井口健二のOn the Production
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2007年11月20日(火) ディセンバー・ボーイズ、ビー・ムービー、潜水服は蝶の夢を見る、魁!!男塾、スリザー、ベオウルフ、ブラザー・サンタ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ディセンバー・ボーイズ』“December Boys”
『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフが出演するオ
ーストラリア映画。
1921年生れ2000年没のニュージーランド/オーストラリアの
作家マイクル・ヌーナンが、1963年に発表した原作に基づく
少年ドラマ。
孤児院で育った4人の少年たち。彼らは12月生れであること
からディセンバー・ボーイズと呼ばれていた。そんな少年た
ちが、ある年の夏休み(オーストラリアの話なので、クリス
マスや新年が含まれる)を、とある入り江に面した村で過ご
すことになる。
少年たちにとっては、生れて初めて孤児院を出ての生活。そ
こで4人は、スキッパーと呼ばれる妻とその乗組員と自称す
る夫の夫妻の家で寝起きすることになる。その村には、他に
「豪胆」と呼ばれるバイク乗りや漁師がいて、また入り江に
はヘンリーと呼ばれる幻の巨大魚が棲んでいた。
そしてそこには、養子になれるかも知れないという少年たち
の夢や、初恋や、いろいろな出来事が待ち構えている。その
夏休みが終ったとき、少年たちは一歩、大人への道を踏み出
して行くことになる。
原作では少年たちは同年代の設定のようだが、映画化ではラ
ドクリフが演じるマップスだけが少し年上の設定になってい
る。その設定の変更によって、マップスには少女との出会い
が描かれるし、他の少年たちには子供染みた争いも描かれて
おり、それなりにうまい展開にもなっているものだ。
しかし1人だけ年上というのも奇異には感じられるもので、
その辺を納得するまでには少し時間が掛かった。でもまあ、
こういう設定だからこそ成立する部分も多々ある物語になっ
ているので、これはこれでよしということだろう。
撮影はサウスオーストラリアのカンガルー島というところで
行われているが、奇岩が並ぶ山や、入り江の風景などは不思
議な雰囲気もつくりだして、それも魅力的なものだった。
ラドクリフ以外の出演者では、孤児仲間のスパークの役を、
2005年10月に紹介した『ポビーとディンガン』のクリスチャ
ン・バイアーズが演じている。また、マップスが出会う少女
役を、昨年の東京国際映画祭のコンペティションに出品され
た『2:37』(公開題名:明日、君がいない)に出演のテ
リーサ・パーマーが演じていた。

『ビー・ムービー』“Bee Movie”
TVシリーズの『となりのサインフェルド』が大人気を呼ん
だコメディアン=ジェリー・サインフェルドの製作、脚本、
さらに主人公の声優も務めたドリームワークス・アニメーシ
ョン作品。
元々はサインフェルドとスティーヴン・スピルバーグが会食
したときに、サインフェルドが即興でハチの話を思いつき、
それに低予算映画を指すBムーヴィと、ハチのBeeを引っ掛
けた“Bee Movie”という題名だけ決まって誕生した企画と
されている。
何といい加減なと思われそうだが、それから4年以上の製作
期間を掛けてじっくりと作り上げたという辺りがハリウッド
映画というところだろう。
映画の情報を扱っていると、ストーリーを事前に知ってしま
うことが多くなる。と言っても結末などのネタばれは意外と
されないもので、本作の場合は、ミツバチの主人公が人間の
女性と交流し、楽しいときを過ごしていたが、ある日、量販
されているハチミツを発見してしまう…という程度の情報だ
った。
つまり、ミツバチがせっせと集めたハチミツが人間に搾取し
ているされているという現実を、ミツバチの立場から描くと
いうものだ。なるほどこれは、ミツバチの立場からすれば一
大事だろうと思わせたものだが…
さらにそこからの展開は、見事に練られたと言えるものにな
っていた。しかも、かなり現実的な結論を、無理の無い展開
で提示しているもので、さすがにテレビシリーズの人気も伊
達ではないという感じのものだ。
描かれるミツハチの姿は4本脚だったり、家族があったり、
雄バチがミツを集めていたりと問題はいろいろあるが、その
一方でミツバチは針で刺すと死んでしまうとか、女王蜂の存
在が飛んでもないところで明らかにされるなど、上手い展開
にもなっていた。
サインフェルド以外の声の出演は、人間の女性役でレネー・
ゼルウィガー、ハチの親友役でマシュー・ブロデリック。他
に、ジョン・グッドマン、クリス・ロック。また、俳優のレ
イ・リオッタやロック歌手のスティングの登場も笑わせる。
なお、エンディングクレジットに流されるサインフェルドと
ブロデリックの掛け合いの歌も聞き物だ。

『潜水服は蝶の夢を見る』
           “Le Scaphandre et le Papillon”
ファッション雑誌ELLEの編集長だったジャン=ドミニク
・ボビーは、ある日突然脳梗塞で倒れ、ロックト・イン・シ
ンドロームと呼ばれる症状に陥る。身体全身の運動機能が麻
痺し、動かせるのはわずかに右目の目蓋だけ。
そんな絶望的な状況の中で、ボビーは、動かせる目蓋だけで
自伝を上梓する。それは使用頻度順に並べ替えたアルファベ
ットを読み上げてもらい、必要な文字になったら目蓋を1回
閉じてそれを報らせ、その繰り返しで文章を綴るという、途
方もない作業で生み出されたものだった。
この背景となった物語は事前に知っていたが、こんな途方も
ない話の重みを如何に観客に伝えるかは、まったく想像でき
なかった。
映画は発表された自伝を原作としている。しかし、映画に描
かれているのはその自伝だけではないのだろう。僕は原作を
読んでいないので正確ではないが、原作に書かれたとは思え
ない本人の焦燥や、絶望や、そこから見いだされた希望など
が映画には見事に描かれている。
実際、映画ではボビーの置かれた状況が観客にも手に取るよ
うに感じられ、自分だったら絶対に耐えられないという感覚
にも襲われた。僕が強いて比較できるのは、睡眠中の金縛り
だが、若い頃に何度か経験したその恐怖もまざまざと蘇って
きたものだ。
同じような状況の物語では、ダルトン・トランボの“Johnny
Got His Gun”が思い出される。反戦が主テーマの1971年の
映画とは内容も全く異なるが、同作を生涯ベスト1の作品と
している自分としては、それに繋がる作品としても評価する
ところだ。
監督は、『バスキア』『夜になるまえに』のジュリアン・シ
ュナーベル。元々が画家であり芸術家の監督らしい、見事な
映像にも彩られている。
なお、本作はジョニー・デップが主演を切望したものだった
が、スケジュールの都合でそれは叶わなかった。しかし本作
の中で、ボビーがマックス・フォン・シドー扮する父親の髭
を剃るシーンが有り、『スウィニー・トッド』と同時期に公
開されたら面白かったとは思えたものだ。
因に本作のボビーは、『ミュンヘン』などのマチュー・アマ
ルリックが演じている。
実際のボビーは、タバコも喫わず、酒もあまり飲まなかった
そうだ。それでもこの状態になった。最近血圧が高めの自分
としては、その病気のことも気になる作品だった。

『魁!!男塾』
週刊少年ジャンプで1985−91年に連載された宮下あきら原作
コミックスの映画化。
2001年に北村龍平監督による自主製作映画『VERSUS』
の主演で衝撃的に登場したアクション俳優=坂口拓が脚本、
監督、主演を務めた作品。
真の男子育成のため設立された全寮制の私塾「男塾」。そこ
では過酷を超えた鍛練によって男に磨きをかける。そんな場
所に、母親の命令で否応なしに入寮させられた軟弱な主人公
が、仲間たちの応援の許、成長して行く姿が描かれる。
しかも、そこに関東豪学連と称する対立組織が登場し、主人
公たちは塾の存亡を賭けた闘いにも巻き込まれる。
この軟弱な主人公というか狂言回しの役を尾上寛之。また、
豪学連と闘う3戦士を坂口と照英、それに山田親太郎が演じ
る。他に麿赤兒、中島知子らが共演。さらにナレーションを
千葉繁が担当し、挿入歌をつじあやの(画面にも登場)が歌
っている。
原作のコミックスは読んでいないが、映画は見事にコミック
ス的な破天荒さを再現している。それはアクションだけでな
く、端々の演出にもよく目配りが行き届いたもので、それぞ
れが良い雰囲気を創り出していることは認められるものだ。
特に、千葉のナレーションの活かし方は、これが定番のもの
なのかも知れないが、上手く雰囲気に填っていた。
それに坂口のアクションは、少林寺拳法やボクシングなどを
基礎から学んでいるとのことで、敵役で登場する『VERS
US』以来のコンビの榊英男との対決は見応えがあった。
また、それ以前の乱闘シーンでもコマ落としなどの小細工を
せず真っ正面で描いていることは、CGIアクション全盛の
時代に特筆しておけるものだ。
その一方で、麿赤兒の登場シーンなどには大袈裟なCGIが
使われていることも、適材適所の効果が良く計算されている
ものだ。日本映画ではこの計算がなかなか上手く行っていな
いことが多いが、その計算が出来る人たちが増えてきている
ことは頼もしい。
坂口の作品にはこれからも注目して行きたいところだ。

『スリザー』“Slither”
2002年に大ヒットを記録した『スクービー・ドゥー』などの
脚本家ジェームズ・ガンが、自らの脚本により監督デビュー
を飾った作品で、宇宙から飛来した謎の生物に襲われた町の
恐怖を描いたホラーコメディ。
その生物は隕石に乗って飛来し、細い針のような形で被害者
の胸から侵入、脳に至ってその人物を支配する。そして次ぎ
なる形態では繁殖のための宿主を捕え、そこで繁殖した膨大
な数の個体が人々に襲いかかる。そして襲われた人々は、ゾ
ンビのごとく動き始める。
この人々を襲うまでの手順が実に論理的で、この辺がこの脚
本家の本領でもあるのだろうが、実に納得して観ることがで
きた。しかも、その間に侵入した生物が宿主の記憶を利用す
る辺りの展開も上手く描かれていて、それなりに笑えるもの
になっていた。
また、襲ってくる生物などの造型もグロテスクではあるがユ
ーモラスで、全体的にホラーコメディとしては高水準の部類
に入れられそうだ。その他、CGIの使い方などもそれなり
にスマートに行われていた。
出演は、2002年放送のSFテレビシリーズ“Firefly”が話
題を呼んだネイサン・フィリオンと、『スパイダーマン』の
シリーズ3作にベティ・ブラント役でレギュラー出演してい
るエリザベス・バンクス。特にバンクスは、人気シリーズで
の役柄とは違った清楚な感じが好ましかった。
他に悪役専門のマイクル・ルーカー、グレッグ・ヘンリー。
さらに『ウィカーマン』に出演のタニア・ソルニアらが共演
している。
なお、ガンは、2004年のリメイク版『ドーン・オブ・ザ・デ
ッド』の脚本でも知られるが、同作の猛スピードで走り回る
ゾンビに呆れたことを考えると、本作でのゆらゆら動く襲わ
れた人々の姿には、反省してくれたのかなとも思ってしまう
ところだ。
それからこの監督の名前からは、1970年に放送された“The
Immortal”(不老不死の男)の原作者としても知られる同じ
名前のアメリカのSF作家が思い浮かぶが、調べた範囲では
係累ではないようだった。

『ベオウルフ』“Beowulf”
紀元6世紀に成立したとされる英国最古の英雄叙事詩に基づ
く映画化。
北欧デンマークを舞台に、怪物の襲撃に手を焼く小国に現れ
た英雄ベオウルフが、その怪物を倒して王位を引き継ぐが…
という物語。
本作を監督したロバート・ゼメキスは、中学の頃にベオウル
フ叙事詩についての宿題が出されて苦労した経験があるそう
だ。それはゼメキスの言に拠れば、古代英語で読み難いし、
内容も支離滅裂で、読んでも全く面白いとは思えなかった…
とある。
実際、オリジナルの叙事詩は6世紀ごろにイギリスに伝わっ
たとされるものだが、最終的に纏められたのは10世紀ごろの
ことで、その間にいろいろな改訂が加えられ、特にキリスト
教的な考えから、その教義に合わない部分が削除されたとい
う説もあるようだ。
このため現在に伝わる叙事詩では、事件の発端や背景もはっ
きりしていないし、話が突然半世紀も飛んでいたり、物語全
体の辻褄も合っていないとのことだ。
その叙事詩に対して、今回の脚色を行ったニール・ケイマン
(映画『スターダスト』の原作者)と、ロジャー・エイバリ
ー(映画版『サイレント・ヒル』の脚本家)の2人は、まず
事件の発端から説き起こし、50年以上に渡る主人公の葛藤を
見事に描き出した。
それは、怪物の母である妖艶な女性を巡る壮大な呪いの物語
として再構築され、さらに先王とベオウルフ、先王の王妃ら
を巡る見事な人間ドラマとしても描かれている。
従って、本来の『ベオウルフ』の物語とはちょっと話が違う
という意見もあるようだが、脚本家たちは、この解釈が学術
的に論議されることも期待しているようだ。
なお、今回の映画化は、ゼメキス監督の『ポーラー・エクス
プレス』と同じくパフォーマンス・キャプチャーで製作され
たもので、それぞれのキャラクターは全て俳優自身の演技を
反映して描かれている。
つまり、ベオウルフ役のレイ・ウインストン、先王役のアン
ソニー・ホプキンス、王妃役のロビン・ライト・ペン、怪物
役のクリスピン・グローヴァ、母親役のアンジェリーナ・ジ
ョリー。さらにアリソン・ローマン、ジョン・マルコヴィッ
チらは、声優だけでなく、自らの演技でキャラクターを演じ
ているものだ。
そしてその演技に、さらにCGIによるアクションが加えら
れて、怪物との壮絶な闘いやドラゴンの飛行シーンなどが描
かれた。
また、今回の製作は3D上映も念頭に行われたもので、実は
試写会は2D上映だったが、随所に3D効果を狙っていると
思われるシーンもあって、3D上映が行われたら再度鑑賞し
たいと思わせた。
その3D上映は、日本ではなかなか進んでいなかったものだ
が、実は本作の公開に合わせてワーナーマイカルが全国20館
の3D化を発表している。本作は、全米では700館を超える
3D上映が実現したそうだが、ようやく日本も少し気運が盛
り上がってきたようだ。

『ブラザー・サンタ』“Fred Claus”
アメリカでは毎年、各社持ち回りのように1本は公開される
クリスマス・ムーヴィ。日本ではなかなか公開の機会はなか
ったが、去年ディズニーの『サンタクローズ3』に続いて、
今年はワーナーからこの作品が公開される。
本作の主人公は、サンタの兄のフレッド・クローズ。サンタ
(ニコラス)に兄弟がいて、それがいろいろ悪さをするとい
う話は過去にもいろいろあったようだが、今回の設定は、実
はその兄も本当は聖人になって良いくらいの善人だったが、
弟の度を超えた博愛主義の前に影が薄かったというものだ。
そしてその確執から、フレッドは両親とニコラスの住む北極
には足を踏み入れず、一人で都会暮らしをしていたが…。因
に、ニコラスがサンタ・クロースとして聖人に列せられたた
め、その家族の彼も不老不死の恩恵に預かっている。
一方、神様の世界も効率化が要求され、この年の北極にはお
もちゃ工場の実態を調査するとして調査員が来ていた。その
調査員は、問題点が3つ見つかったら工場は閉鎖すると告げ
て調査を開始する。
そんな北極に、いろいろな事情から初めてフレッドがやって
来ることになる。その再会を喜びたいニコラスだったが、フ
レッドの引き起こしたトラブルのお陰で、工場は瞬く間に問
題点2つを発生してしまう。そして…
このフレッド役と共同脚本を、2005年“Wedding Crashers”
が全米興行で2億ドル突破の大ヒットを記録したヴィンス・
ヴォーン。ニコラス役を『シンデレラマン』などのポール・
ジアマッティ。フレッドの行為に振り回されるニコラスの役
柄はぴったりだ。
また調査員役のケヴィン・スペイシー。兄弟の母親役でキャ
シー・ベイツ。フレッドの恋人役でレイチェル・ワイズと、
オスカー受賞者が3人も揃う。特にスペイシーの顛末は傑作
だった。
この他、サンタの妻には2度のオスカー候補者で『ハリー・
ポッター』シリーズにも出演のミランダ・リチャードソン。
さらに『スパイダーマン』シリーズのエリザベス・バンクス
などが脇を固める。他にもちょっと驚きのカメオ出演も笑え
た。
そしてサンタのおもちゃ工場と言えば従業員は小人のエルフ
だが、その役はロシアのサーカス団などから本物の小人の俳
優が集められ、さらにその顔だけがVFXで俳優にすげ替え
られているそうだ。その技術も見事だった。


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井口健二