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2021年10月16日(土)
Noism Company Niigata × 小林十市『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』

Noism Company Niigata × 小林十市『A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ』@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール


[第一部]
Opening I
追憶のギリシャ
BOLERO 2020
[第二部]
The 80’s Ghosts
Opening II
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振付・演出:金森穣
音楽:マノス・ハジダキス、レーラ・アウエルバッハ、モーリス・ラヴェル、ユーグ・ル・バール
衣裳:堂本教子


Dance Dance Dance @ YOKOHAMA 2021、フィナーレを飾るのはDDD2021ディレクター・小林十市とNoism芸術監督・金森穣のコラボレーション。モーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)で踊ってきた十市さんのために、ルードラ・ベジャール・ローザンヌで学んだ穣さんが振り付けた作品です。Noism副芸術監督(Noism 0)の井関佐和子、Noism 1のメンバーであるジョフォア・ポプラヴスキーもルードラ出身だそう。偶然とはいえ、今年に入ってから東京バレエ団、BBLとベジャール作品を続けて観た記憶も新しい。BBLに至ってはリスケのおかげで(?)今作とスケジュールが丸被り。十市さんもその辺気にしてらしたようで、当日パンフレットに「何といってもBéjart Ballet Lausanneの来日公演に丸かぶりのこの週末ですから(笑)」なんて書かれていたけど、会場では「BBLからハシゴしてきた! カーテンコールの途中で出てきて間に合った」という声も聞こえましたよ。

ベジャールとの追憶の日々、そこから踏み出す一歩。ダンサーとして再出発する十市さんへのファンファーレのようにも感じられる作品でした。青春の終わり、身体の衰え、しかしなくならない(より募る)ダンスへの情熱。孤独と痛みを抱えてまた歩き出す。ひとりじゃない。ひとの繋がりは拡がっていく。それらが70分に凝縮されていた。

トランクを持ち現れる十市さん。舞台中央の椅子に座り、トランクのなかから写真を一枚ずつとりだし眺める。後方スクリーンに映像が映し出される。ベジャールの指示を受ける姿、BBLで踊った日々……。過ぎた日々を懐かしむ彼の元へ、穣さんが現れる。肩に手を置き、笑顔を交わす。「追憶のギリシャ」が始まる。だいたいこのふたりが一緒に踊るのが観られただけでもひいいい(嬉)というもの、しかもそれがベジャール「ギリシャの踊り」への返歌ともいえるダンスだったのでもう涙ぐみますよね。穣さんの表情がすごくいい。「兄貴」と踊れる喜びでいっぱい。近年はNoism芸術監督、集団を率いる「長」としての顔しか見ていなかったので(今年は紫綬褒章も受賞しましたし)、この屈託無いともいえる表情にはやられました。

そこへ佐和子さんが現れ、Noismのメンバーが現れる。十市さんを交え、祝祭的なダンス。上手に椅子が用意され、そこへ促され座る十市さん。何度聴いたかわからない、あのリズムが聴こえてくる……コロナ禍のなか映像作品として発表された「BOLERO 2020」をステージで観られるうれしさと、視点を自分で決められる舞台鑑賞ならではの贅沢な悩み「どこ見りゃいいんだ!」が同時に発動。しかも今回は隅っこで見ている十市さんも観たいわけです。困るがな(笑顔で)! しかし迷っている暇はない、何せ「ボレロ」は15分程の曲なのだ。開きなおって気の向くままにキョロキョロする。そうなるとやはり佐和子さんに目がいく。笹の葉のように揺れ、ナイフのように切れ味鋭く踊る。彼らを見つめる十市さんの姿勢の美しいこと。座っている姿そのものにも物語があるよう……と思っていると、十市さんが立ち上がり、ステージ中央へと歩いていく。輪になったNoismメンバーの中心に加わる。これって、これって……十市さんのメロディだ!!! クライマックスの瞬間、メロディがリズムに呑み込まれると当時に暗転。

幕間、客電がついてもしばらくドキドキしていた(救心)。ちょちょちょ、十市さんのメロディ……むか〜しご本人がジョークでブログに載せてた「卓袱台ボレロ」(ご実家の卓袱台の上で踊ってた)でしか観たことなかったメロディを今こうして観られるとは。勿論これはベジャールではなく、穣さんの振付。しかししかし穣さん有難う〜! と手を合わせる思いでした。天井に鏡を設置し(これは『M』オマージュかな?)、フォーメーションの側面と鳥瞰を同時に見られるようにした演出にも胸が熱くなりました。

二部は一部と地続き。フロアにひとり倒れている十市さんに80年代の亡霊が襲いかかる「The 80’s Ghosts」から始まります。まーこれのフォーメーションの格好いいこと! 衣裳が80年代でニヤニヤすること! 佐和子さんのスーツの形とか、姉の喪服のこと思い出して違うところで笑ってしまいましたわ。

それはともかく、ベジャールへの、十市さんへのという作品でありつつ、穣さんの振付って格好いいなあ、Noismのダンサーって素敵だなあ……と惚れ惚れ観る。これ迄映像でしかNoismを観たことがなかったのだ。ユニゾンの型はバレエのスキルとストリートカルチャーがドッキングしているかのようで、クラシカルなのにモダン。前方の席だったので生き生きとしたダンサーの表情もよく見えた。

享楽的な、しかし暗い影をまとう80年代は、ベジャールの「革命とは!」という言葉がコラージュされた音楽により世界の悲劇を炙り出す。スクリーンには争いの映像……世界は終わりに近づいている? 現在へ近づくにつけ、やはり色々考えてしまう。ダンサーの人生、ひとりの人間の人生。今年になってオランジュのスタジオをクローズしたこと。つい最近柳家小三治師匠が亡くなったこと。苦悩の表情で頭を抱える十市さんに、また穣さんが、佐和子さんが、Noismの面々が歩み寄る。立ち上がる、そして再び踊り出す……。

これは穣さんが描いた『バレエ・フォー・ライフ』じゃないか。記憶の芸術でもある舞台。今作にも二度と会えない、かも知れない。しかしそれは彼らが次のステージに向かったためだ。ダンサーとしては休んでいたかも知れない十市さんは日々踊り続けていたし、役者としての日々も人生のレイヤーに加わった。観客は新しい、歳を重ねた今しか出来ない表現を新たに身につけたダンサー・小林十市を観ることが出来る。人生はまだ途中だ。

千秋楽の翌日、十市さんは病院へ行っていた。稽古中から膝の痛みがあるというのは、ご本人もSNSかで明らかにしていた。診断名のひとつは、疲労だけでなく年齢的なものからくるものだ。プロのダンサーからすれば厄介なハンデかも知れない。船出は初っ端からきっと不安でいっぱい。でも、穣さんがいうとおり、道化師を踊り、噺家の孫というルーツをもって、十市さんは寂しさ、悲しみを笑い飛ばして前に進んでいくのだと思います。50代の身体を乗りこなしていく十市さんの今後を見ていきたい、そして見習いたい(笑)。

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・KYOKO88%
衣裳・堂本教子さんのサイト。何度か載せてるが大駱駝艦(麿赤兒)の衣裳もやっている方です。翌日の『ゴールドシャワー』でも麿さんの衣裳は堂本さんが担当されていたので、二日続けてお仕事拝見。素敵よねえ

・ベジャールの“DNA”受け継ぐ2人が共演、金森穣×小林十市「A JOURNEY」開幕┃ステージナタリー
ステージ画像がよい〜。ポージングやフォーメーション、綺麗な照明、そしてダンサーの表情!

・日本の踊り「高い水準見て」 ダンサー・振付家の小林十市が意欲作┃朝日新聞デジタル
「僕らは踊る場所がないと生きていけない。国から補助金や生活の支援をしてもらい、食べつないだ」
「ぜひ劇場に来てと胸張って言えないもどかしさはずっとある」

・【特集:DDD2021】小林十市×金森穣クロストーク〈前編〉〜十市さんの身体は、自分が思うよりも踊っているし、語っている┃バレエチャンネル
・【特集:DDD2021】小林十市×金森穣クロストーク〈後編〉〜舞台の幕が下りた時、「終わり」ではなく「始まり」になる作品に┃バレエチャンネル
「ハンデをつけるなんて失礼なことはできないし、そんな十市さんは見たくない!」
「ベジャールって誰ですか?! でもとにかく海外に出たいので行きます!」
こういう話する穣さんなかなか見られないので楽しいわ……

・会場で偶然タさんと会う。ちょっと話せてよかった。歌舞伎やバレエに誘い合って行く仲だが、コロナ禍ではそうもいかないので別にしめしあわせもせず各々出かけている。それでもこうして会場で遭う(笑)

(20211027追記)
・小林十市 連載エッセイ「南仏の街で、僕はバレエのことを考えた。」【第26回】Noism × 小林十市「A JOURNEY〜記憶の中の記憶へ」を終えて。┃バレエチャンネル
「穣くんが『何言ってるの!? ここまでできたんだから!』」」
穣さああん(泣)
「もしも『再演』の話があれば……鍛えてもう一度チャレンジしたい気持ちは、あります!」
待ってる!