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2016年03月19日(土)
『家庭内失踪』

『家庭内失踪』@本多劇場

久々岩松了作品。ハァ〜イライラする〜〜〜もぉ〜だいすき!!! しかもなんか心あたたまった、今回。役者皆達者だし。

日常会話で実際にはしないだろうこんな言いまわし、と感じる整った(言葉として美しい)台詞の数々。それらが旨味のある役者により流麗にやりとりされると、観ているこちらは言葉ヅラだけをなぞることをしなくなる。登場人物の腹のうちをさぐる。本当のところは何を考えているのだろう? 心の奥底ではどう思っているのだろう? 想像をかきたてられる。ときに思わせぶりに、ときに気付けと言わんばかりに、登場人物は整然とした言葉で嘘をつき、嘘のなかに真意をにじませる。もどかしい。しかしそれがたまらない。

ふと昭和のホームドラマでこういう言葉遣いをよく聞いていたような、と思い至る。わざとらしさも含め、一歩ひいて観ることが出来る。静かな丁々発止を対話劇として楽しめる。しかしときどき、舞台から客席に目をやる女優たちに「対岸の火事だと思っているのか?」と呼びかけられたような気になりドキリとする。そのいったりきたりがとてもスリリング。向き合う相手を値踏みするような素振りで、小泉今日子と小野ゆり子がそのイライラを沸点ギリギリ迄あげてくれる。

そんな女性たちに振りまわされつつ、日々を安穏と生きている男性たち。女性の「謎」を前に右往左往する彼らは、その鈍感さ(呑気さ、といった方がかわいいかな)とともに偏執的で、グロテスクな顔を見せていく。風間杜夫、岩松了は、その気味悪さを愛嬌で見せる。岩松作品によくあらわれる「男性同士のじゃれあい」は健在で、今回はそこに落合モトキ、坂本慶介というふたりの若手が加わり、すっとぼけた味わいがより深い。先輩風を吹かす老境の男たちと、押されつつもペースを変えない若者たち。そんな理解しあえない男と女がひとつ屋根に集い、住みつき、離れ、出て行く。未知への興味と諦めと。気色悪さも意外と居心地がいいものだ、なんて思わせてくれる岩松流ホームドラマとして観た。最後にその家に住みつく(ちょっとの間と言っていたが長引きそうだよなー・笑)人物に、シェアハウスに代表される現代の共同生活の片鱗を見た気にもなった。そう考えると、ホームドラマというものの変遷にも興味がわく。一戸建てやマンションといった容れものではなく、その中身―住まうものの変容に伴い、描かれるものも変わっていく。

一階は夫婦の寝室である和室とキッチン、二階は娘の部屋。一階部分の三分の一は舞台袖に隠れる横幅で、場面によってスライドする。そのスピードがギョッとするくらいの速さ。立っている役者がふらつくくらい。演出の意図なのか、転換を急いでやるための不可抗力なのか…おぼつかない家庭や人間関係を表すものとしてもとれるけどどうなのか…ちょっと笑ってしまう程、コントか! と思うくらいのスピードだったので(笑)。シアターコクーンでの岩松作品に気になるものは多々あれど、個人的には会話の機微に敏感になれるこの本多劇場くらいの空間、五人前後の登場人物が心地いいなあと思った次第。