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2017年07月14日(金)
『フワリカ!!〜Crescendo〜』

エガワヒロシ PRESENTS『フワリカ!!〜Crescendo〜』@KOENJI HIGH

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イシヅヤシン
小林建樹
橋本孝志(the MADRAS)with 遊佐春奈(壊れかけのテープレコーダーズ)
エガワヒロシ with ミムラス
(出演順)
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近年はこのエガワさんとこか高橋徹也さん、山田稔明さんからの誘いしか受けない(しかも断ることも多い)小林さんが出演、ということで観に行きました。ご本人が「『Rare』を中心に唄う」と予告し、『Rare』が小林さんの作品との出会いだった自分としては期待と不安を抱えて高円寺へ。

期待はともかく不安とは? 『Rare』は、小林さんの日記にもあるようにかなりの難産だったアルバム。当時「ジャケ写に死相が出てる」とご本人がよくいっていたのを憶えています。内容もかなりダーク。しかし本人の苦手意識とは裏腹に、出来あがった作品はまさに名盤といえるもの。彼の代表曲ともいえる「祈り」が収録されているのもこのアルバムです。当時のライヴにおける演奏と歌は恐ろしく高クオリティなうえ、えもいわれぬ迫力がありました。MCでは毎回弱音を吐いてましたけどね(苦笑)。

現在ライヴの本数は少ないとはいえ(…)マイペースで活動出来ていると思われる小林さんが、『Rare』の楽曲をどう表現するのか? これが期待。当時のしんどさに引き戻されるのではないか? これが不安。果たしてどちらもあってこその小林建樹だと思わされた約40分でした。

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セットリスト
(暫定、順不同。あとで小林さんがアップしてくれることを期待…てか三日経ったらもうあやしくなっている自分の記憶力に愕然としている)
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01. ジョニー・クローム(g)
02. SPooN(g)
03. Rare(g)
04. 進化(key)
05. トリガー(key)
06. 祈り(key)
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(20170724追記:小林さんの日記にセトリがアップされました(『高円寺ライブ、来てくれて ありがとうございました!』)。よかった、あってた)

いちばん驚かされたのは「Rare」。ピアノの流麗なパッセージが印象的なリフレインをギターのコードに置き換え、カッティングで無骨に刻む。これだけでカラーがかなりかわる。水が土に…川の流れがジープの行軍になったくらいといおうか(何そのたとえ)。しかもそのカッティングにアクセントをつける。えっ、ここに? というところで強弱を切り替える。ここ数年の、決して多くはないライヴを聴いての印象ではあるが、近年の小林さんは変則/複合リズムにより楽曲がどう表情を変えるかを探求し続けているように感じる。通常ならバンド(複数人)によって成立させる構造の演奏を、ひとりで表現する試みでもあり……というと壮大だが、「ひとりでやったらこういうアウトプットになるんだよな〜」といったテイでサラリとやっているところが恐ろしい(実際の演奏に際しては、サラリとは程遠いレベルで試行錯誤を繰り返していると思われるが)。ラテン〜ファンクを背景にしたリズムをこうもポップに、清潔に表現出来るのか。

そのリズム感で『Rare』の楽曲群を聴けた。アレンジの妙と楽曲の潜在力、そして包容力を思い知る。これは他では聴けないな、小林さんの耳と腕、そして声あってのものだ。

そう、声がすごくてですね……。毎回感嘆するが、今回はいつにもまして声量も通りも圧倒的。ライヴそんなにやってないのに(しつこい)、あの声の抜けはなんなんだ。助走なしでいきなりトップギアみたいな抜けです。野太い声ではないのだが、芯がめちゃめちゃ強い。なんてえの、声でガラス割れそうよね。超音波的な意味ではなく、アタックが強い。そういう意味では竹を割ったような声か。そしてやはりリズム感が歌にも顕著。「進化」のスキャットパートの押し引きは、拍の起点を原曲とは違う箇所に加えていたように思う。……説明が難しいなあ、なんていえばいいんだろう。

それにしても今日の声すごいな、なんなんだ…と思っていたら、禁煙してたそうです。それが何故かは後述。動機からして一時的なものかもしれないが、どうかな? 最後に珍しく「“また”ライヴやるんで来てください」とひとこと。これも意味深。しかしうれしい、待ってますよ。

『Rare』のダークさに惹かれた者としてはライヴでこれらの楽曲を聴けたことがうれしかったし、現在の小林さんがそれを今のモードで力強く表現してくれたこともうれしかった。エヴァーグリーンのなかに新発見がある。プレイヤーは進化し、音楽はいくらでもそれに応えてくれる。や〜それにしても17年も前かね…時の経つのははやいものですね、と思いつつ、目の前で演奏する小林さんの見た目がそんなに変わっていないのが恐ろしい。恐ろしいばっかりいっている。

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エガワさんと小林さん以外の出演者は初見。エガワさんが「小林くんの音楽を好きなひとに紹介したい」とオファーしたというイシヅヤさんは、独特な視点からの歌詞がその声を得て物語になる、ストーリーテラーな歌い手さんでした。格好よかった。橋本さんはオガワさん曰く「少年のような声」で、その表現力とともに引き込まれた。で、その橋本さんが何度もMCで言及したのはエガワくんがお休みに入ることについて。

そうなのです、『フワリカ!!』は今回でひとまずおやすみ。エガワさんが作家(詞曲提供)活動に専念するため。何度も「やめるんじゃなくていったんとめるんです。必ず復活します」と仰ってましたが、過去のお休みとは種類の違う空気がありました。何せエガワさんの出番前のセッティング中、あの小林さんがMCに出てくるくらいでしたから。進行担当の小林さんてどんだけレアよ。「エガワくんがしばらくライヴをとめるというので何か出来ないかなと考えて、今日のライヴは二ヶ月禁煙して」臨んだとのこと。そういうことでしたか。「めちゃめちゃつらかった」そうです、ははは。「禁園」という曲をつくるくらいタバコに愛着があるひとなので、いつ迄続くかな。

さて呼び込まれたエガワさんは明るくふるまいつつも、感極まる様子がはしばしに。「歌に集中したい」と演奏はアクセントのグロッケンのみ、ハンドマイクでエモーショナルな歌を聴かせてくれました。「演奏なしで歌だけってこれだけ声出るんだ、こんなに楽なんだ!」としばらくライヴの予定がない今回初めて気付いたみたいなことをいっていた(笑)。次回からはヴォーカル専任だね! そりゃいつだ! しかし自らいうだけあって、この日の歌には気圧されるものがありました。身じろぎすら許さない訴求力。

最後は出演者全員でセッション。小林さんが「(転換時のMCでは)自分のことばっかり喋っちゃったけど」と珍しく気にしいなことをいったあと、「僕は二年ライヴをやらなくても『休む』とはいってない」「やめたらいけない」とぼそり。小林さんがこんなこといっちゃう程、今回のお休み宣言には重みがあるんだな…説得力あったなあ、あの言葉……。なんか一瞬シーンとしちゃいましたもん。それに明るく応じたエガワさん、やはり思うところはあったようで「作家活動できちんと結果を出したいからこその休み」「必ず復活するから」といっておりました。

全員揃ってのセッションは、大瀧詠一「君は天然色」、佐野元春「SOMEDAY」のカヴァー。おおおい小林さんの声で山下達郎(既出)と大瀧詠一の楽曲を聴くという夢が叶ったぜ。感無量です。音楽に魅入られたひとたちが集ったよい夜でした。