井口健二のOn the Production
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2007年12月10日(月) シナモン+、東京少女、ちーちゃんは…、アドリブナイト、はじらい、4ヶ月3週と2日、ジプシー・キャラバン、アイ・アム・レジェンド

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シナモン the movie』『ねずみ物語』
サンリオ製作によるアニメーションで、『シナモン…』は商
品キャラクターの映画化、『ねずみ…』は辻信太郎著の絵本
の映画化となっている。
どちらもお子様向けの他愛ない作品ではあるけれど、大人の
目で見ると、いろいろ考えさせられるものも持っている。そ
れに、特に『ねずみ…』に関しては、短い時間の中で冒険の
旅がバランス良く描かれていた。
上映時間は、それぞれ45分と53分。幼い子供の興味を引き付
けられるのはこの辺が限度というところだろう。その短い時
間の中で良く纏まりのある物語を展開しているものだ。
まず、『シナモン…』は、発表5周年を迎えるキャラクター
だそうで、基本は小犬のようだが、物語では雲から生まれて
地上に落ちてくることになっている。そこで人間の女性アン
ナに拾われ、彼女が開いているカフェで仲間たちと出会う。
ところがアンナの後を着けている奴がいて、そいつは生半可
な魔法でシナモンとアンナの間を邪魔しようとするのだが…
この悪役チャウダーの存在がストーカーのように描かれてい
て、その感情のエスカレートぶりなどが、それなりに現代的
な物語になっている。
監督は杉井ギサブロー。実は評判の『あらしのよるに』は、
物語的にあまり気に入らなかったものだが、今回は物語も納
得できた。また声の出演は、シナモンとその仲間達は声優が
担当し、アンナを石原さとみ、そしてチャウダーその他を陣
内智則が演じている。
一方の『ねずみ…』は、山奥の古い屋敷に暮らすネズミ一族
の物語。そこではもちろん人間やその他の動物と闘いながら
の生活が続いているが、一族をまとめる長老が高齢となり、
2匹の若いネズミにその跡目を継ぐための試練が課せられる
ことになる。
その2匹は、思慮深く仲間思いだが行動が伴わないジョージ
と、行動力はあるがちょっと横暴なジェラルド。そして2匹
に課せられた試練は、遠くの月の谷に赴いて、そこに棲む光
の竜を捕らえてくることだったが…
この2匹に、それぞれの相棒や勝ち気な雌ネズミなども加わ
って、冒険の旅が繰り広げられる。物語全体は、良くある冒
険ファンタシーという感じだが、これもお子様向けというと
ころでは、良い感じのハラハラドキドキになっていた。監督
は波多正美。
なおアニメーションは、『シナモン…』を韓国のスタッフ、
『ねずみ…』は中国のスタッフが担当しており、特に『ねず
み…』では要所に3DCGIまで使われていた。
また主題歌を、『シナモン…』が東方神起と、『ねずみ…』
はやはり韓国のMAYが担当している。因に、MAYは「日
本音響研究所」の調査で、「癒しの声」と証明された歌声の
持ち主だそうだ。

『東京少女』
毎年この時期になるとBS−i製作の『ケータイ刑事』シリ
ーズというのを観せられて、何と言うかアイドル偏重の学芸
会映画には、正直困ったものだと思っていたものだ。
ところが今回、その同じスタッフと、今年の1月に紹介した
シリーズの第2作に主演していた夏帆の主人公役で作られた
本作は、例年のシリーズを離れ、僕にも納得のできる見事な
SFファンタシーになっていた。
主人公は、「ファンタジーノベル大賞」を目指しているSF
少女。そんな彼女がある日、母親と訪れた都心のビルの非常
階段の手摺から誤って携帯電話を落とし、それが空中に消え
るのを目撃する。
その携帯電話は時空間を飛び抜け、約100年前の1人の青年
の頭上に落下した。彼は夏目漱石の門下生で、その日はその
場所に建っていた出版社の編集部を訪ねていたのだが、その
日も彼の作品には自分が描けてないと批評を受けていた。
こうして100年前の青年の手に渡った携帯電話は、月が上空
に出ているときだけ現代と交信できることが判明し、主人公
は100年前の青年と話を交わすようになるが…
物語の設定は、過去にも幾らでも類例を挙げることのできる
ものだが、そんな物語が、現代の女子高生を主人公に見事に
再構築されている。そして展開も、ある種定石通りのもので
はあるが、そこでの道具立てが期待以上に決まっていた。
特に2人が新月の日に銀座で行うデートのシーンは、明治村
に残された当時の建造物と現代の建物が対比されて、銀座の
歴史も感じさせてくれる見事な展開になっている。
そこに描かれた銀座に100年の伝統が息づいているという事
実は、試写会場を出て海外ブランドショップの並ぶ銀座方面
を眺めたときに、最高の皮肉にも思えたものだ。
監督の小中和哉は、2004年『ULTRAMAN』などでSF
特撮の第1人者と呼ばれているようだが、彼の監督デビュー
作の『星空のむこうの国』は、当時NHK少年ドラマシリー
ズの再来を目指すともされていたもので、その趣旨は本作で
も充分に感じられた。
3月に紹介した『きみにしか聞こえない』といい、この作品
といい、このままではSF界からも無視されかねない作品だ
が、何とかこのような作品が無視されないよう、ちゃんと評
価される形にしたいものだ。

『ちーちゃんは悠久の向こう』
日日日と書いて「あきら」と読むらしいライトノヴェル作家
のデビュー作の映画化。原作はいろいろな賞も受賞している
ようだ。
幼いときからずっと一緒だったちーちゃんとモンちゃん。高
校生になっても同じクラスで学ぶ2人はいつも一緒。でも部
活は別で、モンちゃんは弓道部、ちーちゃんはオカルト研究
会に入っている。
そして、部室で古いガリ版刷りの「学園七不思議」を見つけ
てちーちゃんは、モンちゃんを誘ってその探索を始めるが…
それは全部を指示通りに巡り終えたとき、願いが叶うと言い
伝えられているものだった。
映画を見続けていると、ある種の隠された設定には気が付き
易くなる。この作品の設定は、ある過去の話題作と同じもの
で、原作の発表時期から見ると、作者もその映画を観てこの
作品を発想したものだと思われる。
ただしそれはいわゆるパクリとかではなく、同じシチュエー
ションを使って自分ならどんな物語を作れるかという部分に
立つもので、その部分では本作は見事に新たな物語を構築し
ているものだ。
とは言え、やはり気付いてしまうのは仕方ないもので、この
映画化ではかなり早い部分でその示唆があって、それからは
その設定が生じさせるはずの問題を如何にうまく演出処理し
ているかに興味を引かれて映画を観ることになった。
まあ簡単に言えば、気が付かなければもう一度観て確認しな
ければならないことを、最初から確認しながら観ていた訳だ
が、逆に初めて観ながらの確認(?)というのもこの上なく
新鮮なもので、それだけでも結構楽しめたものだ。
ただ結末は、これでは甘いと感じられたが、これは原作に書
かれたものなのだろうか?

主演は、進研ゼミなどのCFに出演の後、アニメ版『時をか
ける少女』の主人公の声優で映画デビューした仲里依紗と、
映画『バッテリー』で3000人のオーディションから選ばれた
林遣都。他にモデル出身の高橋由真。また、堀部圭亮と西田
尚美が脇を固めている。

『アドリブナイト』(韓国映画)
第79回オール読物新人賞を受賞した平安寿子による同名の短
編小説を、韓国で映画化した作品。
物語は、末期ガンで死期の迫った老人の隣人たちが、10年前
に家出した老人の1人娘を捜そうとするもの。ところが捜す
人たちにも娘は幼い頃の印象しかない。そんな隣人たちがソ
ウルの繁華街で面影のある女性を見つけるが、彼女は人違い
だと言い張る。
しかし事情を聞かされ、嘘でも良いから老人を看取ってくれ
と頼まれた彼女は…
前回紹介した『カンナさん大成功です!』は、整形美容が日
常化している韓国の方が理解されやすかったと書いたが、本
作の場合も家族関係が希薄になった日本より韓国の方が似合
っている感じがする。
映画の中では、「家族が看取らないと死者があの世で迷って
しまう」というような台詞が出てきたと思ったが、日本では
それも叶わぬ独居老人が多いはずだ。その点、この映画に描
かれた韓国では、まだしっかりと家族関係が残されているよ
うだ。
その一方で、昏睡状態とはいえ、まだ息のある老人のそばで
大喧嘩が始まる様子などは、日本でもありそうだなと思って
しまうところだ。もちろん原作は日本の小説なのだから当然
だが、映画で違和感なく描かれているということは、韓国で
も同様なのだろう。
なお映画後半では、韓国の通夜の様子も描かれるが、焼肉を
食べながらの夜明かしというのは、日本の雰囲気とはかなり
違って面白かった。
主演は韓国テレビドラマの四季シリーズで『春のワルツ』に
主演したハン・ヒョンジュ。他に『春夏秋冬そして春』に出
演のキム・ヨンミンが、繁華街で彼女に声を掛ける娘の幼馴
染みの役を演じている。
監督は、その巧みな描写力などで第2のキム・ギドクと呼ば
れるイ・ユンギ。本作が第3作だが、いずれも若い女性の心
理を深く洞察したものだそうで、その流れの中での最新作と
いうことだ。
また本作では、監督自身が韓国語に翻訳された原作を見つけ
て映画化に漕ぎ着けたということだが、次回作にも平原作の
『素晴らしい一日』の映画化を予定しているそうだ。

『はじらい』“Les Anges Exterminateurs”
2002年に発表された『ひめごと』で、カイエ・デュ・シネマ
の年間ベスト1やフランス文化賞を受賞したジャン・クロー
ド=ブリソー監督は、2005年、その映画のオーディション中
にセクハラを受けたと主張する4人の女優に訴えられ、執行
猶予付きの有罪判決と多額の賠償金の支払いを命じられた。
本作は、監督の主張によると、その訴訟が起きる前に書き上
げられていた脚本の映画化だそうだが、あまりに現実に似た
展開は、監督の贖罪か皮肉、それとも言い訳かという感じに
も捉えられる。
物語は、次回作の準備を進める映画監督が主人公。その映画
で女性による究極の官能を描きたいとする監督は、オーディ
ションを受けに来た女優たちに、カメラの前で自慰をしてオ
ルガスムスに達するように要求する。
この要求に、ほとんどの女優は席を立ってしまうが、中には
応じる女優たちもいた。こうして集めた女優たちだったが、
やがて彼女たちの行動が怪しい雰囲気を帯び始める。そして
そこには警察の陰も見え始め…
ここから後は、ほとんど現実の通りとなってしまうが、取り
敢えず映画では、監督は女優に指1本触れようとせず、それ
は女優から求められても応じなかったと描かれている。
それが真実かどうかは判らないが、女優たちが監督に視線に
よる愛情を感じたとか、それを裏切られたから訴訟に及んだ
という主張はちょっと自己弁護に過ぎるような感じもし、訴
訟が不当だったと思わせようとする魂胆は見えるものだ。
従って僕には、監督の言い訳のようにしか取れなかったもの
だが、そのことを別にするとこの映画は、タブーへの挑戦と
して面白いとは感じさせるものだ。ただし本当にやったら、
やはり女優から訴えられることになってしまうだろう。
そんなある種の男の欲望みたいなものが描かれた作品とも言
える。なお作品は日本ではR−18指定を受けるもので、これ
は昔の成人映画だということだ。内容はともかく、その指定
は妥当の作品ではある。

『4ヶ月、3週と2日』
           “4 Luni, 3 Saptamani si 2 Zile”
今年のカンヌ国際映画祭で、最高賞のパルムドールに輝いた
ルーマニア映画。
チャウシェスク政権末期のルーマニアでは、労働力確保のた
めに女性には最低3人の出産が要求され、子供を4人生むま
では中絶も禁止、さらに14〜15歳の中学生女子にまで妊娠が
奨励されたという。当然避妊も禁止され、避妊具も店頭から
姿を消していた。
そんな1987年の大学の学生寮。その1室で、2人の女性が外
出の準備をしていた。それはビニールシートを用意したり、
大量の脱脂綿を用意したりというちょっと変ったもの。そし
て1人が、ボーイフレンドから金を借りるために先に出掛け
て行く。
女性は金を借りたその足でホテルに予約の確認に行くが、何
かの手違いで予約が入っていない。そして別のホテルの部屋
をとった彼女は、具合が悪くなったと連絡してきたもう1人
に代り、とある街角に男を迎えに行くが…
前段に書いた文章でも判る通り、彼女たちは違法な中絶をし
ようというものだが、もちろんそれは犯罪行為だし、そこに
は危険な罠も待ち構えている。そんな女性たちの1日の行動
を描いた作品。
物語の背景は現代ではないが、人は自由を奪われた中で如何
にしてその尊厳を保てるか、そんな究極のドラマが展開され
る。それは時代を超えて現代にも訴えかけてくるものだ。そ
して本作では、独裁制権の恐ろしさも見事に描かれていた。
実はチャウシェスクという人物は、一方でチェコ「プラハの
春」の制圧に軍隊を派遣しなかったり、1984年ロサンゼルス
オリンピックには東欧諸国で唯一選手団を派遣するなど、ど
ちらかと言うと西欧寄りの考えを持っていた。
それが一気に変貌したというのだから、自分の住んでいる国
だって、いつ何時こんな事態に陥るかも判らないものだ。そ
んな杞憂にも似た感覚もこの作品は抱かせてくれた。
主演は、ルーマニア生まれだが、イギリスのテレビやロンド
ンの舞台でも活躍し、受賞歴もあるアナマリア・マリンカ。
彼女はフランシス・フォード・コッポラ監督の新作“Youth
Without Youth”にも出演しているそうだ。
なお、本作品は共産主義時代のルーマニアの歴史を主観的に
描くプロジェクト“Teles from the Golden Age”の第1作
として製作された。何とも強烈な黄金時代だ。

『ジプシー・キャラバン』
  “When the Road Bends...tales of a Gypsy Caravan”
ヨーロッパ映画やハリウッド映画に時々登場するジプシー。
旅から旅へ音楽一つで流れ歩く彼らの姿を追ったドキュメン
タリー。
作品は、基本的に2001年秋に行われた5組のジプシーバンド
による全米ツアーを追っている。それにスペイン、マケドニ
ア、ルーマニア、インドなど、彼らの故郷に取材した映像を
加えてジプシー文化そのものにもスポットを当てたものだ。
ジプシー(ロマ)の文化というのが相当奥深いものであるこ
とは想像していたが、11世紀のインドに起源を持ち、その生
活域はヨーロッパからアメリカにまで広がっている。そして
映画に登場した中ではスペインの人を除いて共通のロマ語を
話せるなど、民族の単一性もしっかり保持されている。
しかし国家を持つことを望まず、常に流浪の民として生活を
続けた人たち。実際にナチス政権下のドイツでは、ユダヤ人
と共に50万人のロマ人が虐殺されたが、ユダヤ人のようにそ
れを強調することもなく、その事実はほとんど忘れ去られよ
うとしている。
そんな流浪の民族に与えられたのは音楽の才能。彼らは音楽
を糧として世界に自己を認めさせる。その音楽の素晴らしさ
は、この映画の中で充分に聞くことができるものだ。
ジプシーと言えば、映画に登場するときは大抵が悪人の役回
りで、ユダヤ人の守銭奴以上に差別的な扱いを受けている。
だから、この映画の中でもジョニー・デップが偏見を捨てて
くれと訴えているが、それは一般社会の中でもその通りなの
だろう。
ただ、個人的には、パリでジプシーの子供たちに金品を奪わ
れそうになったことがあって(被害はなかったが)、偏見は
捨て切れないでいる。それも生活あってのことと言えばそれ
までだが、そんな差別を生み出した過去は持っているはずの
ものだ。
でもまあ、そんな偏見も追々無くしていけなければならない
物であることは確かで、そのためにもジプシーの文化をよく
知っておきたいと思うものだ。そんな期待にもある程度応え
てくれる作品と言える。
短い上映時間でロマ文化の全てを描くことは不可能だが、そ
れなりに理解を深めることはできる作品だった。

『アイ・アム・レジェンド』“I Am Legend”
リチャード・マシスン原作の3度目の映画化。前作ではヴィ
ンセント・プライス、チャールトン・ヘントンが演じた主人
公ロバート・ネビルに、『インディペンデンス・デイ』など
で、何度も人類の危機に立ち向かってきたウィル・スミスが
扮する。
物語はほぼ原作の通りだが、科学的な背景は現代化されてい
て、今回のシナリオでは、究極の医療技術として遺伝子組み
替えによって作り出されたウィルスが暴走し、人類を死滅さ
せたことになっている。
さらに、主人公はそのウィルスに免疫があり、当然他にも免
疫保持者はいたはずだが、その人々も死滅してしまった理由
も、ちゃんと説明されているものだ。そして、人類最後の男
となった主人公は、ニューヨークで孤独な時を送っていた。
このニューヨークの風景が見事な映像で提示される。物語で
は人類の死滅は2009年、そして現時点は2012年となっている
が、その3年間で荒廃し切った大都会を主人公が愛犬と共に
さ迷うシーンは、本当に見事に一言に尽きる。
因にこの映像を作り上げたのは、ソニーイメージワークス。
1998年の『GODZILLA』から、2002年、04年、07年の
『スパイダーマン』へと発展させたニューヨークの町並のC
GIが、いよいよ他社作品でも威力を発揮し始めたものだ。
なお、ここで提示された2009年のニューヨークの風景による
と、映画館では“Batman vs.Superman”が上映されていたよ
うだ。またDVDショップには“Green Lantern”や“Teen
Titans”のポスターが掛かっていて、これらの作品は2009年
までには製作されているらしい。
実はこれらの作品は、このサイトの製作ニュースのページを
読んでいただければ判るように、いずれも最近に映画化の情
報が流されたものばかり。しかし、現実にはちょっと難しい
情勢になっている作品もあって、これは製作サイドの夢かな
という感じもしたものだ。その辺の遊び心も楽しかった。
物語の結末に関しては、賛否両論湧きそうだ。実際、原作至
上主義の僕としては、問題にしたいところではあるが、まあ
3度目の映画化ともなれば、このくらいは仕方がないかなと
いう感じではある。少なくとも、原作の精神が活かされてい
る点では、認められる改変というところだろう。


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