井口健二のOn the Production
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2011年05月08日(日) サンザシの樹の下で、いのちの子ども

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『サンザシの樹の下で』“山楂樹之戀”
2003年5月紹介『HERO』や、2008年2月紹介『王妃の紋
章』などのチャン・イーモウ監督による最新作。『王妃…』
の紹介文では、2000年『初恋のきた道』には戻れないか…な
どと書いたが、本作はしっかりそこに戻ってきてくれたよう
な作品だ。
その本作は、中国系アメリカ人作家エイミーによる中国内で
300万部を売り上げたとされるベストセラー小説の映画化。
文化大革命時代を背景にした実話に基づくという若い男女の
恋愛が描かれる。
主人公は町の高校から再教育のための農業実習で農村にやっ
て来た女子高生。その村には抗日の象徴とされるサンザシの
樹があり、日本軍によって銃殺された人々の血が染み込んだ
とされる土地から生えたその樹は、季節には本来の白ではな
く赤い花を咲かせるのだという。
そんな村で村長の家に身を寄せた主人公は、同じ家に出入り
し家族と共に食事をする近くの川原で地質調査をしているエ
リート青年と言葉を交わすようになる。そして2人の感情は
徐々に高まって行く。
ところが主人公の家は、両親共に教育者のようだが、時代の
中で反革命分子として迫害を受けており、母親は貧しい生活
の中で娘が教員になることを望んで、そのためには正式採用
になるまで一切の問題になる行動を禁じていた。それには恋
愛も含まれていた。
しかし教員への仮採用が決まってもさらに正式採用まで数々
の苦難に晒される主人公に、青年は手を貸さざるを得ない。
そんな2人の姿はやがて母親も認めるようになって行くのだ
が…

主演は、本作のために2500人以上のオーディションの中から
選ばれたという1992年生まれのチョウ・ドンユイ。それに中
国出身だがカナダ在住、1988年生まれのショーン・ドウ。因
にドウはイーモウ監督の次回作にも出演しているようだ。
他に、1993年『ジョイ・ラック・クラブ』に出演のシー・メ
イチュアン、2007年8月紹介『呉清源』に出演のリー・シュ
エチェン、先月紹介『ビューティフル』に出演のチェン・ツ
ァイシェンらが脇を固めている。
イーモウ監督自身が下放政策によって農民や工員として生活
した経験があるとのことで、本作にはそんな思いも込められ
ているのかもしれない。しかし作品は純粋な恋愛映画として
描かれており、それは世界中の誰しもが共感できる物語とな
っている。
『初恋のきた道』ではチャン・ツィイーを見出したイーモウ
監督の新ヒロイン、ドンユイにも注目が集まる作品だ。

『いのちの子ども』“Precious Life/חיים יקרים”
パレスチナのガザ地区で20年以上に亙りイスラエルの商業テ
レビ局チャンネル10のレポーターとして活動するシュロミー
・エルダールの取材(監督・撮影・ナレーション)による幼
い命を巡るドキュメンタリー。
イスラエルが設置した検問所によってほぼ封鎖状態に置かれ
ているガザ地区は、毎日のように行われるイスラエル軍によ
る砲撃の下で日々の日常が送られている。そんなガザ地区を
取材するエルダールにある日、医療センターの医師から取材
の依頼が届く。
テル・アビブに所在するその医療センターは、パレスチナ人
の医療も引き受け、特にガザ地区で重篤とされた患者が検問
所を越えて収容される場所。そしてエルダールが出会ったの
は、先天性の免疫不全症に苦しむ幼児を抱えた母親だった。
その治療には脊髄移植が提案されているが、その費用を支払
う術が両親にはない。そこでエルダールは自ら担当する番組
で両親の窮状を訴え、その費用の調達に成功するのだが…そ
こには民族間に横たわる数々の問題や確執が渦巻いていた。
作品は幼い命を救うために奔走する人々の姿を描き、そこに
は篤志や偶然?やいろいろな出来事が描かれている。その一
方で、作品はパレスチナ問題の歴史的な深さや現状の問題を
炙り出す。
例えば幼児の母親は、医師とは英語で会話するほどの教養の
持ち主のようだが、彼女が時折々に見せるパレスチナ人とし
ての考え方やイスラムの教えは、ある意味震撼とさせるもの
があったりもする。
折しも試写から帰宅したらアメリカ軍によるビン・ラーディ
ン殺害のニュースが流れていたが、問題はそれだけで済むも
のではない。それでもそれらを乗り越えて行こうとする人々
の姿が、微かな希望としてこの作品には描かれていた。
なお映画に登場する産科医は、2009年のノーベル平和賞候補
にも挙がったことのある人物だそうだ。

こういう人々の真剣な姿を観ると、軽薄なヴァラエティ番組
で世界中の戦場を飛び回っていると自称する戦場カメラマン
とかいう連中には、単にお前が戦争が好きなだけでしょうと
言いたくなる。そんな気分にもさせられる作品だった。
        *         *
 今回はGWの連休中なので紹介は2本のみです。それで、
製作ニュースを纏めて…、と思ったのですが、前回報告した
入院の影響でデータの収集が滞っており、また情報はいくつ
かあるのですが目新しいのものもあまりないので、今回は割
愛します。
 次回までには体制を立て直しますので、またよろしくお願
いいたします。


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井口健二