Day Dream Believer
過去の日々|過去の昨日|過去の明日
「あのね、明日時間が空いたの。」
「じゃあお祝いさせてもらえますか?」
「ええ、ありがとう。」
kazeはとても嬉しそうなとろけそうな笑顔で言った。
「明日の夕方6時半にオフィスの駐車場で待っています。」 「うんとお洒落してしてくるね。」
「楽しみにしています。」
Tとの過去が完全に終わったのは もしかしたらkazeの存在のせいなのかもしれない。
この時に私はすでに恋に落ちていたのだろうか。 出張遠征のあの晩の彼の悲しそうな横顔の為に。
いや、もしかしたら桜の花咲く頃のあの異国の地で 私は彼に抱きしめられた5分間の空白から 彼から離れられなくなっていたのかもしれない。
kazeが用意していてくれた私への誕生日の贈り物は 人工池そばの瀟洒なフレンチレストランでの美味しいディナーと 大きな花束とそれに英会話のCD付きテキストだった。 ディナーの後は彼が昔から行きつけだったカクテルバー。
カウンターのみの粋なマスターがいる静かな店だった。 彼はフォアロゼスのロックを注文し 私には何か口当たりの良いものをとマスターに目配せ。
ハンサムな年下の男にちやほやされるのも悪くない。 男がこれからどんな風にして私を口説いてくるのかも大人の非日常。 私はゲームをしているような感覚で楽しんでいた。
「今宵の甘いアバンチュールのために・・・」
マスターが私の前に静かに置いた背の高いグラスには 薄桃色の液体が仄暗くロマンティックな照明を映して 口をつけるとほんのり甘くとても美味しい。
「ねえ、あのマスターには私のことをなんて話してあるの?」 絵に描いたようなシチュエーション。 完璧なバースディの夜。
この男、女が何に喜んで何に弱いかちゃんと知っている。 やっぱり女慣れしている感じだな。 なんだか可笑しくなってkazeの横顔をまじまじと見た。
「僕の大切なお客様をお連れするからよろしく、とだけ。」
「そうなんだ。まるで私達がこれから情事の楽しみに向かっていて あなたがこの店で私を口説くんじゃないかと思われている感じね。」 と、笑った。
「口説かれてみたいの?」
と、kazeはニコリともせずに真剣な顔で言った。
私はそれには答えずに 今まで彼に見せたことのないよう柔らかな笑顔で 彼に向かって微笑んでしまったような気がして 慌てて化粧室に行こうとスツールから立ち上がった拍子に その情事のために存在するようなカクテルのグラスを倒してしまい kazeのパンツを濡らしてしまった。
「もう行こうか。」「ええ。」
店のドアを開けると花冷えの空気が心地良い。
「今夜はまだ時間あるのかな。」
「ええ、まだだいじょうぶよ。」
しばらく(いや数秒間だったかもしれない)経ってから kazeはいつもの丁寧な言葉に戻って でも私の目を見ずにこう呟いた。
「じゃあ今夜は眠らせませんので覚悟していて下さい。」
私は思わず笑って答えた。「ええ、喜んで。」
愛のないセックスは出来ない主義だから 今夜はあなたとの時間を共有するということは 私はあなたに対して愛を感じているからなのよ。
本当はこう伝えたかっただけなのだ。
もうこれで最後だから。もう一度彼に抱かれたい。 いくら心惹かれても私達はこういう関係になってはいけない運命。 だから神様、今夜だけ許して。
なんてこんな私の心の中の葛藤を たぶんkazeは知る由もない。
優しく激しく幸せな時を過ごして 彼からの愛のメッセージを受け取ったはずなのに・・・
最後に別れるときの私の一言で 私とkazeの関係は完全に歪んでしまった。
この続きはまた3年前の明日にでも。
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