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2016年05月07日(土)
『トンマッコルへようこそ』

『トンマッコルへようこそ』@Zeppブルーシアター六本木

映画『トンマッコルへようこそ』はもともと舞台作品だったそうで、この度その舞台版を観ることが出来ました。脚本は映画と同じくチャン・ジン、翻訳は洪明花、演出は劇団桟敷童子の東憲司。演者は桟敷童子とゲスト、という感じの編成。

1950年代、朝鮮戦争のまっただなかに撮影された一枚の写真がある。北朝鮮と韓国それぞれの軍服を着た兵士たちとアメリカ人らしき白人、その土地の住人らしきひとたちが、笑顔で写っている記念写真。何故、どうして、どうやってこんな写真が撮られたのか? 作家はその写真の所持者である父から話をきいていく。

この作家の存在が映画とは違うところで、演劇の面白さを伝えるものになっている。作家はナレーションを務め、現実と過去との橋渡しをするだけでなく、過去のシーンに乗り込んで、想像からなる物語を更に想像の奥へと誘導する。緊迫したシーンへ介入し、観客たちに笑いと涙を誘う。不幸なことがあった、しかし幸福を想像することも出来る。その根拠は、残された写真があるという事実。写真から想像されるその後と、歴史から推測される悲劇へと、登場人物は進んでいく。ときに作家の手を借りて、そして観客の思いに乗って。

作家を演じたのは『ショーシャンクの空に』でポイントとなる少年を演じた山崎彬。わああまた悪い芝居で作家・演出家としての彼を観るまえに外部出演者としての彼を観てしまった。いやあ、いい役者さんですね……ちなみに『ショーシャンクの空に』に同じく出演していた畑中智行がまたいい仕事していまして。麒麟の川島明ばりの低音美声とよい滑舌、身のこなしも美しい北朝鮮側の隊長役で非常に印象に残った。声もいいが、黙っているときも思慮深く見えるマジックを持ってる方でした。キャラメルボックスの役者さんとのこと。カーテンコールの挨拶からして今回彼が座長だったのかな。

改めて『ショーシャンクの空に』はつくづくいい座組で丁寧な仕事ぶりが感じられる作品だったよなと思いましたわ……。今回も同じような感触を得たんですが、プロダクションも同じところですね。良質な翻訳劇をかけるところ、としてチェックしておこうと思いました。

ストーリー展開はわかっているので涙を禁じ得ない訳ですが、それでもやはり「ひょっとして舞台版だから展開がちょっと変わるんじゃないか」とか思ってしまうので、尚更「あああやっぱそっちに行くか、そうなるかー」と悲しみもまた上塗りされるというか傷口に塩を塗り込まれるというか、しかも最前列だったので演者の熱演の圧も高く、GWののどかな気分も吹っ飛びましたよね……そこでまた作家の存在に救われる訳です。彼が「こうあったかもしれない光景」「そうだったかもしれない交感」を見せてくれる、伝えてくれる。うううよく出来た構成…そして未来に託す思いが、今はもういないひとびとの笑顔に二重写しになる。観てよかった。

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ブルーシアター初めて行ったんですが、みごとに周囲に何もないとこでごはん難民になりました。駅前でなんかしら探してみればよかった……。六本木にこんなぽかっとした空間あるのねえ。劇場売店のパンを食べたよ…おいしかったよ……。近くにスヌーピーミュージアムが出来てました。