井口健二のOn the Production
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2011年09月25日(日) WAYA、ライオン・キング3D、クイック、スマグラー、RAILWAYS2、ネムリユスリカ、三銃士、サラの鍵

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『WAYA!』
2009年『築城せよ!』の古波津陽監督による第2作。前作に
はかなりファンタスティックな要素もあったようだが、その
試写は観られなかった。その監督の新作ということで、それ
なりの期待は持って観に行ったのだが…。今回のお話はスト
レートなものだった。
舞台は、名古屋駅と名古屋城を結ぶ、立派なアーケードのあ
る円頓寺商店街。その街に暮らす前世紀の遺物とも言えそう
なお節介な商店会のメムバーたちが、商店会を長年守ってき
た1人の商店主の恩に報いようと、宇宙一お節介な大作戦を
展開する。
それは商店主が過去にちょっとした秘密を持っていることが
判明し、その秘密をネタにした作戦が立てられるのだが…。
それは徐々に周囲の人々の想いも巻き込んで、大掛かりなも
のへとなって行く。

出演は、愛知県出身のお笑いコンビ「スピードワゴン」の井
戸田潤と小沢一敬、三重県出身女優の水野美紀、名古屋で活
動する子役モデルの三輪泉月、さらに名古屋を基盤とする舞
台俳優の小島範子、服部公、それにSKE48の矢神久美と
松井珠理奈。
他に、矢崎滋、ルー大柴、藤田朋子、モロ師岡、舞台俳優の
成瀬功らが共演している。因に、藤田は監督の前作の『築城
せよ!』、成瀬はそのオリジナル版の短編にも出演していた
ようだ。
観光で地方のシャッター商店街など目の当りにすると、こん
な元気な商店街がどこにあるのかとも思ってしまうが、実際
にこの作品は名古屋円頓寺商店街から発信されたものだそう
で、その商店街の全面協力のもと映画は制作されたようだ。
そんな元気な商店街でも、映画に登場するように店仕舞いの
増えている現実はあるようだが、それでも何とか生き残って
全国にその元気を発信しようとしている、そんな元気を感じ
取ってあげたい作品だ。
なお映画の中では、前作『築城せよ!』と同様に建物を再建
するシーンがあり、そこでは廃材などを使った建設が実際に
行われている。それはちょっとファンタスティックであり、
監督の面目躍如でもあったようだ。


『ライオン・キング:ディズニーデジタル3D』
                   “The Lion King”
1994年公開、ディズニーアニメーションで最大ヒット(世界
興収7億8380万ドル)を誇る作品の3D化による再公開。
物語は、アフリカの草原地帯に暮らすライオン一家の1人息
子を主人公に、草原の王座を狙う叔父ライオンの策略で故郷
に居られなくなった仔ライオンが、放浪の旅先で成長し、や
がて自らの使命に目覚めて横暴を極める叔父ライオンと対決
するまでを描く。
1994年の公開時には『ジャングル大帝』との盗作問題なども
話題になった作品だが、それでも後に舞台ミュージカル化さ
れたり、上記のような大ヒットを記録しているのだから、そ
の実力は高く評価されるべきものだろう。
ただまあ本作を観ていて、サバンナに草食獣たちが集まって
くる様子を俯瞰で捉えたシーンなどには、やはりディズニー
と言うよりは手塚治虫のテイストだよなあ…とは、改めて感
じてしまったところだ。
という作品の3D化だが、今回の3D化は昨年9月に紹介し
た『美女と野獣』のときとは、また少し違った感触のものに
なっていた。
それは1991年製作の『美女と野獣』が、新たに導入されたC
GIアニメーションとの整合性の都合などで、かなりの立体
感が当初から付与されていたのに対し、本作『ライオン・キ
ング』は完全な2D作品。
したがって3D化されたシーンの多くは、正に書き割り的な
前後感で変換されており、その点では間違いなしの3D感を
味わえる作品になっていた。
ただしキャラクターに関しては、元々3Dのモデリングはさ
れていなかったようで、その辺では多少物足りなさは感じら
れる。とは言え全体的には3D感はたっぷりの作品に仕上げ
られているものだ。

なお日本公開は主に吹き替え版になりそうで、試写も吹き替
えで行われているものだが、エンドロールによるとオリジナ
ルの声優には、ジェームス・アール・ジョーンズ、マシュー
・ブロデリック、ジェレミー・アイアンズ、ネイサン・レイ
ン、ウーピー・ゴールドバーグといった錚々たる顔ぶれが並
んでおり、特にザズーの声優がローワン・アトキンスンだっ
たのには、あの奇妙な手つきの謎が解けたものだ。

『クイック!!』“퀵”
2009年『TSUNAMI』を大ヒットさせたユン・ジェギュン監督
が製作を担当し、本作を演出したチョ・ボムグ監督と共に、
4年の歳月と日本円で10億円の製作費を掛けて作り上げたと
いう高速アクション作品。
元暴走族でバイク便ライダーの主人公が、ヘルメットに仕込
まれた爆弾で脅されながら、爆弾テロの配達人をしなければ
ならなくなる。そこには当然警察の阻止線や、パトカーとの
カーチェイスなども満載に、縦横無尽のバイク走が描かれる
というものだ。
また爆弾テロでは、工事現場から高層ビル、さらに列車まで
もが標的にされ、その中で主人公と、偶然事件に巻き込まれ
た彼の元カノを中心に、大規模なクラッシュシーンやスタン
トマンが体を張った爆破シーンなどが次々に展開される。
という作品で、とりあえず観客はそのクラッシュや爆破の凄
さにただ驚嘆していれば良いのかな。でも一歩下がってみる
とかなりシナリオの粗さも目立つもので、その辺は製作者の
前の監督作品でも指摘されていたようだが…。本作も変って
はいない。
それは、例えば主人公の腕時計と元カノの被ったヘルメット
が10m以上離れると爆発するという仕掛けは、確かに見た目
は面白いが…。犯人が何のためにそんな仕掛けを用意したの
か意味不明だし、その他にも展開上で無理のある設定は散見
された。
でもまあ、この種の映画の観客にはそんなことはどうでも良
いようで、試写会場でも、上映中はかなりの笑い声が上がっ
ていた。爆弾テロはかなりシリアスな問題だし、僕には本作
がコメディなのかどうかも、よく解らなかったのだが。

出演は、『TSUNAMI』にも出ていたイ・ミンギ、カン・イェ
ウォン、クム・イングォンが揃って再登場している。なおカ
ンは昨年10月紹介の『ハーモニー』に出演しており、キムは
同年7月紹介の『シークレット』に出演していたようだ。
また、撮影にはディジタルのREDカメラが使用され、さらに
マイクル・ベイが『トランスフォーマー』で採用したという
Doggiecamシステムが、アジア地区で初めて導入されている
そうだ。こういうものにいち早く挑戦できるのも、韓国映画
界が元気な証拠だろう。

『スマグラー〜おまえの未来を運べ』
真鍋昌平原作、月刊「アフタヌーン」で2000年に連載された
コミックスの映画化。原作からは1999年『鮫肌男と桃尻女』
などの石井克人が脚色・監督した。
主人公は25歳フリーターの男。そんな男が中国人の裏ROM
組織に誘われるが、警察に面が割れて組織に損害を与えてし
まう。そこでその賠償金を闇金から借り、さらにその闇金の
斡旋で危険な運送業の手伝いをする羽目になる。
その運送する主な貨物は、闇の稼業で発生した死体。その死
体や汚物などを山中の焼却場に運び込んで跡形もなく始末す
るのが、彼ら運送業者(スマグラー)の仕事だ。しかしそん
な仕事にはトラブルも付き物だった。
これに背骨、内蔵と呼ばれる2人組の中国人殺し屋や、中国
マフィアと日本の組織暴力団との抗争などが絡んで、アクシ
ョンというよりヴァイオレンスに満ちた物語が展開されて行
く。

出演は、妻夫木聡、永瀬正敏、松雪泰子、満島ひかり、安藤
政信。他に、小日向文世、高嶋政宏、島田洋八、テイ龍進、
我修院達也、阿部力。さらに津田寛治、寺島進、松田翔太、
大杉漣らが脇を固めている。
なお石井監督は、以前から北野武監督に憧れているようで、
本作はそのようなイメージにも溢れた作品。そして出演者に
も、安藤を始め北野作品所縁の俳優が多く名を連ねている。
一方、永瀬、我修院、島田は石井作品に複数出演のようだ。
キャスティングはなかなか面白い顔ぶれで、しかも各自が生
き生きと演じている。特に妻夫木は以前から石井作品への出
演を熱望していたとのことで、その思いが伝わってくる感じ
だ。また高嶋のサディスティックな怪演ぶりも、これは話題
になりそうだ。
その他、それぞれ中国映画で主演歴のある安藤、テイ、阿部
らの中国人役も様になっているし、松雪、満島の女優陣も役
に填った好演を見せている。
ただし…、ハイスピードカメラとVFXで描かれたヴァイオ
レンスシーンでは、特に液状物の飛び散り方はかなりグロテ
スクで、それに妻夫木ファンの女性たちがどう反応するか、
その辺が多少心配にはなるところだが。


『RAILWAYS〜愛を伝えられない大人たちへ』
昨年2月紹介した『RAILWAYS』と同じ製作者、脚本家による
地方鉄道の運転士を主人公にした作品。といっても続編では
なく、舞台も登場人物も異なる独立した作品だ。
主人公は、定年を1カ月後に控えた富山地方鉄道の運転士。
35年間無事故の実績は、会社からは定年を延長して勤務を続
ける事も請われているが、彼自身は仕事を辞めて、仕事のせ
いで長年苦労を掛けてきた妻と共に余生を送りたい考えだ。
ところが妻の考えはそうではなかった。退職を1カ月後にし
たその日、元看護士だった妻は突然、また以前のように働き
たいと言い出す。そして勝手に就職を決めて来た妻に、主人
公は思わず言葉を荒げてしまうのだったが…
熟年夫婦の破局というのは結構多いようだが、特に看護士の
ような職業は経験も求められるものだし、こういう事態は起
こりやすいかも知れない。しかし僕自身が夫の立場から考え
ると、そんな妻の想いになかなか気付かないのも男性の姿で
はありそうだ。

出演は、三浦友和、余貴美子、小池栄子、中尾明慶、吉行和
子。三浦は、昨年2月紹介の作品で息子が映画デビューを飾
っており、今度は父親が登場ということになる。他に、塚本
高史、中川家礼二、立川志の輔、岩松了、仁科亜季子、米倉
斉加年、徳井優、清水ミチコ、西村雅彦らが脇を固める。
製作総指揮は前作と同じく阿部秀司、脚本も同じく小林弘利
とブラジリィー・アン・山田が担当し、監督は前作の助監督
を務めた蔵方政俊が監督デビューを飾っている。
なお、主人公が指導する若者が埼玉県所沢の出身となってい
て、その理由付けがなかなかのものだった。それから映画に
は三浦が電車を運転しているシーンが何度か登場するが、そ
の姿はVFXによるすげ替え、『ALWAYS』の製作者が面目躍
如という作品だ。

富山には先週行ったばかりで、富山地方鉄道には乗らなかっ
たが、同社が運行するバスには乗車した。また映画に登場す
る岩瀬浜の近辺も観光したので、その風情などはちょっと懐
かしくも感じられた。
これで山陰、北陸と来て次はどこの地方鉄道になるのかな、
それも楽しみなシリーズになってきた。

『ネムリユスリカ』
レイプ事件がもたらす人間の生き様を描いた作品。すでに、
オランダのロッテルダム国際映画祭やイギリスのレインダン
ス映画祭に正式出品されて海外でも評価を受けている。
バレエ教室の帰り道でレイプされ、妊娠してしまった少女。
その17年後、少女の一家には何があったのだろうか。今の一
家は、元レイプ被害者の母親と、犯罪によって誕生した娘、
そしてその祖父が川原に留めたバンの中でひっそりと暮らし
ている。
その一家の目的はただ一つ、レイプ犯を探し出すこと。その
探偵に支払う費用の捻出のため、母親はラヴホテルに出入り
してマッサージで金を稼ぎ、娘とその祖父はホテルの好意で
開けてもらった客が帰った後の部屋で入浴する。
それは絶望的に困窮した生活ではあるが、3人の絆は強い。
特に娘が母親と祖父に向ける愛情は人並みのものではない。
しかし、一家に犯人発見の報告がもたらされたとき、それは
レイプによって誕生した娘に新たな葛藤を生じさせることに
なる。

初主演で過去の母親と現在の娘の2役を演じるのは平野茉莉
子。テレビ番組のアシスタントや雑誌モデル、舞台を経て本
作が映画デビューとのことだが、圧倒的な存在感で作品を引
っ張っている感じだ。
共演は、2006年3月紹介『間宮兄弟』に出ていたという駒形
美如、テレビドラマ『琉球の風』などの岩尾拓志。
他に、今年3月紹介『ポールダンシングボーイ★ず』に出て
いたという中村太一、それに世界各地のピアノコンクールで
受賞の最年少記録を塗り替えているという小林愛実が特別出
演して演奏も聞かせてくれる。
という作品だが、この映画でさらに注目したいのは撮影の素
晴らしさ。この撮影は、脚本、監督も務めた坂口香津美が自
ら手掛けているが、特に一家が暮らす川原の夜間シーンで、
暗い中の近景から対岸の遠景まで見事にパンフォーカスされ
た映像には驚嘆した。
この撮影には、ソニーの最新型ヴィデオカメラが使用されて
いるとのことだが、元々がテレビドキュメンタリーを数多く
手掛け、ヴィデオカメラの特質を知り尽くした監督が、その
特質を極限まで使いこなした映像といえるようだ。
思えば、1999年に亡くなったスタンリー・クーブリックは、
1968年の『2001年宇宙の旅』で宇宙空間でのパンフォーカス
を得るためにモーションコントロールの基礎を作り、同じく
1975年の『バリー・リンドン』ではロウソクの明かりで撮影
するためNASA開発の高感度レンズを使用したものだが、
本作の監督はそれらを見事に実現してしまった。
そこには勿論ヴィデカメラの性能の向上もありはするが、そ
の性能を完璧に使いこなしてみせた監督には賞賛を贈りたい
ところだ。この映像には世界が驚嘆するに違いない。映画の
カメラマンは、もっとこの技術に学ぶべきだ。

『三銃士〜王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』
               “The Three Musketeers”
すでに何度も映画化されているアレクサンドル・デュマ原作
の冒険小説に、今回は『バイオハザード』などのポール・W
・S・アンサースン監督が3Dで挑戦した作品。
邦題ではサブタイトルに「王妃の首飾り」とあり、映画にも
首飾りは出てくるが、デュマの同名の作品の物語ではなく、
ダルタニアンの出自から三銃士との出会い、リシュリュー卿
とミレディの暗躍、さらにルイ13世とアンヌ王妃、コンスタ
ンス、バッキンガム公などが登場する正に『三銃士』の映画
化になっている。
そしてそこに、邦題の後半「ダ・ヴィンチの飛行船」が出現
して、こちらはVFXも満載のアドヴェンチャーが展開され
る。さらには原作と同様の剣戟戦も次から次に登場し、これ
もVFXによって旧作以上の迫力になっている。
剣戟戦というと、最近では2003年8月紹介『パイレーツ・オ
ブ・カリビアン』がその魅力を復活させたものだが、同作の
続編がVFXの大スペクタクルを指向したのに対して、本作
はその原点に戻った感じだ。しかもアンダースン監督はそこ
にVFXとの融合も見事に果たし、さらに3Dの魅力も存分
に発揮しているものだ。

出演は、ダルタニアン役に昨年『パーシー・ジャクソン』で
も主演を務めたローガン・ラーマン。対する三銃士役には、
昨年12月紹介『ブローン・アパート』などのマシュー・マク
ファデン、今年9月紹介『ブリッツ』などのルーク・エヴァ
ンス、昨年2月紹介『パニッシャー』などのレイ・スティー
ヴンスンが扮している。
さらにミレディ役にミラ・ヴォヴィッチ、リシュリュー卿役
にはクリストフ・ヴァルツ、バッキンガム公役にはオーラン
ド・ブルーム。特に、アンダースン監督夫人でもあるジョヴ
ォヴィッチは、夫の演出による謎の美女役を実に楽しそうに
演じている。
また、コンスタンス役にイギリス出身のガブリエラ・ワイル
ド、アンヌ王妃役には2007年12月紹介『つぐない』などのジ
ュノー・テンプル、ルイ13世役に名優エドワード・フォック
スの息子で演劇学校を卒業したばかりのフレディ・フォック
スら、期待の新星も出演している。
何しろ剣戟戦もアクションもVFXも満載の作品で、キャメ
ロン開発フュージョン3Dカメラで撮影された3D感もたっ
ぷり楽しめる。正にエンターテインメント大作と呼べる作品
だ。
なおアンダースン監督は、以前に「自分の作品は常に3部作
を考えて作っている」と語っていたが、本作も続編は作られ
そうだ。


『サラの鍵』“Elle s'appelait Sarah”
世界的なベストセラーになっているタチアナ・ド・ロネ原作
の映画化で、昨年の東京国際映画祭で監督賞と観客賞をW受
賞した作品が日本公開されることになり、改めて試写を観に
行った。
物語については昨年10月24日付でも紹介したが、1942年7月
16−17日にパリに住んでいたユダヤ人を襲った悲劇を描いた
もの。さらにそこに隠された謎を、アメリカ出身だがフラン
ス人の夫と共に現代のパリに在住する女性ジャーナリストが
追求して行く形式を取る。
それは、1995年になって漸くフランス政府が公式に謝罪した
ユダヤ人迫害の歴史。その日、パリのユダヤ人はフランス警
察によって老若男女を問わずに一斉検挙され、ヴェルディヴ
の冬期競輪場にすし詰め状態で留置される。
そこではトイレも閉鎖され、医師も8000人といわれる収容者
に対して3人しか配置されていなかった。さらに収容者には
食事はおろか、水もほとんど配給されない状態で5、6日が
経過され、その後は各地の収容所へと送られて行った。
一方、そのユダヤ人が去った後のアパルトマンに、主人公の
夫の祖父一家は引っ越してくる。そこに隠された悲劇も知ら
ずに。そして主人公の追跡は、ヴェルディヴに連れ去られた
1人のユダヤ人少女の数奇な運命を炙り出して行く。
その時のヴェルディヴの記録は、唯1枚の俯瞰写真以外ほと
んど残されていないとされる。それは何事も記録したナチス
のやり方にそぐわないが、実はそれがフランス警察によって
独自に行われた事の証左になっているとのことだ。
そして映画では、現代と過去と巧みに交錯させて、その悲劇
の有り様を見事に再構築して行く。ホロコーストはアウシュ
ヴィッツだけではなく、収容所の被害者名簿に残っていない
人々も襲っていたのだ。

脚本と監督は、自身の祖父が収容所で亡くなっているという
ジル・パケ=ブレネール。その監督は、原作を読み始めて直
ぐに映画化を決意し、本作の共同脚本も手掛けたセルジュ・
ジャンクールが原作者の知人であったこともあって映画化を
申し入れた。
その後、原作がベストセラーになって作家には世界中からの
オファーが殺到したが、原作者は最初の約束を守ったとのこ
とだ。
出演は、2002年9月紹介『ゴスフォード・パーク』などのク
リスティン・スコット・トーマス。またサラ役には、2010年
9月紹介『Ricky』でも幼い姉を演じていたメリュジー
ヌ・マヤンス。紹介作でも着目した新星が、本作でも見事な
演技を観せている。
他に、2003年4月紹介『夏休みのレモネード』などのエイダ
ン・クインらが共演。
今年3月紹介『黄色い星の子供たち』とも対になる作品だ。


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井口健二