書庫目録

2004年01月07日(水) 屍鬼 4

新潮文庫
小野不由美 著

理由のない殺人は事故であって殺人ではない
殺意のない殺人はない
理由のない殺意はない

秩序に許容されたいと望みながら
許容することのない秩序を憎む。
己を許容することのない秩序を憎みながら
許容されたいと熱望し、その秩序を愛する。
相反する感情は、得てして共存している。

どうせ誰かに殺されるくらいなら自分が殺した方がいいと思ったんだ。

そうしなければ生きられない自分を憎みながら
だが、自分を殺すほど憎んではいない。

どうしてこうなったんだ。






以下ちょろっと屍鬼SSなど。激しくネタバレなので反転シクヨロ〜。
これから読もうという人は絶対に読んじゃダメです。
面白さ半減というか、ほとんどゼロになっちまいますので。



 去っていく屍鬼――あれは武藤徹だった――の背中を送りながら、静信は彼の言葉を何度も反芻していた。まだ新しい板卒塔婆とそこに手向けられた花。板卒塔婆には紛れもない静信自身の字ではっきりと『結城夏野』と書いてあった。
(起き上がらないかと思って)
(夏野を殺したことが帳消しになるんじゃないかと)
(弟が増えたみたいに思っていた)
(夏野が可愛かったんだ)
(他の誰かに殺されるくらいなら自分が)
 敏夫が言うように、屍鬼――つまり起き上がりだ――の心臓は動いていない。だが脳波があるのだという。ということは、つまり屍鬼は、状況を知覚し考えることができるということではないのか。それは生きているということになりはしないのか。それを狩るというのは生きているものを殺すということになりはしないのか。静信は敏夫にそう言った。
 そして、実際物事を考えて行動し、自分の所業を悔やみ、自分で殺した人物に墓参する屍鬼に、静信は会ってしまった。言葉を交わしてしまった。
 最初から、静信はどちらかというと屍鬼の側に立っていた。弟を殺し楽園を追放され、詛われ、永遠に流離人となった彼と同じく、静信もまた異端だったから。だから、人間とは違うものであり、人間の世界と隔絶されている屍鬼に共感を覚えた。彼は世界に許容されたい。だが世界が彼を許容しない。屍鬼は人を殺しながら人を恋しがる。けれど人は屍鬼を許容しない。
 そして、沙子。
 静信が屍鬼を許容できるのは、彼女の存在があってこそなのかも知れない。
 祀る神を持たない教会で彼女に会わなかったら、もしかしたら静信も敏夫の言うとおりに屍鬼を狩っていたかも知れない。
「……敏夫、僕は――」
(静信、それは偽善だ)
 そう、解っている。
 だが敏夫がそうした理由も解る。そうしようとしている理由も解る。
 結局敏夫は優しいのだ。優しいから村人を見捨てることができない。
 寺と尾崎は、村での扱いにおいて似ていた。村でただ1つの寺と、ただ1つの医者。寺と尾崎を経なければ、村人は葬式を出すこともできない。だから、静信も敏夫も良い後継ぎであることを求められた。敏夫は「期待に答えてやる義務なんてない」と言いながら、結局医者になった。静信は求められたものになるべく、自ら僧侶の道を選んだ。寺の若御院たることを選んだのは、求められたものになることで許容されることを期待したからだ。
 敏夫は違う。ただ、優しかった。
 今も。ただ静信は殺戮者になりたくないがために兼正の門を叩こうとしている。どうしようもないエゴイストだ。
 兼正を訪ねることの意味を知らないわけではない。多分、恒久に敏夫と離れることになる。生きて屋敷を出られるかも解らない。屍鬼に阿った静信を、敏夫は許さないだろう。それとも、静信らしいと皮肉げに笑うだろうか。


……なんか中途半端だが終わる。


 < 過去  INDEX  未来 >


明日香 [Fanatic Gene]


My追加