過去の日々｜過去の昨日｜過去の明日
| 2002年04月20日(土) | エピソード�靴泙任侶舒� |
私とkazeがそんな風な関係になったにはそれなりの経緯がある。
ボスもバケーションから帰ってきて
でもその間の１０日間は何事もなく過ぎていた。
その間に一度、高速を飛ばしても４時間もかかる場所への出張の日。
早朝からの会議のために真夜中に出発しなくてはならなかった。
私はkazeに車の運転を頼んだ。彼が断るはずもない。
真夜中の高速を飛ばしながら
私は遠くの夜景ばかり見ていた。
「soraさん。」この時はまだ私を敬称で呼んでいた。
「なあに？」
「居眠り運転防止の為に、あなたの専属ドライバーの為に
眠気も吹き飛んでしまうような話しをして下さい。」
「なにが良い？」
「うーん。例えば過去の恋話とかどうですか？」
「私はもう女を捨てているのよ。女の身体はしていてもたぶん中身は男だわ。」
「なにかひとつくらいあるでしょう？」
「男はすべてビジネスの対象。恋話なんてないわよ。」
私はちらとＴの事を想いだしたけど
努めて冷静な声を出して呟いた。
「じゃあ、soraさんは、愛がなくてもセックス出来るんですか？」
クールな声色でkazeが訊いた。
「ねえ、そういう話題って私は苦手なの。もっと他の話しをしましょう。」
「僕との事はまったく忘れてしまったんですね。」
あの異国での１週間の事は忘れた訳じゃない。
ビジネスに支障をきたすから私は心の奥に封じ込めているだけだ。
事実、昼近くにオフィスに近づくにつれて
私はkazeがいたら良いのに、とか
でもいたらどうしょう、とか
そんな事ばかり考えながら
でも、オフィスのそばの曲がり角を右折して
彼の黒いステーションワゴンの鼻先が見えると鼓動が高鳴った。
車を降りてオフィスのドアを開くまでの５分間で
私は体勢を整えて、彼がデスクから振り返る瞬間には
また元の自分に一生懸命に戻る、というサイクルを
毎日永遠と繰り返していたのだから。
「私は愛のないセックスは出来ない主義なの。」
自分の意志とは反した言葉が口をついた。
愛のないセックスができないのだから
あなたには愛を感じているのよ。
精一杯の本心だった。この時kazeには私の想いは通じなかった。
「だからもう僕とはそういう関係になれないって事ですか。」
これ以上本心をさらけ出す気にはなれずに私はそれには答えなかった。
そうとってくれるのなら今後の私達の関係がスムーズにいくのなら
それでも良いと思った。
「あなたは私の大切なビジネスパートナー。それで十分でしょう？」
kazeが私に対して好意以上の感情を抱いているとは思えない。
明晰な頭脳と端正な容姿を持ったこの男が
たぶん女には不自由しないであろうこの男が
あの異国の地で私を抱いたことは「愛情」からではないことは
既に大人の分別で経験的に知っていた。
私は私だけを愛しいと想って抱いてくれる男が
その時には必要だったのだ。
求めても手に入らないものがこの世にあることを知って
私はこの時既に失望していた。
だから
簡単にセックスできる相手が欲しいのなら
あなたは見当違いをしてるのよ。
悪いけど私はそんなお手軽な女じゃないわ。
真夜中の高速を１８０キロで飛ばしながら
私の為に不眠不休でハンドルを握るkazeに対して
こんな事を言ってしまった自分に酔いしれていた。
「それともkazeは私の玩具（オモチャ）にでもなりたいの？」
「良いでしょう。その代わり一生あなたに付きまといますよ。」
一言一言が夢の中の会話のようで
私はだんだん現実味がなくなってきて
あの遠く冷たく瞬いている街の灯りのようだと思った。
日が昇ればそれらは一瞬にして消え去ってしまう幻なのだから。
そうＴとの事もすべては幻だったのだ。
４ヶ月も会わない時間はすべて幻なのか現実なのか
この週末にすべて理解してしまった。
Ｔは永遠に私の前から去っていき
現実のビジネスパートナーであるはずの
kazeとの時間が始まった事を知った。
