井口健二のOn the Production
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2010年01月03日(日) 第181回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 新年最初ということで、試写会も有りませんでしたので、
久し振りにニュース欄を復活します。
 まずは嬉しいニュースで、特にSF/ファンタシー映画の
分野で活躍する2人の映画人に、それぞれサーの称号が贈ら
れることが発表された。
 1人目は、『新スタートレック』のピカード艦長や『X−
メン』のプロフェッサーX役でお馴染みの俳優パトリック・
スチュアートに英国女王からサーの称号が贈られることが発
表された。受賞の理由は「ドラマへの貢献」とされており、
元々がシェークスピア俳優でもあるスチュアートにはいろい
ろなドラマへの貢献が有ると思うが、イギリスはともかく、
アメリカだとドラマ=テレビドラマという感覚が強いから、
これは『新スタートレック』の評価ということでも考えたい
ところだ。それにしては少し遅いが。
 なお、サー・スチュアート本人からは、「大変な喜びで、
非常に光栄に思う」とのコメントが発表されている。因に、
先にサーの称号を授与された『X−メン』の共演者のサー・
イアン・マッケランにはSerena(高貴な人)というニックネ
ームが有るそうで、今後は2人ともそうなってどうするのか
という問題も有るようだ。
 そして2人目は、そのマッケランが出演した『LOTR』
3部作で世界的ヒットを飛ばしたピーター・ジャクスン監督
に対して、母国ニュージーランド政府からサーの称号が贈ら
れることが発表された。因に、ニュージーランドは英連邦の
一員なので、この称号もイギリス女王から贈られることにな
るのかな。
 こちらの授与の理由は「映画への貢献」とのことで、特に
『LOTR』が同国へもたらしたいろいろな影響が高く評価
されたようだ。同作では、2004年のアカデミー賞を総浚えす
るなどニュージーランド映画界の名前を一躍高めたが、さら
にロケ地ツアーなどの観光事業への貢献も高いようで、いろ
いろな意味での貢献度は高そうだ。サー・ジャクスン本人か
らは、「自分の人生で2004年のオスカー受賞以上のサプライ
ズは無いと思っていたが、間違いだった」というコメントが
発表されている。
        *         *
 人に受賞に続いては作品の選出で、毎年年末に発表される
アメリカ国会図書館が選定する「保存すべき映像」2009年版
の25本に、1957年製作の“The Incredible Shrinking Man”
(縮みゆく人間)が選出された。
 『アイ・アム・レジェンド』などの原作者のリチャード・
マシスンが自らの小説を脚色し、脚本家として初めて映画に
関った作品としても記憶される本作は、翌年のアメリカSF
大会で授与されるヒューゴー賞のドラマ部門を受賞、ファン
の間では最初から高く評価されていたものだ。その作品が、
今回は公的な機関から選定を受けたもので、その事実は単純
に喜びたい。
 因に今回の選定では、この他に1979年製作の“The Muppet
Movie”、1983年製作のPV“Thriller”なども一緒に選ば
れている。また、1911年に実写とアニメーションの合成を成
功させた“Little Nemo”という作品も選定されている。な
お、過去の選定作品については、昨年1月1日付の本ページ
もご参照ください。
        *         *
 さて、めでたい話はこれくらいにして、次は製作ニュース
と行きたいところだが、実は年末は海外もクリスマス休暇な
どでめぼしい情報が少ない時期。そんな中でサー・ピーター
・ジャクスンが主宰するウェタ・ワークショップから新たな
ファンタシーシリーズの映画化権の獲得が報告された。
 報告されたのは、イギリス在住の作家イラストレーターの
フィリップ・リーヴが2001年に発表した“Mortal Engins”
という作品。すでに6巻が発刊され2010年には第7巻の刊行
も予定されている“Hungry City Chronicles”と題されたシ
リーズの第1巻となっている。
 因にこの作品は、2006年に創元SF文庫から『移動都市』
の邦題で翻訳出版され、2007年に横浜で開催された世界SF
大会/日本SF大会(併催)にて星雲賞海外部門を受賞して
いるもので、その内容紹介によると、物語の背景は最終戦争
後の世界。大都市は移動しながら小都市を貪るという「都市
自然淘汰主義」に則り、移動しながら互いを狩ったり狩られ
たりという闘争を繰り広げている。そんな時代を背景に、移
動都市ロンドンに暮らす少年の成長を軸にした冒険物語が展
開されるようだ。
 つまり映画化では都市が移動するという状況が描かれるこ
とになる訳で、これは『LOTR』を手掛けたVFX工房の
ウェタ・ディジタルには腕の見せ所という感じの作品になり
そうだ。
 ただし、本作の映画化に関してはジャクスン本人が監督す
るか否かは未定。またジャクスンは、今年夏に撮影開始予定
の“The Hobbit”については、監督はギレルモ・デル=トロ
に任せるものの、その脚本にはジャクスンも参加しており、
その原作を脚色する“Part 1”の脚本は完成しているが後続
となる“2”の脚本は未完成とのことで、現在は新作のプロ
モーションで世界中を飛び回っている状態では、上記のサー
の称号の授与式典への出席も含めて、ジャクスンのスケジュ
ールは満杯。つまり、ジャクスンが監督するしないに関らず
今回報道された作品の実現はまだ先のことになりそうだ。
        *         *
 ニュースはもう1つ。
 いよいよ年明けからの本格的な製作開始が予定されている
ディズニー/ピクサー製作による“John Carter of Mars”
に関連して、火星の教皇マタイ・シャン役で出演の予定され
ている俳優マーク・ストロングが、撮影について語っている
記事が報告された。
 その記事によると、いくつかのシーンの撮影はアメリカの
ユタ州でも行われるが、彼自身の出演シーンの殆どはロンド
ン郊外のスタジオで行われるとのことだ。そのスタジオには
360度の全ての角度にカメラが配置されていて、それにより
俳優の全身が撮影される。そしてその俳優の全身に火星人の
容姿が被せられるもので、俳優自身の才能でキャラクターに
いろいろな要素を付け加えることができる…としている。
 つまりこれは、『Disney'sクリスマス・キャロル』で使わ
れたのと同様のパフォーマンス・キャプチャーが行われるこ
とになるようだが、同作品を手掛けたロバート・ゼメキスは
今回の製作には参加していないもので、陰での協力が有るの
かどうかは判らないが、取り敢えずは独自の技術として実施
されることになるようだ。
 因にディズニーでは、『POTC』でビル・ナイが演じた
デイヴィ・ジョーンズの表情のモーション・キャプチャーを
俳優本人が行っていたが、それに似た技術はすでに持ってい
るということなのだろう。ただし、今回紹介した記事の中で
ストロング自身は「これはモーション・キャプチャーではな
い」と発言しているものだ。なおストロングは、2008年10月
紹介の『ワールド・オブ・ライズ』の他、日本では3月公開
予定の『シャーロック・ホームズ』にもホームズの敵役とし
て出演しているとのことだ。
 その他の配役は、ジョン・カーター役に2006年9月紹介の
『スネーク・フライト』に出ていたというテイラー・キッシ
ュ。デジャー・ソリス役に2006年7月紹介の『イルマーレ』
に出演していたリン・コリンズ。因にこの2人は昨年公開さ
れた『ウルヴァリン』で共演していたようだ。
 また、緑の巨人タルス・タルカス役に『スパイダーマン』
などのウィレム・デフォー、緑色人のソラ役に『マイノリテ
ィ・リポート』などのサマンサ・モートン、緑色人の皇帝タ
ル・ハジェス役に『スパイダーマン3』などのトーマス・ヘ
イデン・チャーチ。
 さらに、赤色人のカントス・カン役にロバート・E・ハワ
ード原作による2009年製作の“Solomon Kane”でケイン役を
演じているジェームズ・ピュアフォイ、赤色人の王子サブ・
サン役に2009年2月紹介『パニッシャー』などのドミニク・
ウェスト、緑色人の老女サルコジャ役に4月日本公開予定の
“Clash of the Titans”のリメイクにも出演しているポー
リー・ウォーカー。そして、原作者のエドガー・ライス・バ
ローズ役として、『Disney'sクリスマス・キャロル』に出演
していたダリル・サバラという1992年生まれの俳優がキャス
ティングされている。
 脚本は、『スパイダーマン2』の映画用ストーリーを手掛
けたマイクル・シェイボン。その脚本を『ウォーリー』など
のアニメーション監督アンドリュー・スタントンが改訂し、
初の実写作品として監督も担当するものだ。
 映画の全米公開は、2012年夏に予定されている。
        *         *
 最後に記者会見の報告で、1月15日に日本公開される映画
『かいじゅうたちのいるところ』のプロモーションとして、
製作者と監督スパイク・ジョーンズ、主演マックス・レコー
ズによる来日会見が行われた。
 作品については、すでに昨年11月に紹介しているのでそち
らを参照していただくとして、会見では映画に登場するかい
じゅうたちの創造の方法について質問してみた。ただしこの
質問は、本来的にはVFXのスタッフに聞くべきものだが、
今回はその方面からの来日はないし、実は会見で質問が途切
れそうになったので無理を承知でしたものだ。
 その回答は、まず製作者からは「主演が子役なので、CG
Iなど使わずに、出来るだけ自然な形で撮影できる方法を検
討した」というものだった。そして監督からは、「かいじゅ
うの演出は極めて危険なもの。こちらの言うことはなかなか
聞いてくれないし、ほら僕は指まで食われちまった」と、指
を内側に曲げて失ったように見せるパフォーマンスまでされ
てしまった。
 この後を受けて、主演のレコーズが「実際の撮影は、着ぐ
るみの中にオーストラリア人の俳優が入って行われたので、
普通に俳優と対しているようにできたし、別にそこで難しい
ところはなかった」という発言を聞くことができた。
 この質問は、元々上記のように無理を承知でしたもので、
僕自身が事前に回答は予想して、それ以上の回答を期待して
いたものではなかったが、監督のパフォーマンスや特に主演
のレコーズが真面目に答えてくれたのは期待以上だった。
 最近の記者会見は、事前に質問の仕込まれていることが多
くて、僕自身がその質問者を依頼されているとき以外はなか
なか質問のチャンスも無いが、今後も出来るときには面白い
回答を貰える質問をして行きたいものだ。

 ということで、今年もこんな調子でやっていきますので、
何卒よろしくお願いいたします。


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井口健二