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2018年10月27日(土)
『ホワイト・クロウ』

東京国際映画祭『ホワイト・クロウ』@EX THEATER ROPPONGI


は〜レイフ・ファインズ…レイフ・ファインズだった……。

レイフ・ファインズ監督第三作は、バレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフの亡命劇。フランスで西側の「自由」にふれるヌレエフと、ソ連でダンサーとしての才覚をあらわしていく若きヌレエフが交差し乍ら進む。こども時代(この子役がめちゃめちゃかわいい)はともかく、青年ヌレエフの過去〜現在は極端に容姿が変わるわけでもないので序盤は「え、今どっち?」と戸惑う場面も多い。ロシア語、フランス語、英語が使われ、なおかつ画面には日本語と英語(国際映画祭ですからして)の字幕があるので視界が忙しく、若干注意散漫になってしまったところもあり……集中力をかなり使い、終映後はぐったりしてました(笑)。一般公開されたらじっくり観なおしたい。

展開に慣れてくると、意味は判らずとも音の感じでフランス語と英語が聴こえていたらフランス、ロシア語だったらソ連にいる場面なのねと把握出来るようになってくる。そしてソ連のシーンの殆どは回想だということも見えてくる。思えばその回想と現在を繋ぐ役割は、レイフ演じるプーシキンだった。

フランスに着いたバレエ団のメンバーたちが、パスポートを預ける描写が印象的。現在東側諸国と言われる国ってどこが残っているんだっけ? などと考える。冷戦時代の東西の交流は、スポーツと文化が主だった。だけだった、といってもいいのかもしれない。歓迎パーティでは両国のダンサーが揃うも会場はまっぷたつ、会話をするのもはばかられる雰囲気。その緊張を破るのがヌレエフ。最初に外出して街に繰り出すのも、門限を破るのもヌレエフ。傲慢ともいえる言動、その根拠として考えられる生い立ちも描かれますが、それらが同時に彼の魅力となっていることも映画は描きます。彼の亡命を手助けしたクララ・セイントとの関係が顕著。恋人を亡くしたクララにヌレエフは「悼む方法は自由だ」といい、亡命後連絡もよこさなかったヌレエフのことをクララは「そういうひとなのよ」という。

クララや、ヌレエフの才能を瞬時に見抜いたピエール・ラコットの描写は、どこ迄史実なのかわかりません。しかしそのやりとりの生々しいこと、登場人物が生き生きとしていること! そして空港での亡命シーン。その場にいるかのような緊迫感を味わった。ステージの高揚、観客席の熱狂、故国の閉塞感。どのシーンもひいては見られない。稀代のバレエダンサーが世界に知られることとなる、その瞬間に立ち会えた気分になる程の臨場感でした。

ヌレエフを演じたのは、バレエダンサーのオレグ・イヴェンコ。ステージのシーンは勿論不安なく観ることが出来、芝居の面でも堂々としたもの。目の力の強いこと! 獲物を逃さない猛禽の目。レンブラントの『放蕩息子の帰還』を見つめるシーンが象徴的です。常に「自由」を渇望していたヌレエフの姿が鏡写しになるよう。もっとも、彼は帰還することはなかったのだけど。魅入られたひとが巻き起こし、魅せられたひとが巻き込まれる芸術という名の嵐。それはそのまま美や自由という言葉に置き換えられる。自由を追い続けたヌレエフの青春を見事に体現してくれました。

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終映後のQ&Aは楽しい時間。初めて実物を拝めたレイフ・ファインズは、果たしてイメージどおりのひとであった。は〜このひとたらしが〜! かわいらしいだろうが〜! という。ラフな格好を見られたのもよかった…ジーンズ履くイギリス人が好物です(例:Squarepusher)……以前いた会社の社長が「アメリカ人じゃないんだからジーンズなんて履かないよハハハハハ」とかいうイギリス人だったからその反動もある(笑)。は〜よくお似合い! あとすごく靴(足)が大きかった印象。くるくる変わる表情も仕草もかわいかったです。もうかわいらしいという言葉しかない。

本題のQ&Aではユーモアを交えながら真摯に答えてらした。バレエファンも沢山きていた様子でその辺りの質問も多かったけど、それに答えるレイフ・ファインズがま〜、は〜レイフ・ファインズ…レイフ・ファインズだった……。アートについてほんっと楽しそうに話すのね。あの声でね〜。絵画も自然も映画もバレエも、このひとも芸術に魅せられているひとりなんだなあと思った。エルミタージュ美術館で撮影出来た話、ルーブル美術館で空き時間に『モナリザ』を独占出来た話(後述記事参照)をキャッキャ(イメージ)話しててね。は〜レイフ・ファインズ……。出演シーンについてなんであんなにロシア語が流暢なの? と訊かれ「プリプロで修正してもらったんだ」と謙遜してましたがイヤイヤイヤ、という。いやはや素晴らしかったです。フォトセッションのポージングもお茶目でかわいかった!

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Q&Aの様子、レイフのチャーミングっぷりをご覧あれ。カー!

・レイフ・ファインズが来日!監督作「ホワイト・クロウ」は「人生を投入して作った」┃映画.com
・レイフ・ファインズが来日、構想20年の監督作「ホワイト・クロウ」を語る┃映画ナタリー
「この映画は3つの場面で構成されていて、それが合わさったものが彼のポートレートとなり、そして、彼が闘ってきたものが最後の一言に集約されています」「レイフはすばらしい教師で、演技ができるかわからないオレグの才能を引き出していったのです。現在、オレグは俳優を目指したいと、熱心に英語を習っているそうです。レイフはこのような変容という、大きなギフトをオレグに与えたのです」

・レイフ・ファインズ監督、撮影秘話を披露「モナリザを独占できた」┃映画.com
ほんと嬉しそうに話してた

・Clara Saintという生き方┃風歩記
オレグ・イヴェンコ、ヌレエフにそっくり! と評判でしたが(確かに!)クララ・セイントを演じたアデル・エグザルホプロスもすごく似ていたのですね。彼女の伝記、確かに興味ある

・「鉄のカーテン」をくぐったソビエト市民たち:冷戦下、誰がいかにして出国したか?┃RUSSIA BEYOND
参考。旅行者はパスポートをとりあげられる件や、「非帰還者」の話

・亡命出来るかどうかという緊迫したシーンで「コニャックある?」「あるよ」のセリフに場がドッとウケたのも面白かったな。ユーモアがひとさじ