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2022年02月23日(水)
モニラ・アルカディリ&ラエド・ヤシン『吊り狂い[Suspended Delirium]』

モニラ・アルカディリ&ラエド・ヤシン『吊り狂い[Suspended Delirium]』@SHIBAURA HOUSE


引き続きシアターコモンズ、人間ふたりとねこの会話劇だよ! ヴィジュアルがラヴリー♡なので画像多めでお送りします。

このヴィジュアルがよすぎて、全く予備知識なかったんだけど行くことにしたのでした。シアターコモンズは、公演毎のチケットではなく全公演共通のパス購入制なので、行けば行く程おトク(?)です。会場は港区に拠点を持つ国際文化機関が中心で、普段行く機会のない場所ばかり。遠足気分を味わえるのも楽しい。

映像作品だと思っていたら、ディレクターの相馬千秋さんが初日前にツイートした会場の様子を見てビックリ。

あの人形の実物が観られる! ワクワクがますます膨らみます。お初のSHIBAURA HOUSEがあるのは、年に一度降りるか降りないかという田町駅。辿り着けるだろうかと不安でしたが、遠くからでもすぐ分かる全面ガラス張りのビルでした。

近づいていくと、会場と案内されている最上階(5F)で動いている物体が見えました。エレベーターで直行したので他のフロアは見られませんでしたが、日当たりすごそうだな……夏はどうなっているのか気になる(笑)。

・妹島和世さんと振り返る、建築と運営の9年間┃SHIBAURA HOUSE
・丸見えなのに、謎に包まれたSHIBAURA HOUSEに潜入!┃田町新聞
「丸見えなのに謎」(笑)。妹島和世氏設計。田町ではなかなかの名物のようです。

30分の作品が開始時間よりループ上演されており、予約は2時間毎。つまり、定時に入場していれば、最大4回観られます。ちょっと遅刻して、3.75回くらい観ました。

「消毒済」のラックからクッションをとり入場。観劇エリアはトラスで仕切られた四本の柱の外。ステージ(?)をコの字型で囲む形で、椅子は正面に5脚程。両端に字幕用のサイネージが設置されています。写真・動画撮影OK、フラッシュはNG。

最初は下手側から。フロアに直接クッションを置き桟敷席の感覚で観る。上手前方にアルカディリ、正面奥にねこのルーミ、下手前方にヤシンの頭部がぶら下がっています。字幕は上手側サイネージにアルカディリ、下手側がルーミとヤシン。そう、ねこも喋ります(微笑)。正面からでないと字幕が見えづらい。セリフは比較的簡単な英語で構成されており、複数回観られるという安心感もあって、まずは音声と動きだけに集中することに。二周目は正面下手寄りの桟敷、三周目はもう一度下手側の桟敷、最後は正面の椅子席から観ました。

ねこを殺そうという相談をしているところから観たのでギョッとしつつ、元気のなくなったルーミがゆっくりと俯いていく動きにあっという間に魅せられてしまう。三人(便宜上ねこも「人」とします)は移動を制限されている。スーパーや散歩に出かけることは出来るが、遠くへはいけない。アルカディリはルーミの餌である鶏肉を買うにも登録が必要だったという話をし、ルーミはクローゼットにある取り替え可能の内臓の話をする。ヤシンは箱に隠れてここを脱出したいと嘆く。その思いは宇宙へと拡がっていく。眠りについた人間ふたりを見て、ルーミはある告白をする。



俯いたり横を向いたりする頭部は、角度によって表情が変わっているようにも見える。能や文楽にも通じるものがありました。

『吊り狂い[Suspended Delirium]』というなかなか物騒なタイトルですが、宙ぶらりんの頭部だけで生きているこの三人には親近感すら感じる。どうしても今の自分たちが置かれている状況に通じるものがあるのです。この状態はいつ迄続くのか。アフターコロナはいつか、それともウィズコロナで生活を続けるのか。現在世界中で思案され続けていることでもあります。そして、この翌日に戦争が始まりました。国境が閉じられる。交流がオンラインのみになる。そこから得る情報すら真偽がハッキリしない。本当のことを「自分の目で見る」「自分の耳で聴く」ことは、即ち「現場に行く」こととなり、どうしても身体が伴う。それが失われていく感覚に、アクセスオールエリアパスを持つウイルスが羨ましい、という思いすら抱いてしまう。

しかしここでも、ねこのルーミのかわいらしさと、彼のユーモアに助けられるのでした。またルーミの声がかわいくてね……人間はそれぞれ本人の声だと思うけど、ルーミは誰の声だったんだろう? いや、“本人”かもしれないな(笑)。人間に命を握られているこの愛玩動物は、強かな獣でもあるのです。いやーこうありたいな。

音楽はヤシンによるもの。登場人物たちが前を向いて移動していくラストシーンで流れる音楽は、まるでゆっくりと昇る朝日のような心地よさでした。全員が順番に“ahh, the moon.”という台詞を繰り返す様子が印象的。月は地球上のどこから見ても月だねえ。プロジェクションマッピングだったら嫌だなあ。本物の月は、どこからでも、誰でも見られるものだし、そうでなければならないのだ。


おまけ。あーかわいいルーミ♡この動画で聴こえているのが彼の声です。人形のヘッドペインティングはサイード・バアルバキ。上演が終わるとそれぞれ定位置に戻るのですが、その家路にも愛嬌を感じてしまいました。