Day Dream Believer
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2002年04月26日(金) 優しさと残酷さの境界






 LA滞在からすでに1ヶ月以上が経過していた。

 あの夢の製造工場であるハリウッドにほど近いヒルトンでの1週間の日々。
 そっと研修会場を抜け出して異国の街を二人で歩いた。
 カリフォルニアの明るい空の下で知らない国の料理を二人で食べた。

 多くの人種が集まるあの国で私達も異邦人なのだと言うことを痛感した。
 ネィティブな発音で会話ができる彼がとても頼もしく見えた。
 
 多種多様な国籍の人々の中で
 二人は日本人には見えなかったかもしれない。
 彼のその日本人離れした長身の端正な横顔を見上げ
 そして時々コーリアに間違えられる自分を確認して
 なんだか無性に楽しい気分だった事を想いだした。




 この晩・・・
 あの異国の日々で毎晩同じベッドで寝たにも関わらず
 私達はまるで初めての夜みたいな気がして
 どこから始めたのかもさえわからないほど夢中で抱き合っていた。

 
 もちろん別々にシャワーを浴びて
 kazeの待つベッドに滑り込む。

 とても懐かしい感じがした。

 そう思った瞬間彼も同じ事を言った。

 「ああ懐かしいsoraさんの匂いがする。LAを思い出すような。
  あの時と同じ匂いだ。」

 自社フレグランスはいつもつけているから
 この香りが彼の嗅覚による記憶を蘇らせたのだろうか。


 それから私達は無我夢中でお互いに抱きしめ合った。

 私はこの夜が最後だと思って切なくて悲しかった。

 彼はこの夜が私達の始まりだと思いこんでいた。



 私の唇や頬や首筋を辿って
 それから乳房や固く突起した乳首を愛撫して
 それからいつの間にkazeは私の視界から消えた。

 私はkazeに思い切り両足を開かされて
 彼の吐息をその間に感じた。
 暖かい湿った柔らかい彼の舌だと認識したそれが
 私の敏感で充血してふくらんだ蕾に触れた。

 次の瞬間、強い快感が背中を通って全身に走る。
 
 初めて私のそこに触れた彼の唇や舌は
 溢れてぐちゃぐちゃに体液を分泌している
 私の一番敏感なその部分のすべてを
 びちゃびちゃと音をたててなめ回し強く吸い上げ
 そしてそれはその中心の中にまた差し込まれ



 私は永遠に男の唇や舌で犯され続けた。
 まだペニスをつっこんでくれた方が良いとさえその時に思った。

 あんなに執拗にオーラルで責められた経験がなかった。
 彼は飽くことなくたぶん1時間近くも私に悲鳴を上げさせた。




 真っ暗な空間の中で
 激しい愛撫を受けてエクスタシーを何度も迎えたはずなのに
 私はまるでその時孤独だった。

 私が欲しかったのは性器への快楽でなく
 男の肌の温もりだった。

 ペニスを挿入してくれてぎゅっと折れそうなくらい抱きしめて
 その方がよっぽどいいと思った。

 
 悲しかった。
 強いエクスタシーで何度も果てながら
 私は悲しくて仕方がなかった。




 「ここはどこ?あなたはどこにいるの?」





 薄れゆく意識の中で自分の声が遠くに聞こえた。
 誰を呼んだのかも自分自身でわからなかった。


 kazeでもない。Tでもない。ましてや別れた夫でもない。





 「ここだよ。ここにいるよ。」

 



 遠くの方から優しい声が聞こえた。
 
 暖かい大きなものが私の小さな全身を包んだ。
 私を抱きしめているのはkazeだった。kazeの声だった。


 力強く抱きしめて、それから顔中にキスをしてkazeは耳元で囁いた。





 「ずっとそばにいるよ。」






 それから私の中に彼は入ってきた。

 それはとても心地よく、
 私はこの夜の中で一番強くエクスタシーを感じて果てた。













 そんな時間はあっという間に過ぎて
 私はとたんに激しく後悔した。

 今夜が最後のつもりであって
 いつもクールに装っていた二人が
 あんな愛し合う恋人同士みたいに抱き合ってしまって
 本当に深みにはまっていったらお互いに身の破滅。









 彼の車を降りる時に私は心にもない事を言った。

 「今夜は楽しかった。ありがとう。
  また明日からは元通りのビジネスパートナーに戻ろうね。」

 努めて冷静に優しく言ったつもりだったのに
 彼から反ってきた言葉が私の胸を突き刺した。





 「わかりました。
  明日からはセックスもできるビジネスパートナーになりましょう。」







 ほんの数時間前のあの言葉。
 私を優しく包み込んでくれた男の言葉。

 「ここにいるよ。ずっとそばにいるよ。」




 まるで同じ男の口から発したとは思えないほどの
 冷淡で乾いた優しさの微塵もない残酷さ。


 こんな思いやりのない言葉は彼の本心ではないはずだったのに
 たぶん一生懸命この夜の準備をしてくれて
 たぶん私ともっと距離を縮めたかったのだろうと思ったけれど
 自分の気持ちが私には届かなかった事と
 (十分に届いていたのだけれど)
 甘い時間の最後の別れのシーンで
 私が放った言葉に苛立ったのだ。


 この日から、彼は私に対して優しさを忘れた。

 この日から、私は肉体を開いても彼に心を開けない女になった。





 
 


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