井口健二のOn the Production
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2010年06月27日(日) トイ・ストーリー3/3D、最後の忠臣蔵、石井輝男/映画魂+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『トイ・ストーリー3/3D』“Toy Story 3”
すでに先月に一度紹介したが、3D(日本語版)での試写を
観たので改めて報告しておこう。
物語は前回も書いたので省略して、今回は特に3Dの効果に
関して報告したい。と言ってもあまり特別ではなくて、ディ
ズニー/ピクサーの3Dでは、『カールじいさん』と同様、
特に飛び出してくる効果は考えられていないようだ。
その点で言うと、先の『トイ・ストーリー1/2』の3Dと
同じ…と言うか、『1/2』と比較してもまったく違和感が
ないのは、正に最初からシリーズ全体が3Dで設計されてい
たということなのだろう。
ところで、最近週刊誌の広告で「3Dが映画を駄目にする」
といった聞いた風な論調を観かけたが、元々人間は3Dを認
識できるように作られている訳で、それを自然に表現してい
るだけの3Dが、映像を記録する映画を駄目にと言うことは
有りえない。
もちろん、3D効果だけを狙った歪な作品や、3D撮影のた
めの製作費の増大などは問題としてあるだろうが、映画界の
人間の全てがそれほどの無能者でもないし、その辺は自然淘
汰もされて、その中から映画としての3Dが共存共栄して行
くことは間違いない。
なお以前の3Dが定着しなかったのは、システム的にいろい
ろ問題のあったものだが、近年のものはそれが解消されてい
る。だから映画人がこぞって挑戦している。その辺の見極め
もされているということだ。
そんな意味でも、今回の『トイ・ストーリー3/3D』は、
そのお手本になりうる作品と言えるものだ。
ただし併映の『デイ&ナイト』に関しては、短編作品なので
もう少し何か実験的な試みが有るかと期待したが、切り抜き
の画面と言うだけで特別な感じのものはなく、間違いなく3
Dではあるが、多少の物足りなさは残った。まあそれが併映
作品ではあろうが。
ここから話は変わるが、実は先日大阪は天保山のサントリー
IMaxに出掛けて3D作品を1本観てきた。以前にも書いたと
思うが、ここは多分日本最大のIMaxスクリーンが設置されて
いるところで、映像ファンにはぜひ一度は訪れて欲しい場所
だ。
そこでその日に上映中の海洋物の作品を観たのだが、その作
品では目の前の1mくらいのところに被写体が有るという正
に3Dを堪能できた。しかし、さすがにそれが連続すると目
が非常に疲れるということも再認識した。
IMaxの広大なスクリーンでは、他の部分も観るようにすれば
疲労は軽減されると思うが、やはり目の前に被写体が寄って
くるとそこに注目してしまう。そういう問題には馴れている
はずのIMaxでもこれなのだから、この辺の検討はして欲しく
感じたところだ。
今回の記事の後半は取り上げた作品と関係なかったが、今回
は2度目の紹介なので、3Dの全般に関して少し書かせても
らった。


『最後の忠臣蔵』
2003年に『ラスト・サムライ』を製作したワーナーが改めて
日本の侍の姿を描く作品。池宮彰一郎の原作に基づき、吉良
邸討ち入りに加わらなかった男と、四十七士の中にあって唯
1人切腹しなかった男が辿る『忠臣蔵』の後日談。
赤穂浪士による吉良邸討ち入りから16年が経った頃の物語。
寺坂吉右衛門は、討ち入りに加わりながらもその際の大石蔵
之助の指示で切腹をせず、その後は諸国を巡って亡き浪士の
遺族たちに小判を届けていた。それは大石が残された人たち
の辛苦を和らげるために準備したものだった。
そんな寺坂の旅も終りを迎えようとしていた頃、彼は立ち寄
り先で1人の男の姿を観る。その男は討ち入りの前夜に逐電
した瀬尾孫左衛門に相違なかった。しかし寺坂には、自らの
親友であり大石に直接仕えていた瀬尾が、なぜ逐電したのか
理由が判らなかった。
その瀬尾は、彼のことを「孫左」と呼び捨てにする若い女性
と暮らしていたが、表向きは古美術商として地方に埋もれた
美術品を都で売り捌くなどの商いをしていた。そして、彼は
新たに手に入れた壺をとある豪商に売ろうとしていた。
一方、寺坂は大石の又従兄弟で公家に仕える進藤長保の許に
身を寄せていたが、ある日、豪商の招きで流行の人形浄瑠璃
を見物に行き、そこで1人の若い女性に目を留める。しかし
女性に付き添っていた瀬尾がいち早く寺坂に気付き2人は芝
居半ばで帰ってしまう。
ところがそこに同席していた豪商の息子がその女性に焦がれ
るようになり、彼女を探し始める。こうして徐々に寺坂と瀬
尾の居場所が近付いて行く。何故、瀬尾は討ち入りの前夜に
逐電したのか、16年間の秘められた謎が解かれる。
昔、『忠臣蔵』を観ていて、討ち入りを果たした浪士たちが
雪の江戸市中を行進する姿に何故か涙が止まらなくなってし
まったことがある。この作品でも最後の行列のシーンでは見
事に泣かされてしまった。
いまさら忠義だの何だのというものに心が動かされるかどう
か判らないが、少なくとも主人公たちが艱難辛苦の果てにそ
の信念が全うされる姿には、それだけで感動を呼ぶものがあ
るのだろう。そんなある種の根元的な感動がうまく描かれた
作品のように思えた。

主役の2人の侍を演じるのは役所広司と佐藤浩市。共演は、
桜庭ななみ、片岡仁左衛門、安田成美、伊武雅刀。他に、田
中邦衛、風吹ジュンらが脇を固めている。
監督は、テレビシリーズ『北の国から』などの杉田成道、脚
本は、1981年『セーラー服と機関銃』などの田中陽造。ベテ
ランの味が存分に発揮された作品と言えそうだ。

『石井輝男/映画魂』
一般的には『網走番外地』の監督として、SF映画ファンに
は『鋼鉄の巨人/スーパー・ジャイアンツ』の監督として、
さらに『ねじ式』などカルト映画の監督としても勇名を馳せ
ながら、2005年に急逝した石井輝男監督の映画人生を綴った
ドキュメンタリー。
1924年東京麹町に生まれ、戦前の東宝撮影部に入社。終戦後
の東宝争議で誕生した新東宝の助監督部に移籍、成瀬巳喜男
らの許で名助監督として名を馳せ、監督に昇格して『鋼鉄の
巨人』などを発表する。さらに東映に移籍して『網走…』な
どを監督。
しかし東映京都撮影所では、『徳川女刑罰史』など一連のエ
ログロ作品で助監督らのボイコットにも遭ってしまう。その
後は一時仕事を止めた時期もあるが、回顧上映などで再評価
が高まり、自らプロダクションを興して2001年まで映画監督
を続けたとのことだ。
という石井監督の映画人生が、助監督当時からの仲間や出演
俳優らの証言で綴られる。その証言者には、丹波哲郎、三ツ
矢歌子(以上音声のみ)から、佐野史郎、ひし美ゆり子、賀
川ゆき絵、砂塚秀夫、さらに造形の原口智生まで、いろいろ
な世代の人々が登場する。
本作監督は、映画評論家で監督のダーティ工藤。工藤は生前
の石井監督とも親交があったそうで、その間に撮影されたメ
イキングフィルムなども合わせて本作が作られている。さら
に石井監督が生前に撮った土方巽の舞踏の様子なども収めら
れている。
実は、試写の前に工藤監督の挨拶があって、その中で「石井
さんは人徳はなかったけど、エピソードは多かった」と言う
ような発言があり、そこで場内爆笑。そんな楽しい雰囲気が
作品の中にも溢れていた。
昔の映画人にはいろいろ破天荒な人も多かったようだが、石
井監督はその中の1人なのだろう。そんな古き良き時代の映
画界のことも垣間見られる作品だ。特に、高倉健との関りな
どは聴いているだけで嬉しくなる。
なお公開は、石井監督の命日の8月12日から東京渋谷のユー
ロスペースで行われ、さらに本作の公開に併せて7月31日か
ら同館4階のシネマヴェーラで石井監督作品の特集上映も行
われるそうだ。
        *         *
 今回の製作ニュースは、まずは気になるこの作品から。
 MGMの資産売却の遅れで延期されている『指輪物語』の
前日譚“The Hobbit”の映画化で、『指輪』3部作を手掛け
て今回は製作に廻るとされていたピーター・ジャクスン監督
が、本作でも監督する可能性が示唆されている。
 この映画化に関しては、『ヘル・ボーイ』などのギレルモ
・デル・トロ監督が2008年から監督として参加。ジャクスン
らと共に脚本の執筆にも当っていたものだが、先に書いたよ
うに製作の一翼を担うMGMのトラブルで製作開始の時期が
確定できないまま、今月初めに報告したようについに降板を
決意してしまった。
 その後は、実は『ハリー・ポッター』を撮り終えたばかり
のデイヴィット・イェーツ監督や、『第9地区』のニール・
ブロムカンプ監督の名前も取り沙汰されていたのだが、結局
のところ撮影時期が確定できないのでは彼らのスケジュール
を拘束しておく訳にも行かず。そこにジャクスン自身なら問
題はないだろうという状況になってきているようだ。
 とは言えジャクスン監督には、すでにスティーヴン・スピ
ルバーグ監督が第1部の“The Adventures of Tintin: The
Secret of the Unicorn”を撮り終えた“Tintin”シリーズ
の続編の計画もあり、その他にも2、3本の計画が進行中と
のことで、おいそれと新しい計画を割り込ませるのも難しい
状況のようだ。
 いずれにしてもMGMの去就が決らなければ先には進めな
いものではあるが、ワーナーからは2012年12月の第1部公開
と、2013年12月の第2部公開は変更なく発表されているとの
ことで、それを実現するためには遅くとも今年12月撮影開始
のスケジュールは動かせない状況とのこと。果たしてそれま
でにMGMのトラブルが解消されるかどうか、ジャクスン側
は製作準備は着実に進めていると言っているようだが…。
 因に、ジャクスンが監督する計画のシリーズの続編“The
Adventures of Tintin: Red Rackham's Treasure”(仮題)
の公開も2012年に予定されているそうだ。
        *         *
 お次も前日譚の計画で、『不思議の国のアリス』の後日譚
となる『アリス・イン・ワンダーランド』を大ヒットさせた
ディズニーから、今度はL・フランク・ボウム原作『オズの
魔法使い』の前日譚を描く“Oz, the Great and Powerful”
という計画が発表され、その監督にサム・ライミの名前が挙
げられている。
 物語は、1939年の映画化でも知られるエメラルド・シティ
の支配者=オズの魔法使いが、実は元サーカスの猛獣使いの
男で、その男が竜巻と共にオズの国に現れ、そこで「偉大で
強力な魔法使いオズ」に成り上がって行くまでを描くという
もの。このオズの設定はボウムの原作にも基づくものだが、
そこからの展開を、2000年にジェット・リー主演で映画化さ
れた『ロメオ・マスト・ダイ』などのマイクル・カプナーが
オリジナルの脚本として執筆したもののようだ。
 そしてこの脚本を『アリス』も手掛けた製作者のジョー・
ロスが取り上げ、実は計画は今年4月頃に始動して、その時
にはサム・メンデス、またはアダム・シャンクマンの監督、
主演にはロバート・ダウニーJr.が期待されていた。
 その計画に今回はライミ監督の名前が登場してきたものだ
が、ライミには先にソニーで進めていた“Spider-Man 4”の
計画が頓挫し、監督からの降板が発表されていたもので、正
に渡りに船という感じでもある。ただしこの発表は決定では
ないし、さらにダウニーJr.の主演はあるのかなど、流動的
な面は数多く残されており、これから製作までにはまだ紆余
曲折もありそうだ。
 なお、『オズの魔法使い』に関連した計画では、今年3月
15日付第183回でも紹介したように、いろいろな計画が進行
中のもので、それらがタイミングよく実現したら一大ブーム
が巻き起こる可能性もある。その切っ掛けとするためにも、
今回のディズニーの計画には期待がもたれるものだ。
        *         *
 続いては続編の情報を2つ。
 まずは、2007年公開された『ゴースト・ライダー』の続編
“Ghost Rider 2”が進められることになり、主演のニコラ
ス・ケイジと、監督には、2007年日本公開された『アドレナ
リン』と2009年の続編を手掛けたマーク・ネヴェルダイン、
ブライアン・テイラーの監督チームが交渉中と発表された。
 この計画に関しては昨年9月27日付でも紹介しているが、
前作では製作総指揮として参加していたデイヴィッド・S・
ゴイヤーに原案が依頼され、その原案からやはりゴイヤー原
案のテレビシリーズ“Flash Forward”などを手掛けるスコ
ット・ギンプルとセス・ホフマンのコンビによる脚本が準備
されていた。
 そして今回はその脚本を持って、ケイジとの出演交渉が行
われているものだが、元々この企画はケイジが中心で進めら
れていたから出演の期待は高いものの、実は前にも書いたよ
うにマーヴェルとの映画化権の契約期限が今年11月に迫って
いるとの状況もある。その一方でケイジには、8月からの撮
影でニコール・キッドマンと共演の“Trespass”というアク
ション・アドヴェンチャー作品の出演契約が結ばれていて、
その間隙を縫っての契約はかなり厳しい条件になりそうだ。
 因に、オリジナルで相手役を務めたエヴァ・メンデスには
今回の出演は期待されていないそうで、問題はケイジのスケ
ジュール次第となるようだが。
        *         *
 そしてもう1本は、今年日本公開された『シャーロック・
ホームズ』で、この続編の計画についてはすでに紹介してい
るが、そこに登場する予定の宿敵モリアティ教授を誰が演じ
るかに注目が集まっている。
 その第1候補はダニエル・デイ・ルイスのようだが、ブラ
ッド・ピットが期待されているという情報もあり、さらにハ
ヴィエル・バルデム、ゲイリー・オールドマン、ショーン・
ペンといった名前も挙がっているようだ。いずれにしても、
シリーズが継続すれば、3年に1作程度のペースでスケジュ
ールが必要になる可能性もあり、そう簡単には決められない
のが難しいところだ。
 なお“Sherlock Holmes 2”の製作には、ガイ・リッチー
監督の許、ロバート・ダウニーJr.、ジュード・ロウ、レイ
チェル・マクアダムスの再共演で、2011年12月の全米公開が
予定されており、そこから逆算すると、撮影は遅くとも今年
の秋には開始される必要がある。従ってモリアティの配役も
早急に動き出しそうだ。
        *         *
 最後に、SF映画界では最も歴史のある賞として知られる
アメリカSF、ファンタシー&ホラー映画アカデミー選出の
サターン賞が発表されたので報告しておこう。
 と言っても今年の受賞は、『アバター』がSF作品、主演
男優(サム・ウォーシントン)、主演女優(ゾーイ・サルダ
ナ)、助演男優(スティーヴン・ラング)、助演女優(シガ
ニー・ウィーヴァー)、監督(ジェームズ・キャメロン)、
脚本(ジェームズ・キャメロン)、音楽(ジェームズ・ホー
ナー)とプロダクションデザイン、特殊効果の10部門を独占
し、特にキャメロンは製作者としての作品賞、さらに特別賞
と併せて4個の受賞に輝いている。
 その他の部門では、各作品賞は、ファンタシーが『ウォッ
チマン』、ホラーが『スペル』、アクション/アドヴェンチ
ャーが『イングロリアス・バスターズ』、アニメーションは
『モンスターvsエイリアン』、海外作品は『第9地区』が受
賞した。
 また、若手演技賞を『ラブリーボーン』のシアーシャ・ロ
ーナンが受賞した他に、衣裳賞を『ウォッチマン』、メイク
アップ賞を『スター・トレック』が受賞している。
 何と言っても『アバター』の大勝と言ったところだが、あ
れだけの規模の作品で、興行成績も抜群と言うことではこれ
も仕方のないところだろう。内容的には、SFファンとして
はいろいろ引っ掛かるところもある作品ではあったが…。


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井口健二