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2014年02月16日(日)
『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』

さいたまネクスト・シアター『2014年・蒼白の少年少女たちによる「カリギュラ」』@彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター

この難物をやりきるのがすごい、台詞がちゃんと身体を通って聴こえるのがすごい。スタッフワークも素晴らしい。明け方のスキージャンプ中継を最後迄観て行ったんで(+雪で埼京線がどうなるか判らないのでかなり早めに家を出た)、ユルい出来だったらこりゃ寝るな…と思ってたんだけど、三時間半喰い入るように観たなあ。

エモいシーンは決して多くない。カリギュラと彼をとりまくひとたちとの静かな対話シーンが多い。しかし、その場面が言葉とともにしっかりと画になり立ち上がってくる。激情と諦観は内外どちらに向かうか。狂気と正気はどのように表現されるか。時代と状況により、悩める若者の姿は変化する。蜷川作品における激する若者の代表とも言える『ハムレット』とはまるで違うベクトルだ。表裏一体とも言える。諦観に満ちたカリギュラは、冷笑と皮肉を自らにも向け、破滅へと進んでいく。

とはいえ、蜷川さんが「鉛筆少年」と呼ぶ痩躯の若者たちは、実は相当タフなのだ。『蒼白の少年少女たち』シリーズは三作目になるが、彼らのスキルは年々あがり、それと反するようにセットはシンプルになり、役者たちのギラギラとした生命力が物語を凌駕する瞬間が増えている。段差の大きなコの字型の客席はステージから遠いようで近い。最後列から観ていても、時折役者から顔を覗き込まれているかのような気分になることがある。

カリギュラは『ヴォルフガング・ボルヒェルトの作品からの九章』でも印象的だった内田健司、エリコン小久保寿人、ケレア川口覚。ダブルキャストのシピオンは砂原健佑、セゾニアは周本絵梨香。日替わりキャストのミュシスの妻は長内映里香。『ボルヒェルト』でも見せた内田さんの青白い裸体が巧く活かされている。細くて薄いが均整のとれた身体。ハイヒールがデカかったのはご愛嬌(笑・ここは我に返った)。退廃のなかにひとすじの芯が通り、その揺らぎがローマ帝国を恐怖に陥れる。愛人セゾニアと奴隷から掬い上げられたエリコンは彼を支え、父を殺されてなおも彼への理解を深めるシピオンは苦悩し、ケレアはクーデターの機会を窺い乍ら彼を観察し続ける。彼らの対話シーンの耐久性は強力だ。砂原さんの演技が印象に残った。

主役級の役者が作品ごとに変わって行くのも健全で、過去作品で主役を張った役者が巧者として芝居を支える側にまわっているのも興味深い。劇団の実力が底上げされていくのが目に見える。『美しきものの伝説』で主役だった松田慎也がすっかりベテランの風格です。あと手打隆盛がいることの安心感と言うか心強さ!老貴族たちは白塗りの老人メイクで、もとの役者の顔を思い出しづらいものだったのですが、それでも個々の丁寧な演技により「集団の無能さ」が際立つものになっていました。

あと新規加入のおデブちゃん(ごめん!でもかわいいよ!)ふたり(鈴木真之介、松崎浩太郎)が、唐十郎言うところの“特権的肉体”を連想せずにはいられない存在感。彼らと鈴木彰紀(美しい身体と言えばこのひともだなー)、竪山隼太(名字がつくようになったのね)による『四羽の白鳥』はとてもチャーミングでした。それにしてもこのおデブちゃん、劇団と言う集団にはとても使いでがあるなあと思ったり…飽食の貴族、コメディアンとしてのダンサーと、要所要所でポイント高い。あらゆる容姿が存在する舞台と言うものは、より身近に感じられるものです。それがはるか昔のローマ帝国の物語であろうとも。

あと新訳だったのかな?言葉遣いが今ドキな感じになってて、それも頭に入りやすかった要因かも。詩と死、知と血、と一発音の単語の意味が二重に聴こえるところも面白かったです。岩切正一郎さんの訳で、2007年版『カリギュラ』とは違うバージョンの台本だったとのこと(さい芸のtwitter参照)。カリギュラの背後に迫る暗殺団の光景は、『美しきものの伝説』で大杉栄に歩み寄る死者たちのようにも映った。この劇場の奥行きと暗闇、大好き。

・e+ Theatrix! Pick Up: 蜷川幸雄が成長著しい若手俳優たちと新演出で挑む、さいたまネクスト・シアター最新作『カリギュラ』!
・「暴君」現代の若者と重ねて ネクスト公演:朝日新聞デジタル

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・さい芸近所のビストロやまのデリが閉店していた。製造に専念しますだって…うわーん芝居帰りにここのデリ買うの楽しみだったのにー
・楽天で通販はしている→【楽天市場】フランス料理 ビストロやま

・劇場施設内のビストロやまとカフェペペロネはちゃんとやってた。芝居前にランチ、芝居後お茶で二回行った(笑)ごはんもケーキ相変わらずおいしい
・テレビ番組で勝村さんに紹介されたと張り紙があった