| 2010年01月10日(日) |
恋するベーカリー、アイガー北壁+製作ニュース |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『恋するベーカリー』“It's Complicated” メリル・スリープ、アレック・ボールドウィン、スティーヴ ・マーティン共演による熟年ラヴ・コメディ。 ストリープ扮する主人公は若い頃にフランスで修行したとい うパン職人。ボールドウィン扮する弁護士と結婚して3人の 子供も儲けたが、10年前に夫の浮気で離婚した。しかし経営 するベーカリーは成功し、3人の子供も立派に育て上げてい る。そして最後まで家にいた娘が巣立ち、息子も大学を卒業 して社会人となる。 そんな彼女は、自宅を増築して理想のキッチンを作ろうと計 画しているが、その打ち合わせの席で出会ったマーティン扮 する建築士に心引かれるものを感じる。ところが息子の卒業 式出席のためニューヨークを訪れた彼女の前に、元夫が姿を 現す。しかも元夫は若い妻との仲が思わしくないようだ。 こうして発生した熟年三角関係に、主人公はどのような結論 を出すのか… 脚本・監督は、2004年2月に紹介した『恋愛適齢期』などの ナンシー・マイヤーズ。監督の前作『ホリデー』は観ていな いが、本作は『恋愛…』と同様の熟年男女を描いたもので、 実はマイヤーズもストリープも同い年の自分としては、解か り易く見ることの出来る作品だった。 ただまあ、男性の自分としては、何事にも優柔不断でぐずぐ ずしてしまうボールドウィンの役柄に親近感を持ってしまっ たもので、そうなってくるといろいろ身にも詰まされるし、 かなりやばい感じのお話にはなってしまう。 とは言え、映画はストリープが主人公なのだし、そういう映 画として観れば、これが正解なのだろう。彼女の生き方には 賛同する女性は多いはずだ。そしてそれは、これから女性に 愛を捧げようとする男性にもいろいろヒントは多い作品とも 言えそうだ。 共演は、『ホリデー』にも出演のジョン・クラシンスキー。 他に、ケイトリン・フィッツジェラルド、ゾーイ・カザン、 ハンター・ハリッシュという3人がストリープの子供たちを 演じて、見事な家族を描き出している。 因に本作は、すでにナショナル・ボード・オブ・レヴューの アンサンブル演技賞を受賞。またゴールデン・グローブ賞で は、ストリープが11月に紹介した『ジュリー&ジュリア』と 共にコメディ部門主演女優賞にWノミネートされている他、 作品賞、監督賞の候補にも挙げられている。 それにしてもストリープの役柄が、『ジュリー&ジュリア』 に続いてフランスで勉強した料理人と言うのも面白いところ だ。
『アイガー北壁』“Nordwand” 1936年8月に開催されるベルリンオリンピックに先駆け、同 年の7月にアイガー北壁の初登攀を目指したドイツ人登山家 を巡る実話に基づく物語。 標高3970mのアイガー山頂は1858年に初登頂され、その後は 各稜線からの登攀も次々に成功されるが、北壁だけは落石が 多発する地質などから極めて困難とされていた。その中で、 1934年に行われた初挑戦は失敗、1935年には2人の登山家が 3500m地点で遭難して帰らぬ人となる。 しかし、ドイツ=オーストリアの併合を目論むヒトラーは、 その北壁の克服を併合の象徴と位置づけ、初登攀を成し遂げ た者にはオリンピックと同じ金メダルを授与すると表明、登 攀は国家の威信を賭けた挑戦へとなって行く。そして1936年 7月、ドイツ人の登山家2人とオーストリア人登山家2人が それに挑むのだが… アイガー北壁というと、1975年のクリント・イーストウッド 監督主演による『アイガー・サンクション』がまず頭に浮か ぶ。その作品に描かれた気象の急変ぶりや落石の危険などは 本作でも克明に描かれているものだ。 ましてや本作は実話に基づく映画化な訳で、特に結末の強烈 さはフィクションではありえない、正しく「事実は小説より 奇なり」という感じのものだった。しかしこれが、正にこの 通り起きた出来事だったのだ。 さらにこの登攀がナチスの宣伝のために半ば強制的に行われ たという話や、祖国から追放されたオーストリア人登山家の 話など、描かれている歴史的な事実にもいろいろ興味深いも のがあった。これは正に歴史に翻弄された人々の話でもあっ たのだ。 出演は、2009年6月紹介『バーダー・マインホフ』のヨハン ナ・ヴォカレク、2006年3月紹介『戦場のアリア』や2008年 5月紹介『スピード・レーサー』にも出演のベンノ・フェル マン、2003年公開『グッバイ、レーニン』などのフロリアン ・ルーカス。 他に2002年版『ソラリス』に出演のウルリッヒ・トゥクール らが出演。また、2人のオーストリア人登山家を共にウィー ン生まれのジーモン・シュヴァルツとゲオルク・グリードリ ッヒが演じている。 監督は、CMやミュージックヴィデオ、また舞台演出やオペ ラ演出なども手掛けるというフィリップ・シュテルツェル。 長編映画は2作目のようだが、観ていて凍えるような寒さを 感じるほどのしっかりとした演出を見せている。因に本作の 雪山シーンは、巨大な冷凍倉庫の中に極寒を再現して撮影さ れているそうだ。 それにしても、快晴の陽を浴びていた北壁が一瞬にして雪山 に変貌するアイガーの驚異は1975年の作品にも描かれていた が、7月だというのに雪が降り積もる山岳の恐怖は、本作で はより明白に捉えられている感じがした。 ユングフラウ鉄道の状況なども判り易く描かれているし、目 と鼻の先にいながら助けることの出来ないもどかしさも、手 に取るように判る作品だった。 * * 製作ニュースは、今回も目欲しいものはあまりないが、ま ずは既報のシリーズ化が進む“Pirates of the Caribbean” で、次の作品となる第4作の全米公開日を2011年5月20日に 決定したことが発表された。 実はこの年の5月には、先にソニーから“Spider-Man 4” の5日公開が発表されていて、どちらも第4弾となるVFX 大作の競合が心配されていたものだが。この発表の直前に今 年前半に予定されていた“Spider-Man 4”の実写撮影が脚本 完成の遅れにより困難になったという報道があり、ソニーか らも公開延期が公式に発表されていた。そこで、当初は27日 と噂れていた“POTC 4”の全米公開日が繰り上げられること になったものだ。 ただし、元々このシリーズの全米興行では、最初の2作は 7月公開だったが、第3作の“At World's End”は5月25日 に封切られており、このタイミングでの公開は経験済み。夏 休み興行の先陣を切る5月、それも競合作のない公開は興行 的にもかなりの期待が持てそうだ。 とはいうものの、実は“POTC 4”の製作も、昨年8月9日 付で報告したように年明け早々の撮影開始と言われていたも のが今だに動き出しの報告はなく、脚本の進捗状況などに多 少の不安も生じている。 ただしその内容に関しては、先に“On Stranger Tides” という副題が発表されていて、さらに物語のエッセンスは、 PKD賞受賞者でもある作家のティム・パワーズが1988年に 発表した同名のファンタシー文学賞の候補作から取るという 報道もあり、キャラクターの変更などの問題は残るものの、 物語自体はできあがっていると考えられるものだ。 因にその原作の物語は、カリブ海を舞台にして2人の海賊 が「若返りの泉」を求めて競争を繰り広げるものとのこと。 一方、映画の第4作は第3作が終った時点から始まるとの情 報もあり、すでにジョニー・デップとジェフリー・ラッシュ の共演もあるとされている物語の展開では、第3作で死んだ 誰かを生き返らせるのでは…?という読みもあるようだ。 監督は、既報の通り『シカゴ』『SAYURI』、そして 今春公開“Nine”のロブ・マーシャル。そろそろ撮影開始の 報告が聞きたいものだ。 * * この他の2011年の公開作品では、当初は6月17日から、一 時は5月20日とも発表されていたマーヴェル製作“Thor”の 公開日が、“Spider-Man 4”が抜けた後の5月6日に繰り上 げられることも発表されている。こちらは、製作会社は違う とは言え同じマーヴェル原作同士の挿げ替えで順当という感 じだが、ディズニーが“POTC 4”の公開日を20日に決めたの も、その動きを察知してのことなのかも知れない。 そしてこの作品に関しても1月撮影開始を目指して、準備 がかなり進んできているところだ。 なおこの作品に関しては、昨年5月24日付などでも紹介し ているが、マーク・プロトセヴィッチとザック・ステンツ、 アシュレー・ミラーの脚本から、監督は既報の通りケネス・ ブラナーが担当。主人公のThor役にも既報の通り『スター・ トレック』のクリス・ヘムスワースが起用されている。 さらにその共演者として、人間界では医師として活動する 主人公の助手で恋人でもある看護婦ジェイン・フォスター役 にナタリー・ポートマン、主人公の生みの親のオーディン役 にアンソニー・ホプキンス、そしてマーヴェル製作スーパー ヒーローシリーズには全て登場する計画のニック・フューリ ー役サミュエル・L・ジャクスン。 他に、『マンマ・ミーア!』で3人目の父親候補を演じた ステラン・スカーシュゴード、『リーサル・ウェポン4』な どのルネー・ロッソ、『バベル』『スペル』のアドリアナ・ バラッザらが登場する。 マーヴェル製作らしい豪華なキャスティングで、日本では 多少知名度の低いヒーローではあるが、頑張ってもらいたい ところだ。 * * 昨年3月1日付第178回の紹介では2010年12月17日の全米 公開となっていたワーナー製作によるDCコミックスの映画 化“Green Lantern”も、多少遅れたものの2011年6月17日 の公開に向けて製作が進み始めているようだ。 この作品については、2007年11月1日付第146回で内容の 紹介をしているが、昨年2月15日付第177回で紹介したよう に、新たにマーティン・キャンベル監督の起用が発表され、 製作準備が進められていたものだ。 そしてこの映画化については、昨年8月紹介の『あなたは 私の婿になる』でサンドラ・ブロックの相手役を務めたライ アン・レイノルズが主人公のグリーン・ランタンことハル・ ジョーダンを演じることが先に発表されていたが、今回はそ の相手役として昨年11月紹介の『50歳の恋愛白書』と12月 紹介『ニューヨーク、アイラブユー』にも出演のブレイク・ ライヴリー共演が発表されている。 テレビの“Gossip Girl”でも人気の女優の役柄は、主人 公が勤務する航空機会社の社長の娘ということで、物語が原 作通りなら、物語の前半では主人公の帰りを待ちわびる役柄 となりそうだ。撮影は3月に開始の予定とされている。 と言うことで、2011年の初夏には、ジャック・スパローと Thor、それにグリーン・ランタンの揃い踏となりそうだ。 因に、この年の夏には、『ハリー・ポッター』シリーズの 最終巻『死の秘宝』の後編の公開も7月15日に予定されてお り、さらに2008年11月15日付の第171回などで紹介した“The First Avenger: Captain America”も、出演者などは未定な ものの、『ナルニア国物語』を手掛けたクリストファー・マ ーカス、スティーヴン・マクフィリーの脚本、『オーシャン ・オブ・ファイアー』『ジュマンジ』などのジョー・ジョン ストン監督による映画化の公開が7月22日と発表されている もので、ファンにはまた忙しい夏になりそうだ。 * * 最後に新しい計画を一つ。 1984年にデヴィッド・リンチ監督で映画化されたフランク ・ハーバート原作“Dune”のリメイクが計画され、その監督 に昨年6月紹介した『96時間』のピエール・モレルの起用 が発表された。 原作は1965年に第1巻が刊行され、以後原作者のハーバー トが1986年に亡くなるまでに6巻のシリーズが発行されて、 そのスケールの壮大さや時代に先駆けたエコロジーの思想な どで巻を追うごとにベストセラーとなったものだ。それは、 ちょうど第4巻が発行された頃にアメリカを旅行していた僕 の目には、書店の店頭に堆く詰まれた本の山とその山が見る 見る消えて行く様子に、唖然とした記憶も残っている。 その作品の映画化は、初めは1975年頃にチリ出身の映画監 督アレハンドロ・ホドロフスキーによって着手され、SF画 家のクリス・フォス、メビウス、H・R・ギーガー、特撮に はダン・オバノンらの参加も得て進められたが、約1年間の 準備の後に製作資金の調達の失敗などで、上映時間は10時間 だったとも言われる計画は頓挫してしまった。 その計画を復活させたのが、1982年の『コナン・ザ・グレ ート』も手掛けたプロデューサーのディノ・デ=ラウレンテ ィスで、彼は全てを白紙に戻した上でその監督に『エレファ ント・マン』が絶賛を浴びていたリンチを起用。カイル・マ クラクラン、ヴァージニア・マドセン、スティング、マック ス・フォン・シドー。さらにパトリック・スチュアートらも 共演した作品は1984年12月に全米公開された。 しかし、公開時に上映時間が短縮されたと言われる作品は 興行的な成功を得られず、その後に長尺版も発表されはした が、失敗作というレッテルは貼られたままのものだ。因に僕 個人としては、この作品のプロモーションで来日したリンチ 監督らの記者会見でMCをさせて貰ったものだが、この会見 には当時滅多に記者会見に応じないとされていたリンチが登 場するとのことで、海外からも記者が駆け付け、彼らが発す る深い質問の数々に司会席にいて興奮した記憶も、懐かしい 思い出となっている。 という作品のリメイクになるが、今回の計画も実は2008年 4月1日付第156回で紹介しているように、すでに2年近く 準備が進められていたもので、当時は『ハンコック』などの ピーター・バーグ監督の起用が発表され、その時点で脚本家 を選考中となっていた。そしてその脚本家にはジョッシュア ・ゼトマーという人物が選ばれ、すでに脚色は完成されてい たようなのだが、今度はバーグ監督がボードゲームを題材と する“Battleship”という作品への参加を表明して降板、改 めて監督の選考が行われていた。 その監督にモレルの起用が発表されたもので、長編監督は 4作目という実績は多少気になるが、デヴィッド・リンチは 3作目でこの原作に挑戦した訳だし、ピーター・バーグも監 督の実績はさほど無かったから、結局この作品はそういう巡 り合わせになるものなのだろう。 因に、脚本家のゼトマーも、公式には本作が初脚本となる ものだが、実は『007慰めの報酬』で撮影現場での脚本の リライトを担当しており、また彼が執筆した“Villan”とい う脚本は2006年度の「製作されていない優秀な脚本10本」に 選ばれた後、現在はレオナルド・ディカプリオの製作で映画 化が進められるなどの実績の持ち主ではあるようだ。 キャスティングなどもまだ決まっていない作品だが、今度 はトラブル無く映画を完成させて欲しいものだ。
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