※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※ ※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※ ※キネ旬の記事も併せてお読みください。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ まずはアカデミー賞の結果の報告から。 主要部門の結果に関してはご存じの方も多いと思うが、僕 が注目していた部門では、VFX賞は『ライラの冒険−黄金 の羅針盤』が獲得した。予想はVES賞も受賞の『トランス フォーマー』だったが、投票直前の12月公開作の方が印象が 強かったと言うことなのだろう。特に去年の夏は、他にもい ろいろあったのが印象を散漫にした可能性はありそうだ。 続いてメイクアップ賞は、こちらもちょっと意外な『エデ ィット・ピアフ』の受賞となった。でもよく考えると、作品 の評判が極めて悪い“Norbit”は、日本人としては残念だが 仕方のないところで、『パイレーツ…』はメイクというより はCGIエフェクトの印象が強い。投票者の多くが俳優であ ることを考えると、俳優が身体を張っている作品が選ばれる のは順当というところかもしれない。 一方、長編アニメーション賞は、正しく磐石という感じの 『レミーのおいしいレストラン』だったが、この受賞式では プレゼンターとしてスティーヴ・カレルとアン・ハサウェー が登場し、そこに“Get Smart”のテーマが流されたのは嬉 しかった。もちろんこれは、2人がそのリメイク版に主演し ていることによるものだが、6月20日の全米公開を目指して プロモーションは順調のようだ。なお“Get Smart”の日本 公開は10月11日の予定になっている。 この他、『スウィーニー・トッド』が美術賞を獲得。それ に助演女優賞を『ナルニア』の白い魔女でもあるティルダ・ スウィントンが『フィクサー』で受賞したのも嬉しかった。 また、主演女優賞のマリオン・コティアールは本人も驚いて いたようだが、これで男優も含め演技賞が全員ヨーロッパ人 というのも珍しい結果になったものだ。 後は、『ノー・カントリー』のジョエル&イーサン・コー エン兄弟が、脚色、監督、作品賞を総ざらえしてくれたが、 初期の頃にはサム・ライミの協力者でもあった2人が、正に スプラッター映画を髣髴とさせる連続殺人鬼を描いた作品で 受賞するというのも見事なことだ。 それから、名誉賞を受賞した98歳の美術監督ロバート・ボ イルが、ヒッチコック、ノーマン・ジュイスンと共に、ドン ・シーゲルの名前を挙げてくれたことも嬉しかったが、この 人たちは何れも彼にオスカーノミネーションをもたらしてく れた監督だったようだ。そしてその間の映像では、ヒッチコ ック監督の『鳥』のデザイン画と映像が紹介されたが、この 他に彼は、1953年の3D映画“It Came from Outer Space” や、1985年のジョー・ダンテ監督作品の『エクスプローラー ズ』なども手掛けた人(『エクス…』では出演もしている) で、SF/ファンタシー系映画になじみのある人の受賞は、 特に嬉しくも感じられた。 今年は、全体としてSF/ファンタシー系の受賞は少なか ったが、ポイントでの話題はいろいろある受賞式だった。 以上でアカデミー賞の報告は終りにして、以下はいつもの 製作ニュースを紹介しよう。 * * 最初は、前回の最後に追加で紹介したテリー・ギリアム監 督作品“The Imaginarium of Doctor Parnassus”の情報の 続きで、前回報告したジョニー・デップ、ジュード・ロー、 コリン・ファレル3人の参加が確実になっている。 この件に関しては、前回の報道で物語が多少詳しく紹介さ れていて、それによると、物語の中で主人公が旅する想像の 世界は3つあるのだそうだ。従って、その3つの世界を3人 の俳優がそれぞれ受け持てば、各自の負担も小さくなるとい う考えで交渉が進められたようだ。 一方、3人の俳優の状況だが、まずデップは第154回でも 紹介したように“Public Enemies”の撮影開始は3月10日と なっており、その前に撮影を行うならもう実際に動いている ということだろう。 またローは、主演の“Repossession Mambo”という作品が ポストプロダクション中とのことで撮影は完了しており、次 の“King Conqueror”はまだ話し合いの段階で、これなら今 回の撮影には支障なく参加できそうだ。 さらにファレルは、主演した“Pride and Glory”という 作品は完成済で、次の作品の“Dirt Music”はまだプレプロ ダクションの段階となっており、こちらも身体は空いてる状 況のようだ。 ということは、撮影期間に問題があるのはデップだけで、 彼のスケジュール調整さえできれば、実現は可能となってい たものだ。もっとも3人の撮影はばらばらで良いものだが、 その他の出演者とのスケジュール調整は必要になる。それと もう1点重要なのは、その経緯を説明する脚本の改訂だが、 これもストライキの終結で順調に行うことができたというこ とで、3人の計画参加が実現したものだ。 実は、前回の記事はまだ噂の段階で書いていて、その後は なかなか公式の報告がなくやきもきしていたが、今回は信用 の置ける海外のデータベースにも掲載されたもので、これで ようやくすっきりできたところだ。 それにしても、故ヒース・レジャーに加えて、デップ、フ ァレル、ローの共演が実現するとは大変なことになったもの だが、この作品の配給権については、クロアチアを除いてま だ契約されていないようで、これからカンヌ映画祭などでの 争奪戦が激化しそうだ。因に、製作を行っているデイヴス・ フィルムスは、過去には『バイオハザード』や『サイレント ・ヒル』などを手掛けているが、ハリウッドの大手などは付 いておらず、各国の配給権はばらばらに契約が進められる。 各社の買い付け担当者の腕の見せ所になりそうだ。 * * お次は、『ノー・カントリー』でアカデミー賞を受賞した コーエン兄弟が、再びピューリッツアー賞受賞作家の作品の 映画化に、脚本と監督で挑むことが発表された。 発表されたのは、2001年に受賞したマイケル・シェイボン が、2007年に発表した長編小説“The Yiddsh Policemen's Union”の映画化で、原作の内容は、アメリカ政府によって 進められたユダヤ人のアラスカ入植計画と現地の先住民との 問題を背景に、ヘロイン中毒のチェスの天才の殺人事件を巡 って、凶暴な警官が登場する物語とのことだ。 何ともコーエン兄弟らしい題材だが、製作は『ノー・カン トリー』と同じくスコット・ルーディンが担当する。ただし 原作の映画化権はコロンビアが獲得しているもので、製作会 社は同社、配給もソニーとなるものだろう。因にシェイボン は、2004年に『スパイダーマン2』のストーリーを提供した ことでも話題になったもので、製作会社との関係は浅からぬ ものがある。 一方、ルーディンは、シェイボン作品に関わるのは2000年 の『ワンダー・ボーイズ』以降、本作が3作目。本作の前に は2001年の受賞作“The Amazing Adventure of Kavalier & Clay”の映画化も、シェイボン自身の脚本により、パラマウ ントで進行中となっている。 またコーエン兄弟は、ワーキング・タイトルとフォーカス フューチャーズ宛に2作品の契約を実行中で、現在は“Burn After Reading”というスパイコメディ作品のポストプロダ クション中。さらに『ファーゴ』のようなダークコメディと される“A Serious Man”という作品の準備を進めており、 本作はその後の作品となるようだ。 * * ネット書店の最大手Amzon.comが、満を持して映画製作に 乗り出すことを発表した。 発表された計画は、キース・ドノヒュー原作による“The Stolen Child”というファンタジー小説の映画化。物語は、 少年の時にいたずら妖精に誘拐された男性と、その後釜とし て人間界に潜り込んだ妖精のそれぞれを主人公にした冒険が 描かれているとのことだ。 そして発表によると、アマゾンは2006年の末に本作の映画 化権を獲得し、今回は20世紀フォックスに製作拠点を開設し て映画製作を始めるというもの。それは単なる出資者として ではなく、20世紀フォックスとの共同での映画製作から、そ の後のウェブサイトを活用したプロモーションまで、映画の 公開に至る全般に関わるとされている。因に、アマゾン系列 のウェブサイトの総アクセス数は月間6000万件を下らないと のことで、これは強力な宣伝媒体になりそうだ。 またアマゾンでは、すでにリドリー&トニー・スコット監 督との共同事業で、“Anazon Theater”と称してウェブ上で 短編映画の公開も行っており、その流れから長編映画の製作 に乗り出すことは時間の問題と予想されていたようだ。 そして今回の計画では、脚色に1993年の『フィラデルフィ ア』などを手掛けたロン・ナイスワーナーが契約しており、 実はWGAのストライキ前に着手していたが、ストの解除で 公式に発表できるようになったとのこと。さらに、今回の計 画に当ってアマゾンでは、映画製作のための特別な担当者を 置くことはせず、全社的に複数の部門が映画製作に関わる体 制を採るとしており、これは映画会社の勝手にはさせないと いう意志の現れとされている。 * * 『ゾディアック』のデイヴィッド・フィンチャー監督が、 パラマウントとMTVで進められている“Black Hole”と題 されたグラフィックノヴェルの映画化を手掛けることが発表 された。 原作のグラフィックノヴェルは、タイム誌の表紙なども手 掛ける画家のチャールズ・バーンズが、10年を掛けて12冊に 纏めた作品で、2004年の刊行時にはコミックス関連の賞も受 賞するなど話題になったものだ。内容は、性行為によって媒 介されるBugと呼ばれる奇病を描いたもので、それに罹ると 身体の一部に変形が始まるというホラーじみた設定のお話。 紹介されていたイラストは白黒だが、かなり禍々しい雰囲気 のものになっていた。 そして今回の映画化では、2006年3月に『ベオウルフ』の ロジャー・アヴェリーとニール・ゲイマンが脚色を契約し、 一時はアレクサンドル・アジャの監督で進められていたが、 これが頓挫、それをフィンチャーが引き継ぐというものだ。 撮影開始時期は未発表だが、この様子では早めに行われるこ ともありそうだ。 なおフィンチャーは、1922年に発表されたF・スコット・ フィッツジェラルド原作のファンタシー系の短編小説“The Curious Case of Benjamin Button”の映画化を、ブラッド ・ピット、ケイト・ブランシェット、ティルダ・スウィント ン、エリ・ファニングらの共演で進めていたが、その撮影は すでに完了し、ポストプロダクションの段階になっている。 ただし、この他にも“Torso”“The Killer”といった計画 も進行中とされていて、この内からどれが次回作になるかは 未定のようだ。 * * 『紀元前1万年』が3月7日に全米公開されるローランド ・エメリッヒ監督が、次回作として同じくハラルド・クロー サーとの共同脚本による“2012”という計画を発表した。 つまり、B.C.10,000の次はA.D.2012となりそうだが、実は この年号はアズテカの暦がこの年の12月23日で終っていると いうことでも話題になっているもので、詳しい内容は未発表 だが、どうやらそれに絡んだ話になりそうだ。製作は今年の 後半に開始され、公開は2009年夏とされている。 そしてこの脚本が2月下旬にハリウッドの映画各社に提示 され、争奪戦の結果、ソニーが推定2億ドルで契約したこと も発表された。因にエメリッヒの監督作品では、『インディ ペンデンス・デイ』が全世界で8億1120万ドルを稼ぎ出して おり、『デイ・アフター・トゥモロー』は5億2800万ドル、 『Godzilla』も3億7580万ドルとのことで、2億ドルの契約 なら危険はないと判断されたようだ。 また、会社側は当然提示された脚本を読んだ上で契約に臨 んでいる訳だが、その評価では、『ID4』以上にエキサイ ティングなビッグアイデアだという意見も紹介されており、 ストライキ中に脚本に飢えていた映画会社には、格好のもの だったとされていた。 因に、ソニーとエメリッヒは、『Godzilla』と『パトリオ ット』でもコラボレートしているが、実は『ID4』以前の 『スターゲイト』はMGM配給、さらにその前の『ユニバー サル・ソリジャー』はコロムビア配給だったもので、その経 緯からも今回の契約は理解できるところだ。 * * 一方、ワーナーからは2009年の夏向けにDCコミックスの “Justice League of America”=JLAの映画化を進める ことが発表されている。 このJLAの映画化については以前から紹介しているが、 ジョージ・ミラー監督が進めていた計画では今年の始め頃に キャスティングもほぼ決定したと伝えられた。しかし、脚本 家組合のストライキの影響で配役に合わせた脚本の改訂が不 能となり、その改訂作業の遅れから1度は製作の延期も発表 になった。 ところが『紀元前1万年』を配給しているワーナーでは、 当初はエメリッヒ監督の次回作の配給権獲得も確実と考えて いたようで、それが突然ソニーに浚われてしまったことで、 2009年夏の公開予定に穴が開く事態にもなりかかっていた。 その影響かどうかは不明だが、JLAの製作開始が急遽発表 されたものだ。 因に配役では、フラッシュ役にテレビの“The O.C.”など のエイダン・ブロディが扮する他、タリア・アルグール役に 『ディセンバー・ボーイズ』のテレサ・パルマー、グリーン ・ランラン役にラッパーのコモン、スーパーマンにD・J・ コトローナ、バットマンにアーミー・ハマー、ワンダーウー マンにミーガン・ゲイルなどが報告されている。 そして撮影は、オーストラリアとアメリカで行う計画で、 すでにオーストラリアのスタジオにはセットの準備も進んで いるという情報も報告されている。 ただしミラー監督の意見では、オーストラリアの行政府が 定めたハリウッド大作映画の製作の際に生じる国内映画製作 者支援のためのリベートの問題が解消されないとのことで、 このままでは製作費削減のためにカナダでの撮影も検討しな ければならない事態になるとのことだ。 実は、ミラー監督が母国オーストラリアでの撮影に拘わっ ているのには、さらに次に製作予定の“Happy Feet 2”に向 けてオーストラリア映画人の再結集も目指しているもので、 その真意が伝えられないことに不満も抱えているようだ。し かし製作が急がされれば、経済の原理が優先されることは仕 方がないもので、その前にミラー監督の真意が行政府に伝わ るかどうか、事態は切迫しているものだ。 * * 昨年11月の第146回で紹介した“My Sister's Keeper”に ついて、ダコタ&エリ・ファニング姉妹の出演がキャンセル され、エリに予定された主人公を、『リトル・ミス・サンシ ャイン』のアビゲイル・ブレスリンが演じると発表された。 因に、キャンセルの理由は、姉役のダコタが役柄上頭髪を 剃らなくてはならないことに抵抗し、エリもそれに同調した とのことで、その姉役にはイライジャ・ウッド主演の“Day Zero”などに出演したソフィア・ヴァシリーヴァが起用され るようだ。撮影は3月に開始の予定。 なおブレスリンは、コメディ作品の“Definitely,Maybe” が2月14日に全米公開されたのに続いて、ジョディ・フォス ターと共演の“Nim's Island”が4月4日公開、さらにタイ トルロールを演じる“Kit Kittredge: An American Girl” が7月2日の公開予定となっている。 一方、エリ・ファニングは、サンダンス映画祭で上映され た“Phoebe in Wonderland”が一般公開待機中の他、主演を 張った“Nutcracker: The Untold Story”と、デイヴィッド ・フィンチャー監督による“The Curious Case of Benjamin Button”の撮影が完了している。 さらにダコタは、主演作の“Winged Creatures”と、SF スリラーと伝えられる“Push”、さらに“The Secret Life of Bees”と、声の主演を担当している人形劇“Coraline” がポストプロダクション中とのことだ。 * * 後は短いニュースをまとめて紹介しよう。 まずは日本製アニメからの映画化の話題で、以前から紹介 している手塚治虫原作“AstroBoy”(映画化はこういう表記 になるようだ)のCGアニメーションによる製作が進行し、 主人公アトム役の声の出演に、『アーサーとミニモイ』も担 当したフレディ・ハイモアが発表されている。この作品は、 香港に本拠を置くイメージ・スタジオが製作を進めているも ので、脚本には『スペース・ジャム』やアーノルド・シュワ ルツェネッガー主演『ツインズ』などを手掛けたティモシー ・ハリスが参加し、監督には『マウスタウン』のデイヴィッ ド・ボワーズの起用が発表されている。公開は2009年の予定 で、アメリカ配給はワーナー、他はTWCになるようだ。 もう1本、大友克洋の原作で、1988年に大友自身の監督で アニメ化もされた“Akira”の実写によるリメイクが、ワー ナーとレジェンダリー・ピクチャーズの製作で進められるこ とが発表された。さらにこの計画には、レオナルド・デカプ リオ主宰のアピアン・ウェイも参加しており、デカプリオの 出演もあるかも知れないとのことだ。監督には、2001年製作 の“Fifty Percent Grey”という作品でアカデミー賞短編ア ニメーション部門にノミネートされたルアイリ・ロビンスン が起用され、脚色は、テレビの『スター・トレック/ボイジ ャー』やゲームシナリオなども手掛けるゲイリー・ウィッタ が担当している。なお、原作は全6巻で発表されているが、 映画化ではこれを2部作で製作する計画とのことだ。 『エンジェル』などのフランソワ・オゾン監督が、特殊な 能力を備えた子供の登場する“Ricky”という作品に着手し ている。物語は、『パンズ・ラビリンス』のセルジ・ロペス と、アレクサンドラ・ラミーが演じる普通の夫婦の家庭に、 ちょっと普通でない子供が誕生するというもので、オゾン監 督は、「スリラーとホラーとSFとコメディと御伽噺の要素 がミックスされた作品」と称している。撮影は2月25日にパ リで開始されており、また本作のVFXを、“Astérix aux jeux olympiques”や『スパイダーマン3』にも参加して、 パリに本拠を置くBUFが担当している。オゾン作品には、 いつも何かファンタスティックな雰囲気が漂うが、VFXま で使用した本格的な作品は楽しみなことだ。製作は『エンジ ェル』と同じテオドラ・フィルムが行っている。 最後に、11月の公開が予定されている“Harry Potter and the Half Blood Prince”の撮影で、原作にはない追加シー ンが作られたという情報が流れている。これは、ヴォルデモ ートが引き起こす災害を描くもので、ここでは原作にはほと んど描かれないマグルの様子が登場するとのことだ。大規模 な災害シーンは映画の売り物になるものだが、特に今回は、 魔法社会とマグルとの関わりも明確にして、マグル観客向け のサーヴィスにもなりそうだ。
|