井口健二のOn the Production
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2010年01月25日(月) 第182回

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※今回は試写会が多かった上に、書きたいこともいろいろ※
※あるので臨時に更新します。            ※
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 まずは賞レースの情報で、ここ数年紹介しているアメリカ
Visual Effects Society選出のVES賞のノミネーションが
1月18日に発表された。その内から映画部門の候補作品だけ
報告しておく。
 VFX主導映画のVFX作品賞候補は、『2012』『ア
バター』“Discrict 9”『スタートレック』『トランスフォ
ーマー』
 VFX主導でない映画のVFX作品賞候補は、『天使と悪
魔』“The Box”『インビクタス』“The Road”『シャーロ
ック・ホームズ』
 アニメーション作品賞候補は、『くもりときどきミートボ
ール』『コララインとボタンの魔女』『アイス・エイジ3』
『カールじいさんの空飛ぶ家』“9”
 単独VFX賞候補は、『2012』の脱出シーン、『アバ
ター』の脱出シーン、『アバター』のネイティリのシーン、
『ノウイング』の墜落シーン、『タームネーター4』の脱出
シーン
 実写映画のアニメーションキャラクター賞候補は、『アバ
ター』のネイティリ、“Discrict 9”のChristopher、『G
フォース』のバッキー、“Watchmen”のDr.Manhattan
 アニメ映画のアニメーションキャラクター賞候補は、『コ
ラライン』のコラライン、『アイス・エイジ3』のバック、
『モンスターVSエイリアン』のBOB、『カールじいさん』
のカール
 アニメ映画におけるエフェクトアニメーション賞候補は、
『…ミートボール』『コラライン…』『モンスターVSエイリ
アン』『カールじいさん…』
 マットペインティング賞候補は、『アバター』“Franklyn"
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』『スター・トレック』
 ミニチュア賞候補は、『アバター』『コラライン』『ナイ
ト・ミュージアム2』『ターミネーター4』
 背景賞候補は、『2012』の全体、『アバター』の浮か
ぶ山、『アバター』のジャングル、『アバター』の柳の樹の
広場
 合成賞候補は、『アバター』の全体、『アバター』の最後
の戦闘、“Discrict 9”、『シャーロック・ホームズ』
 以上、映画関係は11の部門賞が48のノミネーションから選
ばれるが、その内で『アバター』が11の候補を数えるのが今
年の特徴と言えるものだ。ただし『アバター』は、いくつか
の部門でダブル、トリプルの候補となっているので、11の全
てが受賞という訳には行かず、最大でも7部門に留まる。と
は言え、これは元々対象にならないアニメーション映画関連
とVFX主導でない映画の部門を除く、全部門を独占するこ
とになるもので、その可能性は高そうだ。
        *         *
 お次はすでに結果が出ているもので、アカデミー賞の前哨
戦とも言える1月17日に発表されたゴールデン・グローブ賞
で、何と『アバター』がドラマ作品賞と、ジェームズ・キャ
メロンの監督賞の2部門を受賞した。
 ゴールデン・グローブ賞はハリウッド駐在の外国人記者の
団体が選出するもので、その対象は映画とテレビの両部門に
分けられ、さらに作品賞と主演男女優賞はドラマとコメディ
/ミュージカルの2部門に分けられているものだが、一応は
ジャーナリストの選出ということで、映画関係者が選ぶアカ
デミー賞より公正な選出が行われていると信じたいものだ。
 ただし選出メンバーの人数があまり多くないようで、一部
の意見に左右されたり、またあまり専門的でない世間の評価
に迎合しやすいということも言われている。でもまあそれな
りの権威もある訳で、アカデミー賞にもかなり影響力がある
ことは事実のようだ。
 ということで『アバター』の高評価は、アカデミー賞にも
大いに期待を抱かせるところだ。例によって演技賞は無関係
だろうが、2003年の『LOTR/王の帰還』と、キャメロン
自らが1997年『タイタニック』で打ち立てたオスカー11冠の
偉業を今回も期待したいものだ。まずは2月2日に行われる
オスカー候補の発表が待たれる。
        *         *
 そこでまあ、試写を観なかった『アバター』“Avatar”に
関しては、このページで作品の紹介はしていないものだが、
僕も一般の興行では鑑賞したので、ここで自分の意見を多少
述べさせて貰いたい。
 まず、映画を観ての僕の感想は、舞台となるパンドラ星の
「観光映画」としては良くできているというものだ。それは
樹上の世界から浮かぶ山の景観まで、特に風景に関しての3
D映像が見事に表現されていた。
 因にこの映像の生成に関しては、1月17日に23分にも及ぶ
メイキングのヴィデオがネット上で公開されたが、特に俳優
のパフォーマンスをキャプチャーするヴァーチャルスタジオ
の中で、カメラまでもがヴァーチャル化されて、キャメロン
が手持ちで自由に動き回るモニターの画面に、そのまま背景
やCGIのキャラクターまで合成された映像が写し出されて
いるのには目を見張った。
 このヴィデオは、検索サイトで“Creating the World of
Pandora”を検索して、1月17日以降の日付のページを開け
ば観られるはずのものだが、モニターの角に位置や角度を検
出するためのサイコロ状の反射器が設けられたヴァーチャル
カメラや、表情をキャプチャーするために顔の前に装着され
た小型カメラなど、ここまでやっていたのかと思わされるも
のだった。これなら、キャメロンのように頭の中にしっかり
とヴィジョンのある監督には鬼に金棒という感じだし、そう
でない監督にも目で観てCGI世界を演出できるのは、今後
の展開にも夢を抱かせるものだ。
 ということで、映像的には正に驚嘆させられた作品だが、
物語としては今一つの感じがした。それはまず、アバターの
設定が、そのヴィジュアルの雰囲気など1973年にフランスの
アニメ作家レネ・ラルーが発表した“La planète sauvage”
(邦題:ファンタスティック・プラネット)に酷似している
のが気になった。この設定がそこから想を得ていることは間
違いないだろう。その他、浮かぶ山の景観なども動画の3D
映像には目を見張るが、イメージとしては過去にSFアート
で描かれてきたものだ。
 それに何より、後半がただの戦争映画になってしまうのに
は幻滅してしまったところで、それはナパーム弾で焦土作戦
を展開するところから進駐軍の撤退まで、ヴィエトナム戦争
を再構成してアメリカ人に警鐘を鳴らしたいという意図はあ
るのだろうが、所詮、派手な戦闘シーンを描いたのではその
崇高な狙いも不明瞭になってしまう。
 戦闘シーンを描いたら反戦映画は成立しないというのは、
最近に他からも聞いて僕だけの意見ではないようだが、この
作品を観ていてその思いを新たにした。そして、この作品に
関してはもっと自然の力を強調する形でも物語は作れたはず
で、結局アメリカ人は戦争が好きなんだ…という感想しか浮
かんでこなかった。
 技術的には今後の発展も期待したいが、それが戦争映画に
しか活かされないのは残念に感じたところだ。
 以上をこの作品の紹介とさせていただきます。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、2008年8月15日付第165回などで紹介したロバー
ト・E・ハワード原作“Conan the Barbarian”の映画版リ
メイクの続報で、その監督を2003年版“The Texas Chainsaw
Massacre”などのマーカス・ニスペルが担当し、主人公を、
テレビシリーズ“Stargate Atlantis”などに出演のジェイ
ソン・モモアという俳優が演じることが報じられている。
 因にこの配役では、『トワイライト』に出演のケラン・ル
ッツと、ニスペル監督が昨年発表した“Friday the 13th”
に出演のジャレド・パラデッキという名前も挙がっていたよ
うだが、その3人の中では最も無名に近い俳優が選ばれたこ
とになるようだ。
 なお、モモアは1979年ハワイホノルル生まれとのことで、
“Stargate…”以前には、ハワイが舞台の“Baywatch”にも
一時期出演していたものだが、何れも主演という訳ではなか
った。ただし現在製作中のセルヴィデオ向けの“Stargate:
Extinction”では主演もしているようで、これからブレイク
する可能性は高そうだ。シュワルツェネッガーが主人公を演
じたときもほぼ無名だったのだから、ここでそういう俳優が
選ばれるのも順当と言ったところだろう。
 脚本はまだ完成していないようだが、撮影はブルガリアと
南アフリカで行われることになっている。製作はライオンズ
ゲイト、ミレニアム、ヌ・イメージスと、2009年3月15日付
第179回で紹介したパラドックス社。前の3社の共同製作は
最近のジャンル映画では老舗級だ。
 それから今回の映画情報をアメリカのデータベースで検索
し直したら題名が“Conan”だけになっていた。改題の発表
はまだ無かったと思うが、チェックするときには気をつける
必要がありそうだ。
        *         *
 前々回に公開日を報告した“Pirates of the Caribbean:
On Stranger Tides”の製作に関して、その撮影が今年の夏
にハワイのオハフ島とカウアイ島で行われるとの報告がされ
た。
 その他の製作状況はあまり変わっていないようだが、公開
まで1年を切っての撮影開始となるもので、その分、脚本に
じっくり時間を掛けているにしても、VFXなどに掛ける時
間が充分に取れるのかどうか、多少心配になるところだ。
 ただまあこれで、主演のジョニー・デップには、前回も紹
介した“The Tourist”にじっくり取り組んでもらえること
にはなりそうで、俳優のスケジュール的には好都合と言えそ
うだ。後は、両作品がトラブル無く撮影されることを祈りた
いものだ。
 因に、この撮影に掛けられる予算は8500万ドル(85億円)
だそうで、世界不況下のこの時期に、黙っていてもそれだけ
のお金が落ちる撮影地の地元は大いにラッキーだという意見
もあるようだ。
        *         *
 次もディズニーの話題で、いよいよ『アリス・イン・ワン
ダーランド』の公開も近づいてきたティム・バートン監督の
次ぎなる計画として、“Maleficent”という題名が報じられ
ている。
 この題名は、何を隠そう1959年にディズニーが映画化した
『眠れる森の美女』(Sleepng Beauty)でオーロラ姫を眠り
に陥れる魔女の名前。つまりぺローやグリム童話でも知られ
る物語を魔女の側から描こうとするもので、『アリス…』で
は1951年映画化の『不思議の国のアリス』の後日談を描いた
バートン監督が、再びちょっとに捻ったディズニーアニメー
ションの再構築をするという計画だ。
 元々バートン監督は、映画界でのキャリアの第1歩をディ
ズニーのアニメーターとして記したもので、ディズニーアニ
メーションへの尊敬の念には疑いの無いものだが、その視点
での物語の再構築には期待が持てる。ただしこの魔女は、デ
ィズニーアニメーションに登場する幾多の魔女の中でも、最
も性悪とも言われている存在で、その立場に立っての物語が
一体どうなるのかも楽しみだ。
 ただバートンの監督では、主人公の魔女役は『アリス…』
にも登場のヘレナ・ボナム・カーターが演じるのでは…?と
いう意見もあるようで、その辺ではいろいろ心配する人もい
るようだ。
        *         *
 最後にもう1本新しいニュースで、ソニー・ピクチャーズ
が、2007年にアメリカのSF作家ジェフ・サマーズが発表し
た“The Electric Church”という長編小説の映画化権を獲
得したことを発表した。
 この原作は、元々はエッセイストで、2001年頃から小説も
書いていたサマーズが満を持して出版した作品とのことで、
紹介文によると、ジョージ・オーウェルやフィリップ・K・
ディックを思わせるアンチユートピアを舞台にした『ブレー
ド・ランナー』のようなアクションスリラーが展開されてい
るようだ。
 そしてこの作品には、アヴェリー・ケーツという同じ人物
を主人公にした続編が毎年1作ずつ発表されており、その内
の“The Digital Plague”“The Eternal Prison”と題され
た2作の権利も一緒に契約されている。なお、シリーズでは
4作目となる“The Terminal State”と題された作品も今年
出版の予定だそうだ。
 ということでシリーズ化も視野に入れた映画化が行われる
ことになりそうだが、ソニーではこの脚色に、先にワーナー
で進められているダン・シモンズ原作“Hyperion”の脚色も
担当しているトレヴァー・サンズを契約して、映画化の準備
を進めている。因にサンズは、1994年“Finding Interest”
という作品の脚本と監督を手掛けているが、この作品は暗殺
者をテーマにしたもので、“The Electric Church”の主人
公アヴェリー・ケーツも同じ仕事をしているものだ。
 その他のスタッフ・キャストは未発表だが、本作の主人公
にはそれなりのファンもいるようで、キャスティングも注目
されることになりそうだ。
        *         *
 もう1つ、これは直接映画の話題ではないが、ちょっと気
になる情報で、2008年10月1日付第168回などで映画化の計
画を紹介している“Artemis Fowl”について、前回紹介した
ときに読んでいた第6巻“The Time Paradox”から続く第7
巻の出版が遅れるとのことだ。
 この第7巻に関しては、“The Atlantis Complex”という
題名まで発表されて、2010年の出版が予定されていたものだ
が、その遅延の理由を、最近出版された第6巻のペーパーバ
ック版に作者のオーエン・コルファー自身が記述している。
それによると、何とその作者がダグラス・アダムス原作で、
2005年には映画化もされた“The Hichhiker's Guide to the
Galaxy”の続きを執筆していると言うのだ。
 この映画化された原作については、2004年7月の映画紹介
でも書いたように原作者のアダムスが2001年に他界して、当
時計画されていた第6巻が未完となっていたものだが、今回
の情報はコルファーがその執筆を始めたとのこと。そのため
“Artemis Fowl”の第7巻の執筆出版が遅れるとのことだ。
 どちらも人気の高いシリーズで、そのどちらを優先しろと
も言えないところだが、個人的にはやはり最近のシリーズで
ある“Artemis Fowl: The Atlantis Complex”を早く読みた
いと思っているものだ。


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井口健二