| 2008年02月03日(日) |
桃まつり真夜中の宴、フィクサー、燃えよ!ピンポン、アメリカを売った男、ブラブラバンバン、NAKBA、王妃の紋章 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※ ※僕が気に入った作品のみを紹介しています。 ※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『真夜中の宴』 プロデューサーなどの肩書きで、すでに映画業界に進出して いる女性たちが集まって製作された短編集。公開はA、Bの 2プログラムに分けてそれぞれ6本ずつで行われるが、試写 会では1本ずつが未完成(?)で5本ずつが上映された。 全体の印象は、意あって力足らずなのか、全部が満足できる という作品ではなかった。それに、撮影はいずれもディジタ ルヴィデオ(DV)で行われているが、映画画質へのこだわ りなのか、画面が妙に暗かったり薄ぼけていたりで、鑑賞に は多少努力が要った。 その中で取り敢えず気に入ったのは、笹田留美監督・脚本・ 主演の『座って!座って!』。実は、上映前に監督の挨拶が あり、その時の印象と映画の中の印象のギャップもあって、 その辺でも感心したものだが、物語の纏まりも良く、会場で 数少ない笑い声の出た作品でもあった。 この作品は種も仕掛けもなくて、今回上映された10本の中で は一番シンプルな作品かも知れない。しかし、そのシンプル さが今回他の9作品に足りなかったのではないか、そんな感 じもしてきた。それは、今の日本映画の全体にも言えるよう な気もするところだ。 その他では、大野敦子の『感じぬ渇きと』と『granite』の 2作が、水と火という対照的な題材を扱って気になったが、 特に前者で、海外の旱魃の話をここに持て来られても如何と もしがたいもので、それが言いたいのなら、もっと別のやり 方があったのではないか。正に、意ばがりが先走っている感 じがしたものだ。 一方、竹本直美の『明日のかえり路』と『あしたのむこうが わ』の2作は、共に父親と息子の関係を描いているが、これ は自分が父親として違和感があった。特に後者では、敢えて 息子が死ぬ必要があったか、彼の息子は生きていてケーキ屋 が過去に息子を亡くしているという展開の方がドラマになっ たような気もしたが… 去年は招待されなかったが、例年、年末にはNCWという映 画学校の学生さんたちによる短編の上映会を鑑賞してきた。 そこでも女性のクリエーターが増えてきて、中にはかなり注 目できる作品も登場している。 商業映画でも、昨年は『ゆれる』『めがね』『さくらん』な ど女性監督による素晴らしい作品をいろいろ観させてもらっ た。これからも女性監督の進出には期待したいものだ。
『フィクサー』“Michael Clayton” 主演のジョージ・クルーニーが今年のオスカー候補になって いる作品。アメリカの法曹界を背景に、特別な業務に携わる 弁護士の姿を描く。 主人公のマイクル・クライトンは、中堅の法律事務所に所属 するベテラン弁護士。彼が携わる業務はその事務所の依頼人 が引き起こしたスキャンダルのもみ消し。それは、彼が業界 で長年培ってきた各方面とのコネクションがあってこそ可能 なものだった。 このため、彼の仕事は事務所内でも重宝がられていたものだ が、彼自身はそんな裏の仕事には嫌気が差していた。しかし ギャンブル好きの彼は、投資に失敗して多少やばい筋からの 多額の借金を抱えることになってしまう。 一方、彼の勤める法律事務所は、さらに大手事務所との合併 を画策しており、その手土産として公害企業に対する集団訴 訟での被告企業側の弁護の成功を目指していた。ところが、 その担当弁護士が突然おかしくなり、主人公はその始末をす ることになるが… この公害企業の法務担当者役を、『ライオンと魔女』で白い 魔女に扮したティルダ・スウィントンが演じ、彼女も助演賞 の候補になっている。また脚本と監督は、“Jason Bourne” シリーズの脚本を手掛けたトニー・ギルロイ。監督はデビュ ー作だが、本作で監督賞・脚本賞の候補にもなっている。 『エリン・ブロコビッチ』の逆で、本作は企業を守る側の弁 護士たちの物語、その内情が克明に紹介される。父親も監督 ・脚本家のギルロイは、根っからの映画人のはずで、その彼 がどこからこの物語を思いついたのか判らないが、映画的に 実に面白く描かれていた。 実際にこのようなことが行われているか否かは判らないが、 あるかも知れないと思わせる展開は巧みで、正に映画を観た という感じのする作品。その意味では存分に楽しめた。主人 公の周囲でいろいろ偶然が重なったりする部分はあるが、そ れはそれというところだ。 それから、物語の中で主人公の息子が『王国と征服』と題さ れたファンタシー小説を読んでおり、その内容もいろいろ紹 介される。これがかなりしっかりと設定も作られていたよう で、監督には将来的にその映画化も期待したくなった。 その他、登場する企業のコマーシャルフィルムなどもちゃん と作られており、いろいろ凝った作品になっている。
『燃えよ!ピンポン』“Balls of Fury” 今年はオリンピックイヤーということで、それに絡めてのス ポーツコメディ。 ハリウッド映画のスポーツというと、野球やフットボール、 ホッケー、バスケットボールなどはありそうだが、個人戦で はテニスがある程度のようだ。ましてや卓球となると、ほと んど無く、プレス資料には『フォレスト・ガンプ』が挙がっ ているだけだった。 因にデータベースで調べてみると、1970年『ファイブ・イー ジー・ピーセス』や、2001年『ブロンドと柩の謎』なども挙 がっているが、どちらも観てはいるがそのシーンが記憶にな い。なお、昨年アメリカでは大ヒットした“Knocked Up”も 挙がってきたが、さてどんなものなのだろう。 そんな卓球は、1988年のソウルオリンピックで正式種目とな ったとのことで、本作の主人公は、弱冠12歳でそのアメリカ 代表に選ばれたという天才卓球選手。ところが、準決勝での アクシデントで棄権とされ、メダルに手が届かなかった。 それから20年、ラスヴェガスの場末でマチネのショウに出て いる主人公の許にエージェントが現れる。そのエージェント は、裏社会で開かれている卓球世界選手権への出場を彼に求 めてくる。それは20年前、彼の父親の命を奪った男が主催し ているものでもあった。 ところが、20年を経た主人公は華麗な技も錆付き気味。そこ で中華街に住む伝説の師匠の許で卓球の極意を学び直すこと になるが、そこには魅力的な女性の師範代がいて… 主演は、2005年のトニー賞で新人賞を受賞、映画の次回作で はアルフレッド・ヒッチコックを演じる予定という注目の若 手ダン・フォグラー。共演は、『ヘアスプレー』のクリスト ファー・ウォーケン、『シャークボーイ&マグマガール』の ジョージ・ロペス、『M:i:III』のマギー・Q、『慕情』な どのジェームズ・ホン。それにTV『ヒーローズ』で人気の マシ・オカがゲスト出演している。 脚本は、『ナイト・ミュージアム』や、ヴィン・ディーゼル 主演『キャプテン・ウルフ』などのロバート・ベン・ガラン トとトーマス・レモン。ガラントは、本作で監督デビューも しているものだ。レモンは東ドイツ選手役で出演。 マギー・Qの華麗なカンフーアクションが展開されたり、負 けると泣き出す東洋人の少女卓球選手が出てきたり、アジア の観客には受けそうな要素もいろいろ織り込まれている。そ れにウォーケンも含めた出演陣が、実に楽しそうに演じてい るのも良い感じの作品だった。 日本映画の『ピンポン』と同様、CGIを多用した作品で、 その辺に多少被るところはあるが、その他の要素もいろいろ 取り入れて、全体的にハリウッド映画らしい作品に仕上げら れている。ピンポンの魅力も理解される日本では、アメリカ 以上のヒットを期待したいところだ。
『アメリカを売った男』“Breach” 2001年2月18日、「アメリカ合衆国史上最悪の情報災害」と 呼ばれたロバート・ハンセンFBI捜査官逮捕に至る2カ月 間の捜査を描いた実話に基づく作品。 FBIの訓練捜査官エリック・オニールは、正式捜査官を目 指して情報収集の任務に着いていたが、ある日上司から新設 の「情報管理部」勤務を命じられる。そこはFBIでNo.1と も謳われるハンセン特別捜査官がトップとなる部署だった。 ところがオニールには、同時にハンセンの行動を監視する任 務が与えられる。ハンセンは性的に不信な行動があり、その 事実を把握せよという命令だったが…。オニールがいくら監 視しても、敬虔なクリスチャンのハンセンに怪しい素振りは なかった。 やがてオニールはハンセンの家族にも紹介され、オニールの 妻のジュリアナも共に家族のつきあいを始めることになる。 しかしそれは、事情の伝えられないジュリアナの不信も買う ことになってしまう。そしてその裏側では、捜査が着実に進 められていた。 オニール本人が特別コンサルタントとして参加し、FBIの 許諾の許に製作された映画とされる。脚本監督は、2003年の ヘイデン・クリステンセン主演作『ニュースの天才』などの ビリー・レイ。撮影の一部は、実際のFBIの建物の中でも 行われているそうだ。 従って、物語はかなり現実に近いものになっているようだ。 それは正に「事実は小説より奇なり」という感じの、緊迫感 に満ちた作品になっている。特に僅かの時間にハンセンの身 辺を探るシーンなどは、スパイ映画さながらのものだ。 ところがこの物語の中では、ハンセンが二重スパイになった 理由や切っ掛けなどは明白に示されない。実際に、20年間も 二重生活を送れたことにはそれなりの事情があるようにも思 えるのだが、その辺がはっきりしないのだ。 これはアメリカ人にしてみれば、国家的犯罪者の男の言い訳 など聞きたくもないというところかも知れないが、部外者の 日本人としてはその辺が釈然としなかった。 しかし実際のハンセン自身も、映画の中と同様、金のためと いうこと以上には口をつぐんでいるようで、この辺は致し方 ないところでもあるようだ。まあ、実際のスパイの切っ掛け というのはそんなものなのかも知れない。 ハンセン役はオスカー受賞俳優のクリス・クーパー。オニー ル役に『父親たちの星条旗』などのライアン・フィリップ。 他に、ローラ・レニーらが共演。迫真の演技を繰り広げる。
『ブラブラバンバン』 週刊ヤングサンデーで1999年から連載された柏木ハルコ原作 コミックスの映画化。 音楽の演奏を始めるとその中にのめり込み過ぎて、時として ちょっとエッチな暴走をしてしまう女学生ホルン奏者と、一 旦は廃部してしまった高校吹奏楽部の再建を巡る物語。 主人公は、中学で吹奏楽部にいたが、同級生の部員に告白し たらあえなく振られ、吹奏楽で有名な学校に進学した彼女の 後は追わずにこの学校に来たという内気な少年。ところがこ こで、無心にホルンを吹く1年上の女学生に出会ったことか ら、彼の学園生活が変わり始める。 彼は、その先輩と共に演奏することを夢見て吹奏楽部の再建 に協力するが、さらに先輩を巡るライヴァルの出現と、その ライヴァルを取り巻く女生徒たちがいろいろなドラマを繰り 広げる。 学園もので音楽というと、最近ではコーラスの『うた魂♪』 を紹介しているが、他にも『リンダ、リンダ、リンダ』とか いろいろ紹介してきた。でも今回はテーマが吹奏楽というこ とで、演奏される楽曲もラヴェルやボロディンなど、高校生 を感じさせるものが揃っていた。 そんな楽曲に合わせて物語が進行するものだが、ここでは、 ちょっとエキセントリックな女学生という設定にも変化があ って、その彩りが面白く物語を見せていた。 主演は、ストリートダンサーからスカウトされたという福本 有希と、ミュージシャンでもある安良城紅。共に映画は初め てのようだが、物語に填った演技を見せてくれる。共演は、 『ROBO☆ROCK』の岡田将生、『夜のピクニック』の 近野成美など。 さらにさとう珠緒、藤村俊二、森本レオ、原日出子、宇崎竜 童らが脇を固める。 ホルン独奏によるラヴェルの「ボレロ」に始まって、チャイ コフスキーの「花のワルツ」、ボロディン「ダッタン人の踊 り」、ラヴェル「ダフニスとクロエ」など、いろいろな曲が 演奏される。 その演奏は、1曲を除いて専門の演奏家が吹き替えており、 音楽自体は聴き易く演出されている。でも出演者たちの指使 いなどもけっこう様になっていて、それは落ち着いて楽しめ たものだ。特に、丘の上の演奏でパーカッションが入ってく るところは感動的だった。 脚本・監督は、2001年『青の瞬間』がヒューストン国際映画 祭で受賞している草野陽花。プレス資料に掲載されたプロダ クションノートを監督が書いているが、監督自らこれを書く のは珍しいこと、それだけ気持ちの入っている作品と言えそ うだ。
『NAKBA−パレスチナ1948−』 フォトジャーナリストの広河隆一の撮影・監督・写真による パレスチナ難民の姿を描いたドキュメンタリー作品。 歴史の授業では、単に1948年に建国、その裏ではイギリスが 手引きしたとだけ教えられるユダヤ人国家の誕生。しかしそ のとき、どうやってパレスチナ人を追い出したのかずっと疑 問だった。その疑問にかなり明白に答えてくれる、そんな感 じの作品だ。 1943年生まれの広河は1967年にイスラエルに渡り、ユダヤ人 パレスチナ入植者による社会主義的な共同体キブツで暮らし ていた。彼がいた共同体はキブツダリアと呼ばれ、その近く には白い石が散乱し、サボテンの生えた小高い丘があった。 しかしその場所の由来について、ユダヤ人たちは訊いても言 葉を濁していたそうだ。 そんな広河は、イスラエルによる周辺国への侵攻を目の当り にして、ユダヤ人によるパレスチナ占領に反対するユダヤ人 の組織マツペンに参加する。そのマツペンの資料から、その 場所がかつてダリアトルーハと呼ばれたパレスチナ人の村の 跡であったことを知る。 1982年、レバノンのパレスチナ難民キャンプでの大虐殺を、 その直後に取材した広河は、その報道によってフォトジャー ナリストとしての地位を確立する。そしてそのキャンプで出 会ったパレスチナ人一家の生活を追いながら、広河は入植地 に消えた村の調査を開始する。 その調査の過程で、そのような村がイスラエル全土で420も あったことが判明。やがて、生き残りの村民たちの口から当 時の出来事が語られ始める。NAKBAとは、ヘブライ語で 「大惨事」という意味だそうだ。 1948年、その場所では、国家による「民族浄化」に等しい殺 戮が行われた。ホロコーストを生き延びたユダヤ人が、何故 そのようなことをできたのか。そんな疑問を挟みながら、そ のNAKBAが今も続いている現実が綴られて行く。 取材は、2006年分まで写し出されるが、最近の部分でもパレ スチナ難民キャンプの廃虚と化した惨状が描写されている。 それ以前の部分でも、生々しい遺体なども写し出され、いろ いろな意味での現実が突きつけられる作品だった。 もっと「消えた村」のことを中心に編集して、それ以外のパ レスチナ人姉妹の話などは別の作品にしても良かったような 気もする。しかし、それでは観客が制限されてしまいそうで もあるし、この辺のバランスが良いのかも知れない。 より詳しく知りたい人には、写真展なども併せて開催される ようだ。
『王妃の紋章』“満城尽帯黄金甲” 『HERO』『LOVERS』のチャン・イーモウ監督が描 き出す中国歴史絵巻。 西暦618−907年に栄えた前唐に対して、五代十国に織り込ま れる後唐は923−936年の短命に終ってしまう。それは堕落と 戦争、政治的な陰謀に満ちた混乱の時代であった。しかしそ の一方で、前唐の栄華を引き継ぐ宮殿は、黄金にあふれた豪 華絢爛の世界でもあった。 そんな宮殿を背景に、国王と王妃、前王妃の息子(皇太子) と現王妃の息子(第2王子)などが、権力の座を目指して陰 謀や戦いを繰り広げる。 国王は、宮廷医に命じて病気がちの王妃にいろいろな煎じ薬 を飲ませていたが、その薬には謎があるらしい。一方、王妃 は優れぬ体調の中、重陽節の衣裳に付ける菊の刺繍を続けて いるが、その刺繍にも何か秘密があるようだ。 その王妃は血の繋がらない皇太子と密会を続けており、皇太 子は宮廷医の娘と宮殿を脱出する相談をしている。そして、 北方の戦地から戻った第2王子は、国王から一言の忠告を受 けるが、再会した実母王妃の衰えた姿にショックを受ける。 監督は、アクションの中にも人間ドラマを描くことを目指し たとしており、かなり濃密な人間ドラマが描かれる。しかし 物語の展開は明瞭で、特に本作では外交が絡まないから中国 の歴史を知らなくても判りやすいものになっている。因に、 映画に登場する王国は架空のものだそうだ。 そしてこの物語が、『アンナと王様』のチョウ・ユンファと 『SAYURI』のコン・リーの共演で映画化された。世界 の映画界で活躍する2人だが、意外なことに共演は初めてだ そうで、それも話題になっている。 他に、チェン・カイコー監督『PROMISE』などに出演 のリウ・イェ、台湾出身の人気ポップスター=ジェイ・チョ ウらが共演している。 正に豪華絢爛という感じの宮廷セットから、空中戦も登場す る華麗なアクションシーン、そして数千の兵士が画面を埋め 尽くす大群衆シーンなど、中国映画の極致とも言える作品。 さすが北京オリンピックの総合演出も任せられたイーモウ監 督というところだ。 本作が見事な娯楽作品であることは間違いない。ただ、娯楽 アクション映画ももちろん良いのだけれど、これでは監督が 『初恋のきた道』に戻ることは当分できそうにないのかな。 ちょっとそんなことも考えてしまった。
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