井口健二のOn the Production
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2010年01月31日(日) コロンブス永遠の海、ノン、バレンタインデー、昼下がりの情事、しあわせの隠れ場所、鉄拳、月に囚われた男、トイ・ストーリー(3D)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。なお、文中※
※物語に関る部分は伏せ字にしておきますので、読まれる※
※方は左クリックドラッグで反転してください。    ※
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『コロンブス永遠の海』“Cristóvão Colombo - O Enigma”
2007年9月に『夜顔』を紹介している1908年生まれのポルト
ガル監督マヌエル・デ・オリヴェイラによる2007年の作品。
『夜顔』と同じく監督99歳の時の作品になるが、映画の後半
では監督自身が夫人と共に登場して赫灼とした姿を見せてお
り、その健在ぶりも示される。その後も監督は年1、2作の
発表を続けていて、今年も新作を準備中だそうだ。
物語は、映画の製作当時に話題になっていた「コロンブス=
ポルトガル人説」に基づき、その検証やコロンブス及びポル
トガル人の業績を語っているもので、映画の前半では、若く
してアメリカに渡ったポルトガル人青年のドラマなども描か
れるが、大凡はセミドキュメンタリーというかルポルタージ
ュの雰囲気で綴られている。
従って、その映画製作もそれほど体力のいるものではなかっ
たかも知れないが、少なくとも映画の前半では、1946年に設
定された時代の雰囲気を良く再現しているし、その演出は確
かなものだ。

出演は、監督の孫に当る俳優リカルド・トレパが晩年を監督
自身が演じる主人公に扮し、相手役をポルトガルの作家アウ
グスティナ・ベサ=ルイーシュの孫娘のレオノール・バルダ
ックが演じる。その晩年を監督夫人が演じているものだ。
また、ナレーターと主人公らが見学する美術館の館長役を、
ジョン・マルコヴィッチの監督作品に出演したこともあると
いうスペインの俳優ルイーシュ・ミゲル・シントラが演じて
いる。
他に、エンジェルという役名で登場する少女がロレンシア・
バルダックという名前で妻役の女優と同じ姓だが、2人は姉
妹なのかな。さらに主人公の母親役で、オリヴェイラ監督の
1993年作『アブラハム渓谷』などのレオノール・シルヴェイ
ラが出演。
「コロンブス=ポルトガル人説」というのは聞いたことはあ
ったが、ここまで丁寧に検証されると信じたくなってくる。
特にコロンブスが名付けたキューバという地名が、その説に
よる彼の生地と同じというのには、納得させられたところだ

『ノン、あるいは支配の空しき栄光』
          “'Non', ou A Vã Glória de Mandar”
ポルトガルのマヌエル・デ・オリヴェイラ監督による1990年
の作品。本作は以前にも日本公開されているらしいが、今回
は上記作品の公開に先駆けて4月下旬に岩波ホールで限定公
開が行われることになり、改めて試写を観せて貰えた。
基本の物語は、1974年春頃の出来事で、国連の勧告に反して
植民地を手放そうとしない軍事政権によってアフリカの植民
地に送り込まれたポルトガル兵たちが、ブッシュの広がる荒
れ地を輸送トラックで移動して行くというもの。
そのトラックには大学でポルトガル史を研究していたという
少尉の率いる小隊が乗車しており、荷台の彼らは派遣した政
権への不満を語り合っている。そして少尉は、彼らにポルト
ガルが経てきた敗北の歴史を語り始める。
それは最初に紀元前2世紀のローマ軍との戦い、次は15世紀
後半の統一王国の模索、さらに16世紀後半のモロッコ遠征、
そして現在(1974年)の植民地維持のための戦い。それらは
何れもが空しい戦いの歴史だった。
しかしポルトガルにも、戦いとは関係の無い栄光や技術革新
の歴史がある。それは新世界への進出やヴァスコ・ダ・ガマ
の業績など。それらを忘れて戦いを続けることの空しさ。オ
リヴェイラの作品には常に死と破滅が描かれるそうだが、本
作もその例に漏れない。
それにしてもポルトガルという国には、ヨーロッパのスペイ
ンの先にある大西洋に面した小国ぐらいにしかイメージが無
かったが、本作と上記の『コロンブス…』を観て印象を新た
にすることができた。これも映画の効用と言えるものだ。

出演者では、『コロンブス永遠の海』でナレーターと館長役
を務めていたルイーシュ・ミゲル・シントラが少尉の役に扮
し、彼が語る各歴史のエピソードの中にも登場する仕組みに
なっている。
他に、オリヴェイラ監督1997年作品『世界の始まりへの旅』
にも出演のディエゴ・ドリアらが登場している。
現在100歳を超えても元気な監督が、20年前に作った作品と
いうことで、さらに精力的な作品になっているが、映画の中
の戦闘シーンでは1200人のエキストラと350頭の馬が登場し
ているそうで、当時すでに80歳の監督の作品とはとても思え
なかった。

『バレンタインデー』“Valentine's Day”
1990年『プリティ・ウーマン』などのゲイリー・マーシャル
監督が、2月14日一日にロサンゼルスで起きる出来事を描く
アンサンブル劇。
男女が恋心を告白する日。女から男へというのは日本だけの
決まりようで、この映画に描かれたアメリカの様子では、男
性から「特別」な女性への愛の告白をする日となっているよ
うだ。そんないくつもの愛の告白が描かれて行く。
そこにはその想いが成就するものもあれば、それをきっかけ
に思いも拠らない事態に発展してしまうものもある。そして
それが永遠に続くものであったり、乗り越えていかなければ
ならないものであったり、また時間が解決してくれるもので
あったりもする。
そんな様々な恋愛模様が綴られて行く。それは、個々の物語
は一々書き出せるようなものでなくても、その当事者にとっ
ては、もしかしたら一生で一度かも知れない重要な物語ばか
りだ。そんな素敵なラヴストーリーが綺羅星のようなスター
たちによって描かれる。

出演は、オスカー俳優のキャシー・ベイツ、ジェイミー・フ
ォックス、シャーリー・マクレーン、ジュリア・ロバーツを
始め、『シカゴ』でノミネートのクィーン・ラティファと、
『レイチェルの結婚』でノミネートのアン・ハサウェイ。
他に、『シン・シティ』のジェシカ・アルバ、『NEXT』
のジェシカ・ビール、『イエス・マン』のブラッドリー・ク
ーパー、『フェースト』のエリック・デイン、『魔法にかけ
られて』のパトリック・デンプシー。
さらに『プリティ・プリンセス』のヘクター・エリゾンド、
『スパイダーマン3』のトファー・グレイス、『デアデビル
/エレクトラ』のジェニファー・ガーナー、『バタフライ・
エフェクト』のアシュトン・カッチャー。
『トワイライト』のテイラー・ロートナ、『ビバリーヒルズ
・チワワ』のジョージ・ロペス、『誰かが私にキスをした』
に出演のエマ・ロバーツ、“Aliens in the Attic”のカー
ター・ジェンキンス、そしてシンガー・ソングライターのテ
イラー・スィフト。
物語の中には、日本人とは感覚の違うものもあるかも知れな
いが、数ある中には自分にも当てはまるものがきっとある。
そんな感じのする作品だ。

『団地妻 昼下がりの情事』
「ロマンポルノRETURNS」と題された企画シリーズの
第1弾。
1971年11月20日にスタートした「日活ロマンポルノ」。その
第1弾として製作された内の1本が、西村昭五郎監督、白川
和子主演による「団地妻 昼下りの情事」。それと同じ題名
を冠された作品が、新たなスタッフ・キャストで再製作され
た。
団地暮らしの若夫婦。しかし夫は仕事に追われて過労気味、
夜の生活では前技も疎かで妻を充分に満足させることもでき
ない。そんな妻が夫の留守中に何をしているか…。そんな団
地妻の生態が描かれる。
とは言うものの、オリジナルはかなり凄絶なお話で話題にな
ったものだが、それに比べると本作は普通のピンク映画とい
った程度。でもまあ、題名をそのまま映画化するとこの方が
正しいような気もするし…。オリジナルのファンとの間で評
価が分かれそうだ。

本作の監督は、2008年5月紹介『落語娘』や、1990年公開と
2008年8月紹介『櫻の園』などの中原俊。脚本は2008年2月
紹介の『あの空をおぼえている』などの山田耕大。いずれも
ロマンポルノの全盛期を支えた大ベテランたちだ。
主演は劇団・東京乾電池所属の高尾祥子。共演は2009年『蟹
工船』などに出演の三浦誠己。他に遠藤雅、志水季里子。ま
たオリジナルに主演した白川和子が特別出演のかたちで登場
している。
実は昨年、アダルトヴィデオをかなりの本数観る機会があっ
て、それはまあ殆どが直截的な、単目的としか言いようの無
い作品ばかりだったのだが、その多くが団地妻を題材にして
いた。
それは観ているときにはそれなりにオリジナルの影響力みた
いなものも感じたが、結局、人間の考えることなど、あまり
多くのヴァリエーションは無いのかも知れない。今も昔もこ
んなことばかり考えているのが男であり人間なのだろう。
ただ、オリジナルの自暴自棄気味の過激さには当時の時代背
景もあったのだろうが、そんな時代の活力みたいなものが失
われたのは多少残念なところではある。それは多分、今の時
代の感覚には合わなかったのだろうが…
なお、本作は日活と衛星放送スカパーの共同製作によるもの
で、2月13日には劇場公開と同日でPPVによる放送も開始
されることになっている。

『しあわせの隠れ場所』“The Blind Side”
主演のサンドラ・ブロックが、ゴールデングローブ賞の主演
女優賞(ドラマ部門)を獲得した作品。
2009年のNFLドラフトの1巡目、全体の23位で指名され、
今季12月−1月の新人月間MVPにも選出されたボルティモ
ア・レイヴンズのオフェンスタックル=マイクル・オアー選
手と、高校時代から彼を支援し続けた1人の女性の行動を描
く。
それは全くの偶然だった。家族で食事に行った帰り道、冷た
い雨の降る中を半袖のTシャツと半ズボンだけで歩くオアー
を資産家の妻であるリー・アンが目に留め、彼が我が子と同
じ学校の生徒と知った彼女は、運転していた車に彼を乗せて
自宅につれて行く。
そのオアーは、体格の良さからスポーツで大成するのでは…
と見込まれてミッション系の高校に進学していたのだが、体
格は良くても実際にスポーツをしたことはなく、しかもそれ
までろくな教育を受けていないオアーは授業にもついて行け
そうになかった。
そんなオアーだったが、いろいろな適性検査などでも及第点
を取れない彼には、一つだけ際立った特性があった。それは
…。そんなオアーの特性に着目したリー・アンは彼の支援を
始めるが、アメリカ南部の社会では周囲と確執を生むことに
もなってしまう。
しかしそんな障害も何のその、リー・アンは徹底的なオアー
の支援を開始する。それには彼女の家族も巻き込まれて…
ブロックはドラマ部門で受賞を果たしているが、映画自体は
かなりのユーモアも織り込んで、こうと決めたら脇目も振ら
ない女性の行動力を描いて行く。それは一面では資産家の妻
の気紛れでもあったのかも知れないが、兎に角その推進力の
凄さ。
実は、プロダクションノートに掲載されたブロックの発言か
ら類推すると、本物のリー・アンはもっと凄い人だったよう
で、現実味を添えるためにかえって押さえ気味に演じられて
いるようでもあるのだが、そんな女性の行動力が見事に楽し
く描かれている。

共演は、オアー役に『僕らのミライへ逆回転』などに出演歴
はあるが、メイジャー作品へはデビュー作となるクイントン
・アーロン。
他に、熱血家庭教師役のキャシー・ベイツ、実際はカントリ
ーミュージック界のスーパースターでもある夫役のティム・
マグロウ、10代でLAタイムズ紙に寄稿するなどのジャーナ
リストでもある娘役のリリー・コリンズ、『ハンコック』な
どに出演の子役のジェイ・ヘッド。
脚本・監督は、2002年『オールド・ルーキー』などのジョン
・リー・ハンコックが、見事なヒューマンドラマを作り上げ
た。

『鉄拳』“Tekken”
1994年にナムコが発表した対戦型格闘ゲームの映画化。世界
を席巻する超巨大財閥=三島財閥の跡目相続を巡って開催さ
れる格闘技大会「The King of Iron Fist Tournament」を背
景に、名声や復讐、あるいは野望に燃えた格闘家たちの闘い
が始まる。
映画の主人公は風間仁。都市を外れた貧民街に生きる仁は、
格闘家の母親に仕込まれた技を駆使して、財閥が開発する新
兵器を盗みだし闇組織に転売することを生業としていた。し
かし財閥の警察機構に追われた彼の目の前で家が爆破され、
母親が殺される。
こうして財閥への復讐を誓った仁は、各財閥の代表選手が集
まるトーナメントに市民代表として参加し、勝ち上がって三
島財閥に鉄槌を下そうとするが…その前には、財閥の総師三
島平八の息子一八などが待ち構えていた。

出演は、2006年2月紹介のタイ映画『トム・ヤム・クン!』
にも出演していたという中国系イギリス人俳優ジョン・フー
が仁役を演じ、その母親役を『カラテ・キッド2』や『ジョ
イ・ラック・クラブ』などのタムリン・トミタ。
また、ケイリー=ヒロユキ・タガワや、『24』に出演のイ
アン・アンソニー・デールらの日系人アメリカ俳優も顔を揃
えている。
監督は、2004年『アナコンダ2』などのドワイト・リトル。
脚本は、1997年『スポーン』などのアラン・B・マッケルロ
イが担当している。
格闘ゲームの映画化ではすでに『ストリート・ファイター』
などの作品が製作されているが、ゲームを再現する格闘シー
ンはともかく、その背景となるドラマの構築及びその格闘技
との融合が難関となる。
しかし本作の場合は、上記のストーリーはほぼゲームのコン
セプトにも書かれており、その点ではやりやすかったとも思
えるが、実際はさらにそこに「鉄拳2」に登場の風間準と仁
という登場人物を配してよりドラマティックなものにしてい
る。
このドラマの部分が、本作ではそれなりに納得できるように
も作られており、アクション映画としても面白いのになって
いた。

『月に囚われた男』“Moon”
新人監督の作品でありながら、しかも本格SF作品でありな
がら、本国イギリスのアカデミー賞で作品、監督、脚本、主
演男優など10部門のノミネートを獲得しているダンカン・ジ
ョーンズ原案監督、サム・ロックウェル主演作品。
月の裏側に位置するエネルギー資源「ヘリウム3」の採掘基
地に3年間の契約で赴任した男が、人気の満了まで余すとこ
ろ2週間となったときに、思慕の情の発露なのか基地にはい
ないはずの人影が観え始める。そして採掘装置の故障を修理
に出掛けた男は…
いやはや久し振りに見事なSF作品で、その物語の展開の素
晴らしさやその背景にあるであろう物語の広がりなど、本当
に堪能できる作品だった。ただし、これ以上は何を書いても
ネタバレになりそうだ。

監督は、『2001年宇宙の旅』や『サイレント・ランニン
グ』などからこの物語を思いついたと言うことだが、宇宙に
進出した人間の孤独やそこでの慰みなどが実に丁寧に描かれ
ている。
因に監督は、1977年の『地球に落ちてきた男』に主演したロ
ックのカリスマ=デイヴィッド・ボウイの息子とのこで、す
でにCMなどで実績のある映画作家の長編デビュー作となる
ものだが、父親譲りの感性が見事に開花した感じだ。
一方、主演のロックウェルは2003年6月に紹介した『コンフ
ェッション』の屈折した主人公の演技が出色だったが、本作
でも幻覚に悩まされながらも職務を遂行しようとする姿や、
真実を見極めた後での毅然とした態度などのメリハリが見事
に演じられていた。
とは言え、その真実がSFに慣れていない観客にどこまで理
解されるか。もちろん映画の中の説明でも了解はできるのだ
が、そこより奥にある物語にこの作品の本当の素晴らしさが
あるようにも感じられる。
それは実は別のある映画を例に引けば理解もされやすいのだ
が、それを書くとネタバレになってしまう。これはジレンマ
だ。
なお、共演者は殆どいないが、唯一主人公のアシスタントと
なる人工知能ロボット「ガーティ」の声優でオスカー俳優の
ケヴィン・スペイシー。ロックウェルの1人芝居に感激して
の応援出演だそうだ。

『トイ・ストーリー/トイ・ストーリー2(3D)』
      “Toy Story in 3-D”“Toy Story 2 in 3-D”
1995年と1999年に製作されたCGIアニメーションシリーズ
の第1作と第2作が、今年夏の第3弾を3Dで公開するのに
先駆け、3D化されて再公開される。なお、日本公開は2本
立てでの上映となるようだ。
物語は、人間の前では動かない喋らないを基本のルールとし
ている玩具たちの人間には観えないところでの活動を描くも
の。
その第1作では、男の子が大事にしているカウボーイ人形の
ウッディをリーダーとする玩具のグループに新たなスペース
レンジャーの人形バズがやってくる。そして一家の引っ越し
と絡んでのウッディとバズの冒険が展開される。
また第2作では、実はヴィンテージ物の高価な玩具だったウ
ッディがうっかり玩具コレクターの手に落ちて…。そこから
の新たな出会いや、バズたちによる救出作戦の冒険が描かれ
た。

というお話の2作品だが、今見直しても技術的には全く問題
はないし、物語のユニークさなどでは最近の作品と比べても
全く遜色はない。
実は、僕自身が初めて1作目を観たときには、初のCGIア
ニメーションということで、人物の表現などにもっとリアル
さを期待してしまったりもしたものだが、今から思えばこれ
はアニメーション作品なのだし、この表現で良かったのだと
再確認できた。
そして今回は、それがさらに3D化されているものだが、観
ていると見事な3D演出が随所に登場して、これは最初から
想定されていたのではないかと思えるほどのものになってい
た。今さら2Dでは観られないとも思えるほどだ。
オリジナルの声優はトム・ハンクス、ティム・アレンらが務
めているが、今回は3D公開ですべて吹き替えとなるため、
オリジナル上映時と同じく唐沢寿明、所ジョージらの声優と
なる。その中では、故名古屋章、故八代駿らの声も聞くこと
ができる。
なお、上記のように公開は2本立てとなるが、これは合計の
上映時間で2時間53分となるもので、一興行の3D上映では
『アバター』の2時間42分を超えるものになる。


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井口健二