井口健二のOn the Production
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2008年09月10日(水) 臨時号(夏休遠征報告)

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※今回は、夏休み中の8月18日−24日の間に関東−九州の※
※あちらこちらを見学してきましたので、臨時にその報告※
※をします。ページの趣旨とは多少異なりますが、お付き※
※合いください。なお、映像関係の話題も少しあります。※
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 まず8月18日、19日の両日は、SF作家クラブ・開田裕治
会員のご斡旋で、茨城県東海村と筑波研究学園都市にある高
エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設を見学した。
 この内、18日に見学した東海村の施設はまだ建設途中で、
これが年内に完成し来年運用が始まると、一部は放射能を帯
びて立入禁止になってしまう場所へも見学が許可されたもの
だ。従って外部の人間がそれを見るのは、これが最後になる
だろうというものもあり、貴重な体験となった。
 実際この施設では、来年以降、発生させたニュートリノを
岐阜県のスーパーカミオカンデに撃ち込む実験も予定してい
るもので、その地中に設けられた射出口は縦横5m。内面に
冷却用の配管が巡らされて、正に巨大な噴射ノズル。その奥
の方まで入れてもらえたが、こういうものが観られるとは、
思いもしなかった。
 その前に見学した地下20mに巡らされた加速器では、全周
1.6kmの内のカミオカンデに向けた分岐点などを見せてもら
った。その加速器は、大きさでは世界最大ではないが、出力
エネルギーは最強になるとのことで、すでに粒子を周回させ
る試験には成功して、あとは分岐点以降を構築するだけとい
う状況のようだ。そこには、日立、東芝、NEC/トーキン
などのメーカー名の書かれた電磁コイルが並べられ、まさに
日本の強電業界が結集している感じだった。
 因に、一般的に加速器で行われる実験は、原子核などの中
をさらに細かく観ようというもので、それは時計を壁に打つ
けて分解するようなものだとのこと。で、本来なら時計を分
解するにはネジ回しを使うが、原子核などの粒子を分解でき
るネジ回しは存在しないので、粒子を勢いを付けて固い壁に
打つけ、粉々になったものを拾い集めて研究する。その際、
壁に打つけるエネルギーが強いほど細かく分解できるとのこ
とだった。そのエネルギーを世界最強とする装置が建設され
ているものだ。
 またこの装置は、ニュートリノの出力に関しても世界最強
となり、その内のカミオカンデで検出されるのはごく一部だ
が、射出の状態が判っているものを検出することで、ニュー
トリノの研究が進むことが期待されているそうだ。なおニュ
ートリノの研究に関しては、まだ何の役に立つかも判ってい
ないものだが、その特性などを研究してカタログにしておけ
ば、いつか誰かがその中から自分に必要なものを見つけられ
る。そのためのカタログを作る作業をしている段階と称され
ていた。
 さらに今回の実験では、カミオカンデに当らないニュート
リノも大量に発生するが、その一部は射出口の周囲やカミオ
カンデの周囲や後ろでも付帯の実験が行われるとのこと、そ
の実験できる範囲は朝鮮半島にまで及ぶが、韓国からは射出
データの提供は求められているものの、費用負担については
「勝手に届くのだから」と断られているそうだ。さらにそこ
より遠くは、チベットの山中で検出の可能性はあるが、その
後は宇宙空間に飛び出すとのことで、まさに壮大な実験だ。
 その他に東海村の施設では、国際協力で計画されている世
界最大の加速器の建設に向けた技術研究も行われており、加
速器を形成するパイプの内面を微細に研磨する実験なども見
学した。これには日本とドイツが技術を競っているそうで、
それぞれ所定のレヴェルに達したものを要所ごとに採用する
とのこと。ただし、建設場所には日本も立候補しているが、
ロシアが有力になってきているそうだ。
        *         *
 翌19日は、つくばエクスプレスのつくば駅に集合して筑波
研究学園都市の施設を見学した。
 ここには、以前にカミオカンデに向けた射出実験を行った
全周3kmの加速器があり、現在はBelle実験と呼ばれる2重
逆回転の加速器で素粒子を正面衝突させる実験施設や、直線
型加速器、前段加速器などが、当日は夏期のメンテナンス中
とのことで、その研究施設の一部も含め見学できた。
 その中では、高圧施設の付属する前段加速器が、正に鉄腕
アトムに出てくる実験装置そのもので、その側に天馬博士が
立っていそうな雰囲気のもの。手塚氏が何処でそのイメージ
を得たかは知らないが、最先端の科学施設にノスタルジーを
感じるのも不思議な感覚だった。
 この他、Belle実験施設では、正に粒子が衝突する部分と
その周囲に設けられたセンサーの塊のような設備も見せても
らったが、そのデータを記録するためにソニー製の磁気テー
プを使ったデータ記憶装置が設けられており、大量データの
記憶に今でもテープが用いられていることには驚かされた。
小型ベータカムのテープカセットのようなものが大量に用意
されおり、ここではまだテープも有効なようだった。
 以上のような施設を見学した後に、研究者の方との懇談会
となったが、ここではX線の研究者にX線砲の可能性を質問
して、SFは読まないという真面目そうな研究者の方が立ち
往生するというハプニングもあった。しかし、これに対して
SFファンの研究者の方たちが喧々諤々の論議を始めること
になり、その結論は、実用化は難しいとのことだったが、普
段はそのような論議をすることがタブーなのか、勢い込んで
議論している姿は面白かったものだ。
 その後の帰路は、ゲリラ豪雨でつくばエクスプレスが一時
止まるなどのアクシデントはあったが、概ね楽しい見学旅行
となりました。ご案内をいただいた関係者の皆様に感謝申し
上げます。ありがとうございました。
        *         *
 さてその週末22日−25日には、日本SF大会(DAICON-7)
の会場内で行われるSF作家クラブ総会の出席と、日曜日の
鳥栖での試合の応援を目指して、関西−九州方面に向かうこ
とにした。この旅行は、春先に行った熊本遠征と同じく青春
18切符を使ってのものだ。
 そこでまず、今回の往きのムーンライトながらは23日0時
31分の出発となる小田原からの乗り込みとしたが、ゲリラ豪
雨を心配して少し早めに乗った小田急は定刻で、小田原駅で
は同じ目的の旅行者も数人いて改札も順調、その後の大垣、
米原での乗り継ぎも2度目は慣れたものになった。
 そして大阪での最初の目的地は中之島の大阪市立科学館。
ここには、東洋最初のロボットと言われる「学天則」が復元
展示されている他、オムニマックスが常設されていることか
ら、DAICON-7の行われている岸和田に向かう前に寄ってみる
ことにしたものだ。
 この科学館へのアクセスは大阪市営四つ橋線の肥後橋から
となるが、まずその日の夜に乗る博多行き夜行バスの集合場
所を確認してから西梅田駅に行ってみると、何と1駅なの運
賃200円。でも歩くには時間が足りなかったのと、その後に
岸和田に向かうのにもその駅を利用することから場所確認も
兼ねて乗車したが、都営地下鉄以上の料金には驚かされた。
 その市立科学館で、「学天則」は入り口の直ぐ横に設置さ
れており、時間の都合で動くところは観られなかったが、さ
らにその横にあったルービックキューブを早解きするロボッ
トの動きには感心させられた。また展示室には、昔テレビ番
組のディズニーランドで観た「ネズミ取りとピンポン玉」に
似た連鎖反応の説明装置があって、これも懐かしく感じられ
たものだ。
 そしてオムニマックスのシアターでは、『アルプス〜挑戦
の山〜』(The Alps)という作品を鑑賞した。この作品は、
アイガー北壁の登頂を描いたドキュメンタリーで、包み込ま
れるようなドームスクリーンで大自然の景観を鑑賞するのは
格別の趣があった。ただし、ここでは8月1日付第164回で
予告編を報告した3D映画『シーモンスター』も上映されて
いて、本当はそれも観たかったのだが、事前の調べで上映ス
ケジュールの合わないことが判っていた。ところが現地に来
てみると、この設備では2Dしか上映できないようなので、
それならと諦めもついたものだ。
 その後は地下鉄−JRを乗り継ぎ東岸和田駅に着いたが、
ここで駅前にタクシーがいない。先に着いた人はタクシーに
乗ったということだがそれが出払っていたのか、大通りに出
ても流しもおらず、30分近くをテクテク歩いて会場に向かう
ことになった。そのため総会には遅刻したが、重要議題には
間に合ったようで、大過はなかった。
 その後は夕方の親睦パーティまで会場をぶらぶらしたが、
その中で見せて貰った「手作りプラネタリウムと立体映像」
に感心した。これは、工房ヒゲキタという人が自作で投影星
数6000個というプラネタリウムを作り、さらに自作のエアド
ーム式の設備で上映しているもので、プラネタリウムも見事
なものだったが、さらに赤青のランプを使って立体模型の影
を投影し、赤青の眼鏡で観る立体映像もなかなかで、ドーム
スクリーンでの立体映像の迫力を堪能した。
 実際、自分自身のドームスクリーンでの立体映像体験は、
科学博と花博での富士通館しかないが、実は昼間観たオムニ
マックスでもディジタルの上映設備にすれば、Dolby-Dなど
の方式による立体化が可能と言われている。これを踏まえて
8月1日付で紹介した東急レクリエーションが計画している
IMAXシアターの中で、新規に作られる劇場の内の1館くらい
はドームスクリーンにして欲しくなったものだ。集客力など
未知数ではあろうが、実現すれば話題になることは間違いな
い。ぜひともやってもらいたいものだ。
 後は、昨年のワールドコンでも見物したペリー・ローダン
の部屋などを覗いて時間を過ごし、親睦パーティでは乾杯の
発声を担当し、22時大阪駅出発のバスに間に合わせるため、
20時過ぎに会場を後にした。
        *         *
 今回の旅行では、熊本遠征の際に利用した大阪−九州間の
夜行快速ムーンライト九州が1週間前に終了しており、やむ
なくこの間は夜行バスを利用した。
 夜行バスは初めてだが、試写室などで窮屈な座席は慣れて
いるつもりなので、往復には4列スタンダードの路線を利用
した。しかし、往きは乗客もまばらで気楽だったが、満席の
帰りは、平気で座席を倒す者がいてかなり往生した。3列仕
様のバスならいざ知らず、スタンダードの仕様ではもう少し
譲り合いを…今の人は考えないのかな。前列の乗客はそこそ
この年齢にも見えたが。
 その往きのバスは小倉で下車して、ここからは青春18切符
の出番となる。そこでまず下関に戻ることにした。これは熊
本遠征の時に食べ損ねた「ふぐ弁当」を期待したものだが、
残念ながら販売期間は10月−3月のみで今の時期は売ってお
らず、替りに地元の金子みすヾの詩が添えられて、小河豚唐
揚げや鯨竜田揚げの入った「みすヾ潮彩弁当」というものを
食した。味はまあ良かった。しかし「ふぐ弁当」にはまた挑
戦したいものだ。
 その後は、博多で帰りのバスの集合場所を確認し、吉野ヶ
里公園駅に向かった。ここは鳥栖から長崎本線に乗り換えて
3駅目で、近くには言わずと知れた吉野ヶ里遺跡がある。
 その遺跡は駅から700mほどのところにあって、炎天下の
田園地帯を歩くのはかなりの暑さだったが、湿度も低く意外
と爽やかだった。そして辿り着いた公園は、広大な発掘跡地
に何棟もの建物が復元されて何れも入ることが出来、中には
高見櫓のようなものもあって、そこに登るとなかなか壮大な
眺めだった。
 これらの建物は、特に絵が残されていたようなものではな
いが、出土した当時の工具などから推察して、当時あったで
あろう工法に従って建設されたとのこと。「その姿はあくま
でも想像です」と案内の人は強調していたが、実は全体の風
景が手塚氏の「火の鳥」の古代編にそっくりで、これもまた
何となくノスタルジー。1週間の内に未来と過去の手塚さん
のイメージに出会えたのも不思議な感じがした。
 この他、かなりの規模の集団墓所も発掘当時のままに再現
されていたが、解説によると発掘されたのはすべて男性の骨
で、卑弥呼を予想させる女性の埋葬はなかったそうだ。とこ
ろが、墓所を出てみるとその直ぐ脇に鳥居があってその奥に
は神社があるとのこと。その神社の敷地は私有地のため現在
は発掘ができないそうで、そこに一体何があるのか、想像が
膨らむ風景だった。
 何れにしてもこの公園は、古代のロマンを見事に感じさせ
てくれる場所になっており、展示館や古代の生活を体験する
コーナーなどもあって、なかなか充実しているように感じら
れた。
 次は「吉野ヶ里温泉・卑弥呼乃湯」。春の熊本遠征では、
大阪と門司のスーパー銭湯に寄れたが、今回はここだけ。実
は岸和田では会場の近くにスパがあったが、時間の都合で行
けなかった。
 と言うことで今回の唯一の入浴だが、これが駅から歩いて
20分ほど。遺跡は駅の反対側でそこからは30分ほども歩いた
が、前にも書いたように湿度が低いせいか、意外と楽に行け
た。でもせめて駅から、できたら遺跡と駅を巡回するような
送迎バスが欲しいところだ。地元客相手では自家用車も多い
のかも知れないが、食堂でアルコールも出すなら、そのくら
いはした方が集客も上がるように思えた。
 浴場は、日曜昼間だったが混みすぎもせず、がらがらでも
なく、快適に入浴できた。ただし、外の靴箱の鍵は100円硬
貨が返却されるが、中の衣類のロッカーは10円を取られてし
まうもので、洗面具の出し入れなどの度に10円掛かるのは解
せない思いだった。
 入浴後は、路線バスを待たずに駅まで徒歩で戻ったが、そ
の駅入り口直前でバスに追い抜かれ、路線バスの運行は案外
定刻通りだったようだ。そして駅では応援しているチームの
サポーターのご夫婦とも一緒になって、楽しく鳥栖スタジア
ム(ベアスタ)に向かった。
 ベアスタはJR鳥栖駅の目の前にあって、アクセス抜群の
サッカー専用スタジアム。アウェー席の入り口は何処も同じ
裏側になるが、仙台スタジアムほどには周囲を回ることもな
く、簡単に辿り着けた。そして場内は、風通しも良く、この
日の観戦は快適そのものだった。試合が勝てたのも好印象と
いうところだ。因に、仙スタでは一つ手前の駅から歩いても
アウェー入り口までの距離はあまり変わらないようだ。
 試合後はJRで博多駅に戻り、駅前で博多ラーメンを食べ
てバスの出発時間を待った。帰路のバスは上記の通り散々な
目に遭ったが、きつい状況でも寝られる性分なので、何とか
はなった。ただエコノミー症候群は多少心配で、前の座席を
こづきながら体勢は変える努力をしたものだ。因に僕の席は
最後尾なので、座席をあまり倒すことができなかった。
        *         *
 最終日の25日は、三ノ宮駅で下車して、ここからのんびり
ローカル線の旅とした。ただし、前回は早い帰宅を最前提と
したが、今回は帰宅時間を1時間ほど遅らせて、乗り換え回
数を2回減らすことができ、しかも始発の乗り継ぎでさらに
気楽な行程となった。
 また、それぞれの駅での待ち時間も少しずつ長くしてのん
びりできたが、期待した駅弁は、新幹線併設駅のローカル線
構内では売っていないようで、旅の風情も失われていること
を痛感させられた。新幹線の客には便宜があるが、ローカル
線では要望も少ないのだろうか。
 ということで今回は、小田原、小倉、三ノ宮で入鋏スタン
プを押してもらう旅となったが、最後に丹那トンネルを抜け
る辺りから前日の豪雨の影響で快速電車などがなくなり、多
少予定より遅れる帰宅となった。しかもこの間の車内の電光
掲示板に表示される運行状況の説明などがおざなりで、乗り
継ぎをどうすればいいか不明なのは不満に感じたところだ。
 それから、青春18切符の残り2回分は、8月16日に家内と
2人で鹿島スタジアムに行くことで消化していた。この日は
都営地下鉄のワンデーパスも出ていたので、馬喰町での乗り
換えで往復する計画だったが、この行程は18時30分のキック
オフでもかなりきついことが判った。
 しかもこの日は、集中豪雨で帰路の成田線が不通となり、
佐原駅から代行タクシーに乗ることになった。この代行タク
シーは持っている乗車券の下車駅まで送ってくれるというも
のだが、我々の場合は青春18切符なので、事実上JRの駅が
あるところなら何処まででもOKだったようだ。従って馬喰
町ではなく中野駅ということにして、その手前の自宅の近所
まで送ってもらえた。その運賃は高速代も含めて約4万円、
全額JR持ちでかなり貴重な体験をさせてもらったものだ。
 なお、代行タクシーは4人相乗りで行われるもので、運行
が決まったら早目に同方面に向かう同乗者を集めることが肝
要なようだ。
 以上、夏休みの旅について報告させてもらいました。種々
雑多なことを書きましたが、これからの旅の参考にでもなれ
ば幸いです。


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井口健二