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2026年03月11日(水)
『しあわせな選択』

『しあわせな選択』@kino cinema 新宿 シアター 1

なんて話だよ…こんな気が沈むコメディあるかよ……(面白かったの意)そんで映像がもういちいち美しすぎる。なんだあの冒頭の空の色。あと音楽最高 『しあわせな選択』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 12, 2026 at 1:18

ほんとこの監督、奇妙。いつもなんだ? 何を見せられている? と動揺しつつ目が離せず最後迄観てしまう。観終わっても、なんだったんだ……と混乱しつつ、でもあたたかい余韻が胸に残ったままふわふわ家路に就く。『JSA』が異色というかいちばん“普通”らしいのだが、未見のままなんですよね……やっぱ初見はスクリーンで観たいのでなあ。

原題『어쩔수가없다(仕方がない)』、英題『No Other Choice』。2025年、パク・チャヌク監督作品。原題は台詞で何度か語られますし、英題はリストラに来た外資の連中の台詞ですね。ここに「しあわせ」を入れてくるかと邦題のセンスにある意味唸りました。25年勤めた製紙会社をリストラにより解雇され、再就職もうまくいかない。よし、ライバルを減らしていこう! 主人公は自分と同じポジションの就職を目指している人物をひとりひとり消していくことに……。

手札の出し順が巧い。娘の挙動、何故コーラを飲むのか、温室。さりげなく「?」を示し、その後「!」を出してくる。盆栽の針金かけの技術があんなところで活きるとは……って感心している場合じゃない、その技術何に使ってんだよ! てかそこ迄の技術持ってるんなら製紙業界の再就職に固執することもないじゃないかよ! ガーデニングの講師とかじゃダメなのかヨ! と茶化したくもなるが、それらは笑いを通り越して哀切にすら映る。必死はいつも喜劇になりますね。それは妻にカフェ開業を勧められているのに「俺には紙しかない」と呑んだくれている主人公のライバルも同じこと。あれ程オーディオに凝る音楽好きなのに……彼は主人公の鏡のようでもある。ふたりともリストラされる前から断酒が必要だったくらいなのに、環境を変えられない。

そんな悲喜劇を彩る映像と音楽。鮮やかな光と色彩はチャヌク作品の真骨頂ですが、自然の美しさをああも際立たせられるとどんなに笑えるシーンでも涙が出てしまう。冒頭のバーベキューの背景にある空の色からして凄まじいものだったし(幸せな家族の風景が空の色ひとつで不穏を孕む)、そんでなんだよあの林の、紅葉の色! 覗き見してるとこなのに! 蛇と取っ組み合いしてるのに! 主人公の妻のニットとブラの線、浮き出る乳首の陰影も笑いを通り越して瞠目しましたよね。神は細部に宿る。チョー・ヨンピルの歌のとこもリスニング出来るひとはかなり笑えたんじゃないかと思います(字幕は出てたけど、あのシーン映像ともに情報量が多すぎて追いきれなかったよ・笑)。

登場人物の表情の捉え方も、必死な形相(にならない)の瞬間やちょっとした視線の動きを観客が見逃さないよう誘導している。こちらも神は細部に以下同文。演者も巧い。いや、そこで惚れなおすんかい、そこで信頼を築くんかい、と笑い乍らも気持ちはどんどん沈む。ニンゲンって本当に単純で複雑。家族のハグはまるでスクラムのよう。いや、あれはモールではないか。何故かラグビーを連想する。

何故そっちへ行く? という方向へとどんどん舵を切る主人公とその家族。それは家族の絆とか生活を守るためとか、そんな単純なものでは括れない覚悟がある。彼らは家族を共同体と決めている。血縁は関係ないということも示されている。おおきくて賢い犬は眩いばかりの幸福の象徴。2匹ともいい仕事してた! てかあの犬の様子も、家族が慈しみ育てたのだなあとわかるひとつの要素になっている。いい家族なんだよね。その家族は大きな罪を負った。妻が、息子が、揃って家長と運命を共にしようとしていくなか、娘だけがまっすぐな瞳でチェロを弾く。犬が娘のチェロを静かに聴いている、なんて美しくも哀しいシーンだったことか。彼らはまた離れ離れになってしまうのだろうか、それとも。

イ・ビョンホンとソン・イェジン、イ・ソンミンとヨム・ヘランが演じた二組の夫婦。前者は表情で、後者は台詞のやりとりで関係性を見事に表現していた。てかビョンホンさんは表情が読めない表情するのほんと巧いな……。イェジンさんも「裕福で堅実な男性と再婚したシングルマザー」といったステレオタイプに収まらない複雑な人物造形が素晴らしかった。打算が見えない、愛溢れる妻だった。だからこそ事態はややこしくなり、物語に余韻が残るのだった。

それにしても。チャ・スンウォンは殺さなくてもよかったのではなんて思った…再就職してたしいいやつだったじゃん……。あ、でもやっぱり紙業界に戻りたくて応募してたのか。あの靴屋のシーン、短いけどすんばらしかった! 紙への愛が溢れたふたりのやりとり。やがて失われてしまうであろう職業への未練と執着。せつない。

原作はドナルド・E・ウェストレイクの『斧(THE AX)』。『お嬢さん』がああだったし、今回もかなりアレンジしたんだろうな……こうなるともうチャヌクには絶対『虐殺器官』の映画化実現してほしい。ずっと待ってますよ。

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・輝国山人の韓国映画 しあわせな選択
詳細クレジット、いつもお世話になっております!

・伊藤計劃「虐殺器官」実写映画化、今も企画中 パク・チャヌク監督認める「概要は執筆済み」┃シネマトゥデイ

・パク・チャヌク「しあわせな選択」と映画の未来語る「絶対にAIは俳優に勝てない」┃映画ナタリー
マンスは道徳性が堕落してしまっていて、父親から息子にそれが受け継がれてしまう。(中略)結果的に彼の行動によって家族が変わっていくのです

・イ・ビョンホン「あまりにも自分のアイデアが採用されて怖くなりました」。パク・チャヌク監督新作の現場を振り返る┃ananweb
あのシーンでは転ぶことに現実味があるかなと思って転んだんですけど、実際に、あの現場でそうやって転んだ人がいたんだということを後で聞きまして
今作で滑ったシーンはト書き、『KCIA 南山の部長たち』で滑ったのは現場でのアイディアだったとのこと。どちらも演技だった訳ですが、それはそれでビックリする。滑り方巧すぎる(笑)