井口健二のOn the Production
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2010年03月21日(日) P野ばら、ボローニャ…、瞬、上海アニメ、アリス・イン・ワンダーランド、ハーツ & マインズ、蜘蛛の拍子舞/身替座禅+製作ニュース

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『パーマネント野ばら』
一部には無頼派とも呼ばれている西原理恵子原作の漫画から
の映画化で、原作者の故郷でもある高知県の漁港の町を舞台
にした、男運に恵まれない女性たちを描いた作品。
西原の原作による映画化は昨年は2本公開されているが、い
ずれも試写は観せて貰ったがサイトにはアップしなかった。
その1本はファンタシーらしいのだがどうしても物語が納得
できなくて、もう1本は中に描かれるDVを正視できなかっ
たものだ。
だから僕は西原原作の映画化には多少臆病になったりもして
いた。しかし今回の作品は、流れとしては後者に近いものだ
が、そこに描かれるユーモアやシビアな内容のバランスが良
くて、全体として落ち着いて観ることが出来た。
主人公は幼い女児を連れて離婚し、母親が女手一つで美容院
「野ばら」を営む実家に帰ってくる。そこは町で唯一のパー
マネント屋で、町の中年主婦の溜まり場のようにもなってい
る。そしてそこでは彼女らの男運の無さが、ある意味大らか
にも語り合われている。
そんな中に帰ってきた主人公だったが、そこには浮気が発覚
して離婚した夫が娘宛に電話を掛けてきたり、別居中の母親
の夫(主人公の実父ではないようだ)を訪ねたり、さらに山
の掘っ立て小屋で暮らす老人の家に出張散髪に出掛けたり、
幼い頃からの親友の2人の女性との交流があったり…
そんな日々が続く中、彼女の生活には高校の教師という恋人
も登場するのだが…
女たちの男運の無さの表現ではDVも味付け程度には出てく
るが、全体的に女たちが積極的で、その点では観ていて心地
よさもあった。それに途中から徐々に観え始める後半の展開
も、無理無く納得できる程度に描かれていたように思える。

主演は、8年ぶりの映画主役という菅野美穂。共演は、親友
役の小池栄子と池脇千鶴、母親役の夏木マリ、父親役の宇崎
竜童、恋人役の江口洋介、娘役の畠山紬。いずれもが填り役
だが、特に小池と池脇が良い感じの演技を観せてくれるし、
彼女らの幼い頃を演じる子役たちも良かった。
脚本は、『サマーウォーズ』などの奥寺佐渡子、監督は、僕
は観ていないが『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』などの
吉田大八。同じ作者の原作でもこうも違ったものになるのか
と感心させられた。

『ボローニャの夕暮れ』“Il papà di Giovanna”
第2次世界大戦前後のイタリア・ボローニャを舞台に、高校
教師の父親が家族を守ろうとして苦闘する姿を描いた作品。
第2次世界大戦の前、ボローニャにもファシズムが台頭し、
一般の人々の生活も窮屈になり始めている。そんな中で高校
の美術教師を務める主人公の悩みは、同じ学校に通学する年
頃の我が娘に恋人が出来ないことだ。
そんなある日、父親は転校生の男子生徒が娘と親しげに話し
ているのを目撃し、2人が付き合うように策略を巡らせるが
…。やがて地元のファシストの名士の娘が殺され、彼女がそ
の男子生徒と付き合っていたことが判明して、主人公の娘に
嫌疑が掛かる。
こうして我が娘を守るため父親の奮闘が始まる。そこにはか
なり尋常でない部分もあったりはするが、自分も娘を育てた
父親としては、この主人公の行動には理解もするし、結局父
親というものは世界中どこへ行っても同じなんだなあ、とい
う感じもした。
しかもこの父親が、特に自分からは何かをしている訳ではな
く、時の流れに流されている側面も多いことが、多分自分も
その立場なら同じだった、あるいは自分でもそうなってしま
うのではないか、というような共感も覚えたものだ。
そんな父親と家族、そして周囲の人々姿が第2次大戦の後ま
で、丁寧に描かれた時代背景と適度のユーモアも込めて描か
れて行く。

主演は、本作でヴェネチア国際映画祭の主演男優賞を受賞し
たシルヴィオ・オルランド。その娘役にイタリア・アカデミ
ー賞で主演女優賞受賞のアルバ・ロルヴァケル。さらに共演
のフランチェスカ・ネリ、エツィオ・グレッジョらも助演賞
を受賞している。因に母親役のネリは2001年『ハンニバル』
にも出演していた国際派女優だ。
監督は、韓国で開催されたファンタスティック映画祭での受
賞記録などもあり、カンヌやヴェネチア国際映画祭の審査員
なども務めたことのあるプーピ・アヴァーティ。1968年に監
督デビュー。ピエル・パオロ・パリーニの『ソドムの市』の
脚本なども手掛けたベテラン脚本家・監督が、自らの故郷を
舞台に家族愛の物語を作り上げている。

『瞬』
交通事故で恋人と共にその瞬間の記憶を失った女性が、その
瞬間を取り戻そうとする姿を描いた河原れん原作の映画化。
主人公は事故の夢に苦しめられている。その悪夢の中で彼女
は恋人に何かをしてあげようとしているのだが、それが何な
のかも判らない。そして彼女自身にはその事故の前後の記憶
が失われていた。
彼女は美大生の恋人とのデートも順調に重ね、夏休みには彼
の生家も訪ねることになって幸せ一杯だった。しかし彼のバ
イクで出掛けた花見の帰路で事故は起きる。そして彼女自身
は比較的軽症だったが、彼は帰らぬ人になってしまう。
その事故は異常走行のトラックにバイクが激突したもので、
トラックの運転手も死亡していたために示談となり、事故の
詳細も彼女には知らされないままだった。そこで彼女は偶然
に知り合った女性弁護士の助けも借りて事故の真相を調べ始
めるが…
結論として何が起きるという話でもないが、物語のほぼ全体
が悲しみに満ち溢れているもので、映画は唯々悲しみだけを
表現し続けて行く。それもまたエネルギーの要る話ではあろ
うし、それ描き切った監督には敬意を表したいくらいのもの
だ。
しかも、撮影は北海道から山陰出雲にまで及んでいるから、
それを撮り切っただけでも大変なことだったと思わせる。そ
れくらいに見事なロケーションが撮影された作品にもなって
いる。

主演は『間宮兄弟』『ハンサム・スーツ』などの北川景子。
共演は大塚寧々、岡田将生。他に永島暎子、田口トモロウ、
清水美沙、菅井きんらが出演している。それから原作者の河
原もどこかに出ていたようだ。
脚本・監督は2003年『船を降りたら彼女の島』などの磯村一
路。ヒロインを撮ることでは定評のある監督のようだが、今
回の北川も大塚も本当に美しく撮って貰っている。だから彼
女たちのファンには格好の作品だろう。
ただ、映画の後半に登場するシーンではちょっとやりすぎか
なと感じるところもあって、それは主人公が記憶傷害を引き
起こすほどのものだから、それなりには必要だったのだろう
が、何か他の展開はなかったのかな?とも考えたところだ。


『美と芸術の上海アニメーション』(中国映画)
東京では5月に行われる中国アニメーション12本を連続上映
する企画で、A〜Cの3プログラムに分けて上映される中か
ら、日本では劇場未公開だった作品を含むAプログラムのみ
試写が行われた。
中国では1926年に万兄弟と呼ばれるグループがアニメーショ
ンの製作を開始し、1941年にはアジアで最初の長編のアニメ
ーションとされる『鉄扇公主』を完成。この作品は日本でも
上映されて手塚治虫らに影響を与えたとのことだ。
その万兄弟らも参加して1957年に発足されたという中国アニ
メーションの中心・上海美術電影製片厰で製作された中短編
アニメーションの中から、1962年製作の1本と1980〜85年に
製作された6本を観せて貰えた。
その中では、1962年製作の作品『おたまじゃくしが母さんを
探す』が、水墨画をそのままのタッチでアニメーションにし
ているもので、その技法も見事だった。
物語は、一緒に生まれた沢山のおたまじゃくしが母親を探す
内にいろいろな水辺の生物と出会うというお話で他愛ないも
のだが、おたまじゃくしの中にはちょっと色の違うものもい
たりして、それらがちゃんとアニメートされていた。
ただ、物語の後半でナマズと訳されていた生物に手足があっ
たようで、でも山椒魚にしてはナマズ髭があったし…あの生
物は一体なんだったんだろう。水墨画なので絵柄は素朴なの
だが、それだけによけい作るのが大変な作品のようにも思え
た。

他にAプログラムでは、1980年製作『三人の和尚』、83年製
作の切り絵水墨画アニメーション『鴫と烏貝』、84年製作の
切り絵アニメーション『火童』、85年製作の水墨画アニメー
ション『鹿を救った少年』が上映される。いずれも素朴な民
話に基づく作品のようだ。
その他、Bプログラムでは1979年製作『ナーザの大暴れ』、
81年製作『猿と満月』、82年製作『鹿鈴』、Cプログラムで
は88年製作『不射の射』、63年製作『牧笛』、83年製作『蝴
蝶の泉』、88年製作『琴と少年』が上映される。
最近では、ハリウッド資本によるCGIアニメーションの製
作でも頭角を表わしてきている上海アニメーションだが、今
回はその歴史を垣間見られる企画のようだ。

『アリス・イン・ワンダーランド』
                “Alice in Wonderland”
『チャーリーとチョコレート工場』などのゴールデン・コン
ビ=ジョニー・デップとティム・バートン監督による2007年
『スウィーニー・トッド』に続く最新作。
ディズニーが1951年にアニメーション化したルイス・キャロ
ルの原作に基づく物語から、その13年後、アリスが19歳に成
長した時に起きる新たな冒険が、実写3Dによる映像化で描
かれる。
今回の物語の発端でアリスは悪夢にうなされている。それは
子供の頃から見続けている服を着たウサギや、いかれた帽子
屋が開催する奇妙なお茶会、それにしゃべる芋虫などが登場
するものだ。しかし貿易商を営む父親は、言葉巧みに彼女を
励ましていた。
そんなアリスも19歳に成長し、とある貴族の屋敷でその息子
の求婚を受けることになる。そのため盛大なパーティも催さ
れるのだが。そこでアリスは、庭の片隅に服を着たウサギが
居るのを観てしまう。そしてその後を追って行くと…
オリジナルが夢おちのお話だからこの発端はなるほどと思わ
せる。因にプレス資料によると、幼いアリスは自分の訪れた
世界がアンダーランドと呼ばれていたのに、ワンダーランド
と聞き違えていたのだそうだ。
ということで、キャロルの原作に基づく1951年のアニメーシ
ョンに登場した摩訶不思議な住人たちが次々に現れるアンダ
ーランドでの大冒険が開幕する。そこは以前のアリスが消え
てから赤の女王が復活した、昔以上の恐怖の世界だった。

アリス役は、2008年Variety紙選出「10人の観るべき女優」
にも選ばれたミア・ヴァシュイコヴスカ(海外データベース
ではこのように発音すると書かれていたようだ)
他に、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン
・ハサウェイ、クリスピン・グローヴァーらが共演。さらに
声の出演でマイクル・シーン、アラン・リックマン、マイク
ル・ゴーフ、クリスファー・リーらが登場する。
物語は、キャロルの原作というより、ディズニーのアニメー
ションに基づいているから、予習をするならDVDを観た方
が良さそうだ。ただし、グローヴァーの演じるハートのジャ
ックが片目だったり、原作に関わらないトリヴィアも沢山あ
ったようだ。
脚本は、1991年『美女と野獣』、94年『ライオン・キング』
なども手掛けたリンダ・ウルヴァートン。運命論と女性の成
長を巧みに織り込んで、特に若い女性にアピールしそうな作
品になっている。そこにデップの出演なら申し分ない作品だ
ろう。

『ハーツ・アンド・マインズ』“Hearts & Minds”
1975年4月30日のサイゴン陥落で終結するヴェトナム戦争の
真実を描いて1974年に製作され、1975年のアカデミー賞で長
編ドキュメンタリー部門を受賞した作品。
この中では、北ヴェトナム軍の捕虜から解放されてアメリカ
国内の戦意高揚のシンボル的存在だったジョージ・コーカー
元中尉や、ナパーム弾で大火傷を負ったヴェトナム人少女キ
ム・フックの姿なども写し出されている。
その他には、歴代のアメリカ大統領によるヴェトナム戦略に
関するアーカイヴ映像や、作品の製作時にはすでにアメリカ
が手を引くことが発表されており、それを踏まえた上でのそ
れぞれの立場の人物が過去を振り返っての証言などが綴られ
ている。
さらに1968年6月6日に暗殺されたロバート・F・ケネディ
が、その時に用意していたと言われるヴェトナムからの撤退
を求める演説の草稿を書いた人物や、南ヴェトナム政権下で
政治犯だった人たちの証言なども紹介される。
またこの作品は、その後の『ディア・ハンター』や『地獄の
黙示録』などにも影響を与えたと言われる通り、ハリウッド
がヴェトナム戦争を映像化するに当っての手本ともなってい
るもので、確かにそれらの作品に登場した「ヴェトナム」が
描かれていた。
ただ、その作品を製作から35年も経って観ていると、当時は
日本国内でも反戦運動などで関心を持っていたはずなのに、
その前後の時間関係などが判らなくなっていたりもして、今
やそれを思い出として観ている自分に気付いたことにも愕然
とした。
しかも今それを我々が観た場合には、ジョン・F・ケネディ
が大増兵を発表する映像などに、同じ民主党のオバマがイラ
クへの追加派兵を発表する姿が重なって、歴史に学ばないア
メリカの実像を観ている感じもしたものだ。

なお本作は反戦ドキュメンタリーとして著名な作品であった
が、日本での公開は過去に1度テレビで深夜に放送されたの
み。一時はヴィデオテープが日本発売されていたようだが、
それも廃盤になっていた。
今回は、その作品がアメリカで映画科学アカデミーが所蔵し
ていた35mmフィルムからHDによるリマスタリングされたも
ので、昨年2月に全米でも再公開されたノーカットのヴィデ
オが輸入されて、日本初の劇場公開が行われることになって
いる。

『蜘蛛の拍子舞/身替座禅』
4月末日で閉館される木挽町歌舞伎座のさよなら公演として
上演された2演目をハイビジョンで収録したシネマ歌舞伎の
第14作と第15作。東京では閉館翌日の5月1日から歌舞伎座
もよりの東劇で、その他の地区は15日からそれぞれ2本立て
で公開される。
『蜘蛛…』は、天皇の出家で空御所となった京都御所に現れ
るという物の怪を検分するため源頼光、渡辺綱、碓井貞光、
卜部季武の四天王が宿直するというもの。そこに刀鍛冶の娘
と自称する女が現れ酒宴などを行うが、その女が蜘蛛の化身
と判って…

この蜘蛛の化身を坂東玉三郎が演じて、最初は妖艶、後半は
隈取りをした化粧で立ち回りも演じる。さらにその間には、
大小3段階の蜘蛛の操りや着ぐるみが登場して、四天王や兵
士たちとの立ち回りが演じられる。
元々物の怪退治という筋書きなので興味深い演目だったし、
特に後半では玉三郎が次々に蜘蛛の糸を繰り出して、その映
像も華やかなもので大いに楽しめた。因に拍子舞とは演者が
自ら歌いながら踊る演目だそうで、それは前半に刀鍛冶の娘
と頼光らの掛け合いで観られる。
共演は、頼光に四代目尾上松緑、綱に五代目尾上菊之助。若
手のホープたちが頑張っている舞台でもあったようだ。特に
松緑は、父親の尾上辰之助、祖父の二代目松緑の生前の活躍
をテレビなどで観ていた自分には感慨深いものがあった。
『身替…』は、奥方に頭の上がらない大名が、旅先で知り合
った女から近くに来ているとの手紙を貰い、逢いたくて仕方
がない。しかし奥方も恐い。そこで大名は太郎冠者を呼び、
策略を使って奥方の目をごまかし外出に成功するが…

この大名を中村勘三郎、奥方を坂東三津五郎、太郎冠者を市
川染五郎が演じる。因にこの演目は、勘三郎の祖父と三津五
郎の曽祖父との共演で初演されたものだそうだが、特に勘三
郎は途中にアドリブを入れるなどの堂々とした演じぶりが楽
しめた。
またこの演目は元々狂言から発生したものだそうで、その舞
台は松を描いた能舞台のような背景の前で演じられていたも
のだが、物語の前半は浄瑠璃による語りで、後半その背景が
転換して長唄衆が現れる艶やかさにも目を見張った。
        *         *
 後は製作ニュースを一つ。
 『LOTR』を手掛けたピーター・ジャクスン製作、『ヘ
ル・ボーイ』などのギレルモ・デル=トロ監督で、2部作で
計画されている“The Hobbit”の撮影が、今年7月にニュー
ジーランドで開始されるとの情報が報告された。
 この情報は、『LOTR』に引き続いてこの作品でも魔法
使いガンダルフ役を演じることになっているイアン・マッケ
ランが、自らのウェブサイトに掲載したもので、それによる
と、「“The Hobbit”の2部作の撮影は7月に開始されて、
ほぼ1年掛けて行われる。この撮影のために、ロサンゼルス
とニューヨーク、ロンドンでのオーディションも行われた。
ジャクスンらが執筆した脚本には、古い友や新しい友と共に
ミドアースでの新たな探索の旅を行う物語がぎっしり詰め込
まれている。監督のデル=トロはすでにウェリントンに逗留
して、ジャクスンとの最終的な打ち合わせを行っている」と
のことだ。
 ただしこの情報に関しては、映画の製作を担当するニュー
ラインからはこの後の発表でも公式報告はされなかったとの
ことで、その経緯が不明となっている。とは言えマッケラン
が虚偽の報告をする理由もないし、ファンとしては取り敢え
ずはガンダルフの言葉を信じたいものだ。一方、ニューライ
ンと共同で製作を行うMGMは現在資産の一括売却を行って
いるところだが、その入札の期限日が突然延期されたとの情
報もあり、その裏には“The Hobbit”の製作が正式に発表さ
れるのを待っているとの憶測もあって、正式発表が行われる
のも近日中との観測が高まっている。
        *         *
 最後にこれは製作ニュースではないが、一つ気になったこ
とを書いておきたい。
 先日、親戚の家を訪問したら、その家の母親と次女が『ア
バター3D』を観に行ったとのことだった。ところが母親の
方は興奮気味なのだが、次女の乗りが今一つ悪い。そこで訊
いてみると、彼女は上映中ずっと画面が2重に観えていて、
それは自分の目のせいだと思っていたと言うのだ。しかしそ
れは目のせいではなく、液晶シャッター式の眼鏡が故障して
いたことに他ならない。
 実は、その前にソニービルで新発表の3Dテレビを見学し
たときに2重にしか観えず、案内の女性に指摘したら眼鏡の
スイッチが切られていたという経験がある。また昨年の東京
国際映画祭の折にパナソニックが公開した3Dテレビでも、
係員がいちいち眼鏡をチェックして観客に渡しており、訊い
たらかなりの率で不具合があるとのことだった。さらに東京
で3D試写が行われるアキバシアターでは、上映前に不具合
があったら眼鏡を交換するとの告知があり、上映中も係員が
立ち会っていることもある。
 つまり液晶シャッター式3D眼鏡は不具合率が高いものだ
が、急速に普及している中でどこまで手当ができているもの
か心配になった。実際に親戚の次女はその被害者になったも
のだが、余分に金を払ってさらに3時間近くも見難い画面に
付き合わされたら、それは拷問でしかなく不憫にも思えた。
 全国の映画館にはよくよく注意をして貰いたいし、上映前
に観客が何らかのチェックをできる体制も整えて貰いたいと
思ったものだ。


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井口健二