せきねしんいちの観劇&稽古日記
Diary INDEXpastwill


2005年11月19日(土) ボタタナエラー「バーハイレ」

 森川佳紀さんの出演する舞台を見に、目白と椎名町と下落合の中間のとっても不便なところにあるシアター風姿花伝へ。椎名町の駅から歩いてたどり着いた、初めての劇場は、とってもきれいな空間でほっとする。
 レゲエバーを舞台にした、そこに集まる人たちのお話。というか、お話のようなものがドカンとあるわけでなく、人々のその時々の姿が断片的に描かれる群像劇。
 行き当たりばったりのようで、じつは緻密に作られている台本が、僕はとても好きだ。俳優さんたちも、その場でだらだらとおしゃべりしているようすに嘘がなくて、好感をもった。男優陣が、二枚目というのではないけど(ごめん)それぞれみんな「いい男」だったのもうれしい。
 一番驚いたのは、劇中ずっと流れるBGM。バーだから音楽が流れるのは当たり前なのだけれど、ずっと流しっぱなしの音楽というのは、芝居としてどうなんだろうと、初めはちょっと心配した。
 でも、芝居が進むにつれ、音楽は全然気にならなくなった。不思議な経験。劇中では軍歌も流れるのだけれど、そのときの音楽の聞き方と、ただ流れているBGMのスカやレゲエとの違いを、耳が聞き分けているかんじがおもしろい。これもある種の観客参加といえるかもしれない。
 右翼の人たちがいっぱい出てくるわりには、右翼の話では全然ない(あ、全然でもないか)。右翼をしながらラーメン屋をやってたり、元組長の娘がとっても普通のおっとりしたお嬢さんだったり、はしばしで人間がとてもちゃんと描かれている。派遣OLのおしゃべりもなかなかに生々しい。
 人間が書けていて、その人がちゃんとそこにいれば、ストーリーの引っ張る力は、別に必要ないんだなと思った。観客は、お話を見たいんじゃなくて、生きた人間を舞台に見たいんだなと思った。
 二人きりの場面で語られる、いくつかの恋のありようが、それぞれとてもよかった。右翼の塾長とお嬢さんのあわい恋のやりとり、気の弱い弁護士と派遣OLの恋の始まり、そしてトラブルに巻き込まれる跡取りでない、社長の次男とその妻の倦怠と連帯、バーの店長と帰ってきた昔の男との気持ちのすれちがい。
 終演後、森川くんとごあいさつ。帰りは、一緒になったマミー、ヤマガタくんと、目白駅まで歩く。いい芝居を見た後は、全然平気なJR目白までの徒歩十数分。でも、ツライ芝居を見た後は、わりと近くの椎名町の駅にさっさ向かってしまいそうな、そんなシビアな劇場だなと思った。


せきねしんいち |MAILHomePage

My追加