝撃も覚える作品だっ
た。これが原作のせいなのかそれとも監督の嗜好かは判らな
いが、その辺は少し覚悟して観る必要はありそうだ。

『フラメンコ、フラメンコ』“Flamenco, Flamenco”
2010年2月紹介『ドン・ジョヴァンニ』などのスペインの名
匠カルロス・サウラ監督が、スペイン・アンダルシア地方の
伝統芸術「フラメンコ」の真髄に迫った2010年の作品。
サウラ監督は、1994年にも『フラメンコ』と題する同様の作
品を発表しており、その際も組んだ1980年『地獄の黙示録』
など3度のオスカーに輝くカメラマン=ヴィットリオ・スト
ラーロと共に、再びその世界に挑んでいるものだ。
そしてそこには、フラメンコの神と称されるマエストロたち
と、新世代のアーチストたちが豪華に共演し、前作から16年
を経たフラメンコの今が描き出されている。
という作品だが、正直なところはフラメンコにかなり精通し
ていないと本作を完全に理解することは難しいようだ。
実際に作品はナレーションなどを一切廃して、ただフラメン
コの演奏を描写して行くだけで、そこには演奏者の名前など
はテロップで表示されるが、その名前も知らなければ作品の
本質も理解できない。
因に作品では、ルンバ、アレグリアスなどのフラメンコの種
類に分けた演奏なども行われているようで、それらが21章、
21の楽曲に渡って描かれている。それもテロップには表示さ
れるものだが、これらも事前の知識なしでは判断ができなか
った。
さらに映像には、多分ロートレックらによるフラメンコを題
材にした様々な絵画も登場するが、それも解説抜きではなか
なか判断も難しい。僕にはロートレック、ルノワール辺りが
かろうじて判る程度だった。
とは言え監督の1994年作以来、日本にもフラメンコのファン
は激増しているのだそうで、そういう人たちにはこれで充分
なのかな。それは豪華な演奏が、見事な舞台装置の中で繰り
広げられる作品だ。

なお作品では巻頭と最後に「緑よ、私が愛する緑」“Verde
que te quiero verde”という楽曲が2回も登場し、「ヴェ
ルディ、ヴェルディ」と歌われるもので、これは東京ヴェル
ディのサポーターには是非観て貰いたいと思ったものだ。


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井口健二