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2022年08月17日(水)
『キングメーカー 大統領を作った男』

『キングメーカー 大統領を作った男』@シネマート新宿 スクリーン1


圧巻過ぎて圧巻と二度も書いている。ホントに圧巻だったんだもの。そんな風にある意味安心してソル・ギョングとイ・ソンギュンの演技合戦を観られたのは、観客がこの映画をfact+fiction=「ファクション」とわかった上で観ているから、史実における彼らの未来を知っているから、かもしれない。

原題『킹메이커(キングメーカー)』、英題『Kingmaker』。2021年、ビョン・ソンヒョン監督作品。1960〜70年代、エピローグ的にソウル五輪に沸く1988年が描かれる。国会議員に初当選したキム・ウンボム(金大中=キム・デジュンがモデル)は、志を共にすると押しかけてきたソ・チャンデ(嚴昌録=オム・チャンロクがモデル)を参謀とし選挙戦を勝ち抜いていく。ところがひとつの事件をきっかけに、ふたりは訣別することになる。

観客は、その後の金大中を知っている。1971年の大統領選でパク・チョンヒ(朴正煕)に敗れ、以降暗殺未遂、拉致、逮捕、死刑宣告と苦難が続く。大統領の座に就いたのは1997年。しかし、嚴昌録は? 彼のその後についてはあまり知られていない。“影”として重宝された彼は、“光”になることがなかった。

先生と共に歩み、世の中を変えたい。そのためにはどんな手を使ってでも選挙に勝たねば。“影”が考え出した戦略は、ま〜とにかくえげつないものだった。笑ってしまうくらいのネガキャンなのだが、これらはほぼ史実だったという。選挙において票を得るには効果的だが、そこで生まれるのは互いへの憎悪、欺瞞、軽蔑ばかり。分断! 分断! また分断! と大槻ケンヂが叫びそう(あれは『断罪!断罪!また断罪!!』か)。慶尚道 vs 全羅道の図式が出来上がったとき、ある人物が「南北に分かれたのがまた東西に分かれただけだ」という。なんて皮肉。

恐らく先生は、あの事件は彼が仕掛けたことではないとわかっていた。そして、分断を生み出した彼は先生の信頼を得られなかった。

誠実であり続ける“光”をソル・ギョング、“光”に憧れ続ける“影”をイ・ソンギュン。ふたりの役者が役を生きる。舞台劇のように台詞の立つ演説と会話。映画でこそ感じとることの出来る、クローズアップされた繊細な表情。目が離せない。スタイリッシュであり乍ら台詞(シナリオ)とシンクロし、光と影を過剰に捉えた映像も印象的(タイトルが出るタイミングも見事)。音の配置も絶妙で、背後からの人物の声にはつい振り向きそうになった。

後述の記事によると、嚴昌録は1988年1月に亡くなったという。ソウル五輪開催期間に先生と再会する、というシーンはフィクションということになる。彼は、先生が大統領の座に就くことを知らぬまま世を去ったのだ。最後に会って話せていたらという、作り手の優しさが余韻を残す。

金大中が大統領になる。劇中の未来も既に過去だ。この国の、自分の国の、そして世界の未来を私たちは知らない。未来にはどんな映画が作られるだろう。この映画のように、一筋の光は描かれるだろうか?

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・輝国山人の韓国映画 キングメーカー
撮影監督がチョ・ヒョンネという方だとわかってスッキリ。今後チェックしよう

・キングメーカー 厳昌録 — 東亜日報「南山の部長たち」より┃一松書院のブログ
嚴昌録について。こちらのブログ、『モガディシュ』のときもお世話になりました。
それにしても闇の深いこと。みな真実を墓の中迄持って行ってしまったか

・韓国、“政治的な扇動”が問題に……『キングメーカー 大統領を作った男』に見る選挙と社会の分断┃サイゾーウーマン
分断の選挙戦の歴史について、より深く知ることが出来る記事

・【イベントレポ】『キングメーカー』トークイベント! 小説家真山仁氏「このまま大統領選に出れば」とソル・ギョングを絶賛!┃Cinem@rt
「選挙って当選が終わりではない、政治家はそこから始まるわけです。ですので、よくあるネガティブキャンペーンをやると、結果的にそれで勝った人というのは、本当に汚い手で政治家になったよね、とあまり期待されなくなるもの。どうやって勝ったか、というのが意外に大事」
「傲慢な人が、自分を傲慢だと自覚できないのと一緒で、誠実な人も自覚なんてしません。だからこそ誠実な人柄が輝くんです」

・イ・ソンギュンが谷原章介に見える病。低音の美声も、メガネのチョイスも似ていた(これは嚴昌録に寄せてたんだが)

・といえばチョ・ウジンは悪い役するときの中村靖日に似てたわね