井口健二のOn the Production
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2007年12月01日(土) 第148回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 ここ何回かは、毎度のように登場するストライキの話題だ
が、ついに製作延期の事態に陥る作品が出始めた。
 現時点で延期が発表されているのは、ソニーの“Angels &
Demons”“Edwin A. Salt”、ワーナーの“Justice League
of America”“Shantaram”、TWCの“Nine”、MGMの
“Pinkville”など、いずれも以前にこのページで取り上げ
た期待作ばかりで心苦しいところだが、それぞれ製作開始直
前の最後の脚本改訂が脚本家のストに引っ掛かったものだ。
 因に“Angels & Demons”では、前々回紹介したように、
製作者で脚本も担当するアキヴァ・ゴールズマンが、自ら手
掛けた脚本が物足りないとしていたものだが、そのリライト
作業が進まない内にストライキとなってしまった。このため
2月からの撮影も無理と判断されている。
 ただしこの作品に関して、ソニーの製作担当者は「現在の
脚本でも充分に強力」と判断しているようで、一応公開日を
2008年12月19日から09年5月15日に延期とした上で、撮影は
2008年早期に行うとしている。また製作延期の発表後にも、
トム・ハンクスの相手役としてナオミ・ワッツが報告される
など、脚本以外の製作準備は着々進められているようだ。
 一方、第140回で紹介したトム・クルーズ主演のスパイス
リラー“Edwin A.Salt”は、予定されていたテリー・ジョー
ジ監督が降板を表明、替って製作者だったマイクル・マンが
監督することになったものの、監督の希望する脚本のリライ
トが不可能になってしまった。
 さらに“Justice League of America”では、俳優のスク
リーンテストなども行われていたが、実は肝心の脚本はまだ
完成していなかったもので、これは延期も仕方のない状況だ
ったようだ。ただし、ジョージ・ミラー監督の許、配役もほ
ぼ固まってきているようで、ストライキ明けには一気に進む
ことになりそうだ。
 また、“Shantaram”は、準備された脚本では製作費が掛
かり過ぎることが判明して、エリック・ロスが製作費削減の
リライトを開始したところでストに突入してしまった。しか
もスト明けを待っての製作では、ロケ地がモンスーンのシー
ズンに入って撮影が困難になるという状況もあるようだ。
 しかしこの作品の場合は、監督のミラ・ナイールも、製作
者のグラハム・キングも、主演で製作も担当するジョニー・
デップも、撮影可能になり次第の再開を明言しており、多少
は遅れるものの、映画が製作されることは間違いないとされ
ている。因にナイール監督は、2001年の『モンスーン・ウェ
ディング』で国際的な評価を受けたが、今回はそのモンスー
ンの影響でも製作が延期になってしまったものだ。
 また“Nine”では、マイクル・トーキンの脚本に対して、
製作者のアンソニー・ミンゲラが手直しを開始したものの、
3日目にストに突入。しかもミュージカル仕立てのこの作品
では、脚本が完成しないとロブ・マーシャル監督によるダン
スの振り付けなどもできないため、製作は完全にストップし
ているとのことだ。因にこの作品では、キャストからキャサ
リン・ゼタ=ジョーンズの離脱も発表されているが、これは
ストとは関係ないそうだ。
 そして“Pinkville”は、正に撮影開始の直前だったもの
だが、脚本も手掛けるオリヴァ・ストーン監督の撮影中にも
脚本を改訂したいという行為が、脚本家組合員でもある監督
には認められなかったとのことだ。
 いずれの作品も、ストライキ終結後の早期の製作再開を目
指してはいるが、作品によっては条件が厳しくなるものもあ
るようで、ストライキは各方面にいろいろな波紋を広げ始め
ているようだ。
        *         *
 お次も少しスト絡みの話題になるが、第143回で紹介した
ブラッド・ピット、エドワード・ノートンの共演作“State
of Play”からピットの降板が発表された。
 この作品は、イギリスのテレビシリーズからの映画化で、
内容は新進政治家を巡るスキャンダルを描いている。そして
計画では、ノートンが政治家、ピットは彼を追求するジャー
ナリストを演じることになっていた。ところが前回改訂中と
報告した脚本は完成したものの、11月15日に予定されていた
クランクインを過ぎてもピットとケヴィン・マクドナルド監
督との意見が合わず、また現状では脚本の再改訂もできない
ということで、ついにピットの降板となってしまった。
 なおピットの降板劇は、最近では“The Fountain”でも起
きたものだが、今回の製作会社のユニヴァーサルでは、製作
が不能になった場合は、訴訟も辞さないとしているとのこと
で、事態はかなり深刻なようだ。まあユニヴァーサルにして
みれば、ようやく掴まえたピットに逃げられるのは、かなり
ショックということなのだろう。
 とは言え、当面は代役の獲得を目指すことになる訳だが、
そこにはストで次回作が延期になっているトム・ハンクスや
ジョニー・デップの名前も噂されていた。しかし会社側は、
ラッセル・クロウに白羽の矢を立てたようで、一応クロウの
代演が決定になっている。それにしても、ノートンの政治家
とクロウのジャーナリストという配役は、何となく逆のよう
な気もするが、それは見てのお楽しみになりそうだ。
        *         *
 次はストとは無関係で、前回、第147回では新作の計画を
紹介したロマン・ポランスキー監督に、今度は“Polanski”
と題された監督本人の伝記映画の計画が発表された。
 計画しているのは、元は『沈黙の戦艦』や『ストリート・
ファイター』などにも出演していたアクション俳優で、最近
ではインディペンデントの監督としても活躍しているという
ダミアン・チャパ。計画は、チャパの脚本、監督、出演で進
められるが、ポランスキーの承認は得ていないとのことだ。
因にチャパは、裁判記録などを克明に調査し、それと著作権
の存在しない一般的な情報に基づいて脚本を書いたとしてお
り、それがその通りなら誰にも止められないものだ。
 多少やばい気はするが、ナチ支配下のポーランドでユダヤ
人逃亡者として隠れ暮らした子供時代から、シャロン・テー
ト事件、また幼い女優とのスキャンダルでハリウッドを追わ
れ、さらにオスカーを受賞するなど、激烈なポランスキーの
半生は、まさに映画的な題材ではあることは確かだ。
 撮影は1月から、ベルギー、ポーランド、それにアメリカ
国内で行われる計画。またチャパは、出演者としてはポラン
スキー監督の初期作品のプロデューサーだったユージン・ガ
トウスキーを演じるもので、ポランスキー役の俳優などはこ
れから選考するとしている。
 映画監督を描いた作品は過去にもいろいろあったが、中に
は思い出したくないこともあるだろう。この計画に対して、
ポランスキーはどう反応するのだろうか。
        *         *
 ここからは、SF/ファンタシー系の映画の情報を紹介す
る。
 まずはこちらもスト絡みの話題からで、上記のようにスト
で延期の決まった“Pinkville”に主演予定だったブルース
・ウィリスに対して、ディズニー製作でジョナサン・モスト
ウ監督による“The Surrogates”というグラフィックノベル
の映画化が、2月の撮影開始予定で発表された。
 この作品については、今年4月1日付の第132回で一度紹
介しているが、人類が全員引き籠りになって、社会生活は全
てロボットが代行しているという近未来を舞台にしたお話。
そして今回の情報によるとそこで殺人事件が起こり、ウィリ
スはその捜査を命じられた刑事に扮するというものだ。この
ウィリス扮する刑事も最初は代行ロボットを使って捜査を進
めるが、やがて数年ぶりに家を出て実地に捜査をしなければ
ならなくなる…
 脚色は、4月の紹介通り、モストウと共に『T3』を執筆
し、現在進行中の“Terminator Salvation”も手掛けている
マイケル・フェリスとジョン・ブランカトー。引き籠りとそ
の代行ロボットということでは、2005年4月に紹介した日本
映画の『HINOKIO』を思い出すところだが、殺人事件
が絡むことになるとかなり話は違ってくる。でも公開時には
ちょっと話題にしたいところだ。
 なお、ディズニーでは来年3月までに7作の製作計画が決
定されていることを前回紹介したが、今回の作品は8番目と
なるものだ。因に、先に決定の7本は、P・J・ホーガン監
督の“Shopaholic”、アダム・シャンクマン監督+アダム・
サンドラー主演の“Bedtime Stories”、ドウェイン“ザ・
ロック”ジョンスン主演の“Witch Mountain”、ロバート・
ゼメキス監督+ジム・キャリー主演“Christmas Carol”、
サンドラ・ブロック主演の“The Proposal”、さらに“High
School Musical 3”“Hannah Montana”となっている。
        *         *
 前の記事で、“Terminator Salvation”の題名が出てきた
ので、次はその最新情報を紹介しておこう。しかもこれは、
ちょっとびっくりの情報だ。
 作品については、以前から紹介しているように新3部作の
開幕になるとされているものだが、その主人公ジョン・コナ
ー役に、何とバットマン/ブルース・ウェインも演じている
クリスチャン・ベールの配役が発表された。
 実はこの配役、報じられた当初は相当に疑問視する声が高
く、中には一時情報のあったコナー以外の戦士が主人公で、
コナーは脇役ではないかという意見もあって混乱していた。
しかし現在は、ジョン・コナー役で、しかも3部作通しての
主人公ということで最終的に確認が取れているものだ。
 因に、この作品のアメリカ配給は『バットマン』も手掛け
るワーナーが扱うことになっており、その線からは当然調整
もされていると思われるが、これが実現するとベールは、共
にシリーズで、ある種2大ヒーローとも言えるキャラクター
を同時期に演じることになる訳で、かなり思い切った起用で
あることは確かだ。
 監督はMcG、撮影開始は3月15日、オーストラリアとブダ
ペストで行われて、2009年夏の公開を目指す。
        *         *
 “Terminator Salvation”も4作目だが、続けて第4作の
話題を2本紹介しよう。
 まずは“Final Destination 4”。前作では、監督が第1
作のジェイムズ・ワンに戻ったのに、ちょっとピンと外れに
見えたシリーズの第4弾の計画が発表されている。そしてそ
の監督には、第2作を手掛けたデイヴィッド・R・エリスが
復帰、脚本も『2』のエリック・ブレスが担当しているとい
うことだ。
 このシリーズの場合、死神と、その到来の前兆に気付いた
主人公との争いが物語としてのテーマとなるものだが、第1
作ではデヴォン・サワの演じた主人公が相当に頭が良くて、
その出し抜きぶりが面白かったものだ。
 ところがその一方で、死神の繰り出す死の罠が強烈で、そ
の映像も話題になったもので、第1作からはアリ・ラーター
のヒロインだけが継続した第2作では、その映像面が強調さ
れたものになっていた。そして、ワン監督が復帰した第3作
もその流れの継続となってしまったものだが、正直僕には、
第1作の面白さを感じることはできなかった。
 その第4作は、多分第2作以降の流れとなるのだろうが、
今回は3Dでの製作が行われるということで、あの死の罠の
数々が3Dで映像化されたら、それはそれなりに面白いこと
にはなりそうだ。製作のスケジュールなどは未発表だが、配
給はニューラインが担当する。
        *         *
 そしてもう1本の第4作は“The Fast and Furious 4”。
前々回にヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカーが戻って
くるかも知れないと報告した情報が、本当になった。さらに
第1作でヒロインを演じたジョーダナ・ブリュースターも再
登場するとのことだ。
 このシリーズでは、第1作の大ヒット直後に、スタッフ・
キャストをそのまま継承した第2作の計画が発表された。と
ころが、ディーゼルが出演を拒否、監督のロブ・コーエンも
降板して、結局ジョン・シングルトン監督で製作された第2
作では、ウォーカーのキャラクターだけが再登場して、物語
もあまり継続性のないものになっていた。
 これに対して第3作では、舞台も東京に移すなど思い切っ
た改訂が行われ、それはそれで面白い作品になっていたもの
だ。しかも、ジャスティン・リンが監督したこの作品では、
何とディーゼルのカメオ出演というおまけまで付いていた。
 つまり第2作にはウォーカー、第3作にはディーゼルが登
場したもので、彼らのシリーズへの思い入れが感じられた。
そしてそのシリーズの第4弾で、再び2人が揃うことになる
ものだが、この流れからは、こうなるのも必然という感じも
するものだ。
 なお第4作の物語は、ネットの情報では、第1作での問題
で刑務所に入っていたウォーカー扮するブライアンが、麻薬
捜査のために出所を許され、ディーゼル扮するドミニクと共
に潜入捜査に赴くということだが…これでは第2作とほとん
ど同じになってしまうもので、僕自身は多少疑問に感じてい
る。具体的な製作時期などは未発表だが、過去のシリーズの
配給はユニヴァーサルが担当している。
        *         *
 続けてジョン・シングルトン監督の情報で、“Executive
Order: Six”と題されたスリラーの計画が発表されている。
 この作品は、雪に埋もれた小さな町を舞台に、飛行機の墜
落事故から出現した謎の存在が町を脅かす恐怖を描くという
もの。スティーヴン・キング辺りが書きそうな物語だが、脚
本は、1997年『イベント・ホライゾン』などのフィリップ・
アイスナーが手掛けており、ちょっとSFタッチの作品のよ
うだ。
 正直に言って『ワイルド・スピード2』でのシングルトン
の演出は、アクションとしてはあまり切れが良いとは感じら
れなかった印象がある。でもまあSFホラーはアクションで
はないし…。監督はジャンルムーヴィもあまり手掛けたこと
はないはずだが、ここでどんな手腕を発揮するか楽しみだ。
 因に、シングルトン監督の最近作は“Four Brothers”と
いうものだが、実はその後に準備していたハリー・ベリー、
ビリー・ボブ・ソーントン共演の“Tulia”という1999年の
テキサスでの麻薬事件を扱った実話に基づく作品が、ベリー
の妊娠判明で急遽延期になっており、本作はその代りとして
急浮上した。製作は、リレイティヴィティ。撮影は2008年の
早期を目指すとされており、キャスティングなどはすでに進
行しているようだ。
        *         *
 『スウィニー・トッド』の公開が迫ってきたティム・バー
トン監督が、2008年は古巣のディズニーで2本の3D映画を
監督すると発表された。
 その1本目は、ルイス・キャロルの原作による“Alice in
Wonderland”。ディズニーでは1951年にアニメーションで映
像化された作品を、今回は『ライオンキング』などのリンダ
・ウルバートンの脚本により、『ベオウルフ』でも採用され
たパフォーマンス・キャプチャーの技術を使って再映画化し
ようというものだ。
 因にディズニーの製作担当者は、製作者のジョー・ロスが
提示した脚本を見るなり、「このヴィジョンを映像化できる
のはティムしかいない」と判断したそうで、そのヴィジョン
がどんなものであるかは定かでないが、面白いことにはなり
そうだ。撮影は2月に開始され、5月中の完了を目指すとし
ている。
 そしてもう1本は“Frankenweenie”。1984年にバートン
が監督した短編作品(昨年3D化された)を長編化するもの
で、この作品はオリジナルと同様ストップモーションで撮影
されるが、今回は最初から3Dでの撮影が行われるというこ
とだ。製作は『アリス』に続けて行われる。
 ディズニーの3Dでは、『チキンリトル』と『ルイスと未
来泥棒』、それに『ナイトメア・ビフォー・クリスマス』が
すでに発表されているが、今回の計画を合せて、3Dで一気
に攻勢を掛ける考えのようだ。
 なお、日本ではなかなか進まないと心配していた3D上映
だったが、12月1日の『ベオウルフ』の公開では、ワーナー
マイカル系の全国20館で3D上映が実施されている。
 所在地は、北海道江別、宮城県名取エアリ、茨城県守谷、
埼玉県羽生、浦和美園、東京都板橋、武蔵野ミュー、多摩セ
ンター、神奈川県新百合ヶ丘、みなとみらい、港北NT、新
潟県新潟南、石川県御経塚、岐阜県各務原、大阪府茨城、り
んくう泉南、福岡県福岡ルクル、熊本県熊本クレア。この内
の多摩センターと港北NTは以前から3Dが設置されていた
ものだが、それに一気に18館が加わることになった。
 この外、舞浜イクスピアリと大阪のIMAXでも3D上映は可
能で、都合、日本全国で最大22館の3D公開が可能になって
いる。Real-Dでの3D上映は、入場料が割増し設定になっり
もしているようだが、その効果は本当に素晴らしいものなの
で、一度は体験してほしいと思うものだ。
        *         *
 『トランスフォーマー』のヒットを受けて、またまた玩具
からの映画化がパラマウントで進められている。
 進められているのは“G.I.Joe”。女の子のバービー人形
に対抗して、男の子向けにハスボロ社から発売された軍人仕
様の人形で、そのコンセプトストーリーは、コミックブック
やテレビアニメシリーズなどへも展開されているものだ。
 その実写映画化が、『トランスフォーマー』も手掛けた製
作者のロレンツォ・ディ=ボナヴェンチュラによって進めら
れ、監督には、『ハムナプトラ』シリーズなどのスティーヴ
ン・ソマーズの起用も決まっている。そしてその出演者に、
同じ製作者の『スターダスト』にも出ていたシエナ・ミラー
の名前が発表された。
 主人公は男性だと思われる作品に、女優が先に決まるのも
変な感じだが、彼女が演じるのは、黒髪の男爵未亡人で、ス
パイ活動を行っている悪女のような女性主人公と説明されて
いる。因に、GIJOEは、Global Integrated Joint Operating
Entityの略称という設定もあるようで、国際協力の許に設立
された軍事力を行使する機関とされているものだ。そして敵
役には、スコットランド人の武器商人が率いるハイテクを駆
使した悪の組織の存在が描かれるとのことだ。
 ミラー以外の出演者は未発表だが、撮影は2月中旬に開始
され、公開日は2009年8月7日と発表されている。
        *         *
 最後に訂正を一つ。前回“Star Trek XI”の情報の中で、
ウィノナ・ライダーがヴァルカン人の母親を演じるとしたの
はやはり誤報だった。彼女が演じるのは地球人女性のアマン
ダ・グレイスン。彼女は、ヴァルカン人のセレックと結婚し
てスポックが誕生するものだ。なおセレック役は、『炎のラ
ンナー』などのベン・クロスが演じている。


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井口健二