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2015年01月10日(土)
『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』

『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』@シアター・イメージフォーラム シアター2

患者と精神科医が出会ってセッションして別れる迄。お互いがお互いにある影響を与えて終わる。淡々と、でも滋味ある豊穣なやりとり。はぐれものふたりの、心(ジョルジュの言葉を借りれば、「傷付いた魂」)のロードムービー。

1948年。第二次世界大戦から帰還後、頭痛や目眩に悩まされるブラックフット族のジミー。戦場での事故による頭蓋骨骨折からの症状かと思われたが、病院で検査や治療を受けても原因は判らず、改善のきざしもない。ジミーがインディアン(ネイティヴ・アメリカン)であることから、民族精神医学に詳しいジョルジュが呼び寄せられる。

ジミーが見る夢、幼少期の記憶は現実のシーンと地続きだ。少年時代の自分を草原から見送る現代のジミー。かつて別れた婚約者と言葉を交わす現代のジミー。次第にジョルジュに心を開き、無意識に抑圧されていた恐怖感、罪悪感を自覚していくジミーは、同時にジョルジュが隠し装っている心の奥をも開放していく。ジミーとセッションを重ね、彼のルーツを辿るごとにジョルジュは自分の過去と現実に向き合うことになる。ジミーはインディアンであり乍らアメリカのために出征した。ジョルジュはNYに住むフランス人だが、ユダヤ系であると言う出自を隠し、名前も変えている。ふたりの「約束された土地」はどこだろう?

ストーリーは終始淡々と進む。とても静かに、登場人物の心に立つちいさな波を確かに捉える。一日一時間のセッションが急に休みになり、ちょっとそわそわするジミー。ジョルジュのちいさな変化に敏感に反応する、フランスから訪ねてきた不倫相手。ジミーやジョルジュが受けたかもしれない差別や、生活に根付く習慣描写もさりげない。地雷撤去がジミーに任された理由は? 検査を遅らせた医師、預金が降ろせる時間帯を教え間違えた看護師に他意はあっただろうか? デプレシャン監督はそれらを糾弾しない。スクリーンに拡がる美しい草原は、ブラックフット族の「噂の男」が育った場所を饒舌に語る。気のいいジョルジュがときおり見せる冥い表情をカメラは確実に摑まえる。母語ではない英語で、少したどたどしく、だからこそ率直に話す彼らの声はとても優しい。

ジョルジュは「アメリカ人の、彼らへの罪を引き受ける気はない」と言う。民族精神医学から出発した分析に、最終的にふたりは「人間」を見る。ルーツも職業も、育った環境も違うふたりが心を通わせるさまを、静かに描いた美しい作品。最後の場面は対照的だ。ジミーが決意し向かった場所と、ジョルジュが向かった場所。ふたりにとって忘れ得ないであろう二十週間を経て、旅は続く。

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・パンフも公開前映画館等に置かれていたフリーペーパーも読み応えあり。こういう丁寧な落ち着いた制作、好きだなあ

・ベニシオ・デル・トロの不思議な色の瞳も堪能出来てよかったです、あのヘイゼルホント綺麗(涙)、正に瞳が物語る。『21グラム』といい『プレッジ』といいと『悲しみが乾くまで』といい、こーゆーベニーはホントすごいなー

・マチュー・アマレリックはチャームを沢山持ってるなー。どうにも気になるキャラクター。あの愛嬌はたまらないものがありますね

・『スケアクロウ』好きなひとは気に入るんじゃないかなーと思ったら、パンフでデプレシャン監督が紹介してた。あとハムレットな側面も…と思ったら台詞に出てきた(笑)

・原作はジョルジュ・ドゥヴルー『夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録』。日本語出版はされていないそうです、読みたい……