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2014年10月24日(金)
『DEDICATED 2014 OTHERS』

『DEDICATED 2014 OTHERS』@KAAT 神奈川芸術劇場 ホール

首藤康之の『DEDICATED』シリーズ、今回のテーマは“OTHERS”。R. L. スティーブンソン「ジキル&ハイド」(40分)、J. P. サルトル「出口なし」(50分)の二本立て。何故か二列目がとれてしまい、首藤さんの息遣いが聴こえる程近かった。如何にハードな身体表現かを思い知る。幕間20分休憩。

「ジキル&ハイド」はソロ、再演。部屋でひとり薬を調合し、訪問者に怯え、巨大な姿見に映った自分の姿を眺める。服を脱ぎ、性行為に耽溺し、再び服を着て部屋を整える。訪問者は幾度も現れる。ジキルとハイドと言う別人格は度々入れ替わる。苦悶と快楽の境界を行き来する人物のエロティシズム。

小野寺修二の構成・演出らしいユーモラスなパートもあり、ナルシス宜しく快楽に耽る主人公がはたと我に返り、直立不動のポーズから真顔で下着の裾をピッと素早く直したりする。客席から笑いが漏れ、ここで若干緊張がほぐれる。部屋を掃除する振付では、ぞうきん掛けをするようなファニーな仕草もある。しかしここが落とし穴、下着姿でぞうきん掛けをすると、全身の筋肉の隆起が露になりとても美しいのだ。笑いつつ、首藤さんの身体に見惚れると言うややこしい状況に陥る(笑)。

鏡を見詰める首藤さんの背中と、鏡のなかの首藤さんの表情。実体はどちらかなどと考えてしまう程、人間は曖昧なもの。そこに美を感じる倒錯。

「出口なし」は中村恩恵、りょうとのトリオ。首藤さんと中村さんは台詞、りょうさんはダンス。越境は挑戦とも言え、ダンサーのふたりは時折台詞が不明瞭になり、女優のダンスは若干余韻が浅い。しかしそれらはたいした問題ではないと思わせられる。台詞劇は初めてと言う中村さん、実際自分も彼女の声を聴いたのは初めてだったのだが、これがなんとも魅了される声の持ち主。少女を思わせるような、ふわりとしたとてもかわいらしい声。りょうさんの声は凛とした力があり、言葉に芯がある。首藤さんは響く深みのある声。三人それぞれの個性があり、魅力的な声だ。この声を鳴らし、響かせているのも各々の身体。その鍛え抜かれ、磨き抜かれた身体の美しいこと! 身体性とは何かを強く感じさせる刺激的な作品になっていた。

ひとを死に追いやり、自身も死の世界にいるらしい三人がある部屋に閉じ込められている。窓も姿見もない、ドアは開かない。どれだけの時間が過ぎたか判らないその部屋で、三人は少しずつ出自を明かし、お互いを誘惑し、お互いを地獄へ招こうとする。「姿見もない」と言うのは台詞も出てくる言葉だ。この部屋で自身を映し出すのはほかのふたり。つまり他者になる。

男性に依存しようと迫る、幼さを残す女性と、その女性をものにしようとする女性。りょうさんは台詞の推進力を発揮し、蓮っ葉な言葉をのびやかに操る。首藤さんと中村さんは男女の絡み合いを洗練されたエロスで表現する。ピンヒールを響かせ、深いスリットが入ったロングタイトスカートで歩くりょうさん、デコルテが映えるトップスとフレアチュチュの中村さん。動きのひとつひとつから目が離せない美しさ。その動きは繊細な音を発し、衣擦れ、息遣い、そのどれもが聴き逃せない。「他者は地獄だ」の言葉は、“OTHERS”の存在を受け入れる過程を表すようにも映る。吊るされた11本のネオン管は、登場人物たちの戸惑いに共振するかのようにときには揺れ、ときにはノイズとともに明滅する。

構成・演出は白井晃。『Lost Memory Theatre』に続き、白井さんの美意識を堪能。登場人物の謎が徐々に徐々に明かされていくミステリ的構成も、芝居からダンス、そして芝居と言う流れのテンポもとてもよく、終始惹き付けられる。

初日の緊張感含め、スリリングでセクシュアルな舞台でした。いやーよかった、平日無理矢理行ってよかった。走った走った(笑)。

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・公演直前インタビュー:首藤康之、「DEDICATED 2014 OTHERS」 の『出口なし』(白井晃演出)と『ジキル&ハイド』(小野寺修二演出)を語る|Dance Cube -チャコット webマガジン:インタビュー&レポート