井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2010年02月01日(月) ハート・ロッカー、隣の家の少女+製作ニュース

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ハート・ロッカー』“The Hurt Locker”
2004年夏のイラクバグダッドを舞台に、米軍の中でも最も死
と隣り合わせの任務と言われる陸軍爆発物処理班の活動を描
いた作品。
当時のバグダッドでは時限爆弾や自殺テロなど毎日数10個の
爆発物が発見され、それらは爆発物処理班の手によって迅速
に処理されていたという。しかしその作業は、1歩間違えば
確実に死の時を迎える危険窮まりないものだった。
そしてその任務に当たるブラボー中隊は、すでに1年近い赴
任期間を経過して、帰国まであと38日というときを迎えてい
た。ところがその矢先、処理中の手違いで隊員の1人が死亡
し、3人が基本の処理班は新たな隊員を迎えることになる。
その代役としてやってきた二等軍曹は、爆発物処理の能力は
抜群だったが、その他の規律は無視する規格外れの人物だっ
た。そして次々に破天荒な手段で爆弾を処理して行く二等軍
曹の態度に、処理班内部での軋轢も発生するが…
神経の極限までも磨り減らす処理作業と、その後に訪れる解
放感。そんな気分が観客にも如実に伝わってくる。

脚本は、2008年2月紹介『告発のとき』の原案を提供したマ
ーク・ボール。2004年当時に自身でバグダッドに赴き、処理
班と共に行動して取材したという迫真のレポートから自らの
手で脚色している。
そして監督は、2002年10月紹介『K−19』などのキャサリン
・ビグロー。本作はそれ以来の長編作品となるが、前作に続
いて殆ど女っ気の無い壮絶な作品をパワフルに描き切ってい
る。
因に、ビグローは元ジェームズ・キャメロン夫人で、ゴール
デングローブ賞では作品賞、監督賞を元夫と争い何れも破れ
たが、キャメロンは本作の方が賞に相応しいと考えていたそ
うだ。
主人公の3人組には、何れもノンスターのジェレミー・レナ
ー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティが扮し
ているが、その脇をデヴィッド・モース、レイフ・ファイン
ズ、ガイ・ピアースらが固めている。
通常の戦争映画には殆ど登場しない爆弾処理という任務。こ
の作品にはその任務の重さが見事に描かれている。

『隣の家の少女』“The Girl Next Door”
1958年にアメリカインディアナ州で発生した児童虐待事件の
実話に基づくとされるジャック・ケチャムの原作で、一部に
は劇薬小説とも称される作品の映画化。
この作品を観るに当って興味本位の気持ちが無かったかと問
われたら、それを即座に否定することはできない。でもそれ
は興味本位というよりも、そのとき予想していた内容だった
ら作品を正視できるかという危惧が先に立っていたことにも
拠るものだ。
しかし映画を見始めると、そこには思わず居住まいを正した
くなるほどの真剣且つ厳粛な物語が展開されていた。それは
誰もが陥りそして後悔の念に立たされる、そんな悲しい物語
が描かれていたのだ。
物語は、中年を過ぎたと思われる男性の回想の形で始まる。
それは彼がまだ少年だった頃の出来事。彼の住む家の隣の母
子家庭の家に、両親を交通事故でなくした姉妹が同居人とし
て引っ越してくる。
その妹は事故の影響で下肢が不自由だったが、姉の方は事故
による傷跡はあるものの快活で主人公の少年ともすぐに仲良
くなる。そして主人公の少年は、実子は男子ばかりの隣家の
子供たちとも仲が良く、その家に泊まりで遊びに行くことも
あったのだが…
そこでは、口にするのも恐ろしい事件が進行していた。

本作の映画化は2007年に行われたもので、スティーブン・キ
ングがその年のホラー映画の第1位に推すなど高く評価し、
自らの原作による『スタンド・バイ・ミー』と表裏一体をな
す作品とも言っているそうだ。
確かに作家が子供時代を回想するというプロローグなど、映
画の構成には似たところも多いが、本作に描かれる内容は正
にアメリカの暗部とも言える出来事で、その社会的な問題提
起などはキング原作の映画化が及ぶべくものではない。
事件の原因が何であったかは明確には語られないが、その結
果では人間の本性の恐ろしさが見事に描き出される。特に恐
れを知らない子供の恐ろしさが、何よりの恐怖感を醸し出す
作品だった。
監督は本作が2作目というグレゴリー・ウィスン。出演者も
無名の俳優が多いが、母親役を演じているブランシェ・ベイ
カーは往年の女優キャロル・ベイカーの娘だそうだ。また現
代の主人公の姿を、『ダイハード1・2』や『ラスト・サム
ライ』にも出演のウィリアム・アザートンが演じている。
        *         *
 今回の製作ニュースの最初は、『マトリックス』『地球が
静止する日』などのキアヌ・リーヴスの情報で、彼が本格的
な宇宙SFに挑戦する計画が発表されている。
 作品の題名は“Passenger”(2008年12月にアン・ハサウ
ェイ主演で似た題名の作品を紹介しているが、あれは複数形
だった)。内容は乗客たちが全て冷凍睡眠で移送されている
恒星間宇宙船を舞台に、何故か目的地到着より1世紀近くも
早く、1人だけで目覚めてしまった主人公を巡る物語とのこ
とだ。つまりそれから100年間は誰も起きては来ない訳で、
従ってこの作品では単数形という訳だ。
 因にこの脚本は、リドリー・スコットが監督すると噂され
ている“Alien 5”にも関わっているジョナサン・スペイツ
という脚本家が執筆したもので、いろいろな事情で映画化さ
れない優秀な脚本を紹介するHollywood Blacklistの2007年
版に掲載された作品とのこと。
 その作品にリーヴスが目を付け、実は昨年前半には2006年
のロバート・デニーロ監督作品『グッド・シェパード』など
を手掛けたモーガン・クリークが製作にゴーサインを出して
もいた。その計画に今回は、さらに監督として2006年ウィル
・スミス主演の『幸せのちから』などを担当したガブリエレ
・ムッチーノの起用が発表されている。
 地球を離れた場所で1人だけというのは、前回の映画紹介
で『月に囚われた男』を取り上げたところだが、SFならで
はの孤独や、その他の諸々の状況が描かれそうだ。なお物語
では、どういう状況か不明だが女性のキャラクターも登場す
るそうで、ムッチーノはその配役に、無名かブレイク以前の
無名に近い女優の起用を希望しているそうだ。
 順調に進めば今年夏の撮影開始が期待できるとのことだ。
        *         *
 お次は、現在はディズニー傘下にあるマペッツ(ジム・ヘ
ンスン・カンパニー)の新作映画の情報で、その計画に人気
テレビシリーズ“The Flight of the Conchords”を手掛け
るクリエーター/脚本家/監督ジェームズ・ボーリンの参加
が噂されている。
 この情報で、新作映画の題名は紹介されていなかったが、
元々はコメディ作家/俳優のジェイスン・シーゲルとニック
・ストールの脚本から、ストールの監督で進められているも
のとのこと。そして今回のボーリンの参加はそれに命を吹き
込むためというものだが…。この計画、もしかしたら2008年
3月15日付の第155回で紹介した“Dracula”のミュージカル
版の可能性がありそうだ。
 この作品は、2008年11月に紹介した『寝取られ男のラブ♂
バカンス』の劇中劇として演じられた人形劇を原案とするも
ので、映画ではシーゲル演じる主人公が、最後の決断として
完成させるものだった。因にその場面では、元々のマペッツ
のキャラクターであるカウント伯爵が主人公となっており、
しかも劇中劇では、伯爵が自分が人間でないことを嘆くよう
なシーンが演じられていたものだ。
 という劇中劇がマペッツ側の気に入られ、その長編化を検
討するというのが以前の情報だったが、それがひょっとして
実現するかも知れないという訳だ。ただし、カウント伯爵と
言えば、昨年Googleのセサミストリート40周年記念ロゴでも
単独で登場するほどの人気キャラクターだし、そのイメージ
を壊さないようにするにはいろいろ制約も多そうだ。そんな
制約の中でシーゲル、ストール、ボーリンがどんな物語を作
り出しているか、最近のヴァンパイア・ブームとも併せて、
楽しみな作品になる。
 ただしボーリンには、シーゲル、ストールの師匠筋に当る
ジャド・アプトゥから“Bridesmaids”という作品の監督の
オファーも来ているそうで、その合間を縫っての脚本執筆と
なるのか…。今後も紆余曲折がありそうだ。
        *         *
 日本では3月12日公開予定の『シャーロック・ホームズ』
は、昨年末に公開されたアメリカを含む全世界での興行成績
がすでに3億8900万ドルに到達し、さらに日本、フランス、
ドイツなどが未公開ということでは、今後にかなりの上積み
が予想されるものだ。今年のアメリカ正月映画にはお化けが
いるから余り目立たないが、かなりのヒットになっていると
言える。そこで当然のことながら続編の情報が流れ始めた。
 それはまず製作者のジョール・シルヴァがワーナーからの
「続編もガイ・リッチー監督を期待する」との要請を受諾、
一方、リッチー監督が次回作として検討していたDCコミッ
クス原作のエイリアン・ハンター物で“Lobo”という作品に
は延期の発表が行われ、さらにロバート・ダウニーJr.が、
主演の予定されていた西部劇SF“Cowboys and Aliens”か
らの降板を発表…といった具合で、一気に話が進んでいるよ
うだ。
 ただし製作者のシルヴァは、「その前に、第1作のヒット
の要因を分析する必要がある」として、性急な製作はしない
方針の様子だったが、チャンスは逃さないのがハリウッドで
もある訳で、すでにキーラン&ミシェル・マロニーというコ
ンビによる脚本が着手されているとの情報もあって、これは
本当に製作が早まりそうだ。
 その続編では、いよいよ宿敵モリアティ教授(ブラッド・
ピットが演じるとの情報もある)との対決も行われることに
なりそうだが、ダウニーJr.はともかく、ワトソン役のジュ
ード・ロウのスケジュールはどうなっているのか、またレイ
チェル・マクアダムスの出演はあるのかなど、気になるポイ
ントはいろいろある。
 取り敢えず今回は、続編が動き出したと言う報告をしてお
くことにしたい。
        *         *
 続いてもワーナーの話題で、元々は姉妹会社のニューライ
ンが1995年と1997年に製作したヴィデオゲームを原作とする
映画シリーズ“Mortal Kombat” の第3弾の計画が報告され
ている。
 このシリーズでは、第1作はその後の2002年に『バイオハ
ザード』も手掛けるポール・S・アンダースンが監督して、
それなりの評価を得ていたようだ。しかし“Mortal Kombat:
Annihilation”と題された第2作は、第1作の撮影監督で、
2006年の『バタフライエフェクト2』なども手掛けるジョン
・R・レオネティが監督を引き継ぐものの、さほどの評価は
得られなかった。さらに第3弾に関しては、2006年2月15日
付第105回でも報告したように、ラッセル・マルケイ監督な
どが計画していたこともあったものだが、結局その計画は頓
挫してしまったようだ。
 そのシリーズが13年のブランクを経て復活するものだが、
今回はその脚本に、上でも紹介したHollywood Blacklistの
2009年版に“Shimmer Lake”という脚本が掲載されたオーレ
ン・ウズィエルという脚本家の起用が発表されている。因に
“Shimmer Lake”は、地方都市で起きた銀行強盗とその事件
を追うシェリフを描いているが、その時間経過は時制を遡る
形で進められ、全体としてはダークコメディのジャンルに入
る作品だそうだ。
 という脚本家が第3弾を手掛けることになるようだが、コ
メディは映画の基本の一つでもあるし、そのジャンルの脚本
で高評価を得ている人物なら、その手腕には期待したいとこ
ろだ。なおデータベースで検索すると、本作は2010年公開の
作品としてチェックされるようだが、現時点で脚本家が決ま
った程度ではそれは無理そうだ。
        *         *
 最後にもう1本ワーナーの情報で、今年11月と来年7月に
公開される『ハリー・ポッターと死の秘宝』の上映が、3D
で行われる可能性が出てきた。
 『ハリー・ポッター』シリーズでは、過去にもその一部を
Imax-3D化して公開するという噂があったが、今回は本格的
に全編を3D変換をして一般興行に出す考えがあるようだ。
ただしこれには、今年3月に全米公開される“Clash of the
Titans”で先に同じ試みが行われ、その結果を踏まえて実施
の可否を決めるという但し書きが付いているが、昨年末から
の『アバター』の大成功を見れば、やらない法はないだろう
というのが一般的な観測のようだ。
 とは言えワーナーには、2004年の『ポーラー・エクスプレ
ス』で3Dに先鞭を付けたという自負があるようで、自社作
品の3D化が他社の成功に便乗したとは言いたくないところ
なのだろう。何はともあれ“Clash of the Titans”の3D
化がそれなりの成績を収めれば、ホグワーツ魔法学校が3D
で観られることになる。その他にハリーたちが繰り出す魔法
も、3Dなら一層の迫力になりそうだ。
 そして『ハリー・ポッター』が成功すれば、まさに本格的
な3D時代の到来となりそうだが、こうして考えてみると、
ソニーが『2012』で3D化を試みなかったのは本当に惜
しまれるところで、ソニー・イメージワークスには『Gフォ
ース』の3D化を手掛けたチームもあって、自社内での変換
も可能であったはずなのにと思うと、今更ながら残念に思え
るところだ。

 なお、次回はいよいよ発表されるアカデミー賞のノミネー
ションについて書く予定です。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二